短編
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…
教会で琉夏くんにサクラソウをもらった翌日、引っ越し予定と聞かされていたのに急遽取り止めになった。
まぁ、そこからなんやかんや、桜井家とは家族ぐるみで仲良くなり、幼馴染とは小学校、中学とずっと一緒に過ごしている。
…
「そう言えばオマエの初恋っていつ?」
人の家のベットで棒付きのアメちゃんを食べながら遠慮なく寛ぐ幼馴染が、人の枕を抱きしめながら聞いてきた。
突然の質問に飲みかけのお茶を慌てて飲み込んでしまい噎せてしまった。
「うぉっほげっほうぇっほん」
「大丈夫?」
起き上がってきた幼馴染は隣に座ると背中を優しく撫でてくれ、おかげで落ち着いたのかはわからないがやっとマシになってきた。
「ふぅ、ありがとう。琉夏くん。」
ありがとうもなにも、琉夏くんがおかしなことを聞いてこなければこうはならなかったけどな。とは嬉しそうに笑う姿を見てしまえば我慢だ。
「それで?美奈子の初恋はいつ?」
「えー、まだその話続けるの?」
「教えないとコチョコチョ攻撃だ!」
遠慮なく押し倒してきた琉夏くんは馬乗りになりながら脇腹に触れようとしてきた。
「言うから言うから!ごめんなさい!」
幼馴染とはいえ私は女子、それもうら若き乙女だ。幼馴染歴が長過ぎてそのことを忘れてるのだろうか?琉夏くんは。私を“ただの幼馴染”としか見ていないのは明白だ。
「お前が教えないのが悪いんだろ。」
「もう!もう!琉夏くんの馬鹿!」
やっとどいてくれた琉夏くんは私を起き上がらせると「もう!もう!」言っている私の口に食べていたアメちゃんを突っ込んできた。
「お前、この味好きだろ?」
「琉夏くんも小さい頃から好きだよね、これ。」
口にストロベリークリームの甘みが広がり、その瞬間、周りはサクラソウで沢山のお花畑に変わった気がした。
あ、そう言えば小さい頃も口の中にアメちゃん突っ込まれな。あ、まるでこの味は初恋のような味だ。なんて素敵なキャッチコピーを考えてみたり。
「それで?」
「ん…ちょっと待って。」
もやもやと過去の恋愛の出来事を思い出すことができたのは、やっぱりこのアメちゃんのおかげなのかもしれない。
中学、高校と共に一日で自然消滅になる率100%、告白をする前に振られる率100%
思い出すと胸が痛んだ。私の何がだめだったのだ。
小さくため息を吐くと琉夏くんがアメちゃんの棒を引っこ抜き、また自身の口内へ戻した。
「幸せ逃げちゃうよ?」
「いやぁ、私も、少女漫画みたいな恋がしたかったなって。」
「それは残念だったね。今から俺とする?」とニヤニヤ笑う幼馴染は最低だ。
「それで?初恋は?」
あの頃の琉夏くんもコウくんも可愛かったな〜。私はあの頃から…
「えっと…その…」
ふと、脳裏に思い浮かんだのは、キラキラの海に一度しかあったことのない男の子だ。とっても優しくて、私を人魚だと言ってくれたんだっけ。それで…
「あ…!えっとね、多分5、6歳頃。」
「もしかして…それって…」
「引っ越しは結局無しになったけどさ、無しになる前にはばたき市の思い出を作る為に海に行ったんだよ。」
「……え?」
「その時に両親とはぐれちゃって、…それでその、男の子が泣いてる私を励ましてくれて…、まぁ、うん。そんな感じ。」
今日まですっかり記憶はなかったが、それが初恋であり、初キッスの思い出です。と心の中で呟いた。
初キッスのことを言わなかったのは、琉夏くんに知られたくなかったからかもしれない。
「へぇ……?そんな事あったんだ。初めて聞いた。それで?他にも隠してるでしょ。」
「いや、今ふと思い出したから知らないし。」
やばい思い出すと顔が赤くなってきた。琉夏くんにバレる。
「もしかしてキスしたんだ?」
「うっ」
一瞬で見透かされてしまうとは思わず、否定も肯定もできなかった。
静かな部屋に「ガリリッ」と琉夏くんの口内でアメちゃんが砕かれる音が聞こえた。
「ふぅん、で、ソイツとはその後会えた?」
「会えるわけないでしょ。海にも行ってないし、名前とか住んでるとこ聞いてないし、今思い出したし。」
「ねぇ、小さい頃に羽学に行きたがってたのもそれが理由?」
「うっ!い、いや、その日、海から帰る途中に羽学の制服を見かけて可愛いなってずっと思ってただけだし。」
「まぁ“はば学”を受験したからいいけど。」
本当は第一希望は“羽学”だったが、琉夏くんと少し距離を置こうと思って“はば学”を受験したのだ。まぁ、いつの間にか琉夏くんも合格をしていたからそれなら“羽学”に行けばよかったとちょっと思ったりもする。
「でも、俺、安心した。」
「なにが?」
「初恋は実らないって言うでしょ?」
「へ…?あ…そう…なんだ…?」
「うん、だからお前の初恋は実らずに終わるの。」
「5歳くらいの時に一回しか会ったことないのに実るほうが怖いよ。」
「ははっ確かにそうだ。」
初恋だとかはどうであれ、勝手に実らないと断言する琉夏くんはちょっと酷い気がする。
私も言い返したかったので「じゃあ琉夏くんの初恋は?」と聞くもにっこり笑顔だ。
「俺の初恋は初恋なんてとうに超えてもう結婚レベルだから大丈夫。」
「……へ、へぇ、なんて都合のいい解釈だこと。結婚できるといいね。」
「うん、できるんじゃなくて、するから。安心して?」
「ははは……そうなのね。」
琉夏くんの初恋は誰だろう…?
“初恋は実らない。”のなら、“多分初恋”ではない琉夏くんと私は結ばれる可能性もあるのでは…?と思ったが、彼の初恋は成就するらしいので結ばれることはない。
チクチクと胸は痛むし、苦しい。わかってる、琉夏くんは私のことを“ただの幼馴染”としか見てないことなんて。
本当は琉夏くんが女の子に囲まれてるところを見たくなかったので、琉夏くんが来ないであろうはば学を選んだのに、なんで…。
離れると離れたで寂しかったので、一緒に学園生活を送れて良かったと思ってしまう自分が悔しい。私、琉夏くんのこと好きすぎじゃないか。
琉夏くんが家に帰り、琉夏くんの香がほんのりと残るベットでゴロゴロと寝そべりながらそんなことを考えていた。
なんとなく初恋の海を思い出したので、“はばたきネット”で海までの電車のルートを調べつつ、ついでに周辺の美味しいごはん屋さんのサイトを巡回していると、何やら素敵な喫茶店があるではないか。
ホームページを押したが求職サイトのURLだったようで、“喫茶珊瑚礁”の求人票がでてきた。
待遇ヨシ!仕事内容ヨシ!客層もヨシ!指差し確認ヨシ!だ。アルバイトをすることで、琉夏くん離れもできると思うのが一番のヨシ!
そのままヨシ!のノリでアルバイト募集に連絡をし、早速採用の連絡を頂いた。
…
アルバイトをして、半年以上が立った。ひょんなことで、アルバイト先の同僚の佐伯くんが海で出会った男の子だとわかり、そこからなんやかんや佐伯くんに告白された。確かに私も思う、運命の再会だって。
私も佐伯くんと会うたびに惹かれていたのは事実、晴れてお付き合いをすることになった。
脳裏に一瞬琉夏くんが浮かんだけれど、やっと琉夏くん離れができる喜びと、“多分初恋”の佐伯くんとお付き合いできる喜びの2つの感情が湧いた。
いつも一日で自然消滅をしていた私だが、もう一ヶ月も佐伯くんと相変わらず仲良くお付き合いが続き、会うたびにときめきが増えていく一方だ。
佐伯くんが運命の人だったのだと改めて感じてしまう。
自然消滅をしたと伝えるとニヤニヤ笑っていた琉夏くんに、今回は自信を持って報告ができる。
今日も相変わらず人の部屋でゴロゴロしている琉夏くんを気にせずに、PS2の電源をいれて大好きなゲームをしながら、佐伯くんの旨を話すことにした。
「あのね、琉夏くん。私ね、人生初彼氏できたよ。」
「……へ?」
「一瞬で自然消滅の私がついに一ヶ月も続いてるの!」
「………」
「それに“多分初恋”の男の子が初彼氏だよ!やっぱり運命ってあるんだね!!ってこれ初スチルじゃん!やばっ!」
画面に映るはじめて見るスチルと、報告したことで心臓はドッキドキだ。
「……俺の…初恋が実らないってことか………そんなの認めるわけないじゃん。」
やっと報告できた安堵でホッとしていた私に、琉夏くんの一人言は、耳には入らなかった。
…
ある夜、携帯が震えディスプレイを見ると琉夏くんからだった。
「ねぇ、久しぶりにドライブしようよ。」
「いいね、夜遊び最高。」
星空の下、琉夏くんが運転するバイクの後ろへと腰掛けた。
赤信号で止まった時、なんとなく背中に頭を預けると、ヘルメット越しからも大好きだった幼馴染の香りがふんわりと香った。
もしも琉夏くんと付き合うことができてたら、これからもずっとこうして過ごせたのに。
なんて、今はもう琉夏くんに彼女ができても胸が痛むことなんてない。佐伯くんが大好きだからだ。
でも、琉夏くんに彼女ができるまで幼馴染としてもう少しだけ一緒に過ごしたい。
「どうした…?」
「ふふ、幼馴染っていいなって。」
「……。」
青信号になるまでしばらく待ったが琉夏くんは何も言わなかった。
やっと信号を抜けたバイクは珊瑚礁のある浜辺へ止まった。街頭はあるが海の方は薄暗い。
バイクを降り、珊瑚礁へ視線を向けると当たり前だがもう電気はついていなかった。
砂浜まで降り星を眺めながら琉夏くんと宛もなく歩いた。
「誰もいないね。」
「琉夏くんと世界で二人きりって感じがする。」
「……本当にそうだったらいいのに。」と呟いた声は波の音で消された。
「なんか一生このままでもいいかも。」
波の音と琉夏くんの声と満点の星空。幻想的な光景に素直にそう思った。
「…。」
たまに「星がきれいだね。」とか、「流れ星だ!うっそぴょ〜ん」とか。他愛も無い会話と居心地の良い無言を楽しみ、腰を下ろす琉夏くんに続き隣へ座った。
「この辺りが初恋の思い出の海?」
「ふふ、“一応”そうかも。」
「……へぇ。」
「…でも…」
突然、琉夏くんに押し倒された。昼と違い冷えた砂は背中をゾクゾクと凍りつかせ、本来言いたかった言葉が出てこなかった。
「る、琉夏くん、重いよ。」
いつもなら、「もう!琉夏くん!」なんて言えたはずなのに声が小刻みに揺れていることが自分自身でもわかる。琉夏くんもわかってるはずだ。
ほんのり月明かりで照らされた琉夏くんは眼光は鋭く、私の知っている幼馴染の顔ではなくなっていた。
硬直し動けない私に琉夏くんはキスをした。
小さい頃に佐伯くんがしてくれたようなキスではなく、深く深く欲望に塗れたドロドロのものだ。
「初恋の思い出、汚れちゃったね。」
「な…なんで…」
「二度と思い出したくないことしてあげる。」
「琉夏くん待っ…」
抵抗むなしく私は全てを脱がされてしまった。いくら泣いても波の音で声が聞こえないのか、琉夏くんは体に触れるのをやめなかった。
琉夏くんの汗と、塩で体も全部がベトベトだ。二度と海なんか来たくないと心から思った。
「これでオマエは俺のもの。他の誰にも渡さない。」
先ほどとは変わり、琉夏くんはぎゅっと優しく抱きしめてきた。大好きな琉夏くんだ。
大好きなのに体の震えは止まらず、涙が溢れる。確実に言えるのは悲しいからだ。
「俺のこと嫌いになった…?」
無言の私の代わりに、うみねこがみゃーみゃーと鳴いていた。辺りはもう明るくなってきている。
慌てて起き上がると、体に襲う痛みとダルさ。我慢しながら落ちている下着や洋服の砂を払い袖を通し、家に帰るためにその場を後にした。
もちろん琉夏くんも慌てて追いかけてきて髪の毛についていた砂を優しく払い、無理やり手を繋いでくるとバイクの前まで連れられた。
いつものようにヘルメットを渡してくる琉夏くん。でももう、そのヘルメットを受け取るつもりはない。
「どしたの?」
琉夏くんはいつも以上にニコニコと笑っている。なぜ、平然としていられるのだろうか?
「……ねぇ、俺の側から離れるなんて許さないよ。」
琉夏くんの瞳が真っ直ぐに私を射抜いていた。
ずっと大好きだった幼馴染に恐怖を感じたのははじめてだった。その視線から逃げるように海の方へ視線を向けると、私の心と違い、海はキラキラと朝日が反射していた。
「初恋は実らないって本当なんだね、琉夏くん。」
「…なに…?アイツのこと?」
酷く冷たい声で琉夏くんは言い放った。
「……オマエに近寄る悪い虫を潰してきたのに、今更他のヤツに譲れるわけないだろ?」
その言葉ですべてが腑に落ちた。
私が好きだと自覚してすぐに告白していたらずっとずっと一緒にいられたのに。
全部が悲しくて涙が止まらない私に琉夏くんは「なんで泣いてんの?」と変わらず冷たく言い放った。
「琉夏くん、私ね、本当は琉夏くんが初恋だよ。」
伝えたかったことをやっと言葉にし、家に向かって歩き出す私を琉夏くんがどんな表情で見ていたのかは知らない。
…
教会で琉夏くんにサクラソウをもらった翌日、引っ越し予定と聞かされていたのに急遽取り止めになった。
まぁ、そこからなんやかんや、桜井家とは家族ぐるみで仲良くなり、幼馴染とは小学校、中学とずっと一緒に過ごしている。
…
「そう言えばオマエの初恋っていつ?」
人の家のベットで棒付きのアメちゃんを食べながら遠慮なく寛ぐ幼馴染が、人の枕を抱きしめながら聞いてきた。
突然の質問に飲みかけのお茶を慌てて飲み込んでしまい噎せてしまった。
「うぉっほげっほうぇっほん」
「大丈夫?」
起き上がってきた幼馴染は隣に座ると背中を優しく撫でてくれ、おかげで落ち着いたのかはわからないがやっとマシになってきた。
「ふぅ、ありがとう。琉夏くん。」
ありがとうもなにも、琉夏くんがおかしなことを聞いてこなければこうはならなかったけどな。とは嬉しそうに笑う姿を見てしまえば我慢だ。
「それで?美奈子の初恋はいつ?」
「えー、まだその話続けるの?」
「教えないとコチョコチョ攻撃だ!」
遠慮なく押し倒してきた琉夏くんは馬乗りになりながら脇腹に触れようとしてきた。
「言うから言うから!ごめんなさい!」
幼馴染とはいえ私は女子、それもうら若き乙女だ。幼馴染歴が長過ぎてそのことを忘れてるのだろうか?琉夏くんは。私を“ただの幼馴染”としか見ていないのは明白だ。
「お前が教えないのが悪いんだろ。」
「もう!もう!琉夏くんの馬鹿!」
やっとどいてくれた琉夏くんは私を起き上がらせると「もう!もう!」言っている私の口に食べていたアメちゃんを突っ込んできた。
「お前、この味好きだろ?」
「琉夏くんも小さい頃から好きだよね、これ。」
口にストロベリークリームの甘みが広がり、その瞬間、周りはサクラソウで沢山のお花畑に変わった気がした。
あ、そう言えば小さい頃も口の中にアメちゃん突っ込まれな。あ、まるでこの味は初恋のような味だ。なんて素敵なキャッチコピーを考えてみたり。
「それで?」
「ん…ちょっと待って。」
もやもやと過去の恋愛の出来事を思い出すことができたのは、やっぱりこのアメちゃんのおかげなのかもしれない。
中学、高校と共に一日で自然消滅になる率100%、告白をする前に振られる率100%
思い出すと胸が痛んだ。私の何がだめだったのだ。
小さくため息を吐くと琉夏くんがアメちゃんの棒を引っこ抜き、また自身の口内へ戻した。
「幸せ逃げちゃうよ?」
「いやぁ、私も、少女漫画みたいな恋がしたかったなって。」
「それは残念だったね。今から俺とする?」とニヤニヤ笑う幼馴染は最低だ。
「それで?初恋は?」
あの頃の琉夏くんもコウくんも可愛かったな〜。私はあの頃から…
「えっと…その…」
ふと、脳裏に思い浮かんだのは、キラキラの海に一度しかあったことのない男の子だ。とっても優しくて、私を人魚だと言ってくれたんだっけ。それで…
「あ…!えっとね、多分5、6歳頃。」
「もしかして…それって…」
「引っ越しは結局無しになったけどさ、無しになる前にはばたき市の思い出を作る為に海に行ったんだよ。」
「……え?」
「その時に両親とはぐれちゃって、…それでその、男の子が泣いてる私を励ましてくれて…、まぁ、うん。そんな感じ。」
今日まですっかり記憶はなかったが、それが初恋であり、初キッスの思い出です。と心の中で呟いた。
初キッスのことを言わなかったのは、琉夏くんに知られたくなかったからかもしれない。
「へぇ……?そんな事あったんだ。初めて聞いた。それで?他にも隠してるでしょ。」
「いや、今ふと思い出したから知らないし。」
やばい思い出すと顔が赤くなってきた。琉夏くんにバレる。
「もしかしてキスしたんだ?」
「うっ」
一瞬で見透かされてしまうとは思わず、否定も肯定もできなかった。
静かな部屋に「ガリリッ」と琉夏くんの口内でアメちゃんが砕かれる音が聞こえた。
「ふぅん、で、ソイツとはその後会えた?」
「会えるわけないでしょ。海にも行ってないし、名前とか住んでるとこ聞いてないし、今思い出したし。」
「ねぇ、小さい頃に羽学に行きたがってたのもそれが理由?」
「うっ!い、いや、その日、海から帰る途中に羽学の制服を見かけて可愛いなってずっと思ってただけだし。」
「まぁ“はば学”を受験したからいいけど。」
本当は第一希望は“羽学”だったが、琉夏くんと少し距離を置こうと思って“はば学”を受験したのだ。まぁ、いつの間にか琉夏くんも合格をしていたからそれなら“羽学”に行けばよかったとちょっと思ったりもする。
「でも、俺、安心した。」
「なにが?」
「初恋は実らないって言うでしょ?」
「へ…?あ…そう…なんだ…?」
「うん、だからお前の初恋は実らずに終わるの。」
「5歳くらいの時に一回しか会ったことないのに実るほうが怖いよ。」
「ははっ確かにそうだ。」
初恋だとかはどうであれ、勝手に実らないと断言する琉夏くんはちょっと酷い気がする。
私も言い返したかったので「じゃあ琉夏くんの初恋は?」と聞くもにっこり笑顔だ。
「俺の初恋は初恋なんてとうに超えてもう結婚レベルだから大丈夫。」
「……へ、へぇ、なんて都合のいい解釈だこと。結婚できるといいね。」
「うん、できるんじゃなくて、するから。安心して?」
「ははは……そうなのね。」
琉夏くんの初恋は誰だろう…?
“初恋は実らない。”のなら、“多分初恋”ではない琉夏くんと私は結ばれる可能性もあるのでは…?と思ったが、彼の初恋は成就するらしいので結ばれることはない。
チクチクと胸は痛むし、苦しい。わかってる、琉夏くんは私のことを“ただの幼馴染”としか見てないことなんて。
本当は琉夏くんが女の子に囲まれてるところを見たくなかったので、琉夏くんが来ないであろうはば学を選んだのに、なんで…。
離れると離れたで寂しかったので、一緒に学園生活を送れて良かったと思ってしまう自分が悔しい。私、琉夏くんのこと好きすぎじゃないか。
琉夏くんが家に帰り、琉夏くんの香がほんのりと残るベットでゴロゴロと寝そべりながらそんなことを考えていた。
なんとなく初恋の海を思い出したので、“はばたきネット”で海までの電車のルートを調べつつ、ついでに周辺の美味しいごはん屋さんのサイトを巡回していると、何やら素敵な喫茶店があるではないか。
ホームページを押したが求職サイトのURLだったようで、“喫茶珊瑚礁”の求人票がでてきた。
待遇ヨシ!仕事内容ヨシ!客層もヨシ!指差し確認ヨシ!だ。アルバイトをすることで、琉夏くん離れもできると思うのが一番のヨシ!
そのままヨシ!のノリでアルバイト募集に連絡をし、早速採用の連絡を頂いた。
…
アルバイトをして、半年以上が立った。ひょんなことで、アルバイト先の同僚の佐伯くんが海で出会った男の子だとわかり、そこからなんやかんや佐伯くんに告白された。確かに私も思う、運命の再会だって。
私も佐伯くんと会うたびに惹かれていたのは事実、晴れてお付き合いをすることになった。
脳裏に一瞬琉夏くんが浮かんだけれど、やっと琉夏くん離れができる喜びと、“多分初恋”の佐伯くんとお付き合いできる喜びの2つの感情が湧いた。
いつも一日で自然消滅をしていた私だが、もう一ヶ月も佐伯くんと相変わらず仲良くお付き合いが続き、会うたびにときめきが増えていく一方だ。
佐伯くんが運命の人だったのだと改めて感じてしまう。
自然消滅をしたと伝えるとニヤニヤ笑っていた琉夏くんに、今回は自信を持って報告ができる。
今日も相変わらず人の部屋でゴロゴロしている琉夏くんを気にせずに、PS2の電源をいれて大好きなゲームをしながら、佐伯くんの旨を話すことにした。
「あのね、琉夏くん。私ね、人生初彼氏できたよ。」
「……へ?」
「一瞬で自然消滅の私がついに一ヶ月も続いてるの!」
「………」
「それに“多分初恋”の男の子が初彼氏だよ!やっぱり運命ってあるんだね!!ってこれ初スチルじゃん!やばっ!」
画面に映るはじめて見るスチルと、報告したことで心臓はドッキドキだ。
「……俺の…初恋が実らないってことか………そんなの認めるわけないじゃん。」
やっと報告できた安堵でホッとしていた私に、琉夏くんの一人言は、耳には入らなかった。
…
ある夜、携帯が震えディスプレイを見ると琉夏くんからだった。
「ねぇ、久しぶりにドライブしようよ。」
「いいね、夜遊び最高。」
星空の下、琉夏くんが運転するバイクの後ろへと腰掛けた。
赤信号で止まった時、なんとなく背中に頭を預けると、ヘルメット越しからも大好きだった幼馴染の香りがふんわりと香った。
もしも琉夏くんと付き合うことができてたら、これからもずっとこうして過ごせたのに。
なんて、今はもう琉夏くんに彼女ができても胸が痛むことなんてない。佐伯くんが大好きだからだ。
でも、琉夏くんに彼女ができるまで幼馴染としてもう少しだけ一緒に過ごしたい。
「どうした…?」
「ふふ、幼馴染っていいなって。」
「……。」
青信号になるまでしばらく待ったが琉夏くんは何も言わなかった。
やっと信号を抜けたバイクは珊瑚礁のある浜辺へ止まった。街頭はあるが海の方は薄暗い。
バイクを降り、珊瑚礁へ視線を向けると当たり前だがもう電気はついていなかった。
砂浜まで降り星を眺めながら琉夏くんと宛もなく歩いた。
「誰もいないね。」
「琉夏くんと世界で二人きりって感じがする。」
「……本当にそうだったらいいのに。」と呟いた声は波の音で消された。
「なんか一生このままでもいいかも。」
波の音と琉夏くんの声と満点の星空。幻想的な光景に素直にそう思った。
「…。」
たまに「星がきれいだね。」とか、「流れ星だ!うっそぴょ〜ん」とか。他愛も無い会話と居心地の良い無言を楽しみ、腰を下ろす琉夏くんに続き隣へ座った。
「この辺りが初恋の思い出の海?」
「ふふ、“一応”そうかも。」
「……へぇ。」
「…でも…」
突然、琉夏くんに押し倒された。昼と違い冷えた砂は背中をゾクゾクと凍りつかせ、本来言いたかった言葉が出てこなかった。
「る、琉夏くん、重いよ。」
いつもなら、「もう!琉夏くん!」なんて言えたはずなのに声が小刻みに揺れていることが自分自身でもわかる。琉夏くんもわかってるはずだ。
ほんのり月明かりで照らされた琉夏くんは眼光は鋭く、私の知っている幼馴染の顔ではなくなっていた。
硬直し動けない私に琉夏くんはキスをした。
小さい頃に佐伯くんがしてくれたようなキスではなく、深く深く欲望に塗れたドロドロのものだ。
「初恋の思い出、汚れちゃったね。」
「な…なんで…」
「二度と思い出したくないことしてあげる。」
「琉夏くん待っ…」
抵抗むなしく私は全てを脱がされてしまった。いくら泣いても波の音で声が聞こえないのか、琉夏くんは体に触れるのをやめなかった。
琉夏くんの汗と、塩で体も全部がベトベトだ。二度と海なんか来たくないと心から思った。
「これでオマエは俺のもの。他の誰にも渡さない。」
先ほどとは変わり、琉夏くんはぎゅっと優しく抱きしめてきた。大好きな琉夏くんだ。
大好きなのに体の震えは止まらず、涙が溢れる。確実に言えるのは悲しいからだ。
「俺のこと嫌いになった…?」
無言の私の代わりに、うみねこがみゃーみゃーと鳴いていた。辺りはもう明るくなってきている。
慌てて起き上がると、体に襲う痛みとダルさ。我慢しながら落ちている下着や洋服の砂を払い袖を通し、家に帰るためにその場を後にした。
もちろん琉夏くんも慌てて追いかけてきて髪の毛についていた砂を優しく払い、無理やり手を繋いでくるとバイクの前まで連れられた。
いつものようにヘルメットを渡してくる琉夏くん。でももう、そのヘルメットを受け取るつもりはない。
「どしたの?」
琉夏くんはいつも以上にニコニコと笑っている。なぜ、平然としていられるのだろうか?
「……ねぇ、俺の側から離れるなんて許さないよ。」
琉夏くんの瞳が真っ直ぐに私を射抜いていた。
ずっと大好きだった幼馴染に恐怖を感じたのははじめてだった。その視線から逃げるように海の方へ視線を向けると、私の心と違い、海はキラキラと朝日が反射していた。
「初恋は実らないって本当なんだね、琉夏くん。」
「…なに…?アイツのこと?」
酷く冷たい声で琉夏くんは言い放った。
「……オマエに近寄る悪い虫を潰してきたのに、今更他のヤツに譲れるわけないだろ?」
その言葉ですべてが腑に落ちた。
私が好きだと自覚してすぐに告白していたらずっとずっと一緒にいられたのに。
全部が悲しくて涙が止まらない私に琉夏くんは「なんで泣いてんの?」と変わらず冷たく言い放った。
「琉夏くん、私ね、本当は琉夏くんが初恋だよ。」
伝えたかったことをやっと言葉にし、家に向かって歩き出す私を琉夏くんがどんな表情で見ていたのかは知らない。
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