隣の席の設楽くん
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…
設楽くんからシャーペンを貰ってから、仲良くなったと感じる今日この頃。
休み時間に音楽室へ行くのも当たり前になり、下校時に設楽くんが教室や廊下、昇降口で待ってくれる事も多くなった。
そして、あっという間に夏休みになり、ゴロゴロしすぎて宿題を終えてない私は、夏休み1週間前。携帯を手に取り“委員長”へ連絡をすると、「仕方がない、教えてあげるよ。」と優しい委員長。
「やった!超ラッキー!」と心の声が漏れてしまい、「答えをまるごととは言ってないよね?」と委員長は厳しい。
そして1週間みっちり図書館や たまちゃん の家で教わり事なきを得た。まじで感謝感謝。
宿題を終え たまちゃん の家で麦茶をいただきながら「夏休みは何してた?」とやっと最終日に日常会話をしたときに思った。
「たまちゃんと勉強しかしてない…。」と私の衝撃発言に委員長も驚いている。私自身も驚いているぞ。
「たまちゃんって…やめてよ。」と嫌がるが、この1週間 たまちゃん と可愛く呼ばないとやってられないくらいキツかったのだからやめることはできない。許してくれ。
駄々をこねると渋々許してくれた たまちゃんは、「本当に夏休み何もしてないの?花火大会は?」としつこく聞いてくる。
花火大会ってなんだよ。リア充かよ。
「あ、ハロゲンでアイス買いに行ったくらいかな。」と答えると、「設楽の連絡先は知ってるの?」とすっかり頭から消え去っていた“設楽くん”の単語だ。
「あ、そういや知らないや。」と麦茶を飲みバリボリと私が手土産で持ってきた美味しい煎餅を齧る私をよそに「今更教えるのもだし、学校始まったら聞いてね?」と謎のアドバイス。
「ところで たまちゃん は設楽くんと会ったりしてたの?」といつの間にか仲良くなっている2人の話を肴に図々しく麦茶をお代りした。
話を聞くと街で偶然会い軽く話したそうだ。
「へぇ〜、仲良しじゃん。」
「仲良しってほどじゃないよ。そんなに会話も続かないし。」
「わかるぅ〜設楽くんの地雷が何なのかわからないから会話続けるの難しいよね。」
「いや、君はすごく続いてるじゃないか。」と笑った たまちゃんは何かを思い出した表情をした。
「え?なになに?」
ワクワクしながらバリボリと煎餅をもう1齧り。
「それが…、先週クラスの女子に何人かで遊園地に行こうって誘われて、その時に設楽を誘うように女子に言われてね。」
設楽くんがクラスの女子数人と委員長と遊園地で遊ぶ姿を想像してみると、不自然すぎて笑ってしまった。もはや芸術レベルだ。
「ふふ、絶対そういうの行かなそう。」
「それが来たんだ。」
「えー!以外!」と驚きの声を上げる私を見た たまちゃん は困った表情へと変わった。
「集合場所に来た瞬間に何も言わずに帰っちゃったんだ。」
「なんじゃそれ、集団行動できないと社会じゃ大変よねぇ〜。その後の空気も最悪じゃん。」なんて突っ込みつつもう1枚煎餅を食べ麦茶を飲んだ。
…
夏休みが開けて久々の登校は緊張しすぎて眠れなかった。おかけで今日もまた遅刻ギリギリだ。
少し駆けて校門に到着し、下駄箱に向かうと設楽くんが立っている。
「あ、設楽くんおはよう。」
「あぁ。おはよう。」
靴を内履きへ履き終え設楽くんと教室へと向かった。
「お前が走ってたの見えた。変な顔してたな。」
「さっきの横を通った車って設楽くんが乗ってたのか。高みの見物しやがって!このこの〜」
肘で小突きつつ、「設楽くん夏休み何してたの?肌白いけど引きこもり?」と茶化してみたが「お前もじゃないか。」と返されてしまった。確かにそうなんだが。
教室へ入ると以前は設楽くんキャーッの声があり一緒に入るのが気まずかったりもしていたが今はキャーっの声もなくなり普通のクラスへと変わっている。
「お前は夏休み何してたんだ?」
「んー、引きこもり。あと宿…」のタイミングで扉がガラリと開き先生のご登場だ。
ホームルームが終了し、短い休憩時間。たまちゃん がこちらの席へとやってきた。そして差し出されたのは消しゴムでどうやら私の消しゴムを間違って持って行ってしまったようだ。
「たまちゃん、ありがとう。」と言うと「もう、その呼び方学校はやめてよ。あ…、じゃあ、またね。」と席へと戻ってしまった。そして感じる設楽くんの視線。
「あのね、夏休みゴロゴロしてたけど、最後の週に宿題を手伝ってもらってたんだ。」
「……へぇ、良かったな。」
「設楽くんは何してたの?」
「別に、家の用事片付けたくらいだ。」
「そっか。」
気まずい沈黙の中、1時間目の授業が始まる鐘がなった。そして2時間目が終わり休憩時間がはじまるや設楽くんはさっさと音楽室へと行ってしまった。
そしてそんな私達を見ていただろう たまちゃん と目が合うと指を指し追いかけろと指示を出してきたので、気まずいが私も音楽室へと向かうことに。
内心思う、なんでキレてんだアイツって。
廊下を走ったので、あっという間に設楽くんに追いつき勝手に隣に並び歩いた。
「なんだよ。」
「夏休み明けの1曲、私もついてくよ。」
無言のままの設楽くんだが、「来るな。」とは言われていないので、いい事なのだろう。気にせずに久しぶりの音楽室だ。
「そうだ、夏休みに設楽くんと街で会った話をたまちゃんから聞いたよ。」
「用事を頼まれて外に出てただけだ。」
先程からプリプリしている設楽くんに遊園地の話聞くのはやめにし、思い返すのは たまちゃんの“設楽の連絡先は知ってるの?”と聞かれた事だ。そう、まさしく丁度良いタイミングなのかもしれない。
「そうそう、設楽くんの連絡先を聞くのすっかり忘れちゃってたんだよね。今更だけど交換する?」
「する?ってなんだ。じゃ、しない。」
これは本格的にへそを曲げてるようだ。何だこいつ。プリンプリン設楽め!
プリプリを無視して携帯電話を差し出し、「そんなイケズ言わないで、ほら。携帯出して。」とグイグイと携帯を押し付けると、設楽くんは渋々と携帯を出すが、出すだけだ。
「いや、あの携帯出すだけじゃなくて赤外線のページ出してよ。」
「なんだよ、これか?」とたどたどしくボタンを押す設楽くん。
「いやいや、それ違う、iモード押してるよ。」
「こっちか?」
「いや、それSMSの画面だから!ちょっともう貸して!」と携帯を奪い赤外線ページを開き自身の携帯と無事に連絡先交換は終わった。
「設楽くんって携帯苦手?」
「あまり得意ではない。」
「ふふ、ピアノ弾く姿はカッコイイけれど機械音痴ってところ可愛い。」とポロリこぼれた発言に設楽くんは顔を赤くして「うるさい、もう教室戻る。」と行ってしまったので、私も慌てて設楽くんを追いかけた。
「ね、設楽くん。冷静になって思ったんだけど。」
「なんだよ。」
「赤外線なんて使わないで電話番号打ち込めばよかった。なんかごめん。」
「余計なこと言うな。……、俺も早々にお前の連絡先を聞いとけばよかった。悪かったな。」
「気にすんなって。プリンプリン。」
席へつくと授業開始の鐘がなり、担任の先生が何か箱を持ってやってきた。そして夏休み明けの早々にくじで席替えを行うそうだ。
そしてワイワイ賑やかにくじを引くみんなを眺めながらまだ引きに行かない設楽くん。
「今日で設楽くんは見納めって感じかぁ。やっと離れられて嬉しいよ。」と以前とは違い投げられる冗談。
「ふん、こっちのセリフだ。うるさいのがいなくなって清々する。」
「なんだってー!」と周りも興奮してわいわいしてる中で、私達も貶しなわいわいを繰り広げていた。
「お前、まだ引かないのか?」
「残り物には福があるって言うでしょ?」
「じゃあ俺が最後に引いてやろう。」
「もう!設楽くんったら!」
「残り二人あと誰だ。」と先生の声が聞こえたので設楽くんと取りに行った。
「なんかドキドキするね。」
「まぁ。否定はできないな。」
くじを引こうとしない設楽くんに、仕方がないので最後を譲って席へと戻り、設楽くんが座るのを待っていた。
「まだ開いてない?」
「あぁ、じゃあ一緒に開こう。」の提案で「せーの」と開くと設楽くんは真ん中の最前列と言う福を当てたようだ。
「ふふ、これは素晴らしい福だね。」
笑いが止まらない私と違い設楽くんは眉間にシワを寄せて「お前が余計なことを言ったせいだ。で、お前の席は…」と黒板に書いてある席と番号を照らし合わせると、隣の設楽くんの席ではないか。
今までは窓際後ろだったが、1個ずれただけやないかーい!いや、嬉しいけど…。でも変化がなくて楽しくはない。いや嬉しいけど。
「設楽くんが私の数字を引いてたらこのままだったんだね。」
「俺としてはそっちの方がいい。」
「やだ、交換しないから。」
先生の声で移動が始まり、私はすぐ隣だから楽々だったが設楽くんは机を重そうに引きずりながら運んでいった。
その背中を見ながら心の中で「さようなら設楽くん、もうバナナマンなんて言わないよ。…」と呟いてると、隣にはよく たまちゃん と一緒にお昼ご飯を食べてる男子と私の元いた席には たまちゃん がやってきた。
はい、青春。これぞ青春△だ。私の1学期前半を思い返せば今から青春が始まるのだ。
「えっ君がここなの?」と驚くたまちゃん に「そそ、一個ずれただけって言うね。」とドヤ顔をお見舞いした。
ふと、前の席へ行った設楽くんへ視線を移したが賑やかな周辺と違い、なにか紙を折っている?何やってんだろう?
たまちゃんと楽しい仲間と共にあっという間にお昼休みになると、設楽くんはさっさと教室を出ていってしまった。
そんな私はいつもの たまちゃん メンバーと教室でご飯を食べようと思っていたが、たまちゃん に本日2度目「設楽のとこ行ってきなよ。」と言われたので渋々お弁当箱を持って音楽室へと向かう。
以前、“一緒に食べよう。”と言いつつも、休み時間もよく話すし、隣の席だしで結局学食で食べて以降一緒に食べることはしていなかったのでちょっと緊張だ。それも今日はお手製弁当なので恥ずかしくもある。
静かな音楽室を覗けば窓の外を眺めながらお弁当を口に運ぶ設楽くんが見えた。扉を開けると眉間にシワを寄せながらこっちを見てきたが何も言わずに設楽くんの隣へと座る。
「なんだ。いつもみたいにあいつらと食えばいいだろ。」と不機嫌そうな設楽くん。
まぁ「出て行け。」とは言われてないから大丈夫だろう。
「設楽くんが前の席に行っちゃって寂しくて。」
「顔、ニヤニヤしてるじゃないか。」
「へへへ、残り物には福があるっていうね。」
お弁当箱を開き食べようとすると設楽くんは目を丸くしながら見つめているので恥ずかしい。
「もう、お弁当そんなに見ないでよ。恥ずかしいよ。」
設楽くんのシェフ(お母さん)のお弁当と比べると犬の餌のようなお弁当なのだ。流石の私も恥ずかしいと思ってしまうのだ。
「お前、弁当持ってくるんだな。ってなんだこのピックは。」
私のおかずに刺された恐竜がついたピックを指差す設楽くんにそのピックがついた唐揚げを差し出した。
「可愛いでしょ?お気に入りなんだよ。良かったらどうぞ。」
「あ、あぁ。貰う。」
「シェフと比べると月とスッポンだけどね。」と言ったが恐竜ピックのおかずを口へ運ぶ設楽くんはシュールで面白かった。
「うん。旨いなこれ。」
昨日の晩御飯に渋々作った唐揚げだが、美味しいと言われるとやはり嬉しいものだ。
「え?ほんと?嬉しい。」と言うと設楽くんは「お前が作ったのか?」と驚きの声を上げた。
「うん。昼食は自分でなんとかしなさいが我が家のルールだからね。」
「へぇ、以外だな。」と言いつつ設楽くんの視線の先は卵焼きだ。「いいよ、仕方がないな。」と卵焼きを設楽くんのお弁当へ乗っけると、その代わり設楽くんは一番美味しそうなおかずを私のお弁当へのっけてくれた。
「うん、この卵焼きも美味しいな。」
「ふふ、たまちゃん達も美味しいって言ってくれた味付けなんだよね。やっぱ男の子は甘じょっぱ…」“いのが好きなんだね。”を言い終える前に被される「ふん、よかったな。」と言う声と、眉間にシワを寄せながら勝手に私のおかずを全部取っていく設楽くん。
「ちょっ取り過ぎだって!」
「じゃあこれやるから許せよ。」と、2番目に美味しそうなおかずを私の弁当へとおいたので許すことにした。
「設楽くんありがとう。おかげで美味しいお弁当になったよ。」
「俺の弁当はまあまあな弁当になったけどな。」
「もう!」
「いや、嘘だ。美味しかった、ありがとうな。」
設楽くんとこんな風に食べるのは悪くないなって思ったのは本当だ。
そして、設楽くんの弁当箱に入ってるピックの事は忘れて、久しぶりに雑談をしていると設楽くんにメールがあり、なぜか教室へと戻っていったので、久しぶりに校舎を一周してから教室へと戻ることにした。
…
教室へ戻ると元私の席に何故か設楽くんが座っていた。
「あれ?なんでここに座ってるの?隣の席のたまちゃんは?」
「紺野のやつにこっちの席だと見辛いから交換しろって言われて仕方がないから交換してやったんだ。」
「なーるほど…つまりは…また設楽くんが隣ってことじゃん!」
「お前が隣じゃないと暇なんだ。別にいいだろ。」
仕方がないので許すことにして、設楽くんと話しつつ、隣の席の男子とも話していると、授業開始の鐘がなり、前を向こうとしたら端に移る何かの紙細工。チラリと隣をみると設楽くんが折っていたものだった。
「なにそれ凄い。」
「ふん、そうでもないだろ。」
もっと話を聞きたかったが授業が開始し、隣の席の男子が申し訳なさそうに「教科書見せて。」と言っていたので、席をつけて一緒に見ている。
そう言えばこんなイベント今まで起きてなかったな。まさしく青春ってやつだ。青春青春。私ら2人は青春アミーゴ。
あ、イベントといえばシャーペン事件か。思い出すと笑えてしまう。私もアホだったんだけどさ。
そしてあっという間に授業もホームルームも終わり終礼だ。
帰り支度をしている私に「これやるよ。」と手渡された連鶴と言われるらしい折り紙と言うよりも紙細工。
「設楽くんありがとう!器用だね。」
「貰ったからには俺の願い聞いてくれるよな?」とニヤリ笑う設楽くん。
「え、内容によるけど…」とたじろぐ私に席の交換を要求された。いや、別にいいけど別にいいんだけどさ。
「前の席の方が黒板が見えやすいんだ。お前だって元の席のほうが居眠りしててもバレないぞ?」と言われたらそりゃ交換するよね。そして席替えをしたのに元の位置に戻った私達であった。
青春みたいな席から一変。またもや代わり映えもないバナナマン設楽席へとなってしまった。まんまと設楽くんの言葉に騙された気がする。
「やっぱ戻りたい。」と言っても「折り紙を受け取ったからもう駄目だ。」と言われてしまったので渋々諦めて、一旦お手洗いに行くことにした。
お手洗いから戻る途中にクラスの女子から「席変わりたいって前に言ってたよね?交換しない?」と持ちかけられ、頭はハテナでいっぱいだ。
思いかえすと、入学式の自己紹介。
“みんな、3年間よろしく!席の交換絶賛受付中!!!応募してくれよな!”
あぁ、合ったわそんな時もあったわ。でも今はあの頃と気持ちは違う。
「ごめんね、今は設楽くんに騙しとられた席に戻りたいだけだから交換はやめとくね。」と答え教室へ戻ると、珍しく設楽くんはまだ教室にいた。
「設楽くん、まだいたんだ?」と聞く私に「遅い、帰るぞ。」と帰りのお誘い?をいただき夏休み前ぶりの久しぶりに下校することになった。
設楽くんの夏休みの出来事の話を聞いたりしてるとあっという間にもう家付近だ。
「そういえば設楽くんはあっちじゃないの?」という私に「別にいいだろ、送ってく。」とありがたいようなお申し出だ。
「ところでお前、紺野のことなんであんな風に呼んでるんだ。」
「たまちゃん?」
「あぁ……。」
「海より深いわけがあってねぇ…。宿題は たまちゃん のおかげでなんとかなって心から感謝はしているけれど、あのスパルタ委員長の事は嫌いになりそう。」
スパルタ宿題の会を思い出すと背筋が凍りそうだ。
委員長の事をデフォルメ化に変換して たまちゃん と呼んでいられないとやってられないほど辛かったのだ。これからは宿題はちゃんとするって心に誓うレベル。
「はっなんだそれ。」
そろそろ見えてきた家の屋根に視線を向けながらすっかり頭から消えている設楽くんの名前を聞いてみることにした。
「聖司。」
「へぇ聖司くんって言うんだね、すっかり忘れてた。ってあ、ここ私の家。」
やっとついたマイホーム。
「よかったらお茶でも飲んでいく?」と聞いたが設楽くんは顔を背けて「今日はやめとく。じゃあな。」と元いた道を歩き始めている。
その背中に「聖司く…セイちゃん!ありがとね、バイバイ!」と大声で言うと顔を真っ赤にしながら「セイちゃんって呼ぶな!」と走って行ってしまった。
そんな反応を見たら揶揄う時はセイちゃんと呼ぼうと決めて背中を見送った。
色々とご飯なりお風呂なり入って就寝前に携帯のバイブ音が響き、驚きつつディスプレイをみると“設楽くん”の名前だ。
驚きながら携帯を開きメールを見ると
“ピック 返してない。悪い。”と短すぎるメール。
ピックと言えばお弁当のことかと思い出し、まだ何本も残ってるので“まだ沢山あるから設楽くんにあげるよ。”と打ち込みつつ、“PS.セイちゃんのメール可愛い”と文を締め送り、設楽くんのメールをみた反応が頭に思い浮かびニヤニヤしながら瞳を閉じた。
…
設楽くんからシャーペンを貰ってから、仲良くなったと感じる今日この頃。
休み時間に音楽室へ行くのも当たり前になり、下校時に設楽くんが教室や廊下、昇降口で待ってくれる事も多くなった。
そして、あっという間に夏休みになり、ゴロゴロしすぎて宿題を終えてない私は、夏休み1週間前。携帯を手に取り“委員長”へ連絡をすると、「仕方がない、教えてあげるよ。」と優しい委員長。
「やった!超ラッキー!」と心の声が漏れてしまい、「答えをまるごととは言ってないよね?」と委員長は厳しい。
そして1週間みっちり図書館や たまちゃん の家で教わり事なきを得た。まじで感謝感謝。
宿題を終え たまちゃん の家で麦茶をいただきながら「夏休みは何してた?」とやっと最終日に日常会話をしたときに思った。
「たまちゃんと勉強しかしてない…。」と私の衝撃発言に委員長も驚いている。私自身も驚いているぞ。
「たまちゃんって…やめてよ。」と嫌がるが、この1週間 たまちゃん と可愛く呼ばないとやってられないくらいキツかったのだからやめることはできない。許してくれ。
駄々をこねると渋々許してくれた たまちゃんは、「本当に夏休み何もしてないの?花火大会は?」としつこく聞いてくる。
花火大会ってなんだよ。リア充かよ。
「あ、ハロゲンでアイス買いに行ったくらいかな。」と答えると、「設楽の連絡先は知ってるの?」とすっかり頭から消え去っていた“設楽くん”の単語だ。
「あ、そういや知らないや。」と麦茶を飲みバリボリと私が手土産で持ってきた美味しい煎餅を齧る私をよそに「今更教えるのもだし、学校始まったら聞いてね?」と謎のアドバイス。
「ところで たまちゃん は設楽くんと会ったりしてたの?」といつの間にか仲良くなっている2人の話を肴に図々しく麦茶をお代りした。
話を聞くと街で偶然会い軽く話したそうだ。
「へぇ〜、仲良しじゃん。」
「仲良しってほどじゃないよ。そんなに会話も続かないし。」
「わかるぅ〜設楽くんの地雷が何なのかわからないから会話続けるの難しいよね。」
「いや、君はすごく続いてるじゃないか。」と笑った たまちゃんは何かを思い出した表情をした。
「え?なになに?」
ワクワクしながらバリボリと煎餅をもう1齧り。
「それが…、先週クラスの女子に何人かで遊園地に行こうって誘われて、その時に設楽を誘うように女子に言われてね。」
設楽くんがクラスの女子数人と委員長と遊園地で遊ぶ姿を想像してみると、不自然すぎて笑ってしまった。もはや芸術レベルだ。
「ふふ、絶対そういうの行かなそう。」
「それが来たんだ。」
「えー!以外!」と驚きの声を上げる私を見た たまちゃん は困った表情へと変わった。
「集合場所に来た瞬間に何も言わずに帰っちゃったんだ。」
「なんじゃそれ、集団行動できないと社会じゃ大変よねぇ〜。その後の空気も最悪じゃん。」なんて突っ込みつつもう1枚煎餅を食べ麦茶を飲んだ。
…
夏休みが開けて久々の登校は緊張しすぎて眠れなかった。おかけで今日もまた遅刻ギリギリだ。
少し駆けて校門に到着し、下駄箱に向かうと設楽くんが立っている。
「あ、設楽くんおはよう。」
「あぁ。おはよう。」
靴を内履きへ履き終え設楽くんと教室へと向かった。
「お前が走ってたの見えた。変な顔してたな。」
「さっきの横を通った車って設楽くんが乗ってたのか。高みの見物しやがって!このこの〜」
肘で小突きつつ、「設楽くん夏休み何してたの?肌白いけど引きこもり?」と茶化してみたが「お前もじゃないか。」と返されてしまった。確かにそうなんだが。
教室へ入ると以前は設楽くんキャーッの声があり一緒に入るのが気まずかったりもしていたが今はキャーっの声もなくなり普通のクラスへと変わっている。
「お前は夏休み何してたんだ?」
「んー、引きこもり。あと宿…」のタイミングで扉がガラリと開き先生のご登場だ。
ホームルームが終了し、短い休憩時間。たまちゃん がこちらの席へとやってきた。そして差し出されたのは消しゴムでどうやら私の消しゴムを間違って持って行ってしまったようだ。
「たまちゃん、ありがとう。」と言うと「もう、その呼び方学校はやめてよ。あ…、じゃあ、またね。」と席へと戻ってしまった。そして感じる設楽くんの視線。
「あのね、夏休みゴロゴロしてたけど、最後の週に宿題を手伝ってもらってたんだ。」
「……へぇ、良かったな。」
「設楽くんは何してたの?」
「別に、家の用事片付けたくらいだ。」
「そっか。」
気まずい沈黙の中、1時間目の授業が始まる鐘がなった。そして2時間目が終わり休憩時間がはじまるや設楽くんはさっさと音楽室へと行ってしまった。
そしてそんな私達を見ていただろう たまちゃん と目が合うと指を指し追いかけろと指示を出してきたので、気まずいが私も音楽室へと向かうことに。
内心思う、なんでキレてんだアイツって。
廊下を走ったので、あっという間に設楽くんに追いつき勝手に隣に並び歩いた。
「なんだよ。」
「夏休み明けの1曲、私もついてくよ。」
無言のままの設楽くんだが、「来るな。」とは言われていないので、いい事なのだろう。気にせずに久しぶりの音楽室だ。
「そうだ、夏休みに設楽くんと街で会った話をたまちゃんから聞いたよ。」
「用事を頼まれて外に出てただけだ。」
先程からプリプリしている設楽くんに遊園地の話聞くのはやめにし、思い返すのは たまちゃんの“設楽の連絡先は知ってるの?”と聞かれた事だ。そう、まさしく丁度良いタイミングなのかもしれない。
「そうそう、設楽くんの連絡先を聞くのすっかり忘れちゃってたんだよね。今更だけど交換する?」
「する?ってなんだ。じゃ、しない。」
これは本格的にへそを曲げてるようだ。何だこいつ。プリンプリン設楽め!
プリプリを無視して携帯電話を差し出し、「そんなイケズ言わないで、ほら。携帯出して。」とグイグイと携帯を押し付けると、設楽くんは渋々と携帯を出すが、出すだけだ。
「いや、あの携帯出すだけじゃなくて赤外線のページ出してよ。」
「なんだよ、これか?」とたどたどしくボタンを押す設楽くん。
「いやいや、それ違う、iモード押してるよ。」
「こっちか?」
「いや、それSMSの画面だから!ちょっともう貸して!」と携帯を奪い赤外線ページを開き自身の携帯と無事に連絡先交換は終わった。
「設楽くんって携帯苦手?」
「あまり得意ではない。」
「ふふ、ピアノ弾く姿はカッコイイけれど機械音痴ってところ可愛い。」とポロリこぼれた発言に設楽くんは顔を赤くして「うるさい、もう教室戻る。」と行ってしまったので、私も慌てて設楽くんを追いかけた。
「ね、設楽くん。冷静になって思ったんだけど。」
「なんだよ。」
「赤外線なんて使わないで電話番号打ち込めばよかった。なんかごめん。」
「余計なこと言うな。……、俺も早々にお前の連絡先を聞いとけばよかった。悪かったな。」
「気にすんなって。プリンプリン。」
席へつくと授業開始の鐘がなり、担任の先生が何か箱を持ってやってきた。そして夏休み明けの早々にくじで席替えを行うそうだ。
そしてワイワイ賑やかにくじを引くみんなを眺めながらまだ引きに行かない設楽くん。
「今日で設楽くんは見納めって感じかぁ。やっと離れられて嬉しいよ。」と以前とは違い投げられる冗談。
「ふん、こっちのセリフだ。うるさいのがいなくなって清々する。」
「なんだってー!」と周りも興奮してわいわいしてる中で、私達も貶しなわいわいを繰り広げていた。
「お前、まだ引かないのか?」
「残り物には福があるって言うでしょ?」
「じゃあ俺が最後に引いてやろう。」
「もう!設楽くんったら!」
「残り二人あと誰だ。」と先生の声が聞こえたので設楽くんと取りに行った。
「なんかドキドキするね。」
「まぁ。否定はできないな。」
くじを引こうとしない設楽くんに、仕方がないので最後を譲って席へと戻り、設楽くんが座るのを待っていた。
「まだ開いてない?」
「あぁ、じゃあ一緒に開こう。」の提案で「せーの」と開くと設楽くんは真ん中の最前列と言う福を当てたようだ。
「ふふ、これは素晴らしい福だね。」
笑いが止まらない私と違い設楽くんは眉間にシワを寄せて「お前が余計なことを言ったせいだ。で、お前の席は…」と黒板に書いてある席と番号を照らし合わせると、隣の設楽くんの席ではないか。
今までは窓際後ろだったが、1個ずれただけやないかーい!いや、嬉しいけど…。でも変化がなくて楽しくはない。いや嬉しいけど。
「設楽くんが私の数字を引いてたらこのままだったんだね。」
「俺としてはそっちの方がいい。」
「やだ、交換しないから。」
先生の声で移動が始まり、私はすぐ隣だから楽々だったが設楽くんは机を重そうに引きずりながら運んでいった。
その背中を見ながら心の中で「さようなら設楽くん、もうバナナマンなんて言わないよ。…」と呟いてると、隣にはよく たまちゃん と一緒にお昼ご飯を食べてる男子と私の元いた席には たまちゃん がやってきた。
はい、青春。これぞ青春△だ。私の1学期前半を思い返せば今から青春が始まるのだ。
「えっ君がここなの?」と驚くたまちゃん に「そそ、一個ずれただけって言うね。」とドヤ顔をお見舞いした。
ふと、前の席へ行った設楽くんへ視線を移したが賑やかな周辺と違い、なにか紙を折っている?何やってんだろう?
たまちゃんと楽しい仲間と共にあっという間にお昼休みになると、設楽くんはさっさと教室を出ていってしまった。
そんな私はいつもの たまちゃん メンバーと教室でご飯を食べようと思っていたが、たまちゃん に本日2度目「設楽のとこ行ってきなよ。」と言われたので渋々お弁当箱を持って音楽室へと向かう。
以前、“一緒に食べよう。”と言いつつも、休み時間もよく話すし、隣の席だしで結局学食で食べて以降一緒に食べることはしていなかったのでちょっと緊張だ。それも今日はお手製弁当なので恥ずかしくもある。
静かな音楽室を覗けば窓の外を眺めながらお弁当を口に運ぶ設楽くんが見えた。扉を開けると眉間にシワを寄せながらこっちを見てきたが何も言わずに設楽くんの隣へと座る。
「なんだ。いつもみたいにあいつらと食えばいいだろ。」と不機嫌そうな設楽くん。
まぁ「出て行け。」とは言われてないから大丈夫だろう。
「設楽くんが前の席に行っちゃって寂しくて。」
「顔、ニヤニヤしてるじゃないか。」
「へへへ、残り物には福があるっていうね。」
お弁当箱を開き食べようとすると設楽くんは目を丸くしながら見つめているので恥ずかしい。
「もう、お弁当そんなに見ないでよ。恥ずかしいよ。」
設楽くんのシェフ(お母さん)のお弁当と比べると犬の餌のようなお弁当なのだ。流石の私も恥ずかしいと思ってしまうのだ。
「お前、弁当持ってくるんだな。ってなんだこのピックは。」
私のおかずに刺された恐竜がついたピックを指差す設楽くんにそのピックがついた唐揚げを差し出した。
「可愛いでしょ?お気に入りなんだよ。良かったらどうぞ。」
「あ、あぁ。貰う。」
「シェフと比べると月とスッポンだけどね。」と言ったが恐竜ピックのおかずを口へ運ぶ設楽くんはシュールで面白かった。
「うん。旨いなこれ。」
昨日の晩御飯に渋々作った唐揚げだが、美味しいと言われるとやはり嬉しいものだ。
「え?ほんと?嬉しい。」と言うと設楽くんは「お前が作ったのか?」と驚きの声を上げた。
「うん。昼食は自分でなんとかしなさいが我が家のルールだからね。」
「へぇ、以外だな。」と言いつつ設楽くんの視線の先は卵焼きだ。「いいよ、仕方がないな。」と卵焼きを設楽くんのお弁当へ乗っけると、その代わり設楽くんは一番美味しそうなおかずを私のお弁当へのっけてくれた。
「うん、この卵焼きも美味しいな。」
「ふふ、たまちゃん達も美味しいって言ってくれた味付けなんだよね。やっぱ男の子は甘じょっぱ…」“いのが好きなんだね。”を言い終える前に被される「ふん、よかったな。」と言う声と、眉間にシワを寄せながら勝手に私のおかずを全部取っていく設楽くん。
「ちょっ取り過ぎだって!」
「じゃあこれやるから許せよ。」と、2番目に美味しそうなおかずを私の弁当へとおいたので許すことにした。
「設楽くんありがとう。おかげで美味しいお弁当になったよ。」
「俺の弁当はまあまあな弁当になったけどな。」
「もう!」
「いや、嘘だ。美味しかった、ありがとうな。」
設楽くんとこんな風に食べるのは悪くないなって思ったのは本当だ。
そして、設楽くんの弁当箱に入ってるピックの事は忘れて、久しぶりに雑談をしていると設楽くんにメールがあり、なぜか教室へと戻っていったので、久しぶりに校舎を一周してから教室へと戻ることにした。
…
教室へ戻ると元私の席に何故か設楽くんが座っていた。
「あれ?なんでここに座ってるの?隣の席のたまちゃんは?」
「紺野のやつにこっちの席だと見辛いから交換しろって言われて仕方がないから交換してやったんだ。」
「なーるほど…つまりは…また設楽くんが隣ってことじゃん!」
「お前が隣じゃないと暇なんだ。別にいいだろ。」
仕方がないので許すことにして、設楽くんと話しつつ、隣の席の男子とも話していると、授業開始の鐘がなり、前を向こうとしたら端に移る何かの紙細工。チラリと隣をみると設楽くんが折っていたものだった。
「なにそれ凄い。」
「ふん、そうでもないだろ。」
もっと話を聞きたかったが授業が開始し、隣の席の男子が申し訳なさそうに「教科書見せて。」と言っていたので、席をつけて一緒に見ている。
そう言えばこんなイベント今まで起きてなかったな。まさしく青春ってやつだ。青春青春。私ら2人は青春アミーゴ。
あ、イベントといえばシャーペン事件か。思い出すと笑えてしまう。私もアホだったんだけどさ。
そしてあっという間に授業もホームルームも終わり終礼だ。
帰り支度をしている私に「これやるよ。」と手渡された連鶴と言われるらしい折り紙と言うよりも紙細工。
「設楽くんありがとう!器用だね。」
「貰ったからには俺の願い聞いてくれるよな?」とニヤリ笑う設楽くん。
「え、内容によるけど…」とたじろぐ私に席の交換を要求された。いや、別にいいけど別にいいんだけどさ。
「前の席の方が黒板が見えやすいんだ。お前だって元の席のほうが居眠りしててもバレないぞ?」と言われたらそりゃ交換するよね。そして席替えをしたのに元の位置に戻った私達であった。
青春みたいな席から一変。またもや代わり映えもないバナナマン設楽席へとなってしまった。まんまと設楽くんの言葉に騙された気がする。
「やっぱ戻りたい。」と言っても「折り紙を受け取ったからもう駄目だ。」と言われてしまったので渋々諦めて、一旦お手洗いに行くことにした。
お手洗いから戻る途中にクラスの女子から「席変わりたいって前に言ってたよね?交換しない?」と持ちかけられ、頭はハテナでいっぱいだ。
思いかえすと、入学式の自己紹介。
“みんな、3年間よろしく!席の交換絶賛受付中!!!応募してくれよな!”
あぁ、合ったわそんな時もあったわ。でも今はあの頃と気持ちは違う。
「ごめんね、今は設楽くんに騙しとられた席に戻りたいだけだから交換はやめとくね。」と答え教室へ戻ると、珍しく設楽くんはまだ教室にいた。
「設楽くん、まだいたんだ?」と聞く私に「遅い、帰るぞ。」と帰りのお誘い?をいただき夏休み前ぶりの久しぶりに下校することになった。
設楽くんの夏休みの出来事の話を聞いたりしてるとあっという間にもう家付近だ。
「そういえば設楽くんはあっちじゃないの?」という私に「別にいいだろ、送ってく。」とありがたいようなお申し出だ。
「ところでお前、紺野のことなんであんな風に呼んでるんだ。」
「たまちゃん?」
「あぁ……。」
「海より深いわけがあってねぇ…。宿題は たまちゃん のおかげでなんとかなって心から感謝はしているけれど、あのスパルタ委員長の事は嫌いになりそう。」
スパルタ宿題の会を思い出すと背筋が凍りそうだ。
委員長の事をデフォルメ化に変換して たまちゃん と呼んでいられないとやってられないほど辛かったのだ。これからは宿題はちゃんとするって心に誓うレベル。
「はっなんだそれ。」
そろそろ見えてきた家の屋根に視線を向けながらすっかり頭から消えている設楽くんの名前を聞いてみることにした。
「聖司。」
「へぇ聖司くんって言うんだね、すっかり忘れてた。ってあ、ここ私の家。」
やっとついたマイホーム。
「よかったらお茶でも飲んでいく?」と聞いたが設楽くんは顔を背けて「今日はやめとく。じゃあな。」と元いた道を歩き始めている。
その背中に「聖司く…セイちゃん!ありがとね、バイバイ!」と大声で言うと顔を真っ赤にしながら「セイちゃんって呼ぶな!」と走って行ってしまった。
そんな反応を見たら揶揄う時はセイちゃんと呼ぼうと決めて背中を見送った。
色々とご飯なりお風呂なり入って就寝前に携帯のバイブ音が響き、驚きつつディスプレイをみると“設楽くん”の名前だ。
驚きながら携帯を開きメールを見ると
“ピック 返してない。悪い。”と短すぎるメール。
ピックと言えばお弁当のことかと思い出し、まだ何本も残ってるので“まだ沢山あるから設楽くんにあげるよ。”と打ち込みつつ、“PS.セイちゃんのメール可愛い”と文を締め送り、設楽くんのメールをみた反応が頭に思い浮かびニヤニヤしながら瞳を閉じた。
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