短編
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鈍感すぎてコウくんに対する想いに気がついてないバンビ。
…
もうすぐ3年生なる私と大学生になる設楽先輩。
たまたま朝に校門で会ったので一緒に教室に向かうことにした。
「こうやっていられるのもあと少しなんですね。」
「あぁ…、卒業しても遊んでやるから悲しむなよ。」
「設楽先輩の方が悲しいくせにー」なんて軽口を叩きながら一度下駄箱で別れた。
内履きを取り出そうと自身の下駄箱を見ると手紙が入っていた。
なんだろ…?
手紙には“放課後、校舎裏に来てください。待っています。”と書かれていた。
靴を履き替えた設楽先輩が「遅い、早く履き替えろ」と文句を言いに来たけれど私のもつ手紙に視線を移し、勝手に読んできた。
「お前先週もこんなことあったよな?」
「シタラーズ先輩には負けますよ。」と返すとムッと眉間にシワを寄せた。
「思い出させるな。……お前放課後に行くのか?」
「取り敢えず行ってみます。果し状かもしれませんし。」
「果し状ならいいものだが……」
なんて会話をしながら別れた。
お昼休みのチャイムがなりお手洗いから戻る途中、数ヶ月後にはもう聞くことのできない音色が音楽室から聞こえたので勝手にお邪魔した。
「なんだ、お前か。邪魔するなよ。」
入室早々わざとらしくため息をつく設楽先輩。
「もう、こんな可愛い後輩が遊びに来たのに冷たくしないでください!」
設楽先輩はふっと笑うとまたピアノを弾き始めた。
さっきと同じ曲なのに、なんだか違う曲のように聞こえ、改めて設楽先輩はすごいなって。
暫く聞いていると音楽室の扉が開いた。
入室してきたのはコウくんだった。
「げっ琥一…。」
「おうセイちゃん、久しぶりじゃねーか。」とコウくんが軽く挨拶すると私の手を取る。
「探したぞ?弁当食わしてくれる約束してたの忘れてたな?」
コウくんは私の頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
「きゃーやめてー」と言う私の手を引いて「時間なくなっちまうだろ、早く行くべ。」と音楽室をあとにした。
コウくんに引っ張られながら大きなお弁当を持ってルカくんと屋上へ向かった。
屋上のいい感じの日陰の場所にルカくんが待っていた。
ちらり私とコウくんの繋がれてる手を見てとうっとチョップを落としてきた。
「もう!ルカくんったら!」
「俺すごく待ってたのにそんなとこ見たくない。」
「いま準備するから待っててね?」
「じゃあお詫びにオマエが食べさせて。」
「はいはい。」
紙皿を渡し、お弁当の蓋を開けると二人は目を輝かせながら食べてくれた。
卵焼きをルカくんに食べさせると「すごく美味しい、俺これ好き。」とルカくんは少し甘めに作った卵焼きを美味しそうに食べてくれていた。
コウくんの口元にも運ぶと照れ臭そうに食べてくれた。
「オマエならいい嫁さんになれるな。」突如コウくんから発せられる言葉。
「じゃあコウくんのお嫁さんにしてね」と言い終わる前に
「ほら、オマエもあーん。」ルカくんに突如差し出されたお箸を華麗に避けることに成功した。
お昼休みの残りは10分。空っぽのお弁当箱をまとめて三人でぼーっと空を眺めていた。
「もっとオマエの弁当食べたい。」
「本当?じゃあもう少しでお花見の季節だしお弁当を持って森林公園に行こっか。」
「やった!俺楽しみにしてる。」
「お花見の時期空いてる日あったらコウくんも教えてね?」
「いつでも空けとくに決まってんだろ。」
「ふふ、楽しみだね三人でするお花見!」
「………。なんだよ…。」と呟いたルカくんの声は聞こえなかった。
そんなこんなで昼休みが終わり終礼が終わったので私は校舎裏に向かうことにした。
校舎裏に行くと同じクラスの男の子が待っていた。
「ずっと前から好きでした、付き合ってください!」と言う真剣な眼差しが私を見つめる。
彼に何かを言おうと声を出そうとするとパンパンパンパンと軽快な音とチョークの粉が風に乗せられ舞って二人でげふげふしながら目線を向けると設楽先輩が眉間にシワを寄せながら睨みつけている。
「あ、設楽先…」と話しかける私を無視して再度パンパンパンパンと黒板消しを叩く。
「ちょっ、邪魔しなゲフンゲフン」
「ゲホッこんなところにゲホッいるのが悪いんだろう。」
「設楽先輩もゲフン咳き込んでるじゃゲフンないですか。設楽先輩の下手くそ!」
設楽先輩はやっと手を止めてくれた。
「ふん、それならお前がやり方を教えてくれよ。帰りにケーキの一つくらいご馳走してやるから早く来いよ。」
そんな私達の漫才を見ていたクラスの子はぽかーんとしていた。
「ごめんね。私行ってくる。」と伝え校舎へ戻った。
設楽先輩のいる教室に入り窓から顔を出すともうその子はいなかった。
「お前に伝言がある。諦めるって言ってたぞ。」
「いつも告白されたと思えば勝手に振られてるんですよ。この間も桜井琉夏があーだこーだって言われて振られました…。」
そんな会話をしながら黒板消しを一緒に叩き終え帰りは喫茶店でケーキをごちそうになって満足である。
「お前、日曜暇だよな?」
家の近くで突如予定を聞いてきた設楽先輩に目を丸くする。
「設楽先輩?どうかしたんですか?」
「なんだよ、質問に答えろよ。」
「えっとちょっと予定が…」
私の言葉に被せるように設楽先輩が続けた。
「日曜、開けとけ。」
コウくんとバザーに行って掘り出し物を探す会でも開こうと思ってたけれど、断れる雰囲気でもなかったので承諾した。
「10時に迎えに行くからまともな格好で来いよ。」と言い残すと帰っていった。
…
目が覚めると一階が騒がしい。取り敢えず時計を見ると9時40分前、のんきしてたら遅刻しちゃうので洗面台で身なりを整え自室で洋服に着替えることに。
まともな格好で来いよって設楽先輩が言ってたけれど、わざと葉月珪抱きしめTを着ようと手に取ったが、洋服を指定されるのははじめてだったのでシックなワンピースを着ていくことに。
時計は9時55分を指している。ちょうどよいタイミングだ。階段を降りリビングに向かうと両親の声が聞こえたが私の足音に気がついたのかリビングの扉が開いた。
「遅刻しなかったな、偉いじゃないか。」
「あれ、設楽先輩どうして…?」
いつもと違い騒がしかったのは設楽先輩が家に来ていたからだった。両親はあらあらうふふとニヤニヤ見つめてくるから何がなんだかさっぱりで、私が何か言おうとする前に「ほら、行くぞ。では早朝からありがとうございました、失礼します。」と手を引く設楽先輩に連れられて外に出て家の前に停められた車に乗せられ発車した。
質問してもすぐにわかると言うので私の頭には?がついたまま設楽邸へ到着。
屋敷にお邪魔すると設楽先輩のお父さんお母さんに出迎えられそのまま客室に通された。
席につくとメイドさんが用意していた紅茶と焼き菓子が乗ったお皿を1人ずつに運んでいた。
紅茶の良い香りがして緊張していたけれどちょっとだけ楽になった。
設楽先輩が「紹介する、父と母だ。」と紹介を始めたので私もつられて自己紹介をした。
談笑をしていてしばらくすると、設楽先輩が私を婚約者にするという話が始まりなにがなんだか私はちんぷんかんぷん。
はて?私達付き合ってすらないただの後輩なんですけれど…なんてニコニコ笑顔で見つめてくるご両親の前では言えるわけなく。
そこから来週から早めにパリへ留学する設楽先輩と一緒に語学留学を兼ねて私も一緒に行くという話だった。
なんでもはば学は勉学に力を入れているので1年間の留学制度があるとのこと。
その制度を利用すれば休学しなくても留学ができ単位も取ることができるそうだ。
設楽先輩のご両親も賛成かつ、パリの学校にも申し込み済みで、生活費等も全てお支払してくれると言うことだった。
そしてお母さんから、私と出会って設楽先輩がどれだけ変わったのか力説されたかと思えば私が卒業したら早々に結婚式を上げましょうまで言う始末。
私は真顔になるのを我慢して懸命に作り笑いをしていたが、もうギブアップ。なんの冗談なの?これ?
設楽先輩に視線を移すと「緊張しているようだから自室に行くよ、新しい紅茶を持ってきてくれ。」と言うや私の手を引き自室へ連れて行ってくれた。
設楽先輩の部屋に入るとソファに座るように言われて取り敢えずフカフカのソファに腰を下ろした。
何も言えない状況の中、メイドさんが新しい紅茶をテーブルに置くと去っていった。
パタリ扉が閉まり無言の沈黙。
何が起こってるのか頭がついていけない。
「あの…、エイプリルフールまで1ヶ月近くありますよ?」とやっと声がでた私に設楽先輩がキョトンとした顔で見つめてきた。
「何を言ってるんだ?婚約のことも留学のことも本当だぞ。」
「えっ本気で言ってるんですか?」
驚愕の顔をしてる私を気にせずに設楽先輩は続ける。
「なんだ、嫌なのか?お前のご両親は俺と婚約をする話をしたら大喜びをしていたぞ?」
わかったことは今朝家に来て両親とそう言う話をしていたことくらいしか理解できない私の脳みそ。
「だから嫌とかじゃなくて…」
「どちみち遅かれ早かれお前は俺の婚約者になるんだから早くたっていいだろう?」
????何を言っているんだ?この人は?話が通じない。
私達はただの先輩後輩の仲だよね?思い返してもやっぱりそうだった。
「お前が卒業した後でもいいと思ってたんだが、お前の周りに悪い虫が沢山いすぎた。」
設楽先輩がポケットから小さな箱を取りだし蓋を開けると指輪が出てきた。
「こうすれば安全だ。これでお前の周りに悪い虫は寄ってこない。」
私の答えを聞く前に指輪を私の左手の薬指へ差し込み、
設楽先輩はそのまま指輪のついてる薬指へキスを落とした。
「来週からはずっと側にいられるな、楽しみにしてる。」
「お付き合いすらしてないのに何を言って…」
設楽先輩はため息を一つ吐く。
私、おかしいことを言ってるのだろうか?
「何がおかしいんだ?昔はお見合いをしてその日に結婚をするのが当たり前だったんだ。」
「それは昔の…」ことだから今の価値観とは違います。と言いかけた私の口には設楽先輩の口がついていた、はじめて口内に誰かの舌が入ってきて逃げようとしても絡めとられる私の舌。
やっと離されたけれど突然のことに呆然とする私をよそに真っ暗闇な瞳で設楽先輩は見つめてくる。
「安心しろ。お前が逃げなければ大切にするし嫌がることはしない。」
いや、いましたじゃん。
勝手にキスしましたじゃん。
「………もちろん身内にも優しくする。」
何も言えずにいるとノックの音が響いた。
「そろそろ昼食の時間だ。お前の両親も呼んでる。……わかってるだろ?」
何も言わない私をエスコートしてくれて両親が待っているだろう客室に通された。
楽しそうにする両親を前に何も言えなかった。
その後のことは覚えていない。
両親から、何度か設楽先輩に会っていたことを聞かされた。
私が気を使ってしまうからと内緒にしていたようだ。
そして父は設楽家と繋がりのある会社に転職をしていたことも知った。
あぁ、最近転職をした話は聞いていたけどそういうことだったのか。お給料が倍近く上がったとかありえない冗談を言ってたと思ったけどそういうことだったのか。
それでも思い切って設楽先輩と付き合ってすらないことを伝えたけれど二人は信じてくれずに逆に怒られる始末だった。
全部が怖くなったし婚約も留学もどっちも嫌で、書き置きを残して着替えとお財布だけを持ちこっそりと深夜に家を出た。
…
分岐
WestBeachに行く。
…
WestBeachに行こうかと思ったけれど、こんな深夜に行っても迷惑だし明日の朝にお邪魔をしよう。
宛もなく彷徨い思い出の教会へやってきた。
芝生にはまばらにサクラソウが生えていた。
“大切な人のもとに導いてくれる妖精の鍵”
季節はまだ2月、冷たい風が肌へささる。
静寂な空間に私のくしゃみが響きわたった。
ダメ元で教会の扉に触れると扉が開いたので朝になるまで教会にいることにした。
キラキラ輝くステンドグラスが美しい。
なんだっけ?なんか伝説があったような…?よく覚えてないや。
ステングラスを眺めながら伝説について考えてる内に眠ってしまった。
…
目を覚ますとふかふかの枕にふかふかのベット。
部屋の中はシックで高級感のある部屋に私はいる。
光指す窓に目線を移すと空が近くわけがわからない。
あれ?これは夢かな?教会にいたのに。
もう一度目をつむり夢から覚めようとしてもふかふかはなくならなかった。
現実だと気がつきたくなくてもう一度眠ろうと頑張るが眠れなかった。
暫くすると誰かが入ってくる音がした。
怖くて心臓が早く動く。
ああ、今すぐ眠って私の脳みそ。
そして一生起きないでほしい。
そんなことを思っていても現実はすぐそばに来た。
「眠りすぎだ、起きろ。」と耳に入る現実。
優しく体が揺さぶられ、私の体に触れる現実。
見たくもないが私は瞼を開けて現実を目に焼き付けた。
「お前、家出したんだってな。」
私の顔は顔面蒼白になっている。
設楽先輩はそのまま私の上に乗ってきて逃げられない状況だ。
目の前には設楽先輩の顔があってキスされた。
顔をそむけようとしても抑えられててされるがまま。
いつの日か「やーいもやしー」って設楽先輩を馬鹿にしたけど撤回しよう。
やっと口を離されて「なんで…」と声がでた私にの耳元で設楽先輩が言う。
「その指輪にはマイクロチップ型のGPSがついてるんだ。残念だったな。」
外し忘れていたことに気が付き私の馬鹿さ加減に嫌になった。
今すぐこの指輪を棄てたいと思うけど高そうだからできないなとか現実逃避をするかない。
そんな私を見下ろす設楽先輩が私の洋服をまくりあげて脱がし始めた。
やだっていってもやめてくれなくてあっという間に全裸だ。
「言ったじゃないか、逃げようとしなければ嫌がることはしないって。逃げたお前が悪いんだろ?」
その後はされるがまま。
行為のあと動けずに泣いている私に設楽先輩が愛を囁いてくる。
しばらくしてシャワーを浴びて洋服に着替えると設楽先輩もシャワーを浴びに行ったので今が絶好のチャンスだ。
指輪は適当なところに隠してから、何も持たずに扉を開けて迷路のような通路を歩き回りエレベーターを見つけ1階へボタンを押した。
きらびやかなロビーを歩き回りやっとたどり着いた出口であろう自動ドアから出ようとすると肩を叩かれて後ろを振り向くとスーツを着た厳つい人がいた。
走って逃げようとしたけれどそりゃ無理な話で私は抱えられて元いた部屋に連れ戻された。
部屋に入るとシャワーから出た設楽先輩がソファに座り待っていた。
「本当に逃げるとはな。悪いが逃げられないぞ?出発日までお前はここから出られない。」
「な、なんで、やだ。」
「ここは俺の家が経営してるホテルなんだ。廊下には監視カメラがあるから指輪を外していても全部お見通しだ。念の為に俺が留守な時は扉の前に人を置こう。」
震える私を見ながら設楽先輩はクスッと笑って続ける。
「でもお前はまた逃げ出そうとするんだろうな。」
立ち上がった設楽先輩は何かを取り出すと私の手を取りまたベットへ押し倒した。
「こうすれば安全だ。」
ベットの上で泣いている私を無視して左の足首に何かをはめる。
よく見るとピンクゴールド色をしたアンクレットだ。
「このアンクレットにもGPSがついてる。これでお前がどこに行ったのかすぐにわかる。」
起き上がって取ろうとする私の手を優しくつつみ「残念だが指輪と違って簡単にはとれない。諦めろ。」と言う設楽先輩の瞳には私以外なにも写っていなかった。
…
…
もうすぐ3年生なる私と大学生になる設楽先輩。
たまたま朝に校門で会ったので一緒に教室に向かうことにした。
「こうやっていられるのもあと少しなんですね。」
「あぁ…、卒業しても遊んでやるから悲しむなよ。」
「設楽先輩の方が悲しいくせにー」なんて軽口を叩きながら一度下駄箱で別れた。
内履きを取り出そうと自身の下駄箱を見ると手紙が入っていた。
なんだろ…?
手紙には“放課後、校舎裏に来てください。待っています。”と書かれていた。
靴を履き替えた設楽先輩が「遅い、早く履き替えろ」と文句を言いに来たけれど私のもつ手紙に視線を移し、勝手に読んできた。
「お前先週もこんなことあったよな?」
「シタラーズ先輩には負けますよ。」と返すとムッと眉間にシワを寄せた。
「思い出させるな。……お前放課後に行くのか?」
「取り敢えず行ってみます。果し状かもしれませんし。」
「果し状ならいいものだが……」
なんて会話をしながら別れた。
お昼休みのチャイムがなりお手洗いから戻る途中、数ヶ月後にはもう聞くことのできない音色が音楽室から聞こえたので勝手にお邪魔した。
「なんだ、お前か。邪魔するなよ。」
入室早々わざとらしくため息をつく設楽先輩。
「もう、こんな可愛い後輩が遊びに来たのに冷たくしないでください!」
設楽先輩はふっと笑うとまたピアノを弾き始めた。
さっきと同じ曲なのに、なんだか違う曲のように聞こえ、改めて設楽先輩はすごいなって。
暫く聞いていると音楽室の扉が開いた。
入室してきたのはコウくんだった。
「げっ琥一…。」
「おうセイちゃん、久しぶりじゃねーか。」とコウくんが軽く挨拶すると私の手を取る。
「探したぞ?弁当食わしてくれる約束してたの忘れてたな?」
コウくんは私の頭をわしゃわしゃと撫でてきた。
「きゃーやめてー」と言う私の手を引いて「時間なくなっちまうだろ、早く行くべ。」と音楽室をあとにした。
コウくんに引っ張られながら大きなお弁当を持ってルカくんと屋上へ向かった。
屋上のいい感じの日陰の場所にルカくんが待っていた。
ちらり私とコウくんの繋がれてる手を見てとうっとチョップを落としてきた。
「もう!ルカくんったら!」
「俺すごく待ってたのにそんなとこ見たくない。」
「いま準備するから待っててね?」
「じゃあお詫びにオマエが食べさせて。」
「はいはい。」
紙皿を渡し、お弁当の蓋を開けると二人は目を輝かせながら食べてくれた。
卵焼きをルカくんに食べさせると「すごく美味しい、俺これ好き。」とルカくんは少し甘めに作った卵焼きを美味しそうに食べてくれていた。
コウくんの口元にも運ぶと照れ臭そうに食べてくれた。
「オマエならいい嫁さんになれるな。」突如コウくんから発せられる言葉。
「じゃあコウくんのお嫁さんにしてね」と言い終わる前に
「ほら、オマエもあーん。」ルカくんに突如差し出されたお箸を華麗に避けることに成功した。
お昼休みの残りは10分。空っぽのお弁当箱をまとめて三人でぼーっと空を眺めていた。
「もっとオマエの弁当食べたい。」
「本当?じゃあもう少しでお花見の季節だしお弁当を持って森林公園に行こっか。」
「やった!俺楽しみにしてる。」
「お花見の時期空いてる日あったらコウくんも教えてね?」
「いつでも空けとくに決まってんだろ。」
「ふふ、楽しみだね三人でするお花見!」
「………。なんだよ…。」と呟いたルカくんの声は聞こえなかった。
そんなこんなで昼休みが終わり終礼が終わったので私は校舎裏に向かうことにした。
校舎裏に行くと同じクラスの男の子が待っていた。
「ずっと前から好きでした、付き合ってください!」と言う真剣な眼差しが私を見つめる。
彼に何かを言おうと声を出そうとするとパンパンパンパンと軽快な音とチョークの粉が風に乗せられ舞って二人でげふげふしながら目線を向けると設楽先輩が眉間にシワを寄せながら睨みつけている。
「あ、設楽先…」と話しかける私を無視して再度パンパンパンパンと黒板消しを叩く。
「ちょっ、邪魔しなゲフンゲフン」
「ゲホッこんなところにゲホッいるのが悪いんだろう。」
「設楽先輩もゲフン咳き込んでるじゃゲフンないですか。設楽先輩の下手くそ!」
設楽先輩はやっと手を止めてくれた。
「ふん、それならお前がやり方を教えてくれよ。帰りにケーキの一つくらいご馳走してやるから早く来いよ。」
そんな私達の漫才を見ていたクラスの子はぽかーんとしていた。
「ごめんね。私行ってくる。」と伝え校舎へ戻った。
設楽先輩のいる教室に入り窓から顔を出すともうその子はいなかった。
「お前に伝言がある。諦めるって言ってたぞ。」
「いつも告白されたと思えば勝手に振られてるんですよ。この間も桜井琉夏があーだこーだって言われて振られました…。」
そんな会話をしながら黒板消しを一緒に叩き終え帰りは喫茶店でケーキをごちそうになって満足である。
「お前、日曜暇だよな?」
家の近くで突如予定を聞いてきた設楽先輩に目を丸くする。
「設楽先輩?どうかしたんですか?」
「なんだよ、質問に答えろよ。」
「えっとちょっと予定が…」
私の言葉に被せるように設楽先輩が続けた。
「日曜、開けとけ。」
コウくんとバザーに行って掘り出し物を探す会でも開こうと思ってたけれど、断れる雰囲気でもなかったので承諾した。
「10時に迎えに行くからまともな格好で来いよ。」と言い残すと帰っていった。
…
目が覚めると一階が騒がしい。取り敢えず時計を見ると9時40分前、のんきしてたら遅刻しちゃうので洗面台で身なりを整え自室で洋服に着替えることに。
まともな格好で来いよって設楽先輩が言ってたけれど、わざと葉月珪抱きしめTを着ようと手に取ったが、洋服を指定されるのははじめてだったのでシックなワンピースを着ていくことに。
時計は9時55分を指している。ちょうどよいタイミングだ。階段を降りリビングに向かうと両親の声が聞こえたが私の足音に気がついたのかリビングの扉が開いた。
「遅刻しなかったな、偉いじゃないか。」
「あれ、設楽先輩どうして…?」
いつもと違い騒がしかったのは設楽先輩が家に来ていたからだった。両親はあらあらうふふとニヤニヤ見つめてくるから何がなんだかさっぱりで、私が何か言おうとする前に「ほら、行くぞ。では早朝からありがとうございました、失礼します。」と手を引く設楽先輩に連れられて外に出て家の前に停められた車に乗せられ発車した。
質問してもすぐにわかると言うので私の頭には?がついたまま設楽邸へ到着。
屋敷にお邪魔すると設楽先輩のお父さんお母さんに出迎えられそのまま客室に通された。
席につくとメイドさんが用意していた紅茶と焼き菓子が乗ったお皿を1人ずつに運んでいた。
紅茶の良い香りがして緊張していたけれどちょっとだけ楽になった。
設楽先輩が「紹介する、父と母だ。」と紹介を始めたので私もつられて自己紹介をした。
談笑をしていてしばらくすると、設楽先輩が私を婚約者にするという話が始まりなにがなんだか私はちんぷんかんぷん。
はて?私達付き合ってすらないただの後輩なんですけれど…なんてニコニコ笑顔で見つめてくるご両親の前では言えるわけなく。
そこから来週から早めにパリへ留学する設楽先輩と一緒に語学留学を兼ねて私も一緒に行くという話だった。
なんでもはば学は勉学に力を入れているので1年間の留学制度があるとのこと。
その制度を利用すれば休学しなくても留学ができ単位も取ることができるそうだ。
設楽先輩のご両親も賛成かつ、パリの学校にも申し込み済みで、生活費等も全てお支払してくれると言うことだった。
そしてお母さんから、私と出会って設楽先輩がどれだけ変わったのか力説されたかと思えば私が卒業したら早々に結婚式を上げましょうまで言う始末。
私は真顔になるのを我慢して懸命に作り笑いをしていたが、もうギブアップ。なんの冗談なの?これ?
設楽先輩に視線を移すと「緊張しているようだから自室に行くよ、新しい紅茶を持ってきてくれ。」と言うや私の手を引き自室へ連れて行ってくれた。
設楽先輩の部屋に入るとソファに座るように言われて取り敢えずフカフカのソファに腰を下ろした。
何も言えない状況の中、メイドさんが新しい紅茶をテーブルに置くと去っていった。
パタリ扉が閉まり無言の沈黙。
何が起こってるのか頭がついていけない。
「あの…、エイプリルフールまで1ヶ月近くありますよ?」とやっと声がでた私に設楽先輩がキョトンとした顔で見つめてきた。
「何を言ってるんだ?婚約のことも留学のことも本当だぞ。」
「えっ本気で言ってるんですか?」
驚愕の顔をしてる私を気にせずに設楽先輩は続ける。
「なんだ、嫌なのか?お前のご両親は俺と婚約をする話をしたら大喜びをしていたぞ?」
わかったことは今朝家に来て両親とそう言う話をしていたことくらいしか理解できない私の脳みそ。
「だから嫌とかじゃなくて…」
「どちみち遅かれ早かれお前は俺の婚約者になるんだから早くたっていいだろう?」
????何を言っているんだ?この人は?話が通じない。
私達はただの先輩後輩の仲だよね?思い返してもやっぱりそうだった。
「お前が卒業した後でもいいと思ってたんだが、お前の周りに悪い虫が沢山いすぎた。」
設楽先輩がポケットから小さな箱を取りだし蓋を開けると指輪が出てきた。
「こうすれば安全だ。これでお前の周りに悪い虫は寄ってこない。」
私の答えを聞く前に指輪を私の左手の薬指へ差し込み、
設楽先輩はそのまま指輪のついてる薬指へキスを落とした。
「来週からはずっと側にいられるな、楽しみにしてる。」
「お付き合いすらしてないのに何を言って…」
設楽先輩はため息を一つ吐く。
私、おかしいことを言ってるのだろうか?
「何がおかしいんだ?昔はお見合いをしてその日に結婚をするのが当たり前だったんだ。」
「それは昔の…」ことだから今の価値観とは違います。と言いかけた私の口には設楽先輩の口がついていた、はじめて口内に誰かの舌が入ってきて逃げようとしても絡めとられる私の舌。
やっと離されたけれど突然のことに呆然とする私をよそに真っ暗闇な瞳で設楽先輩は見つめてくる。
「安心しろ。お前が逃げなければ大切にするし嫌がることはしない。」
いや、いましたじゃん。
勝手にキスしましたじゃん。
「………もちろん身内にも優しくする。」
何も言えずにいるとノックの音が響いた。
「そろそろ昼食の時間だ。お前の両親も呼んでる。……わかってるだろ?」
何も言わない私をエスコートしてくれて両親が待っているだろう客室に通された。
楽しそうにする両親を前に何も言えなかった。
その後のことは覚えていない。
両親から、何度か設楽先輩に会っていたことを聞かされた。
私が気を使ってしまうからと内緒にしていたようだ。
そして父は設楽家と繋がりのある会社に転職をしていたことも知った。
あぁ、最近転職をした話は聞いていたけどそういうことだったのか。お給料が倍近く上がったとかありえない冗談を言ってたと思ったけどそういうことだったのか。
それでも思い切って設楽先輩と付き合ってすらないことを伝えたけれど二人は信じてくれずに逆に怒られる始末だった。
全部が怖くなったし婚約も留学もどっちも嫌で、書き置きを残して着替えとお財布だけを持ちこっそりと深夜に家を出た。
…
分岐
WestBeachに行く。
…
WestBeachに行こうかと思ったけれど、こんな深夜に行っても迷惑だし明日の朝にお邪魔をしよう。
宛もなく彷徨い思い出の教会へやってきた。
芝生にはまばらにサクラソウが生えていた。
“大切な人のもとに導いてくれる妖精の鍵”
季節はまだ2月、冷たい風が肌へささる。
静寂な空間に私のくしゃみが響きわたった。
ダメ元で教会の扉に触れると扉が開いたので朝になるまで教会にいることにした。
キラキラ輝くステンドグラスが美しい。
なんだっけ?なんか伝説があったような…?よく覚えてないや。
ステングラスを眺めながら伝説について考えてる内に眠ってしまった。
…
目を覚ますとふかふかの枕にふかふかのベット。
部屋の中はシックで高級感のある部屋に私はいる。
光指す窓に目線を移すと空が近くわけがわからない。
あれ?これは夢かな?教会にいたのに。
もう一度目をつむり夢から覚めようとしてもふかふかはなくならなかった。
現実だと気がつきたくなくてもう一度眠ろうと頑張るが眠れなかった。
暫くすると誰かが入ってくる音がした。
怖くて心臓が早く動く。
ああ、今すぐ眠って私の脳みそ。
そして一生起きないでほしい。
そんなことを思っていても現実はすぐそばに来た。
「眠りすぎだ、起きろ。」と耳に入る現実。
優しく体が揺さぶられ、私の体に触れる現実。
見たくもないが私は瞼を開けて現実を目に焼き付けた。
「お前、家出したんだってな。」
私の顔は顔面蒼白になっている。
設楽先輩はそのまま私の上に乗ってきて逃げられない状況だ。
目の前には設楽先輩の顔があってキスされた。
顔をそむけようとしても抑えられててされるがまま。
いつの日か「やーいもやしー」って設楽先輩を馬鹿にしたけど撤回しよう。
やっと口を離されて「なんで…」と声がでた私にの耳元で設楽先輩が言う。
「その指輪にはマイクロチップ型のGPSがついてるんだ。残念だったな。」
外し忘れていたことに気が付き私の馬鹿さ加減に嫌になった。
今すぐこの指輪を棄てたいと思うけど高そうだからできないなとか現実逃避をするかない。
そんな私を見下ろす設楽先輩が私の洋服をまくりあげて脱がし始めた。
やだっていってもやめてくれなくてあっという間に全裸だ。
「言ったじゃないか、逃げようとしなければ嫌がることはしないって。逃げたお前が悪いんだろ?」
その後はされるがまま。
行為のあと動けずに泣いている私に設楽先輩が愛を囁いてくる。
しばらくしてシャワーを浴びて洋服に着替えると設楽先輩もシャワーを浴びに行ったので今が絶好のチャンスだ。
指輪は適当なところに隠してから、何も持たずに扉を開けて迷路のような通路を歩き回りエレベーターを見つけ1階へボタンを押した。
きらびやかなロビーを歩き回りやっとたどり着いた出口であろう自動ドアから出ようとすると肩を叩かれて後ろを振り向くとスーツを着た厳つい人がいた。
走って逃げようとしたけれどそりゃ無理な話で私は抱えられて元いた部屋に連れ戻された。
部屋に入るとシャワーから出た設楽先輩がソファに座り待っていた。
「本当に逃げるとはな。悪いが逃げられないぞ?出発日までお前はここから出られない。」
「な、なんで、やだ。」
「ここは俺の家が経営してるホテルなんだ。廊下には監視カメラがあるから指輪を外していても全部お見通しだ。念の為に俺が留守な時は扉の前に人を置こう。」
震える私を見ながら設楽先輩はクスッと笑って続ける。
「でもお前はまた逃げ出そうとするんだろうな。」
立ち上がった設楽先輩は何かを取り出すと私の手を取りまたベットへ押し倒した。
「こうすれば安全だ。」
ベットの上で泣いている私を無視して左の足首に何かをはめる。
よく見るとピンクゴールド色をしたアンクレットだ。
「このアンクレットにもGPSがついてる。これでお前がどこに行ったのかすぐにわかる。」
起き上がって取ろうとする私の手を優しくつつみ「残念だが指輪と違って簡単にはとれない。諦めろ。」と言う設楽先輩の瞳には私以外なにも写っていなかった。
…