短編
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…
今日もバイト先の喫茶珊瑚礁で一働きを終え、ヘトヘトだ。
「佐伯くん、お疲れ様。」
「あぁ、お疲れ様。疲れたなら休んでていいぞ?」
「それはお互い様でしょ!」
雑誌で紹介されたおかげで連日大盛況。その疲れのせいなのか、ボーッとしてしまい濡れている床に気が付かず足を滑らせてしまった。
「あっ」
「あぶなっ」
ちゅっ
支えてくれようとした佐伯くんを押し倒すように倒れてしまった私。
そして口と口がぶつかった感触。これは事故だ、ノーカウント。
「お前…やっぱり…」
一瞬で立ち上がって謝ろうとしたけど目を見開いて驚いちゃってるよ。
「本当にごめんなさい!私が足を滑らせたせいで!事故だから忘れて過去を捨てて明日を見よう!」
精一杯のフォローをして床に座りっぱなしの佐伯くんに手を差し伸べると私の手を取ると立ってくれた。
ほっ、良かった。
こんな事でバイト先の人間関係が悪くなるなんて嫌だもん。
私のフォローに少しムッとした佐伯くんは「何言ってんだ、捨てられない過去だって誰にも持ってるだろ。お前だって。」と私を睨みつけてきた。なにか大切な過去でもあるのだろう。
そして私も幼馴染と隠れんぼをした大切な思い出は捨てられるわけない。
「でも今のは忘れてね。」
「あー、うん。多分。」
私だってうら若き恋に恋する女子高生。ちょっとくらい照れるんだから早く忘れてほしいよ!もう!
「多分じゃないの、もう!」
「ウルサイ、お前がこれ以上いると片付けが終わらないからもう帰れ。」
「え?本当?ラッキー。」
内心恥ずかしいのは本当だし、体は疲れているのでその申し出はラッキーだ。
お言葉に甘えてすぐに珊瑚礁の制服から着替え、「じゃあね、佐伯くん。」と逃げた。
仕事をほったらかして帰ったのが申し訳なくてやっぱり戻るか、戻らないか考えて歩いていると石焼き芋を売る車が止まっていた。
来週会って気まずいのは嫌だし、大きい石焼き芋を一つ購入して珊瑚礁へ戻り、扉についてるガラス窓を覗くと佐伯くんは椅子に座って机に頭を乗せうつ伏せになっていた。
それも片付けが途中のままだ。
そうだよね、佐伯くんのほうが疲れているのに。
扉に手をかけると鍵がかかっていたので扉の前で「佐伯くーん」と呼ぶと気がついてないのか頭を上げてキョロキョロしているからそれが面白くて、少し観察してるとやっと気が付き恥ずかしくなったのか顔を赤くしながら扉を開けてくれた。
「何しに戻ってきたんだよ。」
「帰ったと思ったでしょう?うそぴょ〜ん。」
帰りかけてたけどね。
「ごめんね。少し歩いたら石焼き芋が売ってたから買ってきちゃった。片付けたら一緒に食べよ?」
「…!ウルサイ、お前が戻ってくると思って残しておいたんだ。早く片付けるぞ。」
気を取り直してぱぱっと片付けて二人仲良く半分個して焼き芋を食べた。
大きい方は佐伯くんにあげたのでさっきの件はなしってことでいいよね。
すっかりあの件を忘れて相変わらず忙しかったお仕事を終えた。
「なぁ、今週の日曜日暇か?」
…?どうしたんたろ、なにかお店手伝ってほしいことでもあるのかな?
でも幼馴染に遊園地に誘われているのでお断りをした。楽しみすぎて寝られない。ごめん、本当はちゃんと寝てるよ。
「ごめんね、その日はもう用事があるんだ。」
「そっか、わかった。また誘う。」
「うん、誘ってくれてありがとう。手伝えることがあったらまた言ってね?」
「…?。ほら、もう遅いだろう、お父さん送ってあげるから帰るぞ。」
「はーいお父さん。」
二人で外に出ると「手袋しないと寒いだろ。」と差出された手に驚きつつ寒かったのでありがたくその手をとった。
結構遠いいいのに佐伯くんは家の前まで送ってくれた。
…
日曜日、幼馴染のバイクに乗って遊園地へ来た。幼馴染がお手洗い行っている間に近くのおみやげコーナーを見ているとオシャレなストラップを発見した。
このストラップお揃いでつけられたらな…、いや違うそんな下心なんかない!チケットのお礼のお揃いだ!だってチケットもお揃いだもん。
レジに持っていこうと手に取ると、佐伯くんとそのお友達らしき御一行が側を通った。
佐伯くんは私に気がつくとお友達らしき御一行になにか言うとこっちにやってきた。
「あ、佐伯くんも遊園地に来てたんだ。すごい偶然だね。」
「お前は一人で何してるんだよ。」
「今日は幼馴染と来てるの。今はねお手洗いに行ってるんだよ。」
「へぇ、お前、幼馴染いたんだ。」と言っている佐伯くんの視線は私の持つストラップへ注がれていた。
「あ。ねぇ、このストラップどうかな?佐伯くんはもらったら嬉しい?」
「あぁ、俺、こいうの好き。センスいいな。」
「それなら良かった。って佐伯くんお友達が呼んでるよ。ごめんね、邪魔しちゃって。」
「いや、まさかお前と会えるとは思ってなかったから、俺こそサンキュ」と言うとお友達の方へ戻っていった。
ストラップを購入したその後、幼馴染が迎えに来てくれてゴーカート乗り場へ向かった。幼馴染が運転する後ろからコースを見てると佐伯くん御一行も並んでいたようで白い頭が私を見てた。
助手席の特権で手を振ったけれど無視されたが、冷静に考えるとそりゃゴーカートが早すぎて気が付かないわな。
ゴーカートがゴールについて降りると幼馴染が手を繋いでくれた。嬉しさ一杯で場を後にした。
もちろんゴーカートの後もたくさん遊んで、ううん。幼馴染と一緒にいられて幸せいっぱいな一日だった。
お礼にストラップを渡すととっても喜んでくれてすぐに携帯につけてくれた。
ときめきが止まらない私の携帯にも同じものがついている。
…
数日後、いつものようにバイトをし、お店の片付けが終わったのでコーヒーを頂きながら小休憩。今日も本当に忙しかった!
「なぁ、疲れただろ?暇なら飯食ってけよ」
唐突だがありがたいお誘いに私は喜びを隠せずに小躍りしながら喜びを伝えた。
「はぁ…お前はお子様だな…で、何食いたい?」
「北京ダック。」
あうちっ!
ぽこーんとチョップが頭に当たった。
「へへっ、冗談だよ。佐伯くんの作るご飯ならなんでも好きだよ。」
「なっ…!もういいから早く着替えてこいよ!」
「はーい。」
更衣室で制服から学校の制服へと制服替えをして鞄を肩に掛けて下に降りた。
ふと、小刻みに震えを感じてカバンに入っている携帯電話を出すとディスプレイには幼馴染の名前。ドキッとしながらメールを開くと
“迎えに来た”とメールが届いていた。
私が終わる時間覚えてたんだ!
携帯を持って急いで階段を降りると佐伯くんが「じゃあ、お前の好きなアレ作ってやるよ」と笑顔で私に喋りかけてきたが、天秤にかけるつもりはない、でもせっかく幼馴染が迎えに来てくれてるで私は佐伯くんにお断りをすることにした。
「ごめんね、佐伯くん。幼馴染が迎えに来てくれてるみたい。」
私が持ってる携帯を見た佐伯くんが「…なんだよ、俺が馬鹿みたいじゃないか…。」とぼそり呟いた言葉は耳に入らなかった。
「いいからもう、さっさと帰れよ。」
「佐伯くんご飯は次回に持ち越しはダメ?」
食べたかったのは事実。佐伯くんの作る料理は全部美味しいのだから。
ぐぬぬ…とした顔をすると私をにらみながら「…ダ…メでもないこともない。」とよくわからないけど多分オッケーをもらえた。
「やった!それまで鍛錬を積み給え、またな少年よ。」
「誰だよお前。じゃあな。」
それからは度々。いや、高頻度に幼馴染が帰りに迎えに来てくれる。
幼馴染と帰りに帰れるなんて嬉しすぎて毎日が幸せだ。そんな毎日が続いた。
今日の休みは幼馴染とココア研究会を開いた。最強の一杯って難しい。な〜んて、私は幼馴染の側でココアを飲めることが最強の一杯。なんちって。
ゴロリゴロリベットで思い返しているとテーブルにおいてあった携帯電話が震えだしたので、手を伸ばし取るとディスプレイには“佐伯くん”の文字が浮かび上がった。
新着メール1件。
こんな遅く佐伯くんからメールが届くことが初めてだったので驚きを感じながら開いた。
“今から会えるか?”
たったそれだけのメール。
なんだろう?悩みでもあるのかな?
心配になり私はすぐに打ち込み返信ボタンをした。
“いいよ、どこで待ち合わせしよっか?”
返信が来るまで部屋着から洋服に着替えようと思い、床に散らばっている洋服中から適当に引っ張り出して袖を通したところ、メールが帰ってきた。
“浜辺でもいいか?”
こんな遅くにわざわざ浜辺まで行くのは面倒くさいが背に腹は代えられない。
仕方がない、行こう。
“わかった、すぐに向かうね。”
両親にバレないようにこっそりと玄関をでて走って浜辺へ向かった。
近くに自販機があったのであったかいコーヒーと、ココアを購入し浜辺へと降りた。
少し恐怖心が湧いている私は足早に佐伯くんを探した。
しばらく歩くと人影が見えたのでその人物めがけて駆け足で向かった。
私に気が付きすぐに声がかけられた。
「ごめんな。こんな遅くに呼び出して。」
「ううん、何かあったの?」
「オマエの顔どうしても見たくなって。」
「あ、なんだ。どうせまたバイトで会うのに。」
街頭が浜辺を照らしてるが、ほんのり薄暗い。こんな場所じゃ私の顔なんて見えない。
きっと佐伯くんはなにか、とてつもない悩みを抱えてるのだと勝手ながら察することにした。
「佐伯くん、温かいうちにどうぞ。」
さっき購入しておいたコーヒーを佐伯くんへ渡すとお礼述べ、すぐに缶へ口をつけた。
「うおっ甘っ。これココアじゃん」
「ご、ごめん。同じ缶の形だったから間違っちゃった。」
「お前、ココアなんか飲むんだ。」
「ふふっ、最近ね、幼馴染と最強のココアを作ろうって研究してるんだ。」
「………へぇ…。」
「こっちがコーヒーだよ。どうぞ。」
佐伯くんにコーヒーを差し出したけれど、一向に受け取ってくれない。
突然の沈黙。
恐ろしい化け物のような波の音だけがあたりに響く。
「初恋は実らない…か。」
佐伯くんが何かを発したけれど波の音で消されて私の耳には届かなかった。
「悪い、ココア滑らせて落とした。」
「気にしないで。」
佐伯くんは私の手からコーヒーを取るとプルタブを開け一口飲んだと思うと私に返してきた。
「一緒に飲もうぜ。」
「うーん、口がココアになってたから今はいいや。」
「……あっそ。」
波の音で怖くなっている私はまた佐伯くんが何も話さなくなると困るので最近の学校の話を聞いたり話したりするけれどなんだかやっぱり元気がない。
「佐伯くん、なにか悩みでもあるの?なんか口数少ないね。」
「……いや、考え事してた。呼び出して悪かったな。時間も時間だし送るよ。」
ポケットに入っている携帯の震えに気が付き一度話を中断してディスプレイを見ると幼馴染の名前だった。
「ごめんね、佐伯くん。ちょっと電話にでてくるね。」
幼馴染は波の音で海の近くにいるとすぐに気がついてくれた。「それなら泊まっていけよ。」と言ってくれ、もちろん即答で返事をした。毎日会っているのにまた会えることが嬉しくて笑顔になってしまう。
視線を感じ佐伯くんの方を向くと薄暗闇でもわかるほどジトーっと睨みつけていた。
流石にこれ以上は良くないと思って電話を切り今の話を佐伯くんへ伝えた。
「……ふぅん、それならまだ時間あるだろ?連れていきたいところあるんだ。」
「…?どこどこ?」
佐伯くんは手を差し伸べてきたのでその手を取って彼に連れられながら浜辺を後にした。佐伯くんの手は氷のように冷たかった。
「あれ、珊瑚礁じゃないの?」
「そこはお前のバイト先だろ。こっち。」
珊瑚礁を過ぎ、着いた先はもう使われていない灯台の前だった。
扉が開かないことだけは、私も聞いたことがある。
「お前と落ち合う前になんとなく扉に触れたら開いてたんだ。」
「え!なにそれすごい!」
「……入ろうぜ。」
佐伯くんと灯台の中に入ってみると、中は薄暗く波の音が響き渡っていた。
「なんか、怪獣のお腹の中みたいだね…。」
怖くなったので佐伯くんの腕にしがみついたが珍しくそんな私に苦言も何も言わずに階段を登り始め「なぁ、この灯台の伝説知ってるか?」と語り始めた。
なんだか聞き覚えがあるようでないような…。
やっと階段を登り終えると月明かりに照らされたホールへとでた。
月明かりが壁に飾られている絵に当たっていて私の目に映る。
いつの日か見た“可哀相な人魚と若者の絵”。
「あれ?ここ…。」
佐伯くんが灯台の展望台の方へ歩き出したので怖くて佐伯くんの腕を離せない私も一緒に出た。
展望台からみた海は禍々しく、どんよりと濁りきり、闇のようだった。すべてを飲み干してしまいそうな、うまく言えないけれど一度捕まると二度と戻ってこれないような感じがしてはじめて海が怖いと思った。
「ここで俺とお前は約束した。」
「え…?」
「この海で、また逢えるように。」
ふと思い出したのはキラキラ夕日が輝く海を背景に私に微笑む男の子。
あ、そうだ。迷子になった私を助けてくれたんだ。
「もしかして、あの時の男の子が佐伯くんだったの?いつから気づいて…」ハッと目線を佐伯くんの方へ移すと真っ暗な海を背景に私をただ見つめていて恐怖を感じた私は言葉が出なかった。
佐伯くんの冷たい手が私の頬に触れて身体中が硬直するかのように固まった。
そして、私の唇へキスを落とした。
キスをされた衝撃でなにも言えない私を一切気にせずに淡々と話し始める。
「あの時こうして約束のキスをしたんだ。」
「え、…。」
佐伯くんは私の手に触れると「やっと見つけ出した人魚の手を離すわけないだろ…?」とにっこり微笑んだ。
怖くて数歩下がるが、私の手は佐伯くんに掴まれていて数歩下がっても意味なんてなく、抱き寄せられると、約束を何重にもするかのように何度も何度もキスをされ、口の中は佐伯くんでいっぱいになる。
「ンッんぁや、めて。」
振り払おうとしても女の私が力で勝てるわけなく私の膝がガクガクと動けなくなるまで絡み合うキスをされた。
立っていられなくなった私を優しく床へ押し倒すと洋服のボタンを外し始め、衣服も下着もすべて脱がされてしまった。
泣いて嫌がる私を無視して体中にキスマークを落とし私を黒く染めた。中に痛みが走り痛みが徐々に快楽へと変わる。
何度か行為を続ける中、私は二度と黒い海から出ることができないことを感じ、そして私の幼馴染に対する初恋は実らないことを悟った。
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