隣の席の設楽くん
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…
桜が舞う季節。同じ教室、同じ制服、同じ机に座る私達。
「ね、よろし…く…」
ただ下心も何もなく、銀髪でくるくるしてる髪型の人が隣の席だったので挨拶をした。
なぜかと言うと、今日は入学式で私は引っ越してきたばかり。それもエスカレーター式の“はばたき学園”で、私は外部受験者。
周りは中学からの内部進学の子ばかりで、あの輪に私は入る勇気はない。そして私の後ろは誰もいない。つまりは壁と銀髪に挟まれている席だからだ。
隣の銀髪は眉間にシワを寄せると、チラリ視線だけを私に向けると、何も言わずにそのまま真っ直ぐ視線を前を向けた。
はい、私の高校生活終わり〜〜はい、不登校になるまであと何日でしょうか???
勇気出して声をかけたのにまるで、満員電車で席を譲ろうとしたのに無視をされたときのような恥ずかしさが襲う。
今日入学をしてまだ数分。それも今座ったばかりだが、早くクラス替えをしてほしいと切に思う。
とりあえず一年はこいつと過ごすしかないのは我慢するが、クソ席に当たったことに恨みしかない。
苛立つ気持ちを心の中だけにしまい込み、黒板の方へ体を向け、まだピカピカの鞄からお気に入りの漫画を出し表紙をめくって自分の世界へ逃避した。
逃亡してもイライラは収まらないが、しばらくすると担任が教室へやってきて自己紹介がはじまる。
突然始まった自己紹介に、一番前の右端の男の子が緊張気味に喋り始めるが、苗字は“ア行”からはじま…らないんかい!!考えてみると、私の名字的に一番後ろの窓側ってのもおかしな話だ。訳のわからない席順にみんな困惑しているように感じる。
クラスの半分が終わり、いけ好かない隣の銀髪の番になると、ヤツは心底嫌そうな口調で名前だけを伝え席へ座った。
いや、違う。みんな誕生日なり好きなものなりを言ってるのにヤツは心底嫌そうな口調、そして心底嫌そうな表情で名前だけを言うやすぐに席へと座った。が正しい。
はっきり言いたい。誰もてめぇなんか興味ねぇからな!バナナマン設楽め!明日机にバナナいれとくぞ!それも真っ黒く熟したやつな!と内心思いつつ、教室の女子達はひそひそ、きゃーきゃーと色めきだっている。
うーわまーじか。みんな見る目なくね?とドン引きしながら最後の私の番がきたのでハッキリと言ってやった。
「みんな、1年間よろしく!席の交換絶賛受付中!!!応募してくれよな!」
私のアホな自己紹介にクラスでの掴みは良かった。が、隣の銀色バナナに睨みつけられてるような気がしたので一切隣に視線を動かさずに椅子へ座った。
こんな席にいたら鬱病になるわくそが!と、言いたかったがそこは声に出さずに耐えなければならい。耐えるんだ、私。
だが、無慈悲な先生は「暫くはこの先生チョイスの席順だからな〜」と述べるだけ。
はい、私の高校生活終わったわ〜
未だに隣のバナナマン設楽からの睨みつけるかのような視線を感じるのと、席が変わらない現実にため息がこぼれてしまう。
暫く先生の話が続き、クラス委員も決まり、先生へ向けた自己紹介プリントを書くことに。
“将来の夢”と書かれた枠には特に何も浮かばなかったので“総理大臣”と書き、プリント回収係のクラス委員長の眼鏡に渡したら何故か意気投合した。
…
何はともあれ、桜の花びらは散り落ちて、葉桜へと変わり新緑の季節がやってきた。
なんやかんや隣の席のバナナマン設楽以外とはよくやれている気がする。と言っても一番の友達はいない。強いて言うなら委員長だ。あとは満遍なくみんなと話せるって感じ。
バナナマン設楽は隣の席のよしみ…と、遅刻ギリギリ組なのもあり下駄箱で合う確率も高いのでヤツに大人な私は取り敢えず挨拶はしていたが「…あぁ、おはよう。」と嫌そうに返してくる。ので、いつの間にか私は引きつる笑顔で挨拶をするようになった。
5時間目の音楽の授業が終了し教室へ戻ったが、たった1本しかないそれも、中学1年生の頃からの相棒のシャープペンシルを持っていないことに気が付き10分休憩の合間に慌てて音楽室へ戻ると、ピアノの音色が聞こえ始め、数人の女子生徒が音楽室の前にたむろしている。
最近休憩中に設楽くんがピアノを弾いていたことは嫌でも教室まで聞こえていたので知っていたが、女子達が羨望の眼差し…いや、恋に落ちている瞳で扉の前にいるとは思っていなかったのではいりずれぇぇぇ。
だがシャーペンを、それも大切な1本しか持ってきてない私はこの道を通らなければ、どちみち隣のシルバーバナナ、略してシルバナナ…、シルバニアファミリーに「シャーペン貸して」と言う羽目になるので、地獄なのは変わらないが、それよりマシなので進むしかない。
ヤツをシルバニア村のネコくんだと言い聞かせ勇気をだして進むことにした。
「ちょっと失礼」と数人の女子の間を歩き、思い切って音楽室へ入ろうと扉の前に立つや扉窓越しに目が合うシルバニア村の設楽くん。
少し驚いた顔をした設楽くんと見つめあうこと3秒。バトルが始まる前に取り敢えず音楽室へ足を踏み入れながら、「ぶらーぼーMr.したーら。」とおふざけな入室だ。
そんな私を眉間のシワを寄せながら「お前は馬鹿なのか。」とボソリつぶやいたのはバッチリと耳に入っていからな。
ここでとやかく言い返すよりも聞こえないふりをし、先程座っていた私の席に視線を向けたがシャーペンは見えない。
「なんかよくわかんないけど、綺麗な曲だね、ところで…」
お世辞を言いつつシャーペンについて聞こうとしたが、何故か近づいてきた設楽くん。
無言の設楽くんは私の目の前までやってきた。相変わらずの眉間のシワと目つきの悪さだが、よーくみたら結構かっこいいな、設楽くん。まぁ、よーく見たらだけどな。
「ふぅん、お前、好きなのか?」
「好きか嫌いか聞かれても正直普通。」
別にわざとではない。挨拶以外で話したことがなくてたまたま心の声が漏れてしまったのだ。
「……。」
無言の設楽くんが怖いので、シャーペンを探そうと視線を変え、席周辺へ視線を向けるもシャーペンは見当たらない。
設楽くんと目を合わせないように、ちらりピアノの方へ視線を向けると、なぜかピアノ付近にシャーペンがあるではないか。多分、何かの拍子で転がってしまったのだろう。
そんな私の視線が気に触ったのか設楽くんは「なんだよ。」と嫌そうな声で話?かけてきた。
「あ…、綺麗な音色で素敵やん?」
「…。」
別に話しかけてませんが、ピアノのことはよく知らんが取り敢えず褒めとけばいいかの精神で適当に返すも、私の適当な反応が尺に触ったのか無言のままだ。
適当だけど精一杯褒めたのに無視をする設楽くん。なんだよこいつ。かまってちゃんかよ。
そしてなぜ私はこいつに気を使って話しかけてるんだか。それも居心地は最低最悪だ。
この空間から出たい気持ちが強く、相棒の事はひとまず忘れ、シャーペンは眼鏡のクラス委員長にでも借りようと決めた。
扉から出ようとクルリ向きを変え「じゃ、そゆことで。」と設楽くんに伝えたが、「おい、待てよ。」と何故か引き止められてしまい、突然のことに目が丸を超えて三角レベルだ。
「え、なんすか。」
「お前、何が好きなんだ。」
「はい…?」
「だからお前の好きな曲はなんだよ。」
唐突な質問に驚きつつ、目の前にはシルバニア村のネコくん。ピアノの曲はほぼ知らなかったが頭に浮かんだのは「猫踏んじゃった。」
設楽くんはピアノへ向かうと、“猫踏んじゃった”を弾き始めた。それもアレンジバリバリの聞いたことのない“猫踏んじゃった”で純粋に聞き惚れてしまう。
しばらくすると曲が止んだので自然と手は拍手をしていた。
「なんだよ。」
「本当に感動した、“猫踏んじゃった”じゃなくて“おキャット様をお踏みになられた”くらい違うくて…」と言うと、「ぷっ」と設楽くんは吹き出した。意外な反応に驚いたが予鈴がなってしまい、私は扉へ駆けた。
「急がないと!じゃあね、設楽くん!」
「ちょっお前、俺を置いていくな!」
そんな声を聞かなかったふりをして走る私。ちなみに私のほうが足が早いようで、設楽くんの気配はとっくに感じない。
慌てて教室へ入るも、もう先生が来ていたので、「先生、すみません。トイレに行って…」と誤魔化しを言いかけていたが、やっと来た設楽くんに「お前裏切ったな!」と告げ口をされたせいで、二人で軽く注意を受けるも私だけ嘘をついた罰として、明日から数日、あいさつ運動のお手伝いをする羽目になった。
席につき設楽くんを睨むとバッチリ目が合い、設楽くんはニヤリと笑う。
設楽くんってこんな表情するんだ…。
いやまじムカつく。まじバナナマン。
消しカスを投げ飛ばそうと、消しゴムを取る為に筆箱を開けて気がついてしまった。シャープペンシルが無いことを。
これじゃ授業開始したから委員長にも借りられない!全部バナナマン設楽のせいじゃん!!
そんな状況で進む授業。先生が「そろそろ黒板消すぞー」と言っているが、私はまだ何も書けていない。
これは…、悔しいが隣の設楽くんにお願いするかない。「設楽くん、あの…」と、先生に聞こえない声で話しかけた。
「なんだよ。」
「シャーペン持ってなくて、その、貸してほしいなって…」
チラリ、設楽くんを見ると前のような嫌そうな表情はしていなかった。が、設楽くんは筆箱を開けて中を覗くとまたもやニヤリ笑った。
「裏切り者のお前に貸せるようなシャープペンはあいにく持ってない。残念だったな。」
「いや、あのそんな冗談はいらないので…」
内心腹が立っていたがその腹立たしさを隠しなすも、「何か言うことはないのか?」と言われるだけで貸してくれる気配はない。
背に腹は変えられない。そうだ、私が嘘をつかなければよかった話だ。
「設楽くん、さっきは嘘ついてごめんね?許してくれる?」
「聞こえなーい。」と言う設楽くんにもう少し声を大きく「さっきは嘘ついてごめんね。」と言うも無視を決め込みこっちを見すらしない。
その後も何度か「設楽くん、ごめんね。」を言うも、わざとらしく板書に集中してますよ?の雰囲気を出しながら無視ときた。そして無残にも黒板は消されてしまった。
「もう!設楽くんのせいで消されちゃったじゃん!さっきのピアノすごく感動したけど、もう取り消しだから!…あ。」
苛立ちが募っていた私は声を荒らげてしまい静まりかえる教室に響く私の声。
みんなに見られて顔が熱くてもう最悪だ。先生にはノートを取っていないことをバレるし、筆記用具を持ってないことでも注意されるし。
極めつけは、大声を出したのが1番の逆鱗に触れ「廊下に立ってろ。」と怒られた。
赤い顔を隠すために私は俯きながら廊下へと足を進め、最後に敵である設楽くんを睨もうと視線を向けると設楽くんもなぜか顔が赤くなっている。
お前が赤くなるなよ。全部設楽のせいだからな。まじで覚えとけ!と授業が終わるまでずっと設楽くんのことを考えていた。
…
授業終了のチャイムがなり、先生へ再度謝り席へついた。
「さっきは…」と言いかけている設楽くんを無視して丁度こちらにやってきた委員長に視線を向けると、委員長は「これ、よかったら見て。」とノートを差し出してくれた。
そう、目の前に神がいるのだ。隣のやつは疫病神だけど。
「ありがとう!」と受け取ろうとする私だが、横からニョッキリ伸びた手にノートを奪われてしまい、視線を移せばなぜか疫病神設楽がノートを持っている。
「ちょっ邪魔しないでよ!」
「ふん、お前が無視するのが悪いんだろう。」
「いや、無視してきたのは設楽くんじゃん!」
そこからギャーギャー言い合ってると最後のホームルームがはじまり、あっという間に終礼だ。そして委員長のノートは設楽くんがもっている。
「設楽くん委員長のノート返してよ。」
「お前のせいで途中から書けてないんだ、だから返さない。」
「え、人のせいにすんなよ。もういいよ、他の子にお願いするから。」
近くを歩いてる男子に話しかけようとしたが、「シャープペン貸してやるから、図書室に行くぞ。」とさっさと鞄…それも私の鞄も持って行ってしまった。
がやがやと賑やかだった教室だったが、その瞬間静かになったような…?
クラスにいる数人の設楽ファンの女の子がじーっと見ていた事を私はちゃんと察した。
気まずいのでその子達と目を合わせないように大人の私は仕方がないので設楽くんの後について行くことに。
設楽くんが開けてくれた図書室の扉をくぐり抜けると、沢山の本が並べてある本棚と勉強をしている人達もいるテーブルがある。その一角にあるテーブルへ付いた。
「図書室はじめてきた。」と言いつつ、椅子に座ろうとする設楽くんの隣へと腰掛けると、「俺もだ…、おい、なんでこっちに座るんだ。あっちいけよ。」と、手を“しっしっ”と振っている。
「向かい合わせだったらノート見れないじゃん。」
ノートを持ってるのは設楽くん。それなら隣に座るに決まっているじゃないか。
当たり前です。と言う態度をしていると、設楽くんは“ぐぬぬ”としながら大人しく席へと座った。
「貸してやるよ、壊すなよ。」
手渡されたシャープペンシルは高級そうでずしりと重い。私の相棒の何倍もの料金なのは確かだろう。
「ありがとう。」とお礼を述べて間に置かれたノートをペラリ開くと、丁寧に書かれた少し角ばった男性らしい文字。
「委員長の文字ってなんか想像通りの文字。」
「なんだそれ。ま、たしかに上手いな。」
さり気なく設楽くんのノートへ視線を向けると少し雑な感じが残るが可愛らしい文字だった。
「お前、今俺のノート見てただろ。」
「いや、可愛らしい文字だなんて思ってませんよ。」
“むっ”とした設楽くんは私のノートを奪うとペラペラめくり始めり“ぷっ”と笑っている。
「お前の文字だって適当じゃないか。それもほとんど落書きだらけだな。」
「いいの、私は芸術タイプなんだから。」
「お前が芸術タイプ?ガサツタイプだろ。」
「もう!うるさいな!設楽く…」と声を大きく出してしまい、図書委員の子に「しっー!」と怒られてしまった。
設楽くんのせいで本日2度目のお叱りだ。最悪である。
「お前のほうがうるさいぞ、黙って書き込め。」
「へいへい。」
しばらく無言で書き写し、設楽くんは授業中に途中まで書き込んでいたのだろうか、すぐに終わっていたが、帰ろうとする気配がない。
「設楽くん、書き終わったなら帰っていいよ。」
「なんで。」
「いや、暇でしょ。」
「俺がどこにいようが勝手だろ。」とふんぞり返る設楽くんを無視し、暫く集中しノートを書き終えた。
「やっと終わったー。つッ」と委員長のノートを閉じようとしたが、ノートの端で小指を切ってしまった。
「不注意だな。」
「うるさい、これくらい誰だってあるわ。」
「ないな。少なくとも俺はない。ほら」
自慢げに手のひら見せてくる設楽くん。子供かよ。
「そんな自慢いらんわって…」
人の手を見る機会は早々無いのはもちろんだが、それでも設楽くんの手は一般的な男子高生とは違うピアノを弾いてるからなのか骨ばっており、そして指は長く大きくて綺麗な手だった。
「設楽くんの手大きいね。」
「は?」
「ほら」
設楽くんの広げている手に触らないように上に重ねると、月とスッポンレベルの差がある。
「ギターのFコードも楽々って感じで羨ましいよ。」
「へぇお前、楽器やってたのか?」
「いやいや、手が小さいからFコードが届かなくて挫折した口だよ、言わせんな恥ずかしい。」
過去に女子高生が軽音楽をするアニメにハマった影響でギターに挑戦した黒歴史を思い返しながら、テーブルの上の荷物を片付けそんな話をした。
「手が大きいのは生まれ持った才能ってやつですな。羨まし…」
「うるさい、お前に何が…!」
突然声を大にした設楽くん。今度は設楽くんが「しーっ」と言われる番だ。
「やーい、設楽くん怒られてやんの!」
「ちっもういい。」と言い捨て、鞄を肩にかけるや、さっさと先に歩く設楽くん。私も何故か慌ててついて行く足。
「ちょっ、待ってよ。」
先程触れなかった手に触れて静止をかけると、設楽くんは立ち止まってくれた。
「もう、何怒ってるか知らないけど、手が大きかったら物が掴みやすいしいいじゃん。それの何が駄目なのさ。」
今度は設楽くんの手のひらに触れながら必死のフォローだ。
「ほら見てよ、この差!みんなに自慢してもいいレベルだよ!」
今度は重ねた手のひら。設楽くんの手は暖かくて、重ねたら先程よりももっと設楽くんの手が大きかった。
「…いや、しないが…。」
先程怒っていた設楽くんは困惑気味にタジタジとしていて逆に拍子抜だ。
「あと手が大きい人はスポーツも向いて…ないね、設楽くんは。」
思い返すのは男女混合体育。設楽くんはめちゃくちゃ嫌そうな顔で眉間にシワを寄せながら参加してたっけ。少ししたらその後はすぐに見学していたけれど、あの時設楽くんと同じチームじゃなくて良かったって心から思う。
「あ、手が大きいフェチとかあるよ?」
「はぁ…、もうわかった。…俺が悪かったのは認めよう。ほら、もう帰るぞ。」
昇降口へ向かう途中、設楽くんは「お前は挫折することにどう思ってるんだ?」と聞いてきた。
「私の挫折は…、くだらないことだらけだよ。」
色々思い出すが、挫折ばかりしてきたな…。あんなことやそんなこと、あぁ去年はあれが…。そんな私を設楽くんは眉間にシワを寄せずに真面目な顔で見つめている。
「挫折して苦しくても一旦離れてからまたやるときは適当にやってみて、楽しいって思えればいいし、やっぱり嫌になったら他の楽しいことしようよ。」って私は誰目線で語ってるんだ。
「ごめん、こんなこと言って。本当に辛い挫折を味わってないからこんなこと言えるのだと思う。」
やっとついた靴箱から靴を取り出して履き替え、先に履き替えていた設楽くんが私を待ってくれてた事に内心驚いた。
2人並んで昇降口を出ると「お前の楽しいことってなんだ?」と神妙な表情で聞いてきた。
「え?漫画とかアニメとか。あと映画。」
思い出すのは入学早々、設楽くんに対して挫折を味わい漫画へ逃避行したことだ。思い出すと腹が立ってきた。そんな私をよそに「お前に聞いた俺が馬鹿だった。」と述べる設楽くん。
はい、今日一日全部水の泡。
「少し見直したけどもう知らない!じゃあね!!」と設楽くんを置いて先に校門を出ると近くに大きな車が止まっていた。
暫く歩くとすれ違う大きな車。車の窓から見える設楽くん。そして、目が合う設楽くん。
中指を立てたかったが取り敢えず思い切り手を振っといた。そんな私って偉い。
…
桜が舞う季節。同じ教室、同じ制服、同じ机に座る私達。
「ね、よろし…く…」
ただ下心も何もなく、銀髪でくるくるしてる髪型の人が隣の席だったので挨拶をした。
なぜかと言うと、今日は入学式で私は引っ越してきたばかり。それもエスカレーター式の“はばたき学園”で、私は外部受験者。
周りは中学からの内部進学の子ばかりで、あの輪に私は入る勇気はない。そして私の後ろは誰もいない。つまりは壁と銀髪に挟まれている席だからだ。
隣の銀髪は眉間にシワを寄せると、チラリ視線だけを私に向けると、何も言わずにそのまま真っ直ぐ視線を前を向けた。
はい、私の高校生活終わり〜〜はい、不登校になるまであと何日でしょうか???
勇気出して声をかけたのにまるで、満員電車で席を譲ろうとしたのに無視をされたときのような恥ずかしさが襲う。
今日入学をしてまだ数分。それも今座ったばかりだが、早くクラス替えをしてほしいと切に思う。
とりあえず一年はこいつと過ごすしかないのは我慢するが、クソ席に当たったことに恨みしかない。
苛立つ気持ちを心の中だけにしまい込み、黒板の方へ体を向け、まだピカピカの鞄からお気に入りの漫画を出し表紙をめくって自分の世界へ逃避した。
逃亡してもイライラは収まらないが、しばらくすると担任が教室へやってきて自己紹介がはじまる。
突然始まった自己紹介に、一番前の右端の男の子が緊張気味に喋り始めるが、苗字は“ア行”からはじま…らないんかい!!考えてみると、私の名字的に一番後ろの窓側ってのもおかしな話だ。訳のわからない席順にみんな困惑しているように感じる。
クラスの半分が終わり、いけ好かない隣の銀髪の番になると、ヤツは心底嫌そうな口調で名前だけを伝え席へ座った。
いや、違う。みんな誕生日なり好きなものなりを言ってるのにヤツは心底嫌そうな口調、そして心底嫌そうな表情で名前だけを言うやすぐに席へと座った。が正しい。
はっきり言いたい。誰もてめぇなんか興味ねぇからな!バナナマン設楽め!明日机にバナナいれとくぞ!それも真っ黒く熟したやつな!と内心思いつつ、教室の女子達はひそひそ、きゃーきゃーと色めきだっている。
うーわまーじか。みんな見る目なくね?とドン引きしながら最後の私の番がきたのでハッキリと言ってやった。
「みんな、1年間よろしく!席の交換絶賛受付中!!!応募してくれよな!」
私のアホな自己紹介にクラスでの掴みは良かった。が、隣の銀色バナナに睨みつけられてるような気がしたので一切隣に視線を動かさずに椅子へ座った。
こんな席にいたら鬱病になるわくそが!と、言いたかったがそこは声に出さずに耐えなければならい。耐えるんだ、私。
だが、無慈悲な先生は「暫くはこの先生チョイスの席順だからな〜」と述べるだけ。
はい、私の高校生活終わったわ〜
未だに隣のバナナマン設楽からの睨みつけるかのような視線を感じるのと、席が変わらない現実にため息がこぼれてしまう。
暫く先生の話が続き、クラス委員も決まり、先生へ向けた自己紹介プリントを書くことに。
“将来の夢”と書かれた枠には特に何も浮かばなかったので“総理大臣”と書き、プリント回収係のクラス委員長の眼鏡に渡したら何故か意気投合した。
…
何はともあれ、桜の花びらは散り落ちて、葉桜へと変わり新緑の季節がやってきた。
なんやかんや隣の席のバナナマン設楽以外とはよくやれている気がする。と言っても一番の友達はいない。強いて言うなら委員長だ。あとは満遍なくみんなと話せるって感じ。
バナナマン設楽は隣の席のよしみ…と、遅刻ギリギリ組なのもあり下駄箱で合う確率も高いのでヤツに大人な私は取り敢えず挨拶はしていたが「…あぁ、おはよう。」と嫌そうに返してくる。ので、いつの間にか私は引きつる笑顔で挨拶をするようになった。
5時間目の音楽の授業が終了し教室へ戻ったが、たった1本しかないそれも、中学1年生の頃からの相棒のシャープペンシルを持っていないことに気が付き10分休憩の合間に慌てて音楽室へ戻ると、ピアノの音色が聞こえ始め、数人の女子生徒が音楽室の前にたむろしている。
最近休憩中に設楽くんがピアノを弾いていたことは嫌でも教室まで聞こえていたので知っていたが、女子達が羨望の眼差し…いや、恋に落ちている瞳で扉の前にいるとは思っていなかったのではいりずれぇぇぇ。
だがシャーペンを、それも大切な1本しか持ってきてない私はこの道を通らなければ、どちみち隣のシルバーバナナ、略してシルバナナ…、シルバニアファミリーに「シャーペン貸して」と言う羽目になるので、地獄なのは変わらないが、それよりマシなので進むしかない。
ヤツをシルバニア村のネコくんだと言い聞かせ勇気をだして進むことにした。
「ちょっと失礼」と数人の女子の間を歩き、思い切って音楽室へ入ろうと扉の前に立つや扉窓越しに目が合うシルバニア村の設楽くん。
少し驚いた顔をした設楽くんと見つめあうこと3秒。バトルが始まる前に取り敢えず音楽室へ足を踏み入れながら、「ぶらーぼーMr.したーら。」とおふざけな入室だ。
そんな私を眉間のシワを寄せながら「お前は馬鹿なのか。」とボソリつぶやいたのはバッチリと耳に入っていからな。
ここでとやかく言い返すよりも聞こえないふりをし、先程座っていた私の席に視線を向けたがシャーペンは見えない。
「なんかよくわかんないけど、綺麗な曲だね、ところで…」
お世辞を言いつつシャーペンについて聞こうとしたが、何故か近づいてきた設楽くん。
無言の設楽くんは私の目の前までやってきた。相変わらずの眉間のシワと目つきの悪さだが、よーくみたら結構かっこいいな、設楽くん。まぁ、よーく見たらだけどな。
「ふぅん、お前、好きなのか?」
「好きか嫌いか聞かれても正直普通。」
別にわざとではない。挨拶以外で話したことがなくてたまたま心の声が漏れてしまったのだ。
「……。」
無言の設楽くんが怖いので、シャーペンを探そうと視線を変え、席周辺へ視線を向けるもシャーペンは見当たらない。
設楽くんと目を合わせないように、ちらりピアノの方へ視線を向けると、なぜかピアノ付近にシャーペンがあるではないか。多分、何かの拍子で転がってしまったのだろう。
そんな私の視線が気に触ったのか設楽くんは「なんだよ。」と嫌そうな声で話?かけてきた。
「あ…、綺麗な音色で素敵やん?」
「…。」
別に話しかけてませんが、ピアノのことはよく知らんが取り敢えず褒めとけばいいかの精神で適当に返すも、私の適当な反応が尺に触ったのか無言のままだ。
適当だけど精一杯褒めたのに無視をする設楽くん。なんだよこいつ。かまってちゃんかよ。
そしてなぜ私はこいつに気を使って話しかけてるんだか。それも居心地は最低最悪だ。
この空間から出たい気持ちが強く、相棒の事はひとまず忘れ、シャーペンは眼鏡のクラス委員長にでも借りようと決めた。
扉から出ようとクルリ向きを変え「じゃ、そゆことで。」と設楽くんに伝えたが、「おい、待てよ。」と何故か引き止められてしまい、突然のことに目が丸を超えて三角レベルだ。
「え、なんすか。」
「お前、何が好きなんだ。」
「はい…?」
「だからお前の好きな曲はなんだよ。」
唐突な質問に驚きつつ、目の前にはシルバニア村のネコくん。ピアノの曲はほぼ知らなかったが頭に浮かんだのは「猫踏んじゃった。」
設楽くんはピアノへ向かうと、“猫踏んじゃった”を弾き始めた。それもアレンジバリバリの聞いたことのない“猫踏んじゃった”で純粋に聞き惚れてしまう。
しばらくすると曲が止んだので自然と手は拍手をしていた。
「なんだよ。」
「本当に感動した、“猫踏んじゃった”じゃなくて“おキャット様をお踏みになられた”くらい違うくて…」と言うと、「ぷっ」と設楽くんは吹き出した。意外な反応に驚いたが予鈴がなってしまい、私は扉へ駆けた。
「急がないと!じゃあね、設楽くん!」
「ちょっお前、俺を置いていくな!」
そんな声を聞かなかったふりをして走る私。ちなみに私のほうが足が早いようで、設楽くんの気配はとっくに感じない。
慌てて教室へ入るも、もう先生が来ていたので、「先生、すみません。トイレに行って…」と誤魔化しを言いかけていたが、やっと来た設楽くんに「お前裏切ったな!」と告げ口をされたせいで、二人で軽く注意を受けるも私だけ嘘をついた罰として、明日から数日、あいさつ運動のお手伝いをする羽目になった。
席につき設楽くんを睨むとバッチリ目が合い、設楽くんはニヤリと笑う。
設楽くんってこんな表情するんだ…。
いやまじムカつく。まじバナナマン。
消しカスを投げ飛ばそうと、消しゴムを取る為に筆箱を開けて気がついてしまった。シャープペンシルが無いことを。
これじゃ授業開始したから委員長にも借りられない!全部バナナマン設楽のせいじゃん!!
そんな状況で進む授業。先生が「そろそろ黒板消すぞー」と言っているが、私はまだ何も書けていない。
これは…、悔しいが隣の設楽くんにお願いするかない。「設楽くん、あの…」と、先生に聞こえない声で話しかけた。
「なんだよ。」
「シャーペン持ってなくて、その、貸してほしいなって…」
チラリ、設楽くんを見ると前のような嫌そうな表情はしていなかった。が、設楽くんは筆箱を開けて中を覗くとまたもやニヤリ笑った。
「裏切り者のお前に貸せるようなシャープペンはあいにく持ってない。残念だったな。」
「いや、あのそんな冗談はいらないので…」
内心腹が立っていたがその腹立たしさを隠しなすも、「何か言うことはないのか?」と言われるだけで貸してくれる気配はない。
背に腹は変えられない。そうだ、私が嘘をつかなければよかった話だ。
「設楽くん、さっきは嘘ついてごめんね?許してくれる?」
「聞こえなーい。」と言う設楽くんにもう少し声を大きく「さっきは嘘ついてごめんね。」と言うも無視を決め込みこっちを見すらしない。
その後も何度か「設楽くん、ごめんね。」を言うも、わざとらしく板書に集中してますよ?の雰囲気を出しながら無視ときた。そして無残にも黒板は消されてしまった。
「もう!設楽くんのせいで消されちゃったじゃん!さっきのピアノすごく感動したけど、もう取り消しだから!…あ。」
苛立ちが募っていた私は声を荒らげてしまい静まりかえる教室に響く私の声。
みんなに見られて顔が熱くてもう最悪だ。先生にはノートを取っていないことをバレるし、筆記用具を持ってないことでも注意されるし。
極めつけは、大声を出したのが1番の逆鱗に触れ「廊下に立ってろ。」と怒られた。
赤い顔を隠すために私は俯きながら廊下へと足を進め、最後に敵である設楽くんを睨もうと視線を向けると設楽くんもなぜか顔が赤くなっている。
お前が赤くなるなよ。全部設楽のせいだからな。まじで覚えとけ!と授業が終わるまでずっと設楽くんのことを考えていた。
…
授業終了のチャイムがなり、先生へ再度謝り席へついた。
「さっきは…」と言いかけている設楽くんを無視して丁度こちらにやってきた委員長に視線を向けると、委員長は「これ、よかったら見て。」とノートを差し出してくれた。
そう、目の前に神がいるのだ。隣のやつは疫病神だけど。
「ありがとう!」と受け取ろうとする私だが、横からニョッキリ伸びた手にノートを奪われてしまい、視線を移せばなぜか疫病神設楽がノートを持っている。
「ちょっ邪魔しないでよ!」
「ふん、お前が無視するのが悪いんだろう。」
「いや、無視してきたのは設楽くんじゃん!」
そこからギャーギャー言い合ってると最後のホームルームがはじまり、あっという間に終礼だ。そして委員長のノートは設楽くんがもっている。
「設楽くん委員長のノート返してよ。」
「お前のせいで途中から書けてないんだ、だから返さない。」
「え、人のせいにすんなよ。もういいよ、他の子にお願いするから。」
近くを歩いてる男子に話しかけようとしたが、「シャープペン貸してやるから、図書室に行くぞ。」とさっさと鞄…それも私の鞄も持って行ってしまった。
がやがやと賑やかだった教室だったが、その瞬間静かになったような…?
クラスにいる数人の設楽ファンの女の子がじーっと見ていた事を私はちゃんと察した。
気まずいのでその子達と目を合わせないように大人の私は仕方がないので設楽くんの後について行くことに。
設楽くんが開けてくれた図書室の扉をくぐり抜けると、沢山の本が並べてある本棚と勉強をしている人達もいるテーブルがある。その一角にあるテーブルへ付いた。
「図書室はじめてきた。」と言いつつ、椅子に座ろうとする設楽くんの隣へと腰掛けると、「俺もだ…、おい、なんでこっちに座るんだ。あっちいけよ。」と、手を“しっしっ”と振っている。
「向かい合わせだったらノート見れないじゃん。」
ノートを持ってるのは設楽くん。それなら隣に座るに決まっているじゃないか。
当たり前です。と言う態度をしていると、設楽くんは“ぐぬぬ”としながら大人しく席へと座った。
「貸してやるよ、壊すなよ。」
手渡されたシャープペンシルは高級そうでずしりと重い。私の相棒の何倍もの料金なのは確かだろう。
「ありがとう。」とお礼を述べて間に置かれたノートをペラリ開くと、丁寧に書かれた少し角ばった男性らしい文字。
「委員長の文字ってなんか想像通りの文字。」
「なんだそれ。ま、たしかに上手いな。」
さり気なく設楽くんのノートへ視線を向けると少し雑な感じが残るが可愛らしい文字だった。
「お前、今俺のノート見てただろ。」
「いや、可愛らしい文字だなんて思ってませんよ。」
“むっ”とした設楽くんは私のノートを奪うとペラペラめくり始めり“ぷっ”と笑っている。
「お前の文字だって適当じゃないか。それもほとんど落書きだらけだな。」
「いいの、私は芸術タイプなんだから。」
「お前が芸術タイプ?ガサツタイプだろ。」
「もう!うるさいな!設楽く…」と声を大きく出してしまい、図書委員の子に「しっー!」と怒られてしまった。
設楽くんのせいで本日2度目のお叱りだ。最悪である。
「お前のほうがうるさいぞ、黙って書き込め。」
「へいへい。」
しばらく無言で書き写し、設楽くんは授業中に途中まで書き込んでいたのだろうか、すぐに終わっていたが、帰ろうとする気配がない。
「設楽くん、書き終わったなら帰っていいよ。」
「なんで。」
「いや、暇でしょ。」
「俺がどこにいようが勝手だろ。」とふんぞり返る設楽くんを無視し、暫く集中しノートを書き終えた。
「やっと終わったー。つッ」と委員長のノートを閉じようとしたが、ノートの端で小指を切ってしまった。
「不注意だな。」
「うるさい、これくらい誰だってあるわ。」
「ないな。少なくとも俺はない。ほら」
自慢げに手のひら見せてくる設楽くん。子供かよ。
「そんな自慢いらんわって…」
人の手を見る機会は早々無いのはもちろんだが、それでも設楽くんの手は一般的な男子高生とは違うピアノを弾いてるからなのか骨ばっており、そして指は長く大きくて綺麗な手だった。
「設楽くんの手大きいね。」
「は?」
「ほら」
設楽くんの広げている手に触らないように上に重ねると、月とスッポンレベルの差がある。
「ギターのFコードも楽々って感じで羨ましいよ。」
「へぇお前、楽器やってたのか?」
「いやいや、手が小さいからFコードが届かなくて挫折した口だよ、言わせんな恥ずかしい。」
過去に女子高生が軽音楽をするアニメにハマった影響でギターに挑戦した黒歴史を思い返しながら、テーブルの上の荷物を片付けそんな話をした。
「手が大きいのは生まれ持った才能ってやつですな。羨まし…」
「うるさい、お前に何が…!」
突然声を大にした設楽くん。今度は設楽くんが「しーっ」と言われる番だ。
「やーい、設楽くん怒られてやんの!」
「ちっもういい。」と言い捨て、鞄を肩にかけるや、さっさと先に歩く設楽くん。私も何故か慌ててついて行く足。
「ちょっ、待ってよ。」
先程触れなかった手に触れて静止をかけると、設楽くんは立ち止まってくれた。
「もう、何怒ってるか知らないけど、手が大きかったら物が掴みやすいしいいじゃん。それの何が駄目なのさ。」
今度は設楽くんの手のひらに触れながら必死のフォローだ。
「ほら見てよ、この差!みんなに自慢してもいいレベルだよ!」
今度は重ねた手のひら。設楽くんの手は暖かくて、重ねたら先程よりももっと設楽くんの手が大きかった。
「…いや、しないが…。」
先程怒っていた設楽くんは困惑気味にタジタジとしていて逆に拍子抜だ。
「あと手が大きい人はスポーツも向いて…ないね、設楽くんは。」
思い返すのは男女混合体育。設楽くんはめちゃくちゃ嫌そうな顔で眉間にシワを寄せながら参加してたっけ。少ししたらその後はすぐに見学していたけれど、あの時設楽くんと同じチームじゃなくて良かったって心から思う。
「あ、手が大きいフェチとかあるよ?」
「はぁ…、もうわかった。…俺が悪かったのは認めよう。ほら、もう帰るぞ。」
昇降口へ向かう途中、設楽くんは「お前は挫折することにどう思ってるんだ?」と聞いてきた。
「私の挫折は…、くだらないことだらけだよ。」
色々思い出すが、挫折ばかりしてきたな…。あんなことやそんなこと、あぁ去年はあれが…。そんな私を設楽くんは眉間にシワを寄せずに真面目な顔で見つめている。
「挫折して苦しくても一旦離れてからまたやるときは適当にやってみて、楽しいって思えればいいし、やっぱり嫌になったら他の楽しいことしようよ。」って私は誰目線で語ってるんだ。
「ごめん、こんなこと言って。本当に辛い挫折を味わってないからこんなこと言えるのだと思う。」
やっとついた靴箱から靴を取り出して履き替え、先に履き替えていた設楽くんが私を待ってくれてた事に内心驚いた。
2人並んで昇降口を出ると「お前の楽しいことってなんだ?」と神妙な表情で聞いてきた。
「え?漫画とかアニメとか。あと映画。」
思い出すのは入学早々、設楽くんに対して挫折を味わい漫画へ逃避行したことだ。思い出すと腹が立ってきた。そんな私をよそに「お前に聞いた俺が馬鹿だった。」と述べる設楽くん。
はい、今日一日全部水の泡。
「少し見直したけどもう知らない!じゃあね!!」と設楽くんを置いて先に校門を出ると近くに大きな車が止まっていた。
暫く歩くとすれ違う大きな車。車の窓から見える設楽くん。そして、目が合う設楽くん。
中指を立てたかったが取り敢えず思い切り手を振っといた。そんな私って偉い。
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