隣の席の設楽くん
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…
無事に二年生に進級&設楽くんと同じクラスという大快挙の私。
だけど、設楽くんの席は前よりも遠くなってしまった。
それでも、設楽くんとは音楽室で駄弁ったり、一緒にお昼ご飯を食べたり、遊んだりと“心の友”な仲はこれからも継続中だ。
「あ、ここ顔にゴミがついてるよ。」とたまちゃんに呼び止めらた。
「じゃあ たまちゃん取って。」と呑気に返す私に苦笑いをしている。
「…?たまちゃん…?」
目を瞑り待ってる私の頬を優しく触れる手の感触。
「ふふっくすぐたい。」と目を開けると目の前には設楽くんだった。
「んえ!?たまちゃんが設楽くんに!?」
「なに馬鹿言ってんだ。取ってやったんだから感謝しろ。」
「へへ、ありがとう。」
設楽くんは驚く私の頬を摘んだ。
「ちょっいででで。ほっぺ伸びた伸びた!」
「お前は誰にでもスキだらけだな。気をつけろよ。」
「もう!設楽くんが一番危険だよ!覚えてやがれ!」と捨て台詞を吐き自分の席へと戻った。が「ここ、僕の席です…。」と慌てすぎたのか別の人の席に座っていて恥ずかしい思いをした。
そんな私をジトーっと見つめる設楽くんの視線には気が付かなかった。
授業が開始する前に隣の席の男の子が教科書を忘れてしまったようだったので、机をくっつけて一緒に見ることを提案した。
「いや、でも…、ちょっと…。」と何故か遠慮気味の男の子。
「いいからいいから、ほらくっつけるよ。」と勝手に机をくっつけ、「ほらほら、もっと近づかないと見えないよ。」と相手を引っ張る勢いに隣の男の子はタジタジだったが仕方がない。
一年生の頃と比べると、隣に設楽くんがいないおかげなのか周辺のクラスメイトの子たちとは良い関係を築けているのだ。
あんなにも別のクラスになること、そして隣の席じゃなくなる不安があったのになんだったんだろうか。
授業が終了し、お昼休みの時間を告げる鐘が鳴り響いたので、お弁当を持って設楽くんの席へと向かった。
「しーたらくん。ねぇ、今日は…」と言いかけてる私を見る目は鋭かった。
「設楽くん?ただでさえ目つきが悪いんだからそんな顔で見ちゃ駄目だよ。」
「…、なんだよ。隣のヤツと机くっつけて食べてたらいいだろ。」となぜかプンプンの設楽くんだ。
「…?なんで?」と不思議がる私に 「くっつき過ぎなんだよ。」と謎のご忠告をもらってしまった。
「じゃあ、設楽くんもくっつけばいいじゃん。」
「なんでそうなるんだ…、わかったからもう行くぞ。」
「アイアイサー、あ、今日は天気が良いし屋上に行こうよ。」と設楽くんを引っ張りながら教室を後にした。
去年は、周りがうるさいので殆どの時間を音楽室で過ごしていたが、二年生になってからは、一年生に格好いい男の子がいるだとかで、今までよりも周りが静かになったこともあり、設楽くんは音楽室以外の場所でご飯を食べることが増えたのだ。もちろん、本人の心境も変わったのだろう。これが成長ってやつなのかもしれない。
「およよよ、成長したねぇ…。」
「そうだな、俺は成長した。それならお前も少しは態度を改めろ。」
設楽くんと何回目かの屋上に足を踏み入れ、いい感じの日陰に設楽くんはハンカチを引くと「ほら、座れよ。」と屋上でも紳士ぷりを見せてくれる。
「じゃあ、設楽くんはこっちをどうぞ。」と私もハンカチを設楽くんが座るであろう位置…いや、設楽くんのハンカチと重ねるように置いた。
「なんだこれ、くっつけすぎだろ。」
「設楽くんがくっつきたいのかなって。」
「お前のおとぼけが治る薬はどこで手に入るんだろうな?」とハンカチを少しだけ離すと腰を下ろした。
「うわっとお、座り心地が良すぎて飛んでいきそう。」
「そのまま月まで飛んでいってしまえ。」
そして私も設楽くんの敷くハンカチにお邪魔しまして、お弁当を広げた。
私のお弁当を見た設楽くんは気になるおかずを自身のお弁当に載せ、お返しと口では言わないが、当たり前のようにメインの一番大きくて一番美味しそうなおかずと、私の好きな卵焼きをくれるのだ。
「お前、また腕があがったな。美味い。」
「ふふふ、設楽くんには負けますぜ。」
設楽くんがピアノに向き合ってるように、私は料理、勉強、運動、などなど自分磨きをしている。これも多分設楽くんのおかげだ。
あっという間に美味しいお弁当を食べてお腹いっぱいの私。
「お前、眠いのか。酷い顔してるな。」
「うん、酷いは余計な一言だよ。」とムッとした私は設楽くんの膝に頭を載せた。
ため息を吐いた設楽くんは「お前、俺をなんだと思ってるんだ?」と少し怒っているようだ。
「セイちゃん」
「人がいない所ならいいが、学校はやめろ。セイちゃんもやめろ。」と無慈悲に立ち上がり、ごちん。と頭が床にぶつかり痛いのなんのって。
「いでで…!」
「お前にげんこつを落とす手間が省けた。目は覚めたか?」
「おかげで目が覚めたわい!」
「じゃあ教室に戻ろう、お前が知りたがってるチェスについて教えてやるよ。」
久しぶりにハリーポッターを見てチェスに興味を持った私は前から設楽くんに教えてもらおうとお願いしていたのだ。
「やった!設楽先生!」と喜ぶ私を間抜けを見るような目で見つめる設楽くん。
「もう!そんな目で見ないでよ。」
「いや、お前って本当に…。なんでもない。」と言いながら屋上を後にした。
「ごめんね、設楽くん、トイレに…」
「イットイレなんて絶対に言わないからな。」
「ふふふ、設楽くんのそういうところ好き。」と言うとほんのりと顔が赤くなった気がした。
「セイちゃんって照れやだよね。」
「うるさい、いいから早く行ってこい!」と怒られたのでその場をあとにしてお手洗いへ向かった。
お手洗いから戻る際に別のクラスの男の子に声をかけられた。放課後に校舎裏にきてほしいだとかなんだとか。そしてそのまま行ってしまった。
教室に戻り、設楽くんの座る席の前へ腰を下ろして後ろを向いた。
「遅い。もう昼休みが終わるだろ。」
「卒業するまで昼休みは100回はあるから許してよ。」
「馬鹿だな。100回以上あるに決まってるだろ。」とふっと設楽くんは笑った。
「あのね、あのね。ところでね。」
「はいはい、わかった。わかった。ちゃんと聞いてる。」と言いながら、私が来るまでの間に折っていただろう連鶴の続きを折り始めた。
「もう!真面目に聞いてよね!」
「悪いな、片手間で。」と聞く気のない設楽くんに先程の出来事をお伝えしたのだ。
「もしかして、告白だったりして!」
「……。」
「勉強に部活にバイトに恋!高校生って大変だぁ〜。やっぱ進研ゼミしないとね。」
おとぼける私と違い、眉間にシワを寄せた設楽くんが、「はいはい、良かったですね。」と言い放つと連鶴に集中し始めた。
「設楽くん…?」
「忙しいんだ。また後でな。」と言ったタイミングで、席の主が戻ってきたので退散することにした。
思い返せば、二年に入り何度か呼び出されたことはあった。「告白かも!」と思って行ってもバックレられたり、謝られたりされただけだっけ。何だったんだろうか。そりゃ、設楽くんも呆れて冷たい態度になるわな。
授業が始まったと思えばあっという間に時間は立ち終礼に。
設楽くんは何も言わずにさっさと行ってしまったのが少し悲しかった。
バックレられようが何でも取り敢えず校舎裏に向かうことにし、歩いて数分目的地の場所に到着だ。
少し待っていると、話しかけてきた男の子がやってきて、話を聞くとやはり、告白だった。前にぶちまけてた荷物を拾ってから好きになったらしい。
人生初告白は嬉しいが、付き合うかどうか、恋愛をしたいのかはまた別な問題で、私は感謝と謝罪を述べると、「設楽と付き合ってるの?」と聞いてきた。
設楽くんと付き合う?……
今一イメージがわかないことを言う彼に、付き合ってない旨を伝えたが、「じゃあ試しでいいから。」としつこい。
困惑していると、音楽室からのピアノの音が聞こえてきた。それも、なんだか荒ぶる設楽くんって感じの激しい曲だ。
「ごめん、私、行くね。」と伝えて走ってその場を後にし、音楽室へと向かった。
途中に氷室先生に走っているのを見つかってしまってお説教を食らう罠にハマっていたがね。
やっと開放され、音楽室に向かったが、もう設楽くんはいなかった。
なんで会いたくなったのかはわからない不思議な気持ちと会えなくて残念な気持ちを抱きながら下駄箱に降りると設楽くんが連鶴の続きを折ながら立っていた。
「設楽くん。」
心の中がぽかぽかして、頬の緩む感覚が襲った。
「遅い、何やってたんだ。ってまた、とぼけた顔で笑ってるんだ。」
「ふふ、別に。」
靴を履き替えると、連鶴を差し出す大きな手。
「やるよ、お前のせいで気がついたら連鶴折折ってた。」
「ありがとう。大切にするね。」
去年は席の交換の際にくれた連鶴に、今度は私のせいで折っていた連鶴が部屋の中に増えた。
「邪魔なら捨てろよ。」
「前のもまだ飾ってるよ。」と言うと、設楽くんは嬉しそうに笑った。
校門を出ても設楽くんを待っている車は来ていなかった。今日は一緒に歩いて帰れるということだろうと察した。
「あ、さっき弾いてた荒ぶる設楽くんみたいな曲がこっちまで聞こえてたよ。」
「“月光第三楽章”だ。……、それで?何だったんだ?」
「ん?音楽室に行く時に廊下を走ってたら氷室先生に捕まっちゃってお説教よ。」
「いや、そっちじゃない。あっちだ。」
「あっちの件ね。」
あんなに冷たい反応だったのに、なんやかんや気になってたんかい!と突っ込みたかったが、設楽くんに報告したかったのは事実だったのでやめて、一通り話してやっとわかった。
「私ね、わかっちゃったんだ。」
「…?なにをだよ。」
「設楽くんのことが大好きなんだって。」
走馬灯のように思い返す設楽くんとの日々。ズッ友から心の友、から大好きに進化したようだ。いや、実質ずっと大好きみたいなものだったかもしれない。
「は……?いきなり何言ってんだ!?空耳か?!」と慌てふためく設楽くんの耳元に最大限の背伸びをしながら「空耳じゃないよ、大好き。」と囁いた。
「お前、どうせ…」と言いかけてる設楽くんには悪いがバランスを崩してしまい設楽くんの胸にダイブしてしまい、設楽くんは華麗に受け止めてくれた。
「うわっと、ごめん。」とすぐに離れようとしたが抱きしめるように設楽くんの大きな手が背中に触れた。
「嘘じゃないんだな…?」
「うん、真心の塊だからね。」
「……いや、待て。騙されないぞ。俺が動揺すると思ったのなら、大間違いだからな。」と抱きしめてた手を離しさっさと歩いていってしまった。
「ちょっと早いよ、設楽くん。」
「今の大好きはどんな意味があるんだ?はっきり教えろ。今すぐ言え。」
「うんとね、三次元では一番好きってこと。」
「…なんだそれ、褒めてるのか?」
「設楽くんは二次元には遠く及ばないけどね。」と言うと手を思い切りよく繋いできた。
「いででで、ごめん、ごめんって痛いよ!」
「そのうち二次元を超えてやる。覚悟しろよ。」
「ふふふ、それは無いででで」
ふと、設楽くんが誰かと付き合ってしまったら、こんな事はもうできないんだと思った。
いつかくるであろう“その日”が来るまでは隣にいられたらいいな。
……あれ?なぜだろう。なんかモヤモヤする。
「し、設楽くんは恋愛についてどう思ってるの?」
「暇つぶし。」と平然な表情で答える姿に胸の痛みが酷くなった。
「大人の余裕ってやつ?」
「大人ってなんだ。俺とお前は一緒だろ。」
「設楽先輩。ギリギリ後輩と言える私をもっと丁寧に扱ってください。」
「何言ってんだ?」
「…?あれ?言ってなかったけ?もしかすると設楽くんが先輩で私が後輩になる可能性があったこと。」
「はぁ…?」
そこから、誕生日が四月一日だということを伝え、あと数十分遅ければ翌年の代になる予定だったと伝えた。
「だからこんなにも、おとぼけなヤツなのか。」
「そうそう、もっと早く生まれていたら設楽くんとお似合いな素敵な淑女に…って失礼な!おとぼけじゃないやい!」
ぷんぷんする私を見て設楽くんはニッコリと笑いながらこちらを見ていた。
夕日が設楽くんの髪の毛に反射していてキラキラと輝いてるなとか、設楽くんの目ん玉って綺麗だなとか。
「そんなおとぼけにはいつも感謝してる。…、お前がいてくれてよかった。ありがとう。」
「お、おうふ。まあ、ありがたく、ありがとう貰っておくよ。」
その言葉を聞いただけで胸のおかしな感じはどこかに吹っ飛んでしまった。私は単純なんだと思う。
「つまりは、とっくに誕生日は過ぎてるって事だな。なんでもっと早く言わなかったんだ。」
「いや、もう言ってると思ってたし、それに春休みだったし。」
「折角だ。喫茶店にでも寄っていこう。今日は俺が奢ってやる。好きなだけ食べろ。」
「やった!設楽先輩!」と言うと頭にツッコミをもらった。
いつもと違うケーキが充実している喫茶店に足を踏み入れて早速席についた。
設楽くんの誕生日を聞くと2月だった。なるほど、設楽くんだけ長かったバレンタインデーはそういう事だったのだと納得した。
「設楽くんも誕生日遅いんだね、知らなかった。」
「お前と比べたら早いものだ。」
「冷静に考えると、なんで誕生日聞いてなかったんだろうね。」
「お前がいつも、とぼけてるからだろ。」
「実際、一緒に居すぎて、家族みたいなものだもんね。」
「…は、はぁ?お前…本当の馬鹿なのか?良いからケーキ選べ。」と美味しそうなケーキの写真が写っているメニューを目の前にもってきて、近すぎて何も見えないレベルだ。
「いちごのやつが食べたい。けど、たくさんあって悩んじゃうから設楽くんが選んで。」
「お前、いちご好きなのか?」
「うん、果物ランキング第一位は安価なバナナだけど、本音を言うといちごなんだよね。」
「じゃあ、第一位はいちごだろ。それ。」
設楽くんはメニューを見ると、すぐに決まったのか店員さんを呼び注文をした。
暫くするとコーヒーが入ったカップを2つ、設楽くんが選んでくれた、いちごのケーキを一つ載せたお盆を持って店員さんは戻ってきた。
テーブルに置かれた、いちごのケーキ。早速ケーキをフォークで切って、いちごも乗せて、設楽くんの口元へ運んだ。
突然のことに驚く設楽くんはそのままケーキを食べてくれた。
「お前のケーキだ。遠慮するなよ。」という設楽くんに「二人の誕生日ケーキ」だと伝えると、目を丸くした。
「ふっ」と笑った設楽くんは今度はケーキをさしたフォークを私の口元へと持ってきたのでそれを遠慮なく食べた。
「ふふ、設楽くんのおかげで一段と美味しく感じる。これぞ心の誕生日プレゼントってやつだね。」
設楽くんは閃いた表情をすると「スキを見せるのは俺だけにしろ。」と囁いた。
「お前から俺への誕生日プレゼント。しっかり覚えとけ。」
スキって言うのは良くわからないけど、きっと設楽くんに対しての態度のことなのだろうか?
「設楽くん以外にスキ見せたとこないやい!」と突っ込むと、デコピンを食らった。
「スキだらけのお前に俺からの本当の誕生日プレゼントだ。」
「もう!ひどいよ!」
来年も、その翌年も設楽くんの誕生日を祝えることができればいいな。と思ってしまう自分はどうかしてしまったのかもしれない。
…
無事に二年生に進級&設楽くんと同じクラスという大快挙の私。
だけど、設楽くんの席は前よりも遠くなってしまった。
それでも、設楽くんとは音楽室で駄弁ったり、一緒にお昼ご飯を食べたり、遊んだりと“心の友”な仲はこれからも継続中だ。
「あ、ここ顔にゴミがついてるよ。」とたまちゃんに呼び止めらた。
「じゃあ たまちゃん取って。」と呑気に返す私に苦笑いをしている。
「…?たまちゃん…?」
目を瞑り待ってる私の頬を優しく触れる手の感触。
「ふふっくすぐたい。」と目を開けると目の前には設楽くんだった。
「んえ!?たまちゃんが設楽くんに!?」
「なに馬鹿言ってんだ。取ってやったんだから感謝しろ。」
「へへ、ありがとう。」
設楽くんは驚く私の頬を摘んだ。
「ちょっいででで。ほっぺ伸びた伸びた!」
「お前は誰にでもスキだらけだな。気をつけろよ。」
「もう!設楽くんが一番危険だよ!覚えてやがれ!」と捨て台詞を吐き自分の席へと戻った。が「ここ、僕の席です…。」と慌てすぎたのか別の人の席に座っていて恥ずかしい思いをした。
そんな私をジトーっと見つめる設楽くんの視線には気が付かなかった。
授業が開始する前に隣の席の男の子が教科書を忘れてしまったようだったので、机をくっつけて一緒に見ることを提案した。
「いや、でも…、ちょっと…。」と何故か遠慮気味の男の子。
「いいからいいから、ほらくっつけるよ。」と勝手に机をくっつけ、「ほらほら、もっと近づかないと見えないよ。」と相手を引っ張る勢いに隣の男の子はタジタジだったが仕方がない。
一年生の頃と比べると、隣に設楽くんがいないおかげなのか周辺のクラスメイトの子たちとは良い関係を築けているのだ。
あんなにも別のクラスになること、そして隣の席じゃなくなる不安があったのになんだったんだろうか。
授業が終了し、お昼休みの時間を告げる鐘が鳴り響いたので、お弁当を持って設楽くんの席へと向かった。
「しーたらくん。ねぇ、今日は…」と言いかけてる私を見る目は鋭かった。
「設楽くん?ただでさえ目つきが悪いんだからそんな顔で見ちゃ駄目だよ。」
「…、なんだよ。隣のヤツと机くっつけて食べてたらいいだろ。」となぜかプンプンの設楽くんだ。
「…?なんで?」と不思議がる私に 「くっつき過ぎなんだよ。」と謎のご忠告をもらってしまった。
「じゃあ、設楽くんもくっつけばいいじゃん。」
「なんでそうなるんだ…、わかったからもう行くぞ。」
「アイアイサー、あ、今日は天気が良いし屋上に行こうよ。」と設楽くんを引っ張りながら教室を後にした。
去年は、周りがうるさいので殆どの時間を音楽室で過ごしていたが、二年生になってからは、一年生に格好いい男の子がいるだとかで、今までよりも周りが静かになったこともあり、設楽くんは音楽室以外の場所でご飯を食べることが増えたのだ。もちろん、本人の心境も変わったのだろう。これが成長ってやつなのかもしれない。
「およよよ、成長したねぇ…。」
「そうだな、俺は成長した。それならお前も少しは態度を改めろ。」
設楽くんと何回目かの屋上に足を踏み入れ、いい感じの日陰に設楽くんはハンカチを引くと「ほら、座れよ。」と屋上でも紳士ぷりを見せてくれる。
「じゃあ、設楽くんはこっちをどうぞ。」と私もハンカチを設楽くんが座るであろう位置…いや、設楽くんのハンカチと重ねるように置いた。
「なんだこれ、くっつけすぎだろ。」
「設楽くんがくっつきたいのかなって。」
「お前のおとぼけが治る薬はどこで手に入るんだろうな?」とハンカチを少しだけ離すと腰を下ろした。
「うわっとお、座り心地が良すぎて飛んでいきそう。」
「そのまま月まで飛んでいってしまえ。」
そして私も設楽くんの敷くハンカチにお邪魔しまして、お弁当を広げた。
私のお弁当を見た設楽くんは気になるおかずを自身のお弁当に載せ、お返しと口では言わないが、当たり前のようにメインの一番大きくて一番美味しそうなおかずと、私の好きな卵焼きをくれるのだ。
「お前、また腕があがったな。美味い。」
「ふふふ、設楽くんには負けますぜ。」
設楽くんがピアノに向き合ってるように、私は料理、勉強、運動、などなど自分磨きをしている。これも多分設楽くんのおかげだ。
あっという間に美味しいお弁当を食べてお腹いっぱいの私。
「お前、眠いのか。酷い顔してるな。」
「うん、酷いは余計な一言だよ。」とムッとした私は設楽くんの膝に頭を載せた。
ため息を吐いた設楽くんは「お前、俺をなんだと思ってるんだ?」と少し怒っているようだ。
「セイちゃん」
「人がいない所ならいいが、学校はやめろ。セイちゃんもやめろ。」と無慈悲に立ち上がり、ごちん。と頭が床にぶつかり痛いのなんのって。
「いでで…!」
「お前にげんこつを落とす手間が省けた。目は覚めたか?」
「おかげで目が覚めたわい!」
「じゃあ教室に戻ろう、お前が知りたがってるチェスについて教えてやるよ。」
久しぶりにハリーポッターを見てチェスに興味を持った私は前から設楽くんに教えてもらおうとお願いしていたのだ。
「やった!設楽先生!」と喜ぶ私を間抜けを見るような目で見つめる設楽くん。
「もう!そんな目で見ないでよ。」
「いや、お前って本当に…。なんでもない。」と言いながら屋上を後にした。
「ごめんね、設楽くん、トイレに…」
「イットイレなんて絶対に言わないからな。」
「ふふふ、設楽くんのそういうところ好き。」と言うとほんのりと顔が赤くなった気がした。
「セイちゃんって照れやだよね。」
「うるさい、いいから早く行ってこい!」と怒られたのでその場をあとにしてお手洗いへ向かった。
お手洗いから戻る際に別のクラスの男の子に声をかけられた。放課後に校舎裏にきてほしいだとかなんだとか。そしてそのまま行ってしまった。
教室に戻り、設楽くんの座る席の前へ腰を下ろして後ろを向いた。
「遅い。もう昼休みが終わるだろ。」
「卒業するまで昼休みは100回はあるから許してよ。」
「馬鹿だな。100回以上あるに決まってるだろ。」とふっと設楽くんは笑った。
「あのね、あのね。ところでね。」
「はいはい、わかった。わかった。ちゃんと聞いてる。」と言いながら、私が来るまでの間に折っていただろう連鶴の続きを折り始めた。
「もう!真面目に聞いてよね!」
「悪いな、片手間で。」と聞く気のない設楽くんに先程の出来事をお伝えしたのだ。
「もしかして、告白だったりして!」
「……。」
「勉強に部活にバイトに恋!高校生って大変だぁ〜。やっぱ進研ゼミしないとね。」
おとぼける私と違い、眉間にシワを寄せた設楽くんが、「はいはい、良かったですね。」と言い放つと連鶴に集中し始めた。
「設楽くん…?」
「忙しいんだ。また後でな。」と言ったタイミングで、席の主が戻ってきたので退散することにした。
思い返せば、二年に入り何度か呼び出されたことはあった。「告白かも!」と思って行ってもバックレられたり、謝られたりされただけだっけ。何だったんだろうか。そりゃ、設楽くんも呆れて冷たい態度になるわな。
授業が始まったと思えばあっという間に時間は立ち終礼に。
設楽くんは何も言わずにさっさと行ってしまったのが少し悲しかった。
バックレられようが何でも取り敢えず校舎裏に向かうことにし、歩いて数分目的地の場所に到着だ。
少し待っていると、話しかけてきた男の子がやってきて、話を聞くとやはり、告白だった。前にぶちまけてた荷物を拾ってから好きになったらしい。
人生初告白は嬉しいが、付き合うかどうか、恋愛をしたいのかはまた別な問題で、私は感謝と謝罪を述べると、「設楽と付き合ってるの?」と聞いてきた。
設楽くんと付き合う?……
今一イメージがわかないことを言う彼に、付き合ってない旨を伝えたが、「じゃあ試しでいいから。」としつこい。
困惑していると、音楽室からのピアノの音が聞こえてきた。それも、なんだか荒ぶる設楽くんって感じの激しい曲だ。
「ごめん、私、行くね。」と伝えて走ってその場を後にし、音楽室へと向かった。
途中に氷室先生に走っているのを見つかってしまってお説教を食らう罠にハマっていたがね。
やっと開放され、音楽室に向かったが、もう設楽くんはいなかった。
なんで会いたくなったのかはわからない不思議な気持ちと会えなくて残念な気持ちを抱きながら下駄箱に降りると設楽くんが連鶴の続きを折ながら立っていた。
「設楽くん。」
心の中がぽかぽかして、頬の緩む感覚が襲った。
「遅い、何やってたんだ。ってまた、とぼけた顔で笑ってるんだ。」
「ふふ、別に。」
靴を履き替えると、連鶴を差し出す大きな手。
「やるよ、お前のせいで気がついたら連鶴折折ってた。」
「ありがとう。大切にするね。」
去年は席の交換の際にくれた連鶴に、今度は私のせいで折っていた連鶴が部屋の中に増えた。
「邪魔なら捨てろよ。」
「前のもまだ飾ってるよ。」と言うと、設楽くんは嬉しそうに笑った。
校門を出ても設楽くんを待っている車は来ていなかった。今日は一緒に歩いて帰れるということだろうと察した。
「あ、さっき弾いてた荒ぶる設楽くんみたいな曲がこっちまで聞こえてたよ。」
「“月光第三楽章”だ。……、それで?何だったんだ?」
「ん?音楽室に行く時に廊下を走ってたら氷室先生に捕まっちゃってお説教よ。」
「いや、そっちじゃない。あっちだ。」
「あっちの件ね。」
あんなに冷たい反応だったのに、なんやかんや気になってたんかい!と突っ込みたかったが、設楽くんに報告したかったのは事実だったのでやめて、一通り話してやっとわかった。
「私ね、わかっちゃったんだ。」
「…?なにをだよ。」
「設楽くんのことが大好きなんだって。」
走馬灯のように思い返す設楽くんとの日々。ズッ友から心の友、から大好きに進化したようだ。いや、実質ずっと大好きみたいなものだったかもしれない。
「は……?いきなり何言ってんだ!?空耳か?!」と慌てふためく設楽くんの耳元に最大限の背伸びをしながら「空耳じゃないよ、大好き。」と囁いた。
「お前、どうせ…」と言いかけてる設楽くんには悪いがバランスを崩してしまい設楽くんの胸にダイブしてしまい、設楽くんは華麗に受け止めてくれた。
「うわっと、ごめん。」とすぐに離れようとしたが抱きしめるように設楽くんの大きな手が背中に触れた。
「嘘じゃないんだな…?」
「うん、真心の塊だからね。」
「……いや、待て。騙されないぞ。俺が動揺すると思ったのなら、大間違いだからな。」と抱きしめてた手を離しさっさと歩いていってしまった。
「ちょっと早いよ、設楽くん。」
「今の大好きはどんな意味があるんだ?はっきり教えろ。今すぐ言え。」
「うんとね、三次元では一番好きってこと。」
「…なんだそれ、褒めてるのか?」
「設楽くんは二次元には遠く及ばないけどね。」と言うと手を思い切りよく繋いできた。
「いででで、ごめん、ごめんって痛いよ!」
「そのうち二次元を超えてやる。覚悟しろよ。」
「ふふふ、それは無いででで」
ふと、設楽くんが誰かと付き合ってしまったら、こんな事はもうできないんだと思った。
いつかくるであろう“その日”が来るまでは隣にいられたらいいな。
……あれ?なぜだろう。なんかモヤモヤする。
「し、設楽くんは恋愛についてどう思ってるの?」
「暇つぶし。」と平然な表情で答える姿に胸の痛みが酷くなった。
「大人の余裕ってやつ?」
「大人ってなんだ。俺とお前は一緒だろ。」
「設楽先輩。ギリギリ後輩と言える私をもっと丁寧に扱ってください。」
「何言ってんだ?」
「…?あれ?言ってなかったけ?もしかすると設楽くんが先輩で私が後輩になる可能性があったこと。」
「はぁ…?」
そこから、誕生日が四月一日だということを伝え、あと数十分遅ければ翌年の代になる予定だったと伝えた。
「だからこんなにも、おとぼけなヤツなのか。」
「そうそう、もっと早く生まれていたら設楽くんとお似合いな素敵な淑女に…って失礼な!おとぼけじゃないやい!」
ぷんぷんする私を見て設楽くんはニッコリと笑いながらこちらを見ていた。
夕日が設楽くんの髪の毛に反射していてキラキラと輝いてるなとか、設楽くんの目ん玉って綺麗だなとか。
「そんなおとぼけにはいつも感謝してる。…、お前がいてくれてよかった。ありがとう。」
「お、おうふ。まあ、ありがたく、ありがとう貰っておくよ。」
その言葉を聞いただけで胸のおかしな感じはどこかに吹っ飛んでしまった。私は単純なんだと思う。
「つまりは、とっくに誕生日は過ぎてるって事だな。なんでもっと早く言わなかったんだ。」
「いや、もう言ってると思ってたし、それに春休みだったし。」
「折角だ。喫茶店にでも寄っていこう。今日は俺が奢ってやる。好きなだけ食べろ。」
「やった!設楽先輩!」と言うと頭にツッコミをもらった。
いつもと違うケーキが充実している喫茶店に足を踏み入れて早速席についた。
設楽くんの誕生日を聞くと2月だった。なるほど、設楽くんだけ長かったバレンタインデーはそういう事だったのだと納得した。
「設楽くんも誕生日遅いんだね、知らなかった。」
「お前と比べたら早いものだ。」
「冷静に考えると、なんで誕生日聞いてなかったんだろうね。」
「お前がいつも、とぼけてるからだろ。」
「実際、一緒に居すぎて、家族みたいなものだもんね。」
「…は、はぁ?お前…本当の馬鹿なのか?良いからケーキ選べ。」と美味しそうなケーキの写真が写っているメニューを目の前にもってきて、近すぎて何も見えないレベルだ。
「いちごのやつが食べたい。けど、たくさんあって悩んじゃうから設楽くんが選んで。」
「お前、いちご好きなのか?」
「うん、果物ランキング第一位は安価なバナナだけど、本音を言うといちごなんだよね。」
「じゃあ、第一位はいちごだろ。それ。」
設楽くんはメニューを見ると、すぐに決まったのか店員さんを呼び注文をした。
暫くするとコーヒーが入ったカップを2つ、設楽くんが選んでくれた、いちごのケーキを一つ載せたお盆を持って店員さんは戻ってきた。
テーブルに置かれた、いちごのケーキ。早速ケーキをフォークで切って、いちごも乗せて、設楽くんの口元へ運んだ。
突然のことに驚く設楽くんはそのままケーキを食べてくれた。
「お前のケーキだ。遠慮するなよ。」という設楽くんに「二人の誕生日ケーキ」だと伝えると、目を丸くした。
「ふっ」と笑った設楽くんは今度はケーキをさしたフォークを私の口元へと持ってきたのでそれを遠慮なく食べた。
「ふふ、設楽くんのおかげで一段と美味しく感じる。これぞ心の誕生日プレゼントってやつだね。」
設楽くんは閃いた表情をすると「スキを見せるのは俺だけにしろ。」と囁いた。
「お前から俺への誕生日プレゼント。しっかり覚えとけ。」
スキって言うのは良くわからないけど、きっと設楽くんに対しての態度のことなのだろうか?
「設楽くん以外にスキ見せたとこないやい!」と突っ込むと、デコピンを食らった。
「スキだらけのお前に俺からの本当の誕生日プレゼントだ。」
「もう!ひどいよ!」
来年も、その翌年も設楽くんの誕生日を祝えることができればいいな。と思ってしまう自分はどうかしてしまったのかもしれない。
…