隣の席の設楽くん
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…
エアコンをつけなくてもいいくらいの程よい暖かさに暖かい布団の中。
「通行料一億円頂戴。」
「はぁ?そんなこと言うのはこの口か?オラ、Wコチョコチョ攻撃だ!」
「そうだね、悪者はレッドとブラックが成敗してやる!ほら諦めてコチョコチョ攻撃を受けな!」
「やだやだごめん、助けて〜」
サクラソウが生い茂るあの教会のあの日の思い出。あの時もこんな暖かさだったけ。って通行料高く吹っかけすぎだろ私。そりゃ悪者だわ。
桜が舞う季節が今年もやってきた。この制服を着てもう一年が立つ。履きなれたローファーで今日も急いで学校へと駆けながら1年前を思い出す。
最初は最悪な隣人だと思ってバナナマン設楽。“シャーペン事件”以降設楽くんを沢山知り、約一年、設楽くんとワイワイやれて楽しく過ごせたな。と改めて思った。
走っている最中、ポケットに入ってる携帯が震えたので一度立ち止り携帯を確認することにした。ディスプレイには“設楽くん”の名前が映し出されている。
学校前にメールが来るなんて珍し過ぎる。なにか重大なことがあったのか?と慌ててメールを開くと“同じクラス”と短いメールが届いた。
なるほど、同じクラスか。わざわざ報告してくれたことに少しだけ笑みが溢れる。クラス表を見るのは面倒くさいので何組なのかをメールで問い合わせし、携帯を握りながらもう一度駆けた。
校門へつくと周りにはピカピカな制服を着た新入生らしき男女が緊張した面立ちで校舎へと入って行っていた。握りしめていた携帯が震えたので、携帯を再度開き設楽くんのメールを確認しながら歩いていると前方不注意。大きな背中にぶつかってしまった。
「うわ、ごめんなさい!」と謝ると振り返る二つの背中。私の目の前には場違いと言ってもいいほどの不良のような見た目で身長の大きい男の子たちが目を見開き見つめてきた。鋭い視線にドキドキだ。
「いや…、大丈夫だ。」
新入生だろうか?それとも3年生なのか?金髪の男の子はふんわりと笑い。その隣の男の子は…。いつの日かショッピングモールで助けてくれた人なような気が…する?もしもその人ならばそりゃ目を見開くわな。と納得である。
「それなら良かったです。じゃあ、さよなら。」
校舎へと向かうべく足を進めてると、周りからコソコソと「あの桜井兄弟がなんではば学に!?」と声が聞こえる。ヤンキー感があったあの二人組のことなのか…?と思いつつ聞き覚えのある“桜井”の苗字。
“桜井”、“桜井”…。靴を履き替えいつもの教室のいつもの席へと座り、“桜井”についてぼーっと考えていると、優しく肩を叩かれた。
「あれ?オマエと同じクラスだった?それなら嬉しい。でもここ、俺の席。」
「ありゃ!?」
さきほどの金髪くんが嬉しさを隠さずに笑っていた。って“桜井”を、考えていたら目の前に“桜井”くん。こいつは驚きだ。驚きのあまり声を上げてしまい、一斉に見られる私。
あれ…?誰この人達…。チラリと隣を見るも設楽くんが見えない…ぞ?
そして教室を間違ったことに気が付く私。「ごめんなさーい!」と走って設楽くんが教えてくれた教室への階段を登った。
ワイワイと賑やかな教室の扉をガラリと開け、黒板に掲示されている自身の席は確認しなくても私以外が揃っていたので空席のそれも一番前の扉側に座った。
さり気なくあたりを見るが見知った顔がちらほらと。
設楽くんはもちろんだが、委員長がいる事にほっとしつつ、近くの席の子に自己紹介をすると、みんな私のことは知っているようだった。有名人かよ。私って。
ホームルームが終了し、入学式が行われる体育館へと向かうことになり挨拶ができてない委員長とその隣を歩く設楽くんの元へと向かった。
「たまちゃん、セイちゃん、おひさ。」と声をかけると二人とも嫌そうな顔で「このクラスではそんな呼び方しないでくれ。」なんてたまちゃ…委員長に怒られてしまった。
だが、冷静に考えてみよう。まだ委員長が決まっていないのに委員長なんておかしくないか?
「じゃあ委員長が決まるまで委員長は玉緒くん、セイちゃんはセイちゃんだね。」と言うや設楽くんはぷりぷりと怒ってしまった。
「まあまあ、そんなに怒らないでよ、聖司くん。」
「ふん、元からそう呼べばいいものを。」
「じゃあ、委員長が決まるまで聖司くんだね。」
「なんでだよ。」
三人で談笑しながら体育館へと向かった。やれ春休みはどうだったなり、私は宿題が終われず玉緒くんに教わってなり、設楽くんとたまに遊んだり。でもやっぱ学校でこうやって会うのが一番楽しいなと思ったり。
「同じクラスになれてよかったね。」
「まぁそれは同意する。」
そりゃそうだよね、クラスが一緒なことをメールで教えてくれるくらいだもんね。ぷぷっと笑うと「なんだよ。」と不機嫌な設楽くん。
「でも席が遠いいのは寂しいな。」
「うるさいのと離れられてこっちは嬉しいくらいだ。」
「もう!バナナマン設楽め!」
わーわーと体育館へとつき、あっという間に入学式が終わり今度は整列をして教室へと戻った。
早速次の時間でクラス委員を決めることになり、想像通り玉緒くんが選ばれたのでこれからも委員長と呼ぼうと決め今日の授業は終了だ。
終礼ともにがやがやと賑やかになる教室。さっそく玉緒くんに「委員長。じゃあね。」と声をかけて帰り支度をしている設楽くんに「じゃあね、設楽くん。」と挨拶をして教室を後にした。
…
靴を履き替え昇降口を出ると、本日ぶつかってしまい、そして間違って席に座ってしまったご迷惑をおかけした“桜井兄弟”が校門付近に立っていた。
これは挨拶をするべきなの…か?いやいや、別に友達じゃないし…。気まずい気持ちを抱きつつバレないように人の波にのりながら前を通過しようとしたが感じる視線に、またもや優しく肩を叩かれる感覚。
視線を向けると金髪くんの手が肩に触れていた。
“おい、迷惑かけた分と通行料一億円な”なんて言われたらどうしよう。ドキドキと何を話そうかと迷っていると、「ここじゃ人目につくしちょっとこっちに来て」と校門から少し離れた茂みの方へと連れて行かれた。
本格的に迷惑料と通行料でも払わされるのかとドキドキで「あ。えと、その…」と吃る私に金髪くんは「通行料1億円払えなんて言わないから。」と私のことはお見通しとでも言うように見つめてきた。
正直、私よりも何cmも大きい…それも過去に助けてくれた人っぽいヤンキーだけどもやっぱり怖い。心臓がバクバクなまま、ついた先は学校で伝説とか言われている教会前だ。
全く伝説に興味のない私は入学してから一度も近づいたことはなかった。だがこの景色は何度も思い出に出てきたあの、幼い頃の思い出の教会だ。
「えっ…?もしかして二人は…」
桜井兄弟、桜井兄弟…兄弟とこの教会と言えば琉夏くんとコウくんだ。まさかの再開に驚きもあるがあまりの成長ぶりに親戚のような気持ちで見てしまう。
「大きくなったねぇ…二人とも。」
およよ…と泣きの演技を入れつつ、小さかった二人を思い出した。そんな私とは他所に二人はなんとも言えない顔で見合わせていた。
「オマエのほうがデカくなってるじゃねぇかよ、それも一年も早く成長してるとはな。」
「そうそう、クラス表に美奈子の名前はないし、それなのに俺の教室にいるから感動してたのに結局違う。それも二年の下駄箱から出てくるなんて。」
「いや、その教室を間違った話は忘れてよ。」
思い返し教室を間違えるという小学生レベルの出来事に恥ずかしくて顔が赤くなってしまう。
「オマエと同じ学年だと思ってた。美奈子一個上だったんだ?」
「四月一日生まれなんだよね。だからギリギリ一個上って感じ。」
「そんな事あるのかよ。」
教会から喫茶店に寄って二人とこれまでの事を色々とお話した。琉夏くんに「なんで俺達に会いにこなかったの?」と聞かれたがすっかり忘れてました。なんて言えず「家知らないじゃん。」と苦笑いで返した。
実際会いに行ったら怖くないか?それも五歳までの幼馴染が会いに来ましたなんてホラーもいいところだ。
「ところで、前にコウくんらしき人には会った気がするんだよね。あそこのショッピングモールで。」
「え?そんな事あったの?」
「……いや知らねぇな。」
以前はもっと髪が長かった気がするしやっぱり気のせいなんだと思うことにした。
喫茶店から出たあと、二人は家まで送ってくれるそうだ。両隣を歩く大きく成長した二人の男の子に胸がキュッとする。
「お姉さん感動…。」
「お兄さんもオマエに会えて感動…。」
「兄は俺だバカルカ。つーか通行料一億円って言ってた女がお姉さんなわけねぇだろ。」
ごもっともであるが、お姉さんぶりたい年頃なのだ。もう少しで家の屋根が見えてくる頃に琉夏くんが「一日遅く生まれたら良かったのに。」と呟いた。
「ふふ、そしたら同じ学年で一緒に過ごせたかもだったのにね。」
もしもそうなったら設楽くんは設楽先輩になるのか…。絶対に関わり合わない関係になるんだろうな…。だってあんな先輩関わりたくもない。
「あっ、ここ私の家。二人ともありがとね。」とお礼を伝え、せっかくなので連絡先を交換した。
「ねぇ、朝迎えに来てもいい?」
「私遅刻ギリギリマンだよ。」
「じゃあ電話して起こす。コウのやつが。」
「おい、オマエがちゃんと起きろ。」
そこから長い話になりそうなので、夕御飯のお誘いをすると二人とも喜んで家に来てくれ、唐突な訪問者に親は驚いていたがあの二人だと知ると喜んでご飯を作って自室に持ってきてくれた。
そこから軽くゲームをしたり去年の入学式とは大違いの楽しい一日だった。
支度をして就寝しようと目覚まし代わりの携帯電話を鞄から取るとピカピカと着信アリのライトが光っていた。
開くとそこには“設楽くん”の名前。かけ直したかったがすっかり遅くなったので明日にしようと瞳を閉じた。
…
翌日、琉夏くんは約束通りに家に迎えに来てくれた。それもバイクでだ。「コウくんは?」と聞くと「今日だけは譲ってやる」と歩いて学校へ行ったそうだ。
申し訳ない気持ちを抱きつつ、ヘルメットを受取り琉夏くんの後ろへと腰を下ろした。初めてのバイクは楽しく、あっという間に学校近くだ。
バイクを隠した後で、二人並んで校門へと向かって歩いた。こうして誰かと登校するなんて初めてだと今更気がついた。
「なんか青春って感じ。」
「じゃあ俺ともっと“青春”しよう?」
「ふふ、そうだね。」
琉夏くんとは違う下駄箱で靴を履き替え、途中まで一緒に歩き二年の教室へ上がるための階段前で別れた。
別れる前に、「一緒に昼御飯食べよう。」とお誘いをもらったのでもちろん了承し、教室へと向かった。
のんびりしていた事もあるが、前までは隣の席だった設楽くんと席が離れているのでわざわざ話しかけるのも面倒くさいので昨日の件については後で聞くことにした。
中休み、音楽室へと向かう設楽くんが目の前を通ったので慌てて私も追いかけた。
「ちょっ設楽くん歩くの早いって。」
「お前が遅いんだろ。何か用か。」
あっちへ行けとは言われていないので多分OKと勝手に想像し、少し歩みが遅くなった設楽くんと一緒に音楽室へと向かった。
ピアノの蓋を開けてる設楽くんを眺めながら「昨日はごめんね、電話気が付かなくて。」と謝罪をすることに成功した。
「別に対した用じゃない。」そう言いながら設楽くんはいつの日か弾いてくれた“月光”それもPart2の方を弾き始めた。
弾き終わると私の手は勝手に拍手をしてしまう。やっぱり設楽くんって凄いと思う。ぼーっと設楽くんを見ていると「昼休みもまた音楽室に来いよ。」と誘ってくれたが琉夏くんと約束をしてるのでお断りをしたが、今日は喫茶店へ行く約束をした。
楽しい中休みも終わりあっという間にお昼休みだ。お弁当を片手に琉夏くんがいるだろう教室へと向かったが、琉夏くんからのメールでお互いすれ違ったことに気が付き屋上集合でご飯を食べることになった。
琉夏くんはそりゃ顔も整ってるし、金髪はすごく似合ってる。でもその分目立つ。女子生徒の視線…それもハートな感じが私でもわかるくらい見られていた。
「琉夏くん入学早々モテモテだね。」
「んー?そう?ところで美奈子はお弁当なんだ?」
私の質問に全く興味がなさそうな琉夏くんは学食で買ったと思われるパンを片手に視線は私の持つお弁当。
「ふふ、おかず食べる?」
「食いたい。」
蓋を開けてまだ口をつけてないお箸を琉夏くんに渡し「好きなの食べていいよ。」と言うと卵焼きを一つ取ると「はい、あーん」と私の口へ運んだ。唐突なことに素直にその卵焼きを食べたが、冷静に考えるとちょっと恥ずかしい。
「はい、今度はオマエの番」と渡されるお箸と口を開けて待つ琉夏くんは雛鳥のように感じる。可愛さに負けた私はお望み通りに琉夏くんの口へ卵焼きを運んだ。
「最高。」
「褒め過ぎだよ。」
もっと食べたいという琉夏くんに、体育祭に大きいお弁当を作ってあげる約束をした。
お昼休みも終わり、教室へ戻る途中に委員長に会った。委員長になぜか「人前で無闇に食べ合いをするのは誤解を生むかもしれないよ。」と注意されてしまった。
なるほど、もしかすると屋上で委員長たちもお昼ご飯を食べていたのか。と納得しつつ、琉夏くんとの食べさせ合いを見られたことに少しだけ恥ずかしくなりながら席へとついた。
…
終礼の鐘がなり、帰り支度をしている途中に設楽くんはさっさと教室を出ていってしまった。約束を忘れているのか…?と思ってたが、薄っすらとピアノのメロディーが聞こえたので鞄を肩にかけ音楽室へと向かった。
いつもより激しい音楽に入室するか迷ってしまう。それも設楽くんとは目が合わないし。ウダウダ考えていると扉が開き「なんだ。」と設楽くんのご登場だ。
「なんだじゃないでしょ!もう!」と開いた扉の隙間から勝手に音楽室にお邪魔した。
「今の曲激しすぎて入りずらかったんだけど、なんの曲なの?」
「月光第三楽章。」
「へぇ、それも月光なんだ!荒ぶる設楽くんって感じだった。」
いつもより気まずい沈黙が襲う。いつぶりの気まずさなんだろう。沈黙を破るために“昨日の幼馴染との再会話”をするも、やはりなんとも言えない雰囲気だ。
「えっと、その幼馴染は琉夏くんって言うんだけど金髪になってて最初はカツアゲされるのかなってドキドキしたんだよね。」とジョークを混ぜるとジョークが面白かったのか設楽くんの眉間のシワがピクリと動いた。
「あぁ、なるほどな。」
「面白いでしょ?」
「……憶えてなかったら良かったのに。」
ボソリとつぶやいた設楽くんの言葉はガラリと開いた音楽室の扉の音でかき消された。吹奏楽部が外回りから帰ってくるので氷室先生に追い出され帰路についた。
「設楽くん、喫茶店には寄らないの?」
「今日はいい。またな。」と設楽くんはさっさと帰ってしまった。夜、電話をいれたが設楽くんは出てくれなくて諦めて寝ることにした。
…
エアコンをつけなくてもいいくらいの程よい暖かさに暖かい布団の中。
「通行料一億円頂戴。」
「はぁ?そんなこと言うのはこの口か?オラ、Wコチョコチョ攻撃だ!」
「そうだね、悪者はレッドとブラックが成敗してやる!ほら諦めてコチョコチョ攻撃を受けな!」
「やだやだごめん、助けて〜」
サクラソウが生い茂るあの教会のあの日の思い出。あの時もこんな暖かさだったけ。って通行料高く吹っかけすぎだろ私。そりゃ悪者だわ。
桜が舞う季節が今年もやってきた。この制服を着てもう一年が立つ。履きなれたローファーで今日も急いで学校へと駆けながら1年前を思い出す。
最初は最悪な隣人だと思ってバナナマン設楽。“シャーペン事件”以降設楽くんを沢山知り、約一年、設楽くんとワイワイやれて楽しく過ごせたな。と改めて思った。
走っている最中、ポケットに入ってる携帯が震えたので一度立ち止り携帯を確認することにした。ディスプレイには“設楽くん”の名前が映し出されている。
学校前にメールが来るなんて珍し過ぎる。なにか重大なことがあったのか?と慌ててメールを開くと“同じクラス”と短いメールが届いた。
なるほど、同じクラスか。わざわざ報告してくれたことに少しだけ笑みが溢れる。クラス表を見るのは面倒くさいので何組なのかをメールで問い合わせし、携帯を握りながらもう一度駆けた。
校門へつくと周りにはピカピカな制服を着た新入生らしき男女が緊張した面立ちで校舎へと入って行っていた。握りしめていた携帯が震えたので、携帯を再度開き設楽くんのメールを確認しながら歩いていると前方不注意。大きな背中にぶつかってしまった。
「うわ、ごめんなさい!」と謝ると振り返る二つの背中。私の目の前には場違いと言ってもいいほどの不良のような見た目で身長の大きい男の子たちが目を見開き見つめてきた。鋭い視線にドキドキだ。
「いや…、大丈夫だ。」
新入生だろうか?それとも3年生なのか?金髪の男の子はふんわりと笑い。その隣の男の子は…。いつの日かショッピングモールで助けてくれた人なような気が…する?もしもその人ならばそりゃ目を見開くわな。と納得である。
「それなら良かったです。じゃあ、さよなら。」
校舎へと向かうべく足を進めてると、周りからコソコソと「あの桜井兄弟がなんではば学に!?」と声が聞こえる。ヤンキー感があったあの二人組のことなのか…?と思いつつ聞き覚えのある“桜井”の苗字。
“桜井”、“桜井”…。靴を履き替えいつもの教室のいつもの席へと座り、“桜井”についてぼーっと考えていると、優しく肩を叩かれた。
「あれ?オマエと同じクラスだった?それなら嬉しい。でもここ、俺の席。」
「ありゃ!?」
さきほどの金髪くんが嬉しさを隠さずに笑っていた。って“桜井”を、考えていたら目の前に“桜井”くん。こいつは驚きだ。驚きのあまり声を上げてしまい、一斉に見られる私。
あれ…?誰この人達…。チラリと隣を見るも設楽くんが見えない…ぞ?
そして教室を間違ったことに気が付く私。「ごめんなさーい!」と走って設楽くんが教えてくれた教室への階段を登った。
ワイワイと賑やかな教室の扉をガラリと開け、黒板に掲示されている自身の席は確認しなくても私以外が揃っていたので空席のそれも一番前の扉側に座った。
さり気なくあたりを見るが見知った顔がちらほらと。
設楽くんはもちろんだが、委員長がいる事にほっとしつつ、近くの席の子に自己紹介をすると、みんな私のことは知っているようだった。有名人かよ。私って。
ホームルームが終了し、入学式が行われる体育館へと向かうことになり挨拶ができてない委員長とその隣を歩く設楽くんの元へと向かった。
「たまちゃん、セイちゃん、おひさ。」と声をかけると二人とも嫌そうな顔で「このクラスではそんな呼び方しないでくれ。」なんてたまちゃ…委員長に怒られてしまった。
だが、冷静に考えてみよう。まだ委員長が決まっていないのに委員長なんておかしくないか?
「じゃあ委員長が決まるまで委員長は玉緒くん、セイちゃんはセイちゃんだね。」と言うや設楽くんはぷりぷりと怒ってしまった。
「まあまあ、そんなに怒らないでよ、聖司くん。」
「ふん、元からそう呼べばいいものを。」
「じゃあ、委員長が決まるまで聖司くんだね。」
「なんでだよ。」
三人で談笑しながら体育館へと向かった。やれ春休みはどうだったなり、私は宿題が終われず玉緒くんに教わってなり、設楽くんとたまに遊んだり。でもやっぱ学校でこうやって会うのが一番楽しいなと思ったり。
「同じクラスになれてよかったね。」
「まぁそれは同意する。」
そりゃそうだよね、クラスが一緒なことをメールで教えてくれるくらいだもんね。ぷぷっと笑うと「なんだよ。」と不機嫌な設楽くん。
「でも席が遠いいのは寂しいな。」
「うるさいのと離れられてこっちは嬉しいくらいだ。」
「もう!バナナマン設楽め!」
わーわーと体育館へとつき、あっという間に入学式が終わり今度は整列をして教室へと戻った。
早速次の時間でクラス委員を決めることになり、想像通り玉緒くんが選ばれたのでこれからも委員長と呼ぼうと決め今日の授業は終了だ。
終礼ともにがやがやと賑やかになる教室。さっそく玉緒くんに「委員長。じゃあね。」と声をかけて帰り支度をしている設楽くんに「じゃあね、設楽くん。」と挨拶をして教室を後にした。
…
靴を履き替え昇降口を出ると、本日ぶつかってしまい、そして間違って席に座ってしまったご迷惑をおかけした“桜井兄弟”が校門付近に立っていた。
これは挨拶をするべきなの…か?いやいや、別に友達じゃないし…。気まずい気持ちを抱きつつバレないように人の波にのりながら前を通過しようとしたが感じる視線に、またもや優しく肩を叩かれる感覚。
視線を向けると金髪くんの手が肩に触れていた。
“おい、迷惑かけた分と通行料一億円な”なんて言われたらどうしよう。ドキドキと何を話そうかと迷っていると、「ここじゃ人目につくしちょっとこっちに来て」と校門から少し離れた茂みの方へと連れて行かれた。
本格的に迷惑料と通行料でも払わされるのかとドキドキで「あ。えと、その…」と吃る私に金髪くんは「通行料1億円払えなんて言わないから。」と私のことはお見通しとでも言うように見つめてきた。
正直、私よりも何cmも大きい…それも過去に助けてくれた人っぽいヤンキーだけどもやっぱり怖い。心臓がバクバクなまま、ついた先は学校で伝説とか言われている教会前だ。
全く伝説に興味のない私は入学してから一度も近づいたことはなかった。だがこの景色は何度も思い出に出てきたあの、幼い頃の思い出の教会だ。
「えっ…?もしかして二人は…」
桜井兄弟、桜井兄弟…兄弟とこの教会と言えば琉夏くんとコウくんだ。まさかの再開に驚きもあるがあまりの成長ぶりに親戚のような気持ちで見てしまう。
「大きくなったねぇ…二人とも。」
およよ…と泣きの演技を入れつつ、小さかった二人を思い出した。そんな私とは他所に二人はなんとも言えない顔で見合わせていた。
「オマエのほうがデカくなってるじゃねぇかよ、それも一年も早く成長してるとはな。」
「そうそう、クラス表に美奈子の名前はないし、それなのに俺の教室にいるから感動してたのに結局違う。それも二年の下駄箱から出てくるなんて。」
「いや、その教室を間違った話は忘れてよ。」
思い返し教室を間違えるという小学生レベルの出来事に恥ずかしくて顔が赤くなってしまう。
「オマエと同じ学年だと思ってた。美奈子一個上だったんだ?」
「四月一日生まれなんだよね。だからギリギリ一個上って感じ。」
「そんな事あるのかよ。」
教会から喫茶店に寄って二人とこれまでの事を色々とお話した。琉夏くんに「なんで俺達に会いにこなかったの?」と聞かれたがすっかり忘れてました。なんて言えず「家知らないじゃん。」と苦笑いで返した。
実際会いに行ったら怖くないか?それも五歳までの幼馴染が会いに来ましたなんてホラーもいいところだ。
「ところで、前にコウくんらしき人には会った気がするんだよね。あそこのショッピングモールで。」
「え?そんな事あったの?」
「……いや知らねぇな。」
以前はもっと髪が長かった気がするしやっぱり気のせいなんだと思うことにした。
喫茶店から出たあと、二人は家まで送ってくれるそうだ。両隣を歩く大きく成長した二人の男の子に胸がキュッとする。
「お姉さん感動…。」
「お兄さんもオマエに会えて感動…。」
「兄は俺だバカルカ。つーか通行料一億円って言ってた女がお姉さんなわけねぇだろ。」
ごもっともであるが、お姉さんぶりたい年頃なのだ。もう少しで家の屋根が見えてくる頃に琉夏くんが「一日遅く生まれたら良かったのに。」と呟いた。
「ふふ、そしたら同じ学年で一緒に過ごせたかもだったのにね。」
もしもそうなったら設楽くんは設楽先輩になるのか…。絶対に関わり合わない関係になるんだろうな…。だってあんな先輩関わりたくもない。
「あっ、ここ私の家。二人ともありがとね。」とお礼を伝え、せっかくなので連絡先を交換した。
「ねぇ、朝迎えに来てもいい?」
「私遅刻ギリギリマンだよ。」
「じゃあ電話して起こす。コウのやつが。」
「おい、オマエがちゃんと起きろ。」
そこから長い話になりそうなので、夕御飯のお誘いをすると二人とも喜んで家に来てくれ、唐突な訪問者に親は驚いていたがあの二人だと知ると喜んでご飯を作って自室に持ってきてくれた。
そこから軽くゲームをしたり去年の入学式とは大違いの楽しい一日だった。
支度をして就寝しようと目覚まし代わりの携帯電話を鞄から取るとピカピカと着信アリのライトが光っていた。
開くとそこには“設楽くん”の名前。かけ直したかったがすっかり遅くなったので明日にしようと瞳を閉じた。
…
翌日、琉夏くんは約束通りに家に迎えに来てくれた。それもバイクでだ。「コウくんは?」と聞くと「今日だけは譲ってやる」と歩いて学校へ行ったそうだ。
申し訳ない気持ちを抱きつつ、ヘルメットを受取り琉夏くんの後ろへと腰を下ろした。初めてのバイクは楽しく、あっという間に学校近くだ。
バイクを隠した後で、二人並んで校門へと向かって歩いた。こうして誰かと登校するなんて初めてだと今更気がついた。
「なんか青春って感じ。」
「じゃあ俺ともっと“青春”しよう?」
「ふふ、そうだね。」
琉夏くんとは違う下駄箱で靴を履き替え、途中まで一緒に歩き二年の教室へ上がるための階段前で別れた。
別れる前に、「一緒に昼御飯食べよう。」とお誘いをもらったのでもちろん了承し、教室へと向かった。
のんびりしていた事もあるが、前までは隣の席だった設楽くんと席が離れているのでわざわざ話しかけるのも面倒くさいので昨日の件については後で聞くことにした。
中休み、音楽室へと向かう設楽くんが目の前を通ったので慌てて私も追いかけた。
「ちょっ設楽くん歩くの早いって。」
「お前が遅いんだろ。何か用か。」
あっちへ行けとは言われていないので多分OKと勝手に想像し、少し歩みが遅くなった設楽くんと一緒に音楽室へと向かった。
ピアノの蓋を開けてる設楽くんを眺めながら「昨日はごめんね、電話気が付かなくて。」と謝罪をすることに成功した。
「別に対した用じゃない。」そう言いながら設楽くんはいつの日か弾いてくれた“月光”それもPart2の方を弾き始めた。
弾き終わると私の手は勝手に拍手をしてしまう。やっぱり設楽くんって凄いと思う。ぼーっと設楽くんを見ていると「昼休みもまた音楽室に来いよ。」と誘ってくれたが琉夏くんと約束をしてるのでお断りをしたが、今日は喫茶店へ行く約束をした。
楽しい中休みも終わりあっという間にお昼休みだ。お弁当を片手に琉夏くんがいるだろう教室へと向かったが、琉夏くんからのメールでお互いすれ違ったことに気が付き屋上集合でご飯を食べることになった。
琉夏くんはそりゃ顔も整ってるし、金髪はすごく似合ってる。でもその分目立つ。女子生徒の視線…それもハートな感じが私でもわかるくらい見られていた。
「琉夏くん入学早々モテモテだね。」
「んー?そう?ところで美奈子はお弁当なんだ?」
私の質問に全く興味がなさそうな琉夏くんは学食で買ったと思われるパンを片手に視線は私の持つお弁当。
「ふふ、おかず食べる?」
「食いたい。」
蓋を開けてまだ口をつけてないお箸を琉夏くんに渡し「好きなの食べていいよ。」と言うと卵焼きを一つ取ると「はい、あーん」と私の口へ運んだ。唐突なことに素直にその卵焼きを食べたが、冷静に考えるとちょっと恥ずかしい。
「はい、今度はオマエの番」と渡されるお箸と口を開けて待つ琉夏くんは雛鳥のように感じる。可愛さに負けた私はお望み通りに琉夏くんの口へ卵焼きを運んだ。
「最高。」
「褒め過ぎだよ。」
もっと食べたいという琉夏くんに、体育祭に大きいお弁当を作ってあげる約束をした。
お昼休みも終わり、教室へ戻る途中に委員長に会った。委員長になぜか「人前で無闇に食べ合いをするのは誤解を生むかもしれないよ。」と注意されてしまった。
なるほど、もしかすると屋上で委員長たちもお昼ご飯を食べていたのか。と納得しつつ、琉夏くんとの食べさせ合いを見られたことに少しだけ恥ずかしくなりながら席へとついた。
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終礼の鐘がなり、帰り支度をしている途中に設楽くんはさっさと教室を出ていってしまった。約束を忘れているのか…?と思ってたが、薄っすらとピアノのメロディーが聞こえたので鞄を肩にかけ音楽室へと向かった。
いつもより激しい音楽に入室するか迷ってしまう。それも設楽くんとは目が合わないし。ウダウダ考えていると扉が開き「なんだ。」と設楽くんのご登場だ。
「なんだじゃないでしょ!もう!」と開いた扉の隙間から勝手に音楽室にお邪魔した。
「今の曲激しすぎて入りずらかったんだけど、なんの曲なの?」
「月光第三楽章。」
「へぇ、それも月光なんだ!荒ぶる設楽くんって感じだった。」
いつもより気まずい沈黙が襲う。いつぶりの気まずさなんだろう。沈黙を破るために“昨日の幼馴染との再会話”をするも、やはりなんとも言えない雰囲気だ。
「えっと、その幼馴染は琉夏くんって言うんだけど金髪になってて最初はカツアゲされるのかなってドキドキしたんだよね。」とジョークを混ぜるとジョークが面白かったのか設楽くんの眉間のシワがピクリと動いた。
「あぁ、なるほどな。」
「面白いでしょ?」
「……憶えてなかったら良かったのに。」
ボソリとつぶやいた設楽くんの言葉はガラリと開いた音楽室の扉の音でかき消された。吹奏楽部が外回りから帰ってくるので氷室先生に追い出され帰路についた。
「設楽くん、喫茶店には寄らないの?」
「今日はいい。またな。」と設楽くんはさっさと帰ってしまった。夜、電話をいれたが設楽くんは出てくれなくて諦めて寝ることにした。
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