隣の席の設楽くん
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…
昨日は久しぶりのショッピングモールで疲れてしまい、ぐっすりと眠ってしまった。本日もまたもや遅刻ギリギリだ。
走って学校へ向かう途中すれ違うあの黒い車はきっと設楽くんだ。くそーっと睨みつけながらもう少しでつく校門付近まで一気に走ると設楽くんが立っていた。
「設楽くん、なんでここで待ってるの。」
「お前の酷い顔が見えたから待ってやったんだ。」
「失礼な!」
確かに“くそーっ”て顔をしながら走ってたけど見られてるなんて思わなかった。
「お前はなんでいつも遅いんだ?」
「限界まで眠ってたい年頃でしてね。ちなみに昨日は久々に出かけたから爆睡しちゃったよ。設楽くんも?」
「俺は…あまり寝れなかった。」
「ありゃ。悩みごとなら相談して、私達ズッ友でしょ?」
「お前に相談することなんて何もない。」
「もう!もう!」
そこから設楽くんと学校へと向かった。途中まで走ってたおかげで遅刻は余裕に回避だ。
「お前、今日は弁当持ってきたのか?」
「ううん、寝坊したから作れなかった。」
「だろうな、あんな顔して走ってるくらいだもんな。」
どれだけ酷い顔をしてたんだよ、私は。「もう!確かにそうなんだけど!もう!」と突っ込む私に、「もうもう言ってると牛になるぞ。」と言われる始末だ。口を尖らせている私を見た設楽くんは「ぷっ」と笑った。
「悪かったって、昼は音楽室に来いよ。弁当分けてやる。」
「いやいや、そんな気にしないで。」
「いいから来いよ。」
教室の扉を開けてくれた設楽くんのあとに続き私も入室した。座りなれた自分の席へと着席するも、なんだか周りのクラスメイトの視線を感じる。
怖気づく私と違い、ちらりと設楽くんを見るも全く気にしてないようにノートを開いていた。
そういう“俺か、俺以外か。”みたいな所は尊敬していたりもする。
そんな“俺か、俺以外か。”の設楽くんだけど、知れば知るほど面白いやつだよな。
ぼーっと眺めていると視線に気がついた設楽くんは「なんだ、またなんか忘れたのか。」とニヤリと笑った。
「設楽くんって噛めば噛むほど味の出るスルメみたいなやつだよね。」
「何言ってんだ。お前は。」
「褒めてるんだよ。」
丁度、扉が開き先生が来た為ホームルームが始まり、違和感というものはなくなった。きっと気のせいだったのだろう。
あっという間にホームルームも2時間目の授業が終わり、中休みになり設楽くんはいつものように音楽室に向かうのか席を立った。私もトイレに行きたいので席を立つ。
「何聞きたいんだ。」
「ううん、朝からトイレ行くの忘れてたからトイレにいっトイレよ。」
「……あっそ。」
「設楽くんも一緒についてくる?にょーいどんする?」
「お前はバカか!」とぷりぷりしながら音楽室に行ってしまったので私もトイレに向かった。
トイレに向かう道中、いつも以上に視線を感じ、視線を感じながらトイレに入り視線を感じながらの手を洗った。おかげで出るものも出なかった。
さっさと教室に戻ろうと廊下を早歩きで歩いていると、同じクラスの女子と別のクラスの女子数人に話しかけられて囲まれてしまった。
内心「ゲッ」ってなった。多分、顔も「ゲッ」てした顔になってたと思う。
何はともあれ話を聞くと、「先日設楽くんとショッピングモールで腕を組んでデートをしてたのは本当なのか?」という話だった。
「デートじゃないけどそうです。」と伝えるや悲鳴をあげる女子たちだ。あ、そうだった。設楽くんはモテてたんだ。忘れてた。
設楽くんのことを好きらしい?同じクラスの女子は「私の時はすぐに帰っちゃったのに…」と泣きそうである。
あ、あれだ。夏休みに委員長と設楽くんと女子四人で出かけたとかのアレだ。「あ、はは…集団行動が苦手な人もいますからねぇ…。」とフォローするしかなかった。大人の対応ができる私は偉いと思う。
「私、腕組んでたの見たんだけど、本当は付き合ってるでしょ。はっきり言いなさいよ!」となぜか詰められる私。
なるほど、朝の妙な教室の雰囲気はその件があったからだったのだな…、と冷静に分析だ。
そこから、1年…いや、なぜか有名な設楽くんのおかげで2年、3年にも「二人は付き合ってる」だとか「設楽が弱みを握られている」だとか憶測が広まっているらしい。極めつけは「あいつら、音楽室でヤッてる」まで言ってる人がいるらしい。
気の合う男女が二人でいるだけでそんなおかしな噂が広まるなんて思春期って怖いな。こういう考えの人は大人になったら男女二人で食事に行くだけでワンチャンあると考えるようなアホになると思う。
「いや、あの、迷子になるとこだったもので…。」と返し、そこからまたもや何か言われたが、「どうしたんだい?」とまるで白馬の王子の如く現れたのはみんな大好き たまちゃんだ。
たまちゃんは冷静にそして優しく彼女たちを諭すとなんとかその場は収まり彼女たちは行ってしまった。
「ごめん、さっきの話聞こえてたんだ。」
「ううん、むしろ助けてくれてありがとう。」
二人仲良く教室へ向かう時も嫌な視線を感じやはり居心地が悪い。
思い返すのは「二人は付き合ってる」「設楽が弱みを握られている」「あいつら、音楽室でヤッてる」と多分他にも言われてるだろう陰口のことだ。内心豆腐メンタルな私は不登校待ったなしだこれは。
「はぁ…どうしよ…」と一つため息をこぼす私に委員長は優しく頭をなでてくれた。
「コソコソ言われるのは気にしちゃうかもだけど、君は設楽の友達で何も悪いことしてないんだから自信もって。」
「…、うん。」
「あの設楽が仲良くしてる子なんて君くらいなんだ。だから女の子は嫉妬してるんだと思う。」
確かにあのぶっきらぼうで態度のでかい姿を見たら“あの設楽”と呼びたくもなるわな。と少し笑ってしまった。
「君が設楽といて楽しいと感じるように、設楽も君といるのが好きだから一緒にいるんだよ。だから気にしちゃ駄目だよ。」
別にあんなヤツといても全然楽しくないわ!!と否定しようと思ったが、昨日の楽しかった時間、いや設楽くんと仲良くなった時間の全て否定してしまう気がして言うのをやめた。
「たまちゃん、ありがとう。」
「また何かあったら相談して。」
委員長と教室に戻ると女子達の視線はやはり厳しく感じた。
設楽くんも一ピアノを弾き終わってたのか、もう着席していたが、先程のことを思い返してしまい話しかけられたが気まずいので上の空で返事をしてしまった。
その後の間の休み時間は寝た振りをして設楽くんを避けてしまった。
…
授業終了のチャイムが鳴り響き、あっという間にお昼休みだ。
設楽くんに話しかけられる前に急いで教室を出ることに成功した。
今朝「昼は音楽室に来いよ。弁当分けてやる。」と言っていた設楽くんを思い出し申し訳なくて、妙なチクチクした痛みが胸を支配した。
気を紛らわせるようにいつもと違う遠回りルートで購買に向かっていたが、途中に携帯が震えてディスプレイを見ると“設楽くん”の名前だったが、確認するのが怖く感じた私は気が付かないふりをして購買へ向かった。
お気に入りのパンをゲットしかけたが教室にお財布を忘れてきたのでゲットしたパンはリリースしなければいけなくなった悲しき自体だ。
またポッケに入る携帯が震えたのでディスプレイを確認すると“委員長”だった。メールには“すぐに教室に戻ってきて”とだけ書いていた。財布を取りに行くつもりの私にはラッキーだ。
早歩きで教室に戻ると委員長から手渡されたのは綺麗な風呂敷に包まれたお弁当だった。
「誰かさんからの預かりもの。」
「えっ…?」
きっといつもなら言ってるだろう“誰かさんって誰?”なんてボケは口からは出なかった。
「君が教室を出たあと心配そうにしてたよ。」
「たまちゃん、ありがとう…。」
「お礼なら誰かさんに言いなよ。」と言うと自身のお弁当箱を持って教室を出ていってしまった。
たまちゃんの背中を見送ったあとに携帯を開き未読のメールを開くと、“体調悪いのか?大丈夫か?”と短く心配してくれているメールが届いていた。
そのメールを見て胸のチクチクは引いたが、とても泣きたくなった。別にたった数回避けただけの出来事なのに。なんなのだこれは。
音楽室に行くべきか、行かないべきか。…どうか勇気をください。
“音楽室に行く、行かない。どちらにしようかな。”と神頼みを何回もしたが“行かない”ばかりになったが、“行かないも行くルール”と言うゴリ押しで音楽室へと向かった。
音楽室へ行く途中の妙な視線なんて世界で一番どうでもよくなった。
いつもなら気にせずに堂々と入室していたはずだが、どうやって入ったら良いのかわからず、扉の前でしばらく動くことができなかった。
ドアについている窓から覗くと設楽くんは窓の外を眺めながら購買で買ったであろうパンを食べているではないか。
なんでこんなに優しいんだろう。自分が情けない。
設楽くんをみつめてると、後ろを振り向いた設楽くんとバッチリ目があってしまった。
見つめ合うこと数秒、扉の前で動かない私の前には設楽くんがいる。
「体調大丈夫か?」
「えと、…、うん。平気。」
「じゃあ早く入れよ。」と手を引かれ設楽くんと以前お弁当を食べた場所に腰を下ろした。
「あの、お弁当…」
「お前にやる。遠慮せず食えよ。」
設楽くんは弁当箱を手に取ると包を開けてお弁当箱の蓋を外すと差し出してきた。
お弁当の中には昨日の0.5均で購入したピックや以前あげた恐竜のピックの刺さったおかずに、ソーセージは可愛らしく切り込みがいれられていた。
それも0.5均の切り込みを入れるグッズを使っただろうソーセージの隣には見たこともないようなすごい切込みが入った可愛いソーセージもある。
これぞプロって感じだ。きっと設楽くんが突然グッズを差し出してきたからお弁当を作ったであろうシェフは対抗意識を持ったのだろう。
「お前に見せたかったんだ。…て、本当に体調大丈夫か?」
嬉しくてとっても笑顔になりたいのに、設楽くんに対して申し訳なくて泣きたくて、きっと今酷い顔をしている。それなのにまた設楽くんは心配してくれる。
「…設楽くん、優しいね。」
設楽くんを見たら涙腺が崩壊するのはわかっているので、設楽くんの持つパンへ視線を向けると、先程買おうとしていた私のお気に入りのパンを持っていた。
「あ、それ美味しいよね。」
「お前もそう思うのか。」
「うん、一番好きなパンだよ。」
どうも設楽くんとは味覚の相性はいいようだ。
「ところで設楽くん、一人で購買でパン買えるんだ。」
「前に紺野と行ったときに教えてもらったんだ。悪いか?」
「ふふっ、ねぇお弁当もパンも半分こしようよ。」
「お前がいいならそうしよう。」
設楽くんのお弁当は美味しくて、設楽くんが可愛いソーセージを食べてるのが面白くて、設楽くんは優しくて、おかげで泣きたくなっていた気持ちが落ち着いた。
「設楽くん、ありがとう。」
「いや、元気になったなら良かった。…先に教室に戻りたかったら戻ってもいいからな?」
きっと気を使ってくれているのだろう。でも、設楽くんと一緒にいたい気持ちの方が勝っている。
「ううん、一緒に教室戻ろう。」と自然と口から出ていた。
設楽くんのピアノを聞いて音楽室を出る際に「お前が嫌じゃなければ、帰り送ってく。」と誘ってくれたので二つ返事で返した。
…
設楽くんのおかげで視線なんてどうでもよくて、きっと今の私なら手を繋いで歩いたっていいくらいの気持ちだ。
あっという間に教室について、あっという間に終礼だ。
帰り道、珍しく迎えは来てなくてのんびり歩いて道を歩いた。
「なぁ、昼に紺野から噂のこと聞いた。なんですぐ俺に相談しなかったんだ。」
「うっ…ご、ごめん。ズッ友なのに。」
登校時の私と反対の立場になってる事に驚きだよ。本当に。
「……お前がそんな噂を気にするなんて意外だった。」
「うっ」
「だから俺のこと避けてたのか?」
「ぎくっ!いや、全然避けてない。」
「今、ぎくって声に出てたぞ。…もしかして意識してたのか?」
「べべべ、別にしてねーし!!」
「じゃあそんな噂なんか気にしなくていいじゃないか。」
おかしな噂は立っているのも気にしてもいない設楽くん。
そうだ、“俺か、俺以外か。”だ。やっぱ設楽さんすげーっす!と賞賛を送っていたので「むしろ好都合だ。」と呟いた声は聞こえなかった。
同じ被害者のSさんの意見を聞けば不登校までも考えてた事が嘘のようにどうでも良くなってきた。
いや、設楽くんの優しさでどうでも良くなったが正しい。
「俺はお前に避けられると傷つく。だから二度とするな。」
設楽くんも傷つくんだ。という驚きと共に「二度とするな。」という妙に重い一言に一瞬悩んでしまったが、走馬灯のように設楽くんと過ごしてきた半年が脳裏に流れ、「うん、二度としないよ。」と一瞬で即答の私だ。
「私も設楽くんに避けられたらムカつくもん。だから本当にごめんね。」
「いや、ムカつくな。嘘でも傷つけよ。」
「設楽くんのことが好きだから、ムカつくに決まってるじゃん。」
「はっ?」
設楽くんはすっとんきょんな声を出すと立ち止まったので、私も歩みを止めた。
「ふふっ、多分隣の席で授業中変顔しちゃうレベルに。」
「……なんだ、それ。」
設楽くんを見れば夕日のせいで顔が染まっているように見えた。
「なぁ…、俺も…」となにか言いかけの設楽くんの声は車のクラクション音で耳には届かなかった。
「ふふ、今日ね。ズッ友じゃなくて心の友に進化したらしい。」
「……。」
「え…?設楽くん?」
突然スタスタと歩き出した設楽くんに驚きを隠さずに背中を追いかけた。
「俺が馬鹿だった。」
「…?前からじゃん。」
「お前もだろ。」
一つため息を吐いた設楽くんは「行くぞ、心の友。」と言うや私の手を取り歩き始めた。
設楽くんも同じように心の友と思ってくれているのが嬉しくてその手を握り返した。
…