本編
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今日から一週間、夏合宿が始まる。
地区大会二位通過という悔しい結果に終わった俺達秀徳バスケ部は、リベンジに燃えていた。この合宿で力をつけて、必ず誠凛を打ち負かしてやる。
――そう燃えていたのに、
「何故お前達がここにいるのだ!」
「そりゃこっちの台詞だっつーの!」
なぜ、合宿先でもこいつらと、誠凛と会わなければならないのか!
もちろん誠凛と同じ空気を吸いたくないと思うほどに彼らを嫌っているわけではないが、雪辱を果たしたい相手が隣にいると思うと何となくやり辛い。気持ちが乗らないというか、なんかやり辛い。
「うちは毎年ここの合宿場なんだよね。安いし、監督の知り合いがいてもっと安くしてもらえるから」
「そうなんですか。僕達も節約のためなんです」
睨み合う俺達の隣で呑気に会話するのはマヤと黒子。
実のところ、黒子が口を開くまでその存在には気付いていなかったのだが。本当に、びっくりするくらい影が薄い。
「あら、あなた達も来てたのね!」
「あ、リコさ……!?」
火神の眼力に負けじとその赤い瞳を見返していたが、最近妙に聞きなれてきた相田カントクの声で、意識だけそちらに向ける。
マヤが何か言いかけた後に絶句したのがわかり、視線もそちらに移してみると、
「!?」
エプロンに返り血をつけた相田カントクの姿が。手には同じく赤い液体をつけた包丁……これはもしや、ウサギか何かを絞めた後なのだろうか。
「リ、リコさん、その赤いのは……」
「トマトとケチャップよ。ちょっと力入り過ぎちゃってー」
語尾にハートマークでもつきそうな相田カントクの言葉。
失敗は誰にでもあることだから、別にそこまで気にすることではない。……気にすることではないはずなのに、とても嫌な予感がするのはなぜだろうか。中学時代のマネージャーが料理を作ると言った時のようなこの嫌な予感は、気のせいであってほしい。
火神や黒子の顔色が悪いのも、気のせいであってほしい。
「……マヤ」
「え?ああ、別に構わないけど……」
誠凛のカントクから目を離さないでくれと言外に頼めば、戸惑いながらも承諾の返事が返ってくる。できれば杞憂であってほしいが、嫌な予感ほどあたるというのはこの十数年の経験でわかっていた。
「リコさん、実は私も料理担当なんですよー。よかったら一緒に作ってくれません?」
「え、本当?もちろん大歓迎よ!」
一瞬だけ、俺とマヤの目が合う。俺は小さく頷いてみせた。
二人が厨房へと向かっていく後ろ姿を見送った後、火神が不安げに眉を寄せる。
「おい、高尾は料理出来るんだろうな」
「高尾は、と言うことは、やはり彼女は料理下手なんだな」
念のために予防線を張っておいてよかった。別に誠凛のご飯が上手かろうか不味かろうか俺には関係のないことだが、食材が無駄になってしまうのはよくない。
「カントクの腕前は、桃井さんとタメを張れるくらいすごいです」
「……」
ドリンクもろくに作れないということか。もっとも、彼女は「カントク」であってマネージャーではないのでそれでも構わないのかもしれないが。
「で、どうなんだ」
「馬鹿め、俺が料理下手を厨房に入れるわけないだろう」
馬鹿という言葉に火神が反応しているが、そんなものは無視だ。
俺の自慢の相棒は料理だって完璧なのだ。伊達にHSKとは呼ばれていない。この前食べさせてもらったお弁当はとても美味しかったし調理実習でも一際手際よく調理を進めていた。
火神にも自慢してやりたいところだが、一口食べさせろと言われると困るため、さっさとその場を立ち去ることにした。
―――――――
―――――
――
「疲れた……」
夕食の時間、俺達秀徳と誠凛は食堂に集まっていた。
俺の隣には机に伸びてぐったりしているマヤ。
厨房から大きな鍋を二つ運んでくるなりこの様子なのだ。あの中はそんなにすごかったのだろうか。
とりあえず、頑張ってくれたマヤの頭をそっと撫でてみる。……あ、照れ臭そうに笑った。本当に可愛い。
何となく手を離すのが惜しくて、しばらくマヤの頭を撫でていると、頭に鈍い衝撃。
「オイてめぇら、こんな所でいちゃついてんじゃねーよ、刺すぞ!」
「刺そうとした後に言わないでください」
ぶつかったのはパイナップル、投げたのはもちろん宮地さん。
お疲れのマヤを労っているだけで別にいちゃいちゃしているつもりはなかったのだが、宮地さんはお気に召さなかったようだ。……というか、これだけのためにわざわざパイナップルを持ってきたのだろうか。
「マヤ、料理を取りに行くのだよ」
「あー、うん」
普段のスパルタ練習後でもこんなになることはないというのに。よほど相田カントクの料理がすごかったということか。
「リコさんがさ、色々とすごくてさ……今日は無難にカレーだよ」
「そうか」
お疲れ様、の意味も込めて軽く頭を叩いてやる。
既に盛られた皿から、食欲をそそるカレーの香りがただよってきた。
マヤの努力の甲斐あって、美味しいカレーが出来たようだ。
相棒は料理も得意
(おい、高尾)
(はーい。……あれ、誠凛さん?みんな揃ってどうしたんですか?)
(((カントクに料理指導してくれてありがとうございましたっ!)))
(いやいやー、それほどでも!(あーやっぱ皆の不安要素だったんだ))
地区大会二位通過という悔しい結果に終わった俺達秀徳バスケ部は、リベンジに燃えていた。この合宿で力をつけて、必ず誠凛を打ち負かしてやる。
――そう燃えていたのに、
「何故お前達がここにいるのだ!」
「そりゃこっちの台詞だっつーの!」
なぜ、合宿先でもこいつらと、誠凛と会わなければならないのか!
もちろん誠凛と同じ空気を吸いたくないと思うほどに彼らを嫌っているわけではないが、雪辱を果たしたい相手が隣にいると思うと何となくやり辛い。気持ちが乗らないというか、なんかやり辛い。
「うちは毎年ここの合宿場なんだよね。安いし、監督の知り合いがいてもっと安くしてもらえるから」
「そうなんですか。僕達も節約のためなんです」
睨み合う俺達の隣で呑気に会話するのはマヤと黒子。
実のところ、黒子が口を開くまでその存在には気付いていなかったのだが。本当に、びっくりするくらい影が薄い。
「あら、あなた達も来てたのね!」
「あ、リコさ……!?」
火神の眼力に負けじとその赤い瞳を見返していたが、最近妙に聞きなれてきた相田カントクの声で、意識だけそちらに向ける。
マヤが何か言いかけた後に絶句したのがわかり、視線もそちらに移してみると、
「!?」
エプロンに返り血をつけた相田カントクの姿が。手には同じく赤い液体をつけた包丁……これはもしや、ウサギか何かを絞めた後なのだろうか。
「リ、リコさん、その赤いのは……」
「トマトとケチャップよ。ちょっと力入り過ぎちゃってー」
語尾にハートマークでもつきそうな相田カントクの言葉。
失敗は誰にでもあることだから、別にそこまで気にすることではない。……気にすることではないはずなのに、とても嫌な予感がするのはなぜだろうか。中学時代のマネージャーが料理を作ると言った時のようなこの嫌な予感は、気のせいであってほしい。
火神や黒子の顔色が悪いのも、気のせいであってほしい。
「……マヤ」
「え?ああ、別に構わないけど……」
誠凛のカントクから目を離さないでくれと言外に頼めば、戸惑いながらも承諾の返事が返ってくる。できれば杞憂であってほしいが、嫌な予感ほどあたるというのはこの十数年の経験でわかっていた。
「リコさん、実は私も料理担当なんですよー。よかったら一緒に作ってくれません?」
「え、本当?もちろん大歓迎よ!」
一瞬だけ、俺とマヤの目が合う。俺は小さく頷いてみせた。
二人が厨房へと向かっていく後ろ姿を見送った後、火神が不安げに眉を寄せる。
「おい、高尾は料理出来るんだろうな」
「高尾は、と言うことは、やはり彼女は料理下手なんだな」
念のために予防線を張っておいてよかった。別に誠凛のご飯が上手かろうか不味かろうか俺には関係のないことだが、食材が無駄になってしまうのはよくない。
「カントクの腕前は、桃井さんとタメを張れるくらいすごいです」
「……」
ドリンクもろくに作れないということか。もっとも、彼女は「カントク」であってマネージャーではないのでそれでも構わないのかもしれないが。
「で、どうなんだ」
「馬鹿め、俺が料理下手を厨房に入れるわけないだろう」
馬鹿という言葉に火神が反応しているが、そんなものは無視だ。
俺の自慢の相棒は料理だって完璧なのだ。伊達にHSKとは呼ばれていない。この前食べさせてもらったお弁当はとても美味しかったし調理実習でも一際手際よく調理を進めていた。
火神にも自慢してやりたいところだが、一口食べさせろと言われると困るため、さっさとその場を立ち去ることにした。
―――――――
―――――
――
「疲れた……」
夕食の時間、俺達秀徳と誠凛は食堂に集まっていた。
俺の隣には机に伸びてぐったりしているマヤ。
厨房から大きな鍋を二つ運んでくるなりこの様子なのだ。あの中はそんなにすごかったのだろうか。
とりあえず、頑張ってくれたマヤの頭をそっと撫でてみる。……あ、照れ臭そうに笑った。本当に可愛い。
何となく手を離すのが惜しくて、しばらくマヤの頭を撫でていると、頭に鈍い衝撃。
「オイてめぇら、こんな所でいちゃついてんじゃねーよ、刺すぞ!」
「刺そうとした後に言わないでください」
ぶつかったのはパイナップル、投げたのはもちろん宮地さん。
お疲れのマヤを労っているだけで別にいちゃいちゃしているつもりはなかったのだが、宮地さんはお気に召さなかったようだ。……というか、これだけのためにわざわざパイナップルを持ってきたのだろうか。
「マヤ、料理を取りに行くのだよ」
「あー、うん」
普段のスパルタ練習後でもこんなになることはないというのに。よほど相田カントクの料理がすごかったということか。
「リコさんがさ、色々とすごくてさ……今日は無難にカレーだよ」
「そうか」
お疲れ様、の意味も込めて軽く頭を叩いてやる。
既に盛られた皿から、食欲をそそるカレーの香りがただよってきた。
マヤの努力の甲斐あって、美味しいカレーが出来たようだ。
相棒は料理も得意
(おい、高尾)
(はーい。……あれ、誠凛さん?みんな揃ってどうしたんですか?)
(((カントクに料理指導してくれてありがとうございましたっ!)))
(いやいやー、それほどでも!(あーやっぱ皆の不安要素だったんだ))