本編
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マヤがオススメするお好み焼き屋は、試合会場からもさほど遠くない位置に店を構えていた。あまり大きな店には見えないが、マヤが勧めるのだから味はたしかなのだろう。
そんなことを考えながら身を屈めて暖簾を潜ると――
「なっ!」
「どったの?真ちゃん……あ、誠凛さんじゃないですかー!」
「あ、あなた達!」
そこにいたのは、今しがた戦って負けた誠凛バスケ部の面々。
思わず顔をひきつらせてしまった俺、目を丸くしている誠凛のカントク、そして両者の反応を気にせず笑みを浮かべるマヤ。本当、こういう時の彼女の度胸には感心させられる。俺は負けた相手に、こんなフレンドリーに話しかけられない。
「どーも、高尾でーす。さっきぶりでーす!皆さんも来てたんですね」
動けない俺の手を引き中へと入っていくマヤ。ちょっと待て、という俺の呟きは黙殺された。
「ええ。そっちは高尾さんと緑間君だけ?」
「そうなんですよー。ご一緒してもいいですか?私一回誠凛さんと話してみたくって!」
「もちろん!」
誠凛カントクとマヤがどんどん打ち解けていく。なんともいえない気まずさを覚えている男共は蚊帳の外。
楽しそうに誠凛のカントク(相田リコと名乗った)と話していたマヤの視線が、左に動いた。
「あ、もしかして海常の笠松さんですか?」
「うおっ、あ、ああ、そうだが」
いきなり――もっとも視野の広いマヤのことだ、初めから目をつけて話しかけるタイミングを図っていたにちがいない――話し掛けられて肩を震わせる笠松さんに構わず、マヤは笑顔を咲かせる。
「やっぱり!月バス見ましたよー!すごいですよね、私同じPGとして尊敬してるんですよ。あ、笠松さんの話も色々聞かせてくださいよー」
「へ、あ、ああ、別に構わねぇけど、」
「やった!じゃあそっちにお邪魔しますねー」
「「おい!」」
マイペースに話を進めていくマヤに、俺と笠松さんの声が重なった。
「あ、真ちゃんは笠松さんが座ってたところにお邪魔してね!」
「お前というやつは……」
――謀られた。
四人がけのテーブルに座らされた俺。ちなみに残りのメンバーは黒子に火神に黄瀬。狙ったとしか思えない配置だ。
非難の意味も込めてマヤに視線を送るが、こちらに目を向ける気配はない。
気付いていないわけがないから、無視しているだけだろう。……まったく、俺達の間に気まずい空気があることを知ってやっているのだろうか。
「……なんなのだよ」
沈黙に耐えきれなくなったので、とりあえずこちらをガン見している黄瀬に話を振ってみた。
「あ、いや、なんかパワフルな子っスね(あの緑間っちを振り回すなんて)」
黄瀬が内心で呟いた言葉も何となく伝わったが、そこには突っ込まないでおく。
「ふん」
マヤが強引なのは、手段をすっ飛ばしてでも果たしたい目的がある時だけだ。だがそれを黄瀬に伝える義理はないので、肯定とも取れる返事を返した。
自分ではなく笠松に触れたことが珍しかったのか、黄瀬はチラチラとマヤの様子を窺っている。
何となく俺も意識を向けると、その会話が聞こえてきた。
「さっきから笠松さんが全然目を合わせてくれないんですけど……そろっと私泣きますよ?」
「なっ!?いや、これはだな……」
「あはー、冗談ですよ。笠松さんの女性苦手説は秀徳まで届いてますからねぇ」
「知ってたんかよ!」
「さっすが、ナイスツッコミでーす。あ、ミックス焼き用の肉焼けましたよー」
「肉が憎い、キタコレ!」
「伊月黙れ!」
「焼きにくい焼肉、キタコレ!なんてー」
「マヤちゃんまで真似しないの!」
「高尾さんそれ……いただき!」
「あはー毎度ありー」
「「「「………」」」」
馴染んでる。同じ学校かってくらい馴染んでいる。
というか、あの誠凛のPG、ちょっとマヤに近付きすぎじゃないだろうか。狭いから仕方がないのかもしれないが、絶対にくっつきすぎだ。
無意識のうちに、眼光も鋭くなる。
「(おいっ、緑間の野郎なんか怒ってんだけど!お前の元チームメイトだろ、何とかしろよ!)」
「(でも怒った緑間君は怖いですし……僕としてはあまり関わりたくないです。触らぬ神に祟りなし、といいますし)」
「(薄情だな!)」
「(なら高尾さん呼んできたらいかがですか?きっと何とかしてくれますよ)」
――こっそり話しているつもりかもしれないが、全部聞こえている。というか黒子。祟りなしとはどういうことだ。そこまで当たり散らしたことはないぞ。
この中で一番誰とも絡めるのは黄瀬のはずだが、完全に重苦しい空気にやられている。まぁ、その重苦しい空気を作ったのは俺なのだが、元はといえば勝手に離れたマヤに責任があるので反省はしない。
火神がすがるような視線をマヤに向けている。――それでもまだ来ない。
ならば、と俺はもう一度マヤに視線を投げ掛けた。
「!」
今度は、目が合う。
それは一瞬のことで、すぐ逸らされてしまう。
しかしマヤは二、三言話したかと思えば、こちらに向かってやって来た。
「どうしたの?真ちゃん」
「どうしたの、ではないのだよ!これはどういうつもりだ」
「えー?せっかくだから積もる話もあるかなーって思ったんだけどね」
「こいつら話すことなどないのだよ!」
「もー、そんなこと言っちゃダメ!話すことならいっぱいあるっしょ?宣戦布告とか」
「こんな所で言えるか」
「こんな所だから、だよ」
マヤの身に纏う空気が、一瞬にして変わった。
鋭く光る鷹の目は、まっすぐ黒子を捉える。
「本選までには黒子君のミスディレクションを無効化してみせるからさ、楽しみにしててね」
「それは、手強いですね。でも、望むところです」
黒子の真剣な瞳が、ぶつかった。
二人の目に火花を散らすような眼力はない。しかし静かに燃え盛る炎を宿っていた。
影と鷹
((これは私自身の戦い、もちろん負ける気なんて更々ないーってね))
((ああ、やっぱりこいつも負けず嫌いなんだな))
そんなことを考えながら身を屈めて暖簾を潜ると――
「なっ!」
「どったの?真ちゃん……あ、誠凛さんじゃないですかー!」
「あ、あなた達!」
そこにいたのは、今しがた戦って負けた誠凛バスケ部の面々。
思わず顔をひきつらせてしまった俺、目を丸くしている誠凛のカントク、そして両者の反応を気にせず笑みを浮かべるマヤ。本当、こういう時の彼女の度胸には感心させられる。俺は負けた相手に、こんなフレンドリーに話しかけられない。
「どーも、高尾でーす。さっきぶりでーす!皆さんも来てたんですね」
動けない俺の手を引き中へと入っていくマヤ。ちょっと待て、という俺の呟きは黙殺された。
「ええ。そっちは高尾さんと緑間君だけ?」
「そうなんですよー。ご一緒してもいいですか?私一回誠凛さんと話してみたくって!」
「もちろん!」
誠凛カントクとマヤがどんどん打ち解けていく。なんともいえない気まずさを覚えている男共は蚊帳の外。
楽しそうに誠凛のカントク(相田リコと名乗った)と話していたマヤの視線が、左に動いた。
「あ、もしかして海常の笠松さんですか?」
「うおっ、あ、ああ、そうだが」
いきなり――もっとも視野の広いマヤのことだ、初めから目をつけて話しかけるタイミングを図っていたにちがいない――話し掛けられて肩を震わせる笠松さんに構わず、マヤは笑顔を咲かせる。
「やっぱり!月バス見ましたよー!すごいですよね、私同じPGとして尊敬してるんですよ。あ、笠松さんの話も色々聞かせてくださいよー」
「へ、あ、ああ、別に構わねぇけど、」
「やった!じゃあそっちにお邪魔しますねー」
「「おい!」」
マイペースに話を進めていくマヤに、俺と笠松さんの声が重なった。
「あ、真ちゃんは笠松さんが座ってたところにお邪魔してね!」
「お前というやつは……」
――謀られた。
四人がけのテーブルに座らされた俺。ちなみに残りのメンバーは黒子に火神に黄瀬。狙ったとしか思えない配置だ。
非難の意味も込めてマヤに視線を送るが、こちらに目を向ける気配はない。
気付いていないわけがないから、無視しているだけだろう。……まったく、俺達の間に気まずい空気があることを知ってやっているのだろうか。
「……なんなのだよ」
沈黙に耐えきれなくなったので、とりあえずこちらをガン見している黄瀬に話を振ってみた。
「あ、いや、なんかパワフルな子っスね(あの緑間っちを振り回すなんて)」
黄瀬が内心で呟いた言葉も何となく伝わったが、そこには突っ込まないでおく。
「ふん」
マヤが強引なのは、手段をすっ飛ばしてでも果たしたい目的がある時だけだ。だがそれを黄瀬に伝える義理はないので、肯定とも取れる返事を返した。
自分ではなく笠松に触れたことが珍しかったのか、黄瀬はチラチラとマヤの様子を窺っている。
何となく俺も意識を向けると、その会話が聞こえてきた。
「さっきから笠松さんが全然目を合わせてくれないんですけど……そろっと私泣きますよ?」
「なっ!?いや、これはだな……」
「あはー、冗談ですよ。笠松さんの女性苦手説は秀徳まで届いてますからねぇ」
「知ってたんかよ!」
「さっすが、ナイスツッコミでーす。あ、ミックス焼き用の肉焼けましたよー」
「肉が憎い、キタコレ!」
「伊月黙れ!」
「焼きにくい焼肉、キタコレ!なんてー」
「マヤちゃんまで真似しないの!」
「高尾さんそれ……いただき!」
「あはー毎度ありー」
「「「「………」」」」
馴染んでる。同じ学校かってくらい馴染んでいる。
というか、あの誠凛のPG、ちょっとマヤに近付きすぎじゃないだろうか。狭いから仕方がないのかもしれないが、絶対にくっつきすぎだ。
無意識のうちに、眼光も鋭くなる。
「(おいっ、緑間の野郎なんか怒ってんだけど!お前の元チームメイトだろ、何とかしろよ!)」
「(でも怒った緑間君は怖いですし……僕としてはあまり関わりたくないです。触らぬ神に祟りなし、といいますし)」
「(薄情だな!)」
「(なら高尾さん呼んできたらいかがですか?きっと何とかしてくれますよ)」
――こっそり話しているつもりかもしれないが、全部聞こえている。というか黒子。祟りなしとはどういうことだ。そこまで当たり散らしたことはないぞ。
この中で一番誰とも絡めるのは黄瀬のはずだが、完全に重苦しい空気にやられている。まぁ、その重苦しい空気を作ったのは俺なのだが、元はといえば勝手に離れたマヤに責任があるので反省はしない。
火神がすがるような視線をマヤに向けている。――それでもまだ来ない。
ならば、と俺はもう一度マヤに視線を投げ掛けた。
「!」
今度は、目が合う。
それは一瞬のことで、すぐ逸らされてしまう。
しかしマヤは二、三言話したかと思えば、こちらに向かってやって来た。
「どうしたの?真ちゃん」
「どうしたの、ではないのだよ!これはどういうつもりだ」
「えー?せっかくだから積もる話もあるかなーって思ったんだけどね」
「こいつら話すことなどないのだよ!」
「もー、そんなこと言っちゃダメ!話すことならいっぱいあるっしょ?宣戦布告とか」
「こんな所で言えるか」
「こんな所だから、だよ」
マヤの身に纏う空気が、一瞬にして変わった。
鋭く光る鷹の目は、まっすぐ黒子を捉える。
「本選までには黒子君のミスディレクションを無効化してみせるからさ、楽しみにしててね」
「それは、手強いですね。でも、望むところです」
黒子の真剣な瞳が、ぶつかった。
二人の目に火花を散らすような眼力はない。しかし静かに燃え盛る炎を宿っていた。
影と鷹
((これは私自身の戦い、もちろん負ける気なんて更々ないーってね))
((ああ、やっぱりこいつも負けず嫌いなんだな))