隣の席の設楽くん
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…
あっという間に一学期が終了し、ドキドキワクワクの夏休みが始まった。
何がドキドキでワクワクなのかと言うと、両親が珍しく旅行に行ったので家に一人でいる状態だ。
何がどういう風の吹き回しなのか知らないが、いつも忙しそうにしてる父が数十年ぶりに遠出できる姿を見れば良かったなって思う。二人で新婚旅行を楽しんできてほしい。
それも最近、お小遣いもアップしたのだ。
アルバイトをしようか、一瞬だけ迷った時期があったが夏休み前に教室でアルバイト情報誌を眺めていると設楽くんに「お前がバイト?……、ふぅん。全部向いてなさそうだな。」って言われるし、内心私も働きたくないしで、返す言葉もなかった。
自分の望むようにお小遣いがアップされるなんてまさしく運のいいラッキーガール。順風満帆そのものだ。
ゴロゴロと一人暮らし(仮)を楽しみながら夏休みの予定を考えよう。
去年は、たまちゃんに宿題を教わるくらいでしか家を出なかったっけ。今考えると逆にすげーな。と思い出す。
まぁ、だからといってこの暑さだ。家から出るのはやはり億劫。
設楽くんとたまには遊びたいような気もするが、真剣にピアノに取り組んでいる姿を思い出して、開きかけた携帯電話を閉じた。
折角の一人暮らし(仮)それなら、あれをしよう。今年はたまちゃんを家に呼んで宿題大会をするのがいいかもしれない。
それで夏休み前半で宿題を終わらせて、8月はぐーたらしよう。天才の発想ではないか。
先程開きかけてた携帯電話を今度はちゃんと開くとその瞬間携帯に着信があり、驚いて携帯を落としてしまった。
慌てて拾うとディスプレイには“設楽くん”の名前だ。
携帯の通話ボタンをポチッと押して耳に当てるや「俺だ。」とお久しぶりの設楽くんの声。
「オレオレ詐欺ですか?」
「冗談はお前の頭だけにしろ。」
「へへっごめんごめん。」
設楽くんの“むっ”とした表情が目に浮かび笑ってしまう。
一通り笑ってると「次の日曜日は開けとけよ。」と突然のお誘いだ。
次の日曜日って、もう数日後ではないか。
設楽くんと遊びたいのは山々だけど、私の計画…そう、たまちゃんとの宿題大会を実現するべくこのお誘いは断ろう。
「あの、用事が…」と言い終える前に設楽くんの声が被された。
「どうせ用事なんかない癖に、嘘つくのやめろ。」
「失礼な!たまちゃんを宿題大会に誘うつもりだし!こう見えて忙しいの!」
「紺野…?なんでまた馬鹿なこと言ってんだよ。」
そこで私の夏休みの計画を告げるや、「……ふぅん、わかった。俺から紺野に伝えとく。」となぜか主導権を奪われて抗議する間もなく電話が切れた。
設楽くんに奪われた主導権を奪い返すべく、すぐに たまちゃん に連絡するも電話中で繋がらず…。もしもその電話の相手が設楽くんなら、行動の速さに驚きとドン引きだ。
そこから数十分後に 設楽くんから“明日からお前の言ってた宿題大会をする。迎えに行くから待ってろ。”とメールが届いた。
再度設楽くんに電話をすると、たまちゃんももちろん来てくれるようだが、会場は設楽邸でやるとの事だった。
「家から出るの面倒だし、私の家でいいよ。」
「絶対に駄目だ。紺野の家も駄目だ。つまりは俺の家しかないってわけだ。」
「ちぇー、つまんないの。みんなでゲームしたかったのに。」
「それは……また今度遊びに行ってやるよ。夏休みはまだあるからな。」
夏休みは“まだ”あるからな。と言う設楽くんに少しだけ嬉しい気持ちが湧いた。
それを隠すように「はいはい、じゃあ明日よろしく。」と電話を切り、鞄にゲーム機とコントローラを3つと宿題を詰めた。
…
翌日、携帯の着信音がうるさいので眠気眼で通話ボタンを押すと朝から設楽くんの声が脳内に響いた。
「…、設楽くん…」
「お前、寝てたな?早く準備しろよ。」
もそもそと寝返りをうちながらベットから起きる気がしない私の体。
設楽くんはお見通しとでも言うように「二度寝しようとしてるだろ、早くしろ。」と、車を降りる音と共に“ピンポーン”と家のチャイムが鳴り響いた。
「留守でーす。」と電話越しで呑気に答える私にピンポンの連打を繰り広げてくるではないか。
「もう、わかったわかった。」
起き上がり、一階へ降りて玄関を開けるや私服夏服ver.の設楽くん。
「もう、早いよ。」
「お前が遅いだけだ。って、ちゃんと洋服に着替えろ。」
「へいへい。」
設楽くんは後ろを向き、車の運転手さんに合図を送ると車は行ってしまった。
「お前の準備が遅そそうだからな、あとで迎えに来てもらう。」
「仕方がない、家に入ってもいいよ。」
「あ、あぁ。お邪魔しよう。」
自室に案内し、適当な座布団を引っ張りだして設楽くんをそこに座らせ、私はもう一度ベットに寝そべった。
ちらり、と時計を見るとまだ9時半ではないか。夏休みなのに早すぎだよ。
「設楽くんは寝る時はシルクのパジャマとか着てそうだよね。」
「お前のはなんだ、それは…。」
設楽くんはジトーっとした視線で私のことを睨んでいる。いいじゃないか。VIVITなブカブカ般若のDUBタンクトップ。
「着心地抜群よ。設楽くんも着る?」
ゴロリ寝転がりながら設楽くんのDUBスタイルを想像してしまう。
「ぷぷぷっ、絶対に似合わない。」
「そんなもの、似合わなくていい。ってお前はベットでゴロゴロするな。」
「だって、設楽くんのお迎えが早すぎるんだもん。」
「朝ご飯を食べないだろうと思って、食わせてやる為に早めに来たんだ、感謝しろよ。」
まさかの提案に嬉しいのは確かだが、もう少しゆっくりしたいのだ。「嬉しい!けどあと五分。」と寝転がる私。
「お前……、そんな格好で誰かを家に入れるんじゃないぞ。」
「いっけね、設楽くんを招いちゃった。」
「俺はいいんだ。わかったな。」
「へいへい。」
そんな私の適当な返事に、設楽くんは眉間にシワを寄せたと思えば立ち上がり私が寝転がるベットへとやってくるや、揺すってきた。
「うわっわわわ何すんじゃ!」と私も設楽くんにやり返そうと体を起こすと“ごちん!”と音が聞こえるほどおでことおでこがごっつんこだ。
「いてててて…」
「っっ……」
「ご、ごめん。」
何か冷やすものでも持ってこようと立ち上がりベットから慌てて降りた。
急いで洋服をクローゼットから引っ張り出して、一階へ降り冷やすものを用意して急いで脱衣室で洋服へ着替えた。
たまたま手に取った葉月珪抱きしめTを着て、部屋に戻ればドン引きしてる設楽くん。
「……、お前、本当の馬鹿なのか…」
「あ、これで冷やしていいよ。」
「いや、いらない。」
溜息をつくや勝手にクローゼットを開き始めるではないか。
「ちょちょちょ、勝手に見ないでよ!」
「むしろ感謝してほしいくらいだ。そんなものを当たり前に着ようとしてるお前の思考を治してやってるんだから。」
ナチュラル、ビビット、キュート、セクシー、そしてシックな洋服。
設楽くんは何も言わずに、数少ないシックな洋服と、前にくれたシックな髪飾りを手に取ると「いいからこれに着替えてこい。」とチェンジをくらい、渋々一階に戻り着替え直した。
…
着替え終わった頃、迎えの車が来たようで鞄を持って車にお邪魔しようとすると、「何だその荷物。多すぎだろ。」と私の鞄を見た設楽くんにツッコミをもらってしまった。
「みんなでやるゲームとコントローラーが…」
「いらない、戻してこい。」と無慈悲に言われてしまい、それも宿題大会の主導権は設楽くんだ。
渋々もう一度家に戻り宿題だけを持って車にお邪魔し、あっという間にお久しぶりの設楽くんの設楽邸に到着した。
設楽くんの部屋に通されるや、すぐさま紅茶とお茶菓子にサンドイッチに…アフタヌーンティー的なものが運ばれてくる。
この速さはきっと設楽くんが事前に頼んでおいたのだろう。
「アフタヌーンティーってやつですな。」
「まだ昼じゃないけど、まあそういう事でもいい。」
紅茶を飲みながら美味しい軽食をつまみつつ、お日様もポカポカだ。設楽くんはピアノを弾き始めるし、こんな素晴らしきリラックスタイムがこの世に存在するなんて。
椅子に座ったまま眠ってしまった私は今度は、ふかふかの感覚と共に目を覚ました。
「ありゃ、ここ…。は…?」
ふかふかなベットに横になっているが、ここはどこだろうか?
視線を感じそちらを向けば設楽くんと目が合って、つまりは私の寝顔を観察でもしていたのだろうか?
「えっと…、おはよう…?」
「お前…、教室でもよく寝てるよな。」
「もう、そんなに観察しないでよ。」と言いつつ、設楽くんのいない反対側に寝返りを打った。
「お前、まだ寝るのか。」
「なんか気持ちよくてまだ寝れる。」
「もう起きろ、そろそろ紺野が来るからな。」
「えっ!?今何時!?」
慌てる私と違い、設楽くんは「13時前だ。」と答えた。設楽邸にお邪魔したのは10時前で、多分10時30頃には眠っていた。流石に眠りすぎたことに申し訳ない。
今度は設楽くんの方へゴロゴロ寝返りをうちながら向かった。
「設楽くんがベットに運んでくれたの?」
「まあな、感謝しろよ?お前重くて大変だったんだからな。」
「もう!失礼な!」
ピアノがある設楽くんの部屋にある謎の扉は寝室だったのだ。新たな発見に嬉しかったりもする。
「こんな大きいベットなら毎日が楽しそうだね。」
「別に普通だろ普通。ほら早く降りろよ。」
「ふふ、設楽くんも隣くる?なーんちゃって…。」と冗談を投げたのだが、眉間にシワを寄せた設楽くんが隣に横になった。
「眉間にシワ寄せないの。」とグリグリ眉間に触れるともっと眉間のシワが深くなった。
これ以上触れると眉間のシワが貫通しそうなので眉間から髪の毛に手を伸ばした。
「設楽くんの髪の毛ってくるくるしてるよね。」
「仕方がないだろ、生まれつきなんだから。」
「うちの抱き枕のぬいぐるみみたいでなんかいい触りこごち…」
「お、お前…、もう触るな!馬鹿!っうわっっ」
慌てて起き上がろうとした設楽くんは、バランスを崩し、私の上には設楽くんがいる。
先程抓られた頬に今度は柔らかいものが触れる感覚があった。
慌てて起き上がり上からどいた設楽くん。私も起き上がって設楽くんの唇を自分の袖拭きながら謝罪を告げた。
「設楽くんの口が腐っちゃう。」
「いっいから離せ。お前が悪いんだからな。」
ジトーっと睨まれながら、ベットを降りていく設楽くんに続き、私も寝室をあとにし、無言の設楽くんの座るソファの隣へ腰掛けた。
「設楽くん…?怒ってる…?」
「……怒ってない、怒る気すら起きない。」
これは確実に怒ってるやつだ。朝から迎えに来てくれて、ご飯を用意してくれたのに昼寝はするしこんな意味わからんようなハプニングは起きるし設楽くんに取ったら最悪だ。
「ごめん、すぐにウェットティッシュを…」
「いや、そうじゃない…、お前は…なんで無意識なんだよ…。」
「無意識…?」
「俺がお前に同じことをしたらどうする?」
どこまでの下りだろうか?ベットでゴロゴロしていたところ?いや、いまの頬にキスのことか?
「私のベットは狭いし硬いから設楽くんは寝転ばないと思うよ。」
「……、そっちじゃない。」
「あ、さっきのは事故だから仕方がないと思う。」
ぼけーと聞いてる私に、一つため息を吐くとほっぺに手が伸びてきた。
いつものように頬を抓られると思い反射的に瞳を瞑ったが痛みはいつになってもこず、優しく触れられたままだ。
「設楽くん…?」
「本当にお前は……無防備だな…。俺がどんな気持ちで…。」
薄目を開けて伺うと、設楽くんの赤い瞳とバッチリ目が合い、そのまま設楽くんが近づいてきて“かぷり”と頬に産まれて初めて感じる痛みがやってきた。
「ぬえっ!?」
驚く私を他所に設楽くんは耳元で「ゼロセンチの距離だな。」と囁いた。なんかエロい。
「にっ20cmの距離くらいがちょうどいいかも…?」
「お前はいつも無意識のゼロセンチだ。俺じゃなかったら大変なことになってるってそろそろわかれよ。」
「大変なこと…?」
頭にハテナを浮かべる私を無視し、今度は耳たぶが産まれて初めて感じる感覚を襲った。
つまりは設楽くんが耳たぶを甘噛みしている状態だ。
「んえっ!?」
「……、馬鹿に“大変なこと”を実践してやってるんだ。これで済んだことを感謝しろよ?」
「たったんんまっ…ちょっくすぐったい…!ん」
身をよじり逃げようとするも、設楽くんは甘噛みをやめなかった。
突然の内線の電話が鳴り響き、やっと解放されたが、甘噛みされた箇所は熱い。そして顔も熱い。
「もっもう!こんなのびっくりするよ!」
「お仕置き、俺はお前の行動にずっと驚いてたんだから。」
少し離れた内線の電話の方へ向う設楽くんの顔も赤かった。
…
設楽くんが電話を取るとと、どうやら たまちゃん の到着を知らせる電話だったようだ。
ナイスたまちゃんと心から感謝を送った。
「紺野のやつが来て助かったな。」
「も、もう!設楽くんが変なことするから悪いんじゃん!」
流石に今の出来事は たまちゃん には相談はできない。
暫くすると、メイドさんと一緒に たまちゃんが部屋へとやってきて、設楽くんはついでに新しい紅茶と茶菓子をメイドさんに頼んできた。
そこからは真面目に宿題大会がスタートした。先程のことは忘れて全集中をしてる私と違い、設楽くんはやる気がなさそう。
たまちゃんにボールペンで突っつかれて、やっと設楽くんは教科書を開き始めるも、全然集中できていなそうだ。
「休憩だ、休憩。」と、数十分もしないうちに内線に何かを頼み、暫くすると“アフタヌーンティーPERT2”みたいなものが運ばれた。
たまちゃんも流石にそんな設楽くんに合わせて宿題をやる手を止めたので、そこから仲良く三人でティータイムだ。
「ところで二人は夏休みに何処か行かないのかい?」
「私は今だけくらいだと思う。」
きっと設楽くんは忙しいだろうし、たまちゃんも生徒会や勉強で忙しそうだし、私もゲームで忙しいのだ。
「え?今だけ?」
「この宿題大会以外で外に出ることはもうないと思う。」
「え…と、…8月に花火大会があるよ?そういうのに興味はないのかい?」
興味が有るか無いかで言えば、少しだけ有る。行ってみたいとは思うが花火大会を一人で行くのはさすがの私も辛い。
「…あ、たまちゃんが行くなら私も付いていきいたでででで。」
突然伸ばされた手を避けられる訳もなく、頬には設楽くんの手。そして伸ばされる私のほっぺた。
「察しろよ、紺野は忙しいんだ。お前は本当に馬鹿だな。」
「もう!設楽くんのほうがさっきから宿題進んでないくせに!馬鹿って言うな!」
少し痛む頬を擦りながら設楽くんを睨むと、受けて立つという顔でニヤリ笑った。
「…わかった、俺が先に宿題を終わらせたら花火大会に行くぞ。」
「ふん!私が先に終わらせたら花火大会は無し…いでででで。」
そしてまたもや頬に襲うじんじんとした痛み。そんなに抓られるとほっぺが伸びてしまうではないか。
「どうせお前暇だろ。」
「もう!わかったってば!じゃあ、先に終わらせたらチョコバナナ奢ってね!」
「チョコバナナ…?まあいい、受けて立ってやる。」
そこから数日、設楽くん、たまちゃん、私の宿題大会が繰り広げ、もちろん先に宿題を終わらせたのは たまちゃんだった。そして、まさかの第二位は設楽くんで私は負けてしまった。
やはりあんなに凄いピアノを弾けるってことは地頭が良いのだろう。そんな気はしてたけどさ!
「くっそー!負けちゃった!ってここよくわかんないや。」とその後は設楽くんに文句を言われながら、たまちゃんに宿題を教わり無事に8月に入る前に大量の宿題を終わらせることに成功した。
…
あっという間に一学期が終了し、ドキドキワクワクの夏休みが始まった。
何がドキドキでワクワクなのかと言うと、両親が珍しく旅行に行ったので家に一人でいる状態だ。
何がどういう風の吹き回しなのか知らないが、いつも忙しそうにしてる父が数十年ぶりに遠出できる姿を見れば良かったなって思う。二人で新婚旅行を楽しんできてほしい。
それも最近、お小遣いもアップしたのだ。
アルバイトをしようか、一瞬だけ迷った時期があったが夏休み前に教室でアルバイト情報誌を眺めていると設楽くんに「お前がバイト?……、ふぅん。全部向いてなさそうだな。」って言われるし、内心私も働きたくないしで、返す言葉もなかった。
自分の望むようにお小遣いがアップされるなんてまさしく運のいいラッキーガール。順風満帆そのものだ。
ゴロゴロと一人暮らし(仮)を楽しみながら夏休みの予定を考えよう。
去年は、たまちゃんに宿題を教わるくらいでしか家を出なかったっけ。今考えると逆にすげーな。と思い出す。
まぁ、だからといってこの暑さだ。家から出るのはやはり億劫。
設楽くんとたまには遊びたいような気もするが、真剣にピアノに取り組んでいる姿を思い出して、開きかけた携帯電話を閉じた。
折角の一人暮らし(仮)それなら、あれをしよう。今年はたまちゃんを家に呼んで宿題大会をするのがいいかもしれない。
それで夏休み前半で宿題を終わらせて、8月はぐーたらしよう。天才の発想ではないか。
先程開きかけてた携帯電話を今度はちゃんと開くとその瞬間携帯に着信があり、驚いて携帯を落としてしまった。
慌てて拾うとディスプレイには“設楽くん”の名前だ。
携帯の通話ボタンをポチッと押して耳に当てるや「俺だ。」とお久しぶりの設楽くんの声。
「オレオレ詐欺ですか?」
「冗談はお前の頭だけにしろ。」
「へへっごめんごめん。」
設楽くんの“むっ”とした表情が目に浮かび笑ってしまう。
一通り笑ってると「次の日曜日は開けとけよ。」と突然のお誘いだ。
次の日曜日って、もう数日後ではないか。
設楽くんと遊びたいのは山々だけど、私の計画…そう、たまちゃんとの宿題大会を実現するべくこのお誘いは断ろう。
「あの、用事が…」と言い終える前に設楽くんの声が被された。
「どうせ用事なんかない癖に、嘘つくのやめろ。」
「失礼な!たまちゃんを宿題大会に誘うつもりだし!こう見えて忙しいの!」
「紺野…?なんでまた馬鹿なこと言ってんだよ。」
そこで私の夏休みの計画を告げるや、「……ふぅん、わかった。俺から紺野に伝えとく。」となぜか主導権を奪われて抗議する間もなく電話が切れた。
設楽くんに奪われた主導権を奪い返すべく、すぐに たまちゃん に連絡するも電話中で繋がらず…。もしもその電話の相手が設楽くんなら、行動の速さに驚きとドン引きだ。
そこから数十分後に 設楽くんから“明日からお前の言ってた宿題大会をする。迎えに行くから待ってろ。”とメールが届いた。
再度設楽くんに電話をすると、たまちゃんももちろん来てくれるようだが、会場は設楽邸でやるとの事だった。
「家から出るの面倒だし、私の家でいいよ。」
「絶対に駄目だ。紺野の家も駄目だ。つまりは俺の家しかないってわけだ。」
「ちぇー、つまんないの。みんなでゲームしたかったのに。」
「それは……また今度遊びに行ってやるよ。夏休みはまだあるからな。」
夏休みは“まだ”あるからな。と言う設楽くんに少しだけ嬉しい気持ちが湧いた。
それを隠すように「はいはい、じゃあ明日よろしく。」と電話を切り、鞄にゲーム機とコントローラを3つと宿題を詰めた。
…
翌日、携帯の着信音がうるさいので眠気眼で通話ボタンを押すと朝から設楽くんの声が脳内に響いた。
「…、設楽くん…」
「お前、寝てたな?早く準備しろよ。」
もそもそと寝返りをうちながらベットから起きる気がしない私の体。
設楽くんはお見通しとでも言うように「二度寝しようとしてるだろ、早くしろ。」と、車を降りる音と共に“ピンポーン”と家のチャイムが鳴り響いた。
「留守でーす。」と電話越しで呑気に答える私にピンポンの連打を繰り広げてくるではないか。
「もう、わかったわかった。」
起き上がり、一階へ降りて玄関を開けるや私服夏服ver.の設楽くん。
「もう、早いよ。」
「お前が遅いだけだ。って、ちゃんと洋服に着替えろ。」
「へいへい。」
設楽くんは後ろを向き、車の運転手さんに合図を送ると車は行ってしまった。
「お前の準備が遅そそうだからな、あとで迎えに来てもらう。」
「仕方がない、家に入ってもいいよ。」
「あ、あぁ。お邪魔しよう。」
自室に案内し、適当な座布団を引っ張りだして設楽くんをそこに座らせ、私はもう一度ベットに寝そべった。
ちらり、と時計を見るとまだ9時半ではないか。夏休みなのに早すぎだよ。
「設楽くんは寝る時はシルクのパジャマとか着てそうだよね。」
「お前のはなんだ、それは…。」
設楽くんはジトーっとした視線で私のことを睨んでいる。いいじゃないか。VIVITなブカブカ般若のDUBタンクトップ。
「着心地抜群よ。設楽くんも着る?」
ゴロリ寝転がりながら設楽くんのDUBスタイルを想像してしまう。
「ぷぷぷっ、絶対に似合わない。」
「そんなもの、似合わなくていい。ってお前はベットでゴロゴロするな。」
「だって、設楽くんのお迎えが早すぎるんだもん。」
「朝ご飯を食べないだろうと思って、食わせてやる為に早めに来たんだ、感謝しろよ。」
まさかの提案に嬉しいのは確かだが、もう少しゆっくりしたいのだ。「嬉しい!けどあと五分。」と寝転がる私。
「お前……、そんな格好で誰かを家に入れるんじゃないぞ。」
「いっけね、設楽くんを招いちゃった。」
「俺はいいんだ。わかったな。」
「へいへい。」
そんな私の適当な返事に、設楽くんは眉間にシワを寄せたと思えば立ち上がり私が寝転がるベットへとやってくるや、揺すってきた。
「うわっわわわ何すんじゃ!」と私も設楽くんにやり返そうと体を起こすと“ごちん!”と音が聞こえるほどおでことおでこがごっつんこだ。
「いてててて…」
「っっ……」
「ご、ごめん。」
何か冷やすものでも持ってこようと立ち上がりベットから慌てて降りた。
急いで洋服をクローゼットから引っ張り出して、一階へ降り冷やすものを用意して急いで脱衣室で洋服へ着替えた。
たまたま手に取った葉月珪抱きしめTを着て、部屋に戻ればドン引きしてる設楽くん。
「……、お前、本当の馬鹿なのか…」
「あ、これで冷やしていいよ。」
「いや、いらない。」
溜息をつくや勝手にクローゼットを開き始めるではないか。
「ちょちょちょ、勝手に見ないでよ!」
「むしろ感謝してほしいくらいだ。そんなものを当たり前に着ようとしてるお前の思考を治してやってるんだから。」
ナチュラル、ビビット、キュート、セクシー、そしてシックな洋服。
設楽くんは何も言わずに、数少ないシックな洋服と、前にくれたシックな髪飾りを手に取ると「いいからこれに着替えてこい。」とチェンジをくらい、渋々一階に戻り着替え直した。
…
着替え終わった頃、迎えの車が来たようで鞄を持って車にお邪魔しようとすると、「何だその荷物。多すぎだろ。」と私の鞄を見た設楽くんにツッコミをもらってしまった。
「みんなでやるゲームとコントローラーが…」
「いらない、戻してこい。」と無慈悲に言われてしまい、それも宿題大会の主導権は設楽くんだ。
渋々もう一度家に戻り宿題だけを持って車にお邪魔し、あっという間にお久しぶりの設楽くんの設楽邸に到着した。
設楽くんの部屋に通されるや、すぐさま紅茶とお茶菓子にサンドイッチに…アフタヌーンティー的なものが運ばれてくる。
この速さはきっと設楽くんが事前に頼んでおいたのだろう。
「アフタヌーンティーってやつですな。」
「まだ昼じゃないけど、まあそういう事でもいい。」
紅茶を飲みながら美味しい軽食をつまみつつ、お日様もポカポカだ。設楽くんはピアノを弾き始めるし、こんな素晴らしきリラックスタイムがこの世に存在するなんて。
椅子に座ったまま眠ってしまった私は今度は、ふかふかの感覚と共に目を覚ました。
「ありゃ、ここ…。は…?」
ふかふかなベットに横になっているが、ここはどこだろうか?
視線を感じそちらを向けば設楽くんと目が合って、つまりは私の寝顔を観察でもしていたのだろうか?
「えっと…、おはよう…?」
「お前…、教室でもよく寝てるよな。」
「もう、そんなに観察しないでよ。」と言いつつ、設楽くんのいない反対側に寝返りを打った。
「お前、まだ寝るのか。」
「なんか気持ちよくてまだ寝れる。」
「もう起きろ、そろそろ紺野が来るからな。」
「えっ!?今何時!?」
慌てる私と違い、設楽くんは「13時前だ。」と答えた。設楽邸にお邪魔したのは10時前で、多分10時30頃には眠っていた。流石に眠りすぎたことに申し訳ない。
今度は設楽くんの方へゴロゴロ寝返りをうちながら向かった。
「設楽くんがベットに運んでくれたの?」
「まあな、感謝しろよ?お前重くて大変だったんだからな。」
「もう!失礼な!」
ピアノがある設楽くんの部屋にある謎の扉は寝室だったのだ。新たな発見に嬉しかったりもする。
「こんな大きいベットなら毎日が楽しそうだね。」
「別に普通だろ普通。ほら早く降りろよ。」
「ふふ、設楽くんも隣くる?なーんちゃって…。」と冗談を投げたのだが、眉間にシワを寄せた設楽くんが隣に横になった。
「眉間にシワ寄せないの。」とグリグリ眉間に触れるともっと眉間のシワが深くなった。
これ以上触れると眉間のシワが貫通しそうなので眉間から髪の毛に手を伸ばした。
「設楽くんの髪の毛ってくるくるしてるよね。」
「仕方がないだろ、生まれつきなんだから。」
「うちの抱き枕のぬいぐるみみたいでなんかいい触りこごち…」
「お、お前…、もう触るな!馬鹿!っうわっっ」
慌てて起き上がろうとした設楽くんは、バランスを崩し、私の上には設楽くんがいる。
先程抓られた頬に今度は柔らかいものが触れる感覚があった。
慌てて起き上がり上からどいた設楽くん。私も起き上がって設楽くんの唇を自分の袖拭きながら謝罪を告げた。
「設楽くんの口が腐っちゃう。」
「いっいから離せ。お前が悪いんだからな。」
ジトーっと睨まれながら、ベットを降りていく設楽くんに続き、私も寝室をあとにし、無言の設楽くんの座るソファの隣へ腰掛けた。
「設楽くん…?怒ってる…?」
「……怒ってない、怒る気すら起きない。」
これは確実に怒ってるやつだ。朝から迎えに来てくれて、ご飯を用意してくれたのに昼寝はするしこんな意味わからんようなハプニングは起きるし設楽くんに取ったら最悪だ。
「ごめん、すぐにウェットティッシュを…」
「いや、そうじゃない…、お前は…なんで無意識なんだよ…。」
「無意識…?」
「俺がお前に同じことをしたらどうする?」
どこまでの下りだろうか?ベットでゴロゴロしていたところ?いや、いまの頬にキスのことか?
「私のベットは狭いし硬いから設楽くんは寝転ばないと思うよ。」
「……、そっちじゃない。」
「あ、さっきのは事故だから仕方がないと思う。」
ぼけーと聞いてる私に、一つため息を吐くとほっぺに手が伸びてきた。
いつものように頬を抓られると思い反射的に瞳を瞑ったが痛みはいつになってもこず、優しく触れられたままだ。
「設楽くん…?」
「本当にお前は……無防備だな…。俺がどんな気持ちで…。」
薄目を開けて伺うと、設楽くんの赤い瞳とバッチリ目が合い、そのまま設楽くんが近づいてきて“かぷり”と頬に産まれて初めて感じる痛みがやってきた。
「ぬえっ!?」
驚く私を他所に設楽くんは耳元で「ゼロセンチの距離だな。」と囁いた。なんかエロい。
「にっ20cmの距離くらいがちょうどいいかも…?」
「お前はいつも無意識のゼロセンチだ。俺じゃなかったら大変なことになってるってそろそろわかれよ。」
「大変なこと…?」
頭にハテナを浮かべる私を無視し、今度は耳たぶが産まれて初めて感じる感覚を襲った。
つまりは設楽くんが耳たぶを甘噛みしている状態だ。
「んえっ!?」
「……、馬鹿に“大変なこと”を実践してやってるんだ。これで済んだことを感謝しろよ?」
「たったんんまっ…ちょっくすぐったい…!ん」
身をよじり逃げようとするも、設楽くんは甘噛みをやめなかった。
突然の内線の電話が鳴り響き、やっと解放されたが、甘噛みされた箇所は熱い。そして顔も熱い。
「もっもう!こんなのびっくりするよ!」
「お仕置き、俺はお前の行動にずっと驚いてたんだから。」
少し離れた内線の電話の方へ向う設楽くんの顔も赤かった。
…
設楽くんが電話を取るとと、どうやら たまちゃん の到着を知らせる電話だったようだ。
ナイスたまちゃんと心から感謝を送った。
「紺野のやつが来て助かったな。」
「も、もう!設楽くんが変なことするから悪いんじゃん!」
流石に今の出来事は たまちゃん には相談はできない。
暫くすると、メイドさんと一緒に たまちゃんが部屋へとやってきて、設楽くんはついでに新しい紅茶と茶菓子をメイドさんに頼んできた。
そこからは真面目に宿題大会がスタートした。先程のことは忘れて全集中をしてる私と違い、設楽くんはやる気がなさそう。
たまちゃんにボールペンで突っつかれて、やっと設楽くんは教科書を開き始めるも、全然集中できていなそうだ。
「休憩だ、休憩。」と、数十分もしないうちに内線に何かを頼み、暫くすると“アフタヌーンティーPERT2”みたいなものが運ばれた。
たまちゃんも流石にそんな設楽くんに合わせて宿題をやる手を止めたので、そこから仲良く三人でティータイムだ。
「ところで二人は夏休みに何処か行かないのかい?」
「私は今だけくらいだと思う。」
きっと設楽くんは忙しいだろうし、たまちゃんも生徒会や勉強で忙しそうだし、私もゲームで忙しいのだ。
「え?今だけ?」
「この宿題大会以外で外に出ることはもうないと思う。」
「え…と、…8月に花火大会があるよ?そういうのに興味はないのかい?」
興味が有るか無いかで言えば、少しだけ有る。行ってみたいとは思うが花火大会を一人で行くのはさすがの私も辛い。
「…あ、たまちゃんが行くなら私も付いていきいたでででで。」
突然伸ばされた手を避けられる訳もなく、頬には設楽くんの手。そして伸ばされる私のほっぺた。
「察しろよ、紺野は忙しいんだ。お前は本当に馬鹿だな。」
「もう!設楽くんのほうがさっきから宿題進んでないくせに!馬鹿って言うな!」
少し痛む頬を擦りながら設楽くんを睨むと、受けて立つという顔でニヤリ笑った。
「…わかった、俺が先に宿題を終わらせたら花火大会に行くぞ。」
「ふん!私が先に終わらせたら花火大会は無し…いでででで。」
そしてまたもや頬に襲うじんじんとした痛み。そんなに抓られるとほっぺが伸びてしまうではないか。
「どうせお前暇だろ。」
「もう!わかったってば!じゃあ、先に終わらせたらチョコバナナ奢ってね!」
「チョコバナナ…?まあいい、受けて立ってやる。」
そこから数日、設楽くん、たまちゃん、私の宿題大会が繰り広げ、もちろん先に宿題を終わらせたのは たまちゃんだった。そして、まさかの第二位は設楽くんで私は負けてしまった。
やはりあんなに凄いピアノを弾けるってことは地頭が良いのだろう。そんな気はしてたけどさ!
「くっそー!負けちゃった!ってここよくわかんないや。」とその後は設楽くんに文句を言われながら、たまちゃんに宿題を教わり無事に8月に入る前に大量の宿題を終わらせることに成功した。
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