隣の席の設楽くん
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…
ぼーっと窓の外を眺めていると前の席の子から手渡されたアンケート用紙。
なになに?
文化祭でやりたいことを書く欄と特に仲のいい友達の名前(別のクラスの子も含む)を書く欄、自由欄が印刷されているではないか。
ホームルームの話を聞いていなかったが、このアンケート的に文化祭に関することなのは明白だ。
静まり返る教室はシャープペンを走らせる音が響いていた。
文化祭でやりたいこと…、喫茶店は…働きたくないな。それも競合他社が沢山いそうだ。じゃあお化け屋敷…いや面倒くさい。劇なんて論外だ。絶対にやりたくない。
むむむむ…。
悩んだ末に音楽を流して放置プレイができるであろうと考え“ディスコ”と走り書きをした。
自分で言うのもなんだけどディスコってなんやねん。でも“DJのいるクラブ”はなんか風紀的に却下がされそうなので書けないわ。
仲のいい子の名前欄…、これは何かの班を決める時に使うのだろう。
えっと…、委員長と設楽くんと…、えっとえっと…。
あれ?“特に”仲の良い子二人しかいなくね?てか、委員長の苗字って今野だっけ、紺野だっけか。そんで“たまお”ってどう書くっけ。
まあ、いいや。と名前欄にあてずっぽうで“眼鏡の今野委員長”と書き入れた。これなら先生もわかるだろう。
そんで、“設楽”くんの下の名前の漢字も思いつかんぞ。設楽くんだけ書くと別のクラスの設楽くんと友達認定されるかもしれないし…ひらがなはダサいし…
ぐぬぬぬ。
自由欄には政治、正字、誠司、性事…ってこの漢字の感じはなんかエロい。
チラリと設楽くんへ視線を移せばとっくに書き終わっていた。
「ねぇねぇ、せいじくん。」
「せっ…な、なんだよ。」
ひそひそと名前を呼ばれて驚く設楽くんへ「せいじってどういう漢字だっけ。ちょっとプリントに書いてよ。」と用紙を机の上に置くと、視線を向けた。
唐突に吹き出した設楽くんは「ディスコってなんだよ。」と肩を震わせていた。
「音楽流すだけだから楽だよなって考え抜いた結果よ。」
「ふっ、悪くないな。」
そんな設楽くんはこの欄を何も書いていない気がする。
「設楽くんもディスコって書いといて。」
「考えといてやる。それでなんだこの自由欄は。」
「“せいじ”探しの旅をしてましてね。」
「どれも不正解だ。」と言うと“聖司”と書き入れると返してくれた。
「あ、なんか一番かっこいい漢字の感じじゃん。」
「も、もういいから黙れ。」
その数分後にアンケート用紙が回収されて集計後1次審査が終わると、文化祭の展示物についての2次審査で多数決が行われるようだ。
集計後に多数決をするのなら確実にドマイナーなディスコは落選済みだと思っていたが、数日後に行われたホームルームで、喫茶店、お化け屋敷、の王道の中になぜかディスコもあり、そして多数決で“ディスコ”が一位となった。
学園祭の準備なんて“ディスコ”の私達は総時間6時間くらいで終わった。
ミラーボールや派手なライトをレンタルして、学校においてある使われていないスピーカーをもってきて黒い壁を作って学校にあるノートパソコンを置けばオッケーだ。
ディスコの曲は偏りが無いようにクラスのみんなの好きな曲2つ、ご両親の好きな曲を一つ、提出してもらいノートパソコンで曲のリストを作れば完璧だし、当日も教室はほぼ放置プレイでOKだ。
もちろん、委員長がすぐにまとめてくれたのでこの作業ももう終わっている。むしろ、ほぼ委員長がやってくれたので仕事はなかった。
「流石委員長だね。」
「これくらいどうってことないよ。自分のクラスの作業が無い分生徒会の仕事も捗るしディスコに決まって助かった。」
まさかの委員長に感謝されるとは思っておらずに驚きだ。
「ところでなんで1次選考にディスコが通過したの?」
「後ろから君と設楽の声が聞こえててね。多分それで他の子達もディスコって書いたんじゃないかな?」
なるほど、きっと設楽くんファンもその笑いに誘われて書いてくれたのかもしれない。感謝だ。
「ちなみに委員長はなんて書いたの?」
「僕は“はばたき駅の歴史”の展示を書いたよ。ディスコも嬉しいけれど、はばたき駅の魅力を伝えられなくて残念だ。」
ディスコ以上にマニアックな提案をする人おったんかい。のツッコミは心の中でやめといた。
…
文化祭当日、私達のつくりあげたディスコのフロアは中々のクオリティだった。
もちろん、音響もバッチリだし、委員長が見つけた低予算でも借りられるライト屋さんのおかげで派手でだし、予算も沢山残り良いことばかりだ。
クラスの子のアイデアで係は必要になるがディスコの中で飲み物の販売もすることにし、ついでに立って食べられるものなら持ち込みオッケーにすることに。これで多少なり売上も作ることができたのでヨシってやつだ。
一応係はあるが壁の向こうの休憩スペースを充実させているので好きな音楽を聞きながらのんびりできる神仕様である。
そんな仕様だから誰かしらいるので係という概念のない素晴らしいシステムなのだ。
休憩スペースで寛ぐ数人の中にはもちろん私も設楽くんもいた。
「設楽くん、こういううるさい場所嫌いだと思ってたからなんか以外。」
「まぁ、正直好きではないが、こうして興味のないジャンルを聞いてるみるのも悪くはないな。」
「セイちゃん、成長したねぇ…およよよ。」
「馬鹿にするな。」
あまり話したことのない子達と設楽くんと
みんなで駄べっているとあっという間に11時過ぎだ。
「じゃあ私ちょっと行ってくるね。」
立ち上がる私に設楽くんは「どこに行くんだよ。」と聞いてきたので、「激混む前に何か食べ物買ってくるね。」と告げて自分の鞄からお財布を取り出した。
「仕方がない、俺もついていってやろう。」
「仕方がないな、来いよ!ピカチュウ!」と言った瞬間に私の提出したポケモンソングがフロアへ流れ出た。
「あ、これ私のだ。」
「言われなくてもわかる。」
結局その一曲が終わるまで休憩スペースでのんびりして、フロアに出ると思ったより人が入っていることに驚きだ。
「お客さん、結構入るものだね。」
「俺も正直驚いてる。」
「来年はカラオケ屋さんを提案するよ。」
「俺は絶対に嫌だ。」とやんややんやと教室を出た。
まだ11時というのに老若男女と沢山の人とすれ違うではないか。はばたき学園ってすごいんだな。うちの中学校はど田舎過ぎてほぼ生徒しか歩いてなかったもん。
「うわぷ。」
「おい、大丈夫か。」
人混みに流されかけた私を華麗に設楽くんは救出してくれた。
「一瞬ではぐれちゃうね。」
「じゃあここに掴ま…いや、悪い。」
以前のゴタゴタ話を思い出したであろう設楽くんは差し出してくれた腕をすぐさま引っ込めた。
「じゃあ私の制服を掴んでいいよ。」
「なんでそうなるんだ。それならこっち掴んだらいいだろ。」と設楽くんの大きな手が私の手を自身の制服へ移動させた。
「折角だ、一周しよう。」と提案をくれた設楽くんに賛成し、歩いて数歩…のところで女の子の黄色い声が響いた。ところどころ「聖司さまが…」「はば学にいるなんて…」と声が耳に入った。
どういうことなのだろうか?
ちらりと視線を設楽くんへ移すとゲッとした顔をしていて、いつもそんなに足の早くもない設楽くんは素早く人混みの中へ流されていった。
訳はわからないが、初めて見るほどの素早い動きで相当嫌だったのだと納得した。
でも、ちょっとだけ、本当にちょっっとだけ、設楽くんと周れないことに寂しく感じた。そしてなぜか胸がチクチクと痛む。ちょっとだけ。
その痛みを誤魔化すように一人で一周をするつもりが、誤魔化すことなんてできず、丁度目に入ったたこ焼き屋で一つ購入し設楽くんが選曲したであろうクラシックが響き渡る教室へと戻った。
休憩スペースに入ると設楽くんも戻ってきておりそのことに驚きつつ、胸のチクチクが収まった。
休憩スペースには設楽くんだけでフロアでノリノリで飲み物を販売している子達以外はみんなどこかへ行ってしまったようだ。
「えと…お疲れ様?」
「いや…、悪かった、お前を置いていって。」
「ううん、こうして巡り会えたからヨシってやつだよ。」
設楽くんは何も買ってきていないようだったので、たこ焼きを設楽くんに差し出した。
「なんだこれは?」
「たこ焼きだよ。設楽くんにあげる。」
「たこ…やき?」と頭にはてなを浮かべる姿が可愛くて笑ってしまった。
たこ焼きの蓋を開けようとしないので蓋をあけて再度渡すと目をまんまるにしているではないか。
「なんだ…これは…?」
「あんさん、これがたこ焼きやで。」
今まで蓋を閉じていたので鰹節はぺっちゃんこ。残念なことに鰹節のダンスを見せることはできなかった。
「いつかダンス見せてあげる。」
「…?ダンス?お前社交ダンスできるのか?」
「ふふっ、いいから、ほらほら温かいうちに召し上がれ。」と声をかけると、「いただきます。」と言うと煙の立つたこ焼きを口の中へ入れた。
ハフハフと食べる姿にここにいる内申可愛いと思ったのは内緒だ。そして、ごくん、と飲み込むと満足そうな笑顔である。
「これ、美味しいな。」
「ふふ、全部食べていいからね。」
「お前も食べろ。」とたこ焼きの刺さった爪楊枝が迫ってきて顔にぶつかる前に慌てて食べるとこれが案外熱いんだわ。
「ちょっあつっあかんっ」と耐えきれずに近くにおいてある飲み物を勝手ながら飲んでしまった。
「あ、いけね。弁償しよ。」と言う私に、設楽くんは「べ、別にしなくていい。」と言うとたこ焼きをまた口へ運んだ。
設楽くんも熱さに耐えられなかったのか、先程私が勝手に飲んだペットボトルを飲んでいる。
「あ、設楽くんのだったんだね。失敬失敬。」
「……、お前はこういうの気にしないのか?」
「…?」
頭にハテナをつけている私を見ている設楽くんの眉間のシワが深くなった気がした。
「あ、わかった。間接キッスってやつだったよね。ごめん。あれよね。潔癖症だよね。」
そう言うと設楽くんの耳が真っ赤になった気がした。そんな姿を見るとこっちまでなんか照れるじゃないか。
「い、意識すると意識しちゃうから忘れさせてよ。」
ちらりとこちらを見た設楽くんは慌てふためく私を確認すると「ふん、まぁ許してやるよ。」とニヤリ笑った。
「所でお前、全然周れてないだろ?行ってきていいからな?」
「ううん、別にいいよ。」
そこからたこ焼きを半分こして食べ終え、お好み焼きの話をしたり文化祭時でも平常運転の私達だ。
「もう少し人がいなくなったら周ろうか。」と誘ってくれる設楽くん。その言葉がなぜか嬉しかった。
時間は16時過ぎになり、後少しで文化祭は終わりだ。「出るか。」と設楽くんに自然に手を引かれた私達は踊り狂うクラスメイトを横目に教室を出た。
「そういえばさっきフリーマーケットを見つけたんだ。行こう。」と設楽くんと3階にあるフリーマーケットへ向かうことに。
「なんか以外。」
だって、設楽くんがフリーマーケットに興味があるなんて驚くよ。
「何がだ?」
「ふふっ、なんでも。」
フリーマーケット会場へついたが残念なことに殆どが売り切れて見ごたえなく終わった。心なしか設楽くんがしょんぼりしている気がした。
「ねぇ、公園でやってるフリーマーケットに一緒に行こうよ。」と誘うと嬉しそうに「わかった、予定開けとくから教えろ。」と笑った。
「来年はちゃんと見れるといいな。」と言う設楽くんに私も自然と頷いているところで、またもや女の子たちに見つかってしまった。
設楽くんはまたもやゲッとした顔をすると一瞬でその場からいなくなってしまったが、前ほど胸のチクチクは感じなかった。
暫くすると携帯が震えて確認をすると“音楽室”と短いメールが届いた。
一度教室へ戻り、鞄を2つ持って音楽室へと向かった。
…
音楽室周辺は立入禁止区間になっており、壁になっている机の隙間を通り音楽室へ到着だ。
「悪い。」
「ううん、またもやお疲れ様。」と設楽くんのいる窓辺に向かい鞄を手渡した。
綺麗な夕日が音楽室を赤く彩っている。
「さっきの奴らだが…」と先程の女の子達の事を設楽くんは嫌そうな表情をしながら教えてくれた。
取り敢えず設楽くんはモテモテって事なのは良くわかり揶揄いたかったが、怒られる気がしたので口に出さなかった。
「聖司さま。」
「それやめろ。」
「ごめん。」
あの女の子たちが通りすがりに「はば学にした噂は本当だったんだ、ショック」と言っていたことを思い出した。
「設楽くんがはば学にいてくれてよかったよ。」
「いきなりなんだ。頭でもぶつけたか?」
「こうやって設楽くんと駄弁るの好きだし、一緒にご飯食べるのも楽しいし、あっもちろん設楽くんのお陰でピアノが好きになったよ。」
別に励ましてるわけじゃない。なんかあの子達に対してムカついたのだ。
「つまりは、設楽くんが隣の席にいて、とても嬉しいってことよ。」
そんな私の心境とは裏腹に設楽くんはしばらく無言なので地雷を踏んでしまったのか、内心ドキドキだ。
設楽くんはピアノの方へ視線を向けながら、ふんわりと笑った。
「後夜祭、行くぞ。」
「マイムマイムの出番だね。」
「そんなもの体育祭だけで十分だ。」と言う設楽くん。
そう言えば体育祭の時は設楽くんのフォークダンスの嫌がりようは思い出しても笑える。眉間にシワをよせたままフォークダンスをするってシュールすぎる。
ふと、たった半年?くらいでこんなに仲良くなるとは不思議だなと改めて思った。
まぁ、週5日は嫌でも隣に設楽くんはいるんだしそりゃ仲良くもなるか。と一人納得だ。
夕日が沈み、窓の外ではキャンプファイヤーの準備をしていた。
「そろそろ行く?」という私に、設楽くんはピアノに対する決意表明を語り始めた。
設楽くんがどれほど苦しかったのかわからないけど、最初の頃に挫折について聞いてきたことも、ずっと苦しかったのだと思えば、今までの私の態度に申し訳なくなった。
「なんか、今までごめん。」
「なんで謝るんだ?お前のせいで覚悟を決めたってことだよ。だからここからは本気でいく。その一番最初の演奏を、お前に聴かせてやるよ。」
設楽くんの気持ちが嬉しくて、にっこり笑う設楽くんの差し出された手を握り返し音楽室を後にした。
昇降口へ向かう途中、生徒が多くなったので、繋がれた手を離した。
その手を設楽くんの制服の裾へ手を伸ばすと、「今度は離すなよ。」と設楽くんの声が聞こえたような気がしたので、もっと強く制服を掴んだ手に力をいれた。
靴を履き替えた私達は、運動場へ出たがキャンプファイヤー付近はわいわい どんどん どんちゃん騒ぎが繰り広げていたので離れた芝生へ腰を下ろすことにした。
設楽くんはハンカチを敷くとここに座れと言わんばかりにエスコートをしてくれたので、逆に私のハンカチを設楽くんの座るであろう場所に敷いた。
「お前のハンカチ座り心地悪いな。」
「私の方は座り心地が凄くいいよ。」
ごうごうと燃えるキャンプファイヤー。そして輝く星空。なんか青春ってやつだ。
「夜遊びみたいで楽しいね。」
「そうだな、お前のおかげでいい思い出になった。」
ぼーっとキャンプファイヤーを見ていると遠くに たまちゃんがいるのが見えた。こちらに気がついてるのかはわからないので手を振るのはやめた。
「お前と出会えて良かった。」と設楽くんもキャンプファイヤーに視線を向けながら言い放った。
「ふふ、私もちょっとだけ思ってるよ。」
「ちょっとってなんだよ。」と笑う設楽くんは続ける。
「なぜかお前の言葉はすんなり入ってくるんだ。」
「…?真心の塊ですしねぇ。」と呑気に返す私に設楽くんは「ありがとうな。」と言ったその時の設楽くんの表情は、たまちゃんを眺めていた私にはわからなかった。
…
ぼーっと窓の外を眺めていると前の席の子から手渡されたアンケート用紙。
なになに?
文化祭でやりたいことを書く欄と特に仲のいい友達の名前(別のクラスの子も含む)を書く欄、自由欄が印刷されているではないか。
ホームルームの話を聞いていなかったが、このアンケート的に文化祭に関することなのは明白だ。
静まり返る教室はシャープペンを走らせる音が響いていた。
文化祭でやりたいこと…、喫茶店は…働きたくないな。それも競合他社が沢山いそうだ。じゃあお化け屋敷…いや面倒くさい。劇なんて論外だ。絶対にやりたくない。
むむむむ…。
悩んだ末に音楽を流して放置プレイができるであろうと考え“ディスコ”と走り書きをした。
自分で言うのもなんだけどディスコってなんやねん。でも“DJのいるクラブ”はなんか風紀的に却下がされそうなので書けないわ。
仲のいい子の名前欄…、これは何かの班を決める時に使うのだろう。
えっと…、委員長と設楽くんと…、えっとえっと…。
あれ?“特に”仲の良い子二人しかいなくね?てか、委員長の苗字って今野だっけ、紺野だっけか。そんで“たまお”ってどう書くっけ。
まあ、いいや。と名前欄にあてずっぽうで“眼鏡の今野委員長”と書き入れた。これなら先生もわかるだろう。
そんで、“設楽”くんの下の名前の漢字も思いつかんぞ。設楽くんだけ書くと別のクラスの設楽くんと友達認定されるかもしれないし…ひらがなはダサいし…
ぐぬぬぬ。
自由欄には政治、正字、誠司、性事…ってこの漢字の感じはなんかエロい。
チラリと設楽くんへ視線を移せばとっくに書き終わっていた。
「ねぇねぇ、せいじくん。」
「せっ…な、なんだよ。」
ひそひそと名前を呼ばれて驚く設楽くんへ「せいじってどういう漢字だっけ。ちょっとプリントに書いてよ。」と用紙を机の上に置くと、視線を向けた。
唐突に吹き出した設楽くんは「ディスコってなんだよ。」と肩を震わせていた。
「音楽流すだけだから楽だよなって考え抜いた結果よ。」
「ふっ、悪くないな。」
そんな設楽くんはこの欄を何も書いていない気がする。
「設楽くんもディスコって書いといて。」
「考えといてやる。それでなんだこの自由欄は。」
「“せいじ”探しの旅をしてましてね。」
「どれも不正解だ。」と言うと“聖司”と書き入れると返してくれた。
「あ、なんか一番かっこいい漢字の感じじゃん。」
「も、もういいから黙れ。」
その数分後にアンケート用紙が回収されて集計後1次審査が終わると、文化祭の展示物についての2次審査で多数決が行われるようだ。
集計後に多数決をするのなら確実にドマイナーなディスコは落選済みだと思っていたが、数日後に行われたホームルームで、喫茶店、お化け屋敷、の王道の中になぜかディスコもあり、そして多数決で“ディスコ”が一位となった。
学園祭の準備なんて“ディスコ”の私達は総時間6時間くらいで終わった。
ミラーボールや派手なライトをレンタルして、学校においてある使われていないスピーカーをもってきて黒い壁を作って学校にあるノートパソコンを置けばオッケーだ。
ディスコの曲は偏りが無いようにクラスのみんなの好きな曲2つ、ご両親の好きな曲を一つ、提出してもらいノートパソコンで曲のリストを作れば完璧だし、当日も教室はほぼ放置プレイでOKだ。
もちろん、委員長がすぐにまとめてくれたのでこの作業ももう終わっている。むしろ、ほぼ委員長がやってくれたので仕事はなかった。
「流石委員長だね。」
「これくらいどうってことないよ。自分のクラスの作業が無い分生徒会の仕事も捗るしディスコに決まって助かった。」
まさかの委員長に感謝されるとは思っておらずに驚きだ。
「ところでなんで1次選考にディスコが通過したの?」
「後ろから君と設楽の声が聞こえててね。多分それで他の子達もディスコって書いたんじゃないかな?」
なるほど、きっと設楽くんファンもその笑いに誘われて書いてくれたのかもしれない。感謝だ。
「ちなみに委員長はなんて書いたの?」
「僕は“はばたき駅の歴史”の展示を書いたよ。ディスコも嬉しいけれど、はばたき駅の魅力を伝えられなくて残念だ。」
ディスコ以上にマニアックな提案をする人おったんかい。のツッコミは心の中でやめといた。
…
文化祭当日、私達のつくりあげたディスコのフロアは中々のクオリティだった。
もちろん、音響もバッチリだし、委員長が見つけた低予算でも借りられるライト屋さんのおかげで派手でだし、予算も沢山残り良いことばかりだ。
クラスの子のアイデアで係は必要になるがディスコの中で飲み物の販売もすることにし、ついでに立って食べられるものなら持ち込みオッケーにすることに。これで多少なり売上も作ることができたのでヨシってやつだ。
一応係はあるが壁の向こうの休憩スペースを充実させているので好きな音楽を聞きながらのんびりできる神仕様である。
そんな仕様だから誰かしらいるので係という概念のない素晴らしいシステムなのだ。
休憩スペースで寛ぐ数人の中にはもちろん私も設楽くんもいた。
「設楽くん、こういううるさい場所嫌いだと思ってたからなんか以外。」
「まぁ、正直好きではないが、こうして興味のないジャンルを聞いてるみるのも悪くはないな。」
「セイちゃん、成長したねぇ…およよよ。」
「馬鹿にするな。」
あまり話したことのない子達と設楽くんと
みんなで駄べっているとあっという間に11時過ぎだ。
「じゃあ私ちょっと行ってくるね。」
立ち上がる私に設楽くんは「どこに行くんだよ。」と聞いてきたので、「激混む前に何か食べ物買ってくるね。」と告げて自分の鞄からお財布を取り出した。
「仕方がない、俺もついていってやろう。」
「仕方がないな、来いよ!ピカチュウ!」と言った瞬間に私の提出したポケモンソングがフロアへ流れ出た。
「あ、これ私のだ。」
「言われなくてもわかる。」
結局その一曲が終わるまで休憩スペースでのんびりして、フロアに出ると思ったより人が入っていることに驚きだ。
「お客さん、結構入るものだね。」
「俺も正直驚いてる。」
「来年はカラオケ屋さんを提案するよ。」
「俺は絶対に嫌だ。」とやんややんやと教室を出た。
まだ11時というのに老若男女と沢山の人とすれ違うではないか。はばたき学園ってすごいんだな。うちの中学校はど田舎過ぎてほぼ生徒しか歩いてなかったもん。
「うわぷ。」
「おい、大丈夫か。」
人混みに流されかけた私を華麗に設楽くんは救出してくれた。
「一瞬ではぐれちゃうね。」
「じゃあここに掴ま…いや、悪い。」
以前のゴタゴタ話を思い出したであろう設楽くんは差し出してくれた腕をすぐさま引っ込めた。
「じゃあ私の制服を掴んでいいよ。」
「なんでそうなるんだ。それならこっち掴んだらいいだろ。」と設楽くんの大きな手が私の手を自身の制服へ移動させた。
「折角だ、一周しよう。」と提案をくれた設楽くんに賛成し、歩いて数歩…のところで女の子の黄色い声が響いた。ところどころ「聖司さまが…」「はば学にいるなんて…」と声が耳に入った。
どういうことなのだろうか?
ちらりと視線を設楽くんへ移すとゲッとした顔をしていて、いつもそんなに足の早くもない設楽くんは素早く人混みの中へ流されていった。
訳はわからないが、初めて見るほどの素早い動きで相当嫌だったのだと納得した。
でも、ちょっとだけ、本当にちょっっとだけ、設楽くんと周れないことに寂しく感じた。そしてなぜか胸がチクチクと痛む。ちょっとだけ。
その痛みを誤魔化すように一人で一周をするつもりが、誤魔化すことなんてできず、丁度目に入ったたこ焼き屋で一つ購入し設楽くんが選曲したであろうクラシックが響き渡る教室へと戻った。
休憩スペースに入ると設楽くんも戻ってきておりそのことに驚きつつ、胸のチクチクが収まった。
休憩スペースには設楽くんだけでフロアでノリノリで飲み物を販売している子達以外はみんなどこかへ行ってしまったようだ。
「えと…お疲れ様?」
「いや…、悪かった、お前を置いていって。」
「ううん、こうして巡り会えたからヨシってやつだよ。」
設楽くんは何も買ってきていないようだったので、たこ焼きを設楽くんに差し出した。
「なんだこれは?」
「たこ焼きだよ。設楽くんにあげる。」
「たこ…やき?」と頭にはてなを浮かべる姿が可愛くて笑ってしまった。
たこ焼きの蓋を開けようとしないので蓋をあけて再度渡すと目をまんまるにしているではないか。
「なんだ…これは…?」
「あんさん、これがたこ焼きやで。」
今まで蓋を閉じていたので鰹節はぺっちゃんこ。残念なことに鰹節のダンスを見せることはできなかった。
「いつかダンス見せてあげる。」
「…?ダンス?お前社交ダンスできるのか?」
「ふふっ、いいから、ほらほら温かいうちに召し上がれ。」と声をかけると、「いただきます。」と言うと煙の立つたこ焼きを口の中へ入れた。
ハフハフと食べる姿にここにいる内申可愛いと思ったのは内緒だ。そして、ごくん、と飲み込むと満足そうな笑顔である。
「これ、美味しいな。」
「ふふ、全部食べていいからね。」
「お前も食べろ。」とたこ焼きの刺さった爪楊枝が迫ってきて顔にぶつかる前に慌てて食べるとこれが案外熱いんだわ。
「ちょっあつっあかんっ」と耐えきれずに近くにおいてある飲み物を勝手ながら飲んでしまった。
「あ、いけね。弁償しよ。」と言う私に、設楽くんは「べ、別にしなくていい。」と言うとたこ焼きをまた口へ運んだ。
設楽くんも熱さに耐えられなかったのか、先程私が勝手に飲んだペットボトルを飲んでいる。
「あ、設楽くんのだったんだね。失敬失敬。」
「……、お前はこういうの気にしないのか?」
「…?」
頭にハテナをつけている私を見ている設楽くんの眉間のシワが深くなった気がした。
「あ、わかった。間接キッスってやつだったよね。ごめん。あれよね。潔癖症だよね。」
そう言うと設楽くんの耳が真っ赤になった気がした。そんな姿を見るとこっちまでなんか照れるじゃないか。
「い、意識すると意識しちゃうから忘れさせてよ。」
ちらりとこちらを見た設楽くんは慌てふためく私を確認すると「ふん、まぁ許してやるよ。」とニヤリ笑った。
「所でお前、全然周れてないだろ?行ってきていいからな?」
「ううん、別にいいよ。」
そこからたこ焼きを半分こして食べ終え、お好み焼きの話をしたり文化祭時でも平常運転の私達だ。
「もう少し人がいなくなったら周ろうか。」と誘ってくれる設楽くん。その言葉がなぜか嬉しかった。
時間は16時過ぎになり、後少しで文化祭は終わりだ。「出るか。」と設楽くんに自然に手を引かれた私達は踊り狂うクラスメイトを横目に教室を出た。
「そういえばさっきフリーマーケットを見つけたんだ。行こう。」と設楽くんと3階にあるフリーマーケットへ向かうことに。
「なんか以外。」
だって、設楽くんがフリーマーケットに興味があるなんて驚くよ。
「何がだ?」
「ふふっ、なんでも。」
フリーマーケット会場へついたが残念なことに殆どが売り切れて見ごたえなく終わった。心なしか設楽くんがしょんぼりしている気がした。
「ねぇ、公園でやってるフリーマーケットに一緒に行こうよ。」と誘うと嬉しそうに「わかった、予定開けとくから教えろ。」と笑った。
「来年はちゃんと見れるといいな。」と言う設楽くんに私も自然と頷いているところで、またもや女の子たちに見つかってしまった。
設楽くんはまたもやゲッとした顔をすると一瞬でその場からいなくなってしまったが、前ほど胸のチクチクは感じなかった。
暫くすると携帯が震えて確認をすると“音楽室”と短いメールが届いた。
一度教室へ戻り、鞄を2つ持って音楽室へと向かった。
…
音楽室周辺は立入禁止区間になっており、壁になっている机の隙間を通り音楽室へ到着だ。
「悪い。」
「ううん、またもやお疲れ様。」と設楽くんのいる窓辺に向かい鞄を手渡した。
綺麗な夕日が音楽室を赤く彩っている。
「さっきの奴らだが…」と先程の女の子達の事を設楽くんは嫌そうな表情をしながら教えてくれた。
取り敢えず設楽くんはモテモテって事なのは良くわかり揶揄いたかったが、怒られる気がしたので口に出さなかった。
「聖司さま。」
「それやめろ。」
「ごめん。」
あの女の子たちが通りすがりに「はば学にした噂は本当だったんだ、ショック」と言っていたことを思い出した。
「設楽くんがはば学にいてくれてよかったよ。」
「いきなりなんだ。頭でもぶつけたか?」
「こうやって設楽くんと駄弁るの好きだし、一緒にご飯食べるのも楽しいし、あっもちろん設楽くんのお陰でピアノが好きになったよ。」
別に励ましてるわけじゃない。なんかあの子達に対してムカついたのだ。
「つまりは、設楽くんが隣の席にいて、とても嬉しいってことよ。」
そんな私の心境とは裏腹に設楽くんはしばらく無言なので地雷を踏んでしまったのか、内心ドキドキだ。
設楽くんはピアノの方へ視線を向けながら、ふんわりと笑った。
「後夜祭、行くぞ。」
「マイムマイムの出番だね。」
「そんなもの体育祭だけで十分だ。」と言う設楽くん。
そう言えば体育祭の時は設楽くんのフォークダンスの嫌がりようは思い出しても笑える。眉間にシワをよせたままフォークダンスをするってシュールすぎる。
ふと、たった半年?くらいでこんなに仲良くなるとは不思議だなと改めて思った。
まぁ、週5日は嫌でも隣に設楽くんはいるんだしそりゃ仲良くもなるか。と一人納得だ。
夕日が沈み、窓の外ではキャンプファイヤーの準備をしていた。
「そろそろ行く?」という私に、設楽くんはピアノに対する決意表明を語り始めた。
設楽くんがどれほど苦しかったのかわからないけど、最初の頃に挫折について聞いてきたことも、ずっと苦しかったのだと思えば、今までの私の態度に申し訳なくなった。
「なんか、今までごめん。」
「なんで謝るんだ?お前のせいで覚悟を決めたってことだよ。だからここからは本気でいく。その一番最初の演奏を、お前に聴かせてやるよ。」
設楽くんの気持ちが嬉しくて、にっこり笑う設楽くんの差し出された手を握り返し音楽室を後にした。
昇降口へ向かう途中、生徒が多くなったので、繋がれた手を離した。
その手を設楽くんの制服の裾へ手を伸ばすと、「今度は離すなよ。」と設楽くんの声が聞こえたような気がしたので、もっと強く制服を掴んだ手に力をいれた。
靴を履き替えた私達は、運動場へ出たがキャンプファイヤー付近はわいわい どんどん どんちゃん騒ぎが繰り広げていたので離れた芝生へ腰を下ろすことにした。
設楽くんはハンカチを敷くとここに座れと言わんばかりにエスコートをしてくれたので、逆に私のハンカチを設楽くんの座るであろう場所に敷いた。
「お前のハンカチ座り心地悪いな。」
「私の方は座り心地が凄くいいよ。」
ごうごうと燃えるキャンプファイヤー。そして輝く星空。なんか青春ってやつだ。
「夜遊びみたいで楽しいね。」
「そうだな、お前のおかげでいい思い出になった。」
ぼーっとキャンプファイヤーを見ていると遠くに たまちゃんがいるのが見えた。こちらに気がついてるのかはわからないので手を振るのはやめた。
「お前と出会えて良かった。」と設楽くんもキャンプファイヤーに視線を向けながら言い放った。
「ふふ、私もちょっとだけ思ってるよ。」
「ちょっとってなんだよ。」と笑う設楽くんは続ける。
「なぜかお前の言葉はすんなり入ってくるんだ。」
「…?真心の塊ですしねぇ。」と呑気に返す私に設楽くんは「ありがとうな。」と言ったその時の設楽くんの表情は、たまちゃんを眺めていた私にはわからなかった。
…