本編
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俺には、いわゆる「前世」というものの記憶がある。
もちろん初めから持っていたわけではない。
自我が芽生え始めた3才の頃、ふと頭の中に浮かんできたのだ。自分が誰で、どんな人生を歩んで、どんな風にそれが終わったのか。
俺がまだ違った苗字名で呼ばれていた頃(名前は変わっていなかった)、俺は暇さえあれば……いや、その話はあまり面白くないからやめておこう。
とにかく「前世」の俺は筋金入りのオタクだった、とだけ告げておく。
そして現世の俺、その名も「緑間真太郎」。
……まじかぁぁあああッ!
緑色の髪が鮮やかな美人さんで、ちまたではツンデレとして有名な緑間!キセキNo.1シューター緑間!おは朝信者と名高い緑間!中毒性の高い「なのだよ」の緑間!
まさか彼に成り代わるとはこれっぽっちも思っていなかった。
思わず叫び出してしまうくらい、びっくりした。
まぁ、素材がいいらしく知識は面白いように頭に入るし、大好きだったバスケはびっくりするくらい上手くなったし、何より顔もよくなった。
慣れてしまえば、緑間真太郎としての人生も楽しい。
……ああ、おは朝?もちろんチェックしてる。
というか、順位が低い日はラッキーアイテムを入手できないとまずいのだ。洒落にならないくらいの不幸が訪れる。
彼がおは朝に固執していた理由がよくわかったよ。
本気で危なかったんだな。
そんなわけでラッキーアイテム入手も毎日頑張っていたのだが、問題はまだあった。
そう、「お友達」の存在である。
どうやら俺の顔立ちは綺麗だけど近寄りがたさを感じるものらしく、中学校まで親い友達はゼロ。
子供らしからぬ落ち着きとか、(前世の知識+勉強好きが高じた)頭の良さとかもあって、俺のポジションは「大人びた憧れの存在」に固定されてしまった。誰も気軽に話し掛けず、遠巻きに眺められるだけ。
俺自身口下手なのもあって話しかけても、数回言葉を交わすだけで会話が尽きてしまう。
それでも中学時代はキセキメンバーとそれなりにいい関係を築けた(と思う)が、中学三年の頃バラバラになってしまった。
――しかし、高校入学を機に俺の友人関係は日の目を見ることになる。
そう、皆の嫁、HSKこと高尾マヤちゃんの登場だ。
原作通り、俺の相棒を名乗ってくれたマヤ。
彼女はものの数日で俺の口下手を理解し、クラスメイトと俺とを繋いでくれたのだ。おかげで高校の教室では一人浮くことはなくなった。
部活でも俺が先輩達とコミュニケーションをとる機会をつくってくれたり、ラッキーアイテム探しを手伝ってくれたり、遊びに誘ってくれたり……もう感謝してもしきれない。
さすがHSK。
でもそんな彼女を俺は一度だけ泣かせてしまったことがある。――あれは、本当に俺がバカだったのだ。マヤの気持ちを理解しようとしていなかった。
でもお互いに心のうちを吐露したことで、より絆が深まった……と思う。
何より、俺も吹っ切れた。
その辺の話はまた後々することにしよう。
「――ん、真ちゃん!」
「む、」
マヤが俺を呼ぶ声で意識が浮上する。どうやら、知らない間にボーッとしていたようだ。だから、あんなことを思い出したのか。
「どうしたの?大丈夫?」
不安そうにこちらを見つめるマヤ。
しばらく呼び続けていたようで、反応がない俺の体調を心配してくれたようだ。
「問題ないのだよ」
「いやいや、そうは言ってもさぁ」
明朗な彼女には珍しい歯切れの悪い言葉。
その視線は一点に定まることなく動き回っていて……ああ、そういうことか。
「馬鹿め」
「痛っ!」
彼女の言いたいことがわかった俺は、マヤのおでこに軽くデコピンをお見舞いする。
「これはIH予選だ、まだ俺達の負けが決まったわけではないのだよ。今日のことは本選で返す。――そうだろう?」
口角を上げた挑戦的な笑みでマヤの視線を捉える。
きっとマヤは、俺が落ち込んでいると思って心配していたのだろう。
バスケでは無敗を誇ってきたこの俺が、初めてバスケで負けたから。
全力を出し切った上での敗北は、確かに悔しい。あの頃の俺だったら、きっとこの事実を受け入れられず、周りに当たり散らしていたに違いない。
でも、今は違うのだ。
頼れる仲間がいて、隣に相棒がいて、見守ってくれる人がいて。
俺の世界にはバスケ以外のものも沢山あると知っている。だから、今回の負けも受け入れられる。
悔しさだけは消化できないが、それは今後の糧にしていくものだ。隠す必要もない。
そう言いたくて、でも言葉として出てきたのは負け惜しみにも似た言葉で。
心情と言葉が必ずしも連結するわけではない俺だが、自慢の相棒はちゃんと俺の意図を読み取ってくれたようだ。
マヤが勝ち気に笑う。
「あはは、真ちゃんそういうのを負け惜しみっていうんだって。まぁでも本選で倍返しーってのは賛成」
「倍返しとまでは言っていない。否定はしないがな」
一応の訂正は入れて、俺は立ち上がる。
慣れない俺のツッコミを笑って受け止めたマヤは、退出を察したのか荷物を持ち上げた。阿吽の呼吸とはこういうのをいうのだろう。
控え室に残っているのは俺達だけだ。どうやら気を利かせて二人っきりにしてくれたらしい。
「帰るぞ」
「了解ってねー」
悔しさは隠し切れないほどあるが、今日の敗北はいい経験だった。負けを知らない者は本当の勝利も知ることができない。今日底を経験したことで俺達は進歩出来るだろう。
――でも、とりあえず言わせてほしい。
覚えているのだよ、誠凛!
(あ、真ちゃん、木村さんがこのまま帰っていいってさ)
(そうか(やっぱり勘違いされてる……俺そんなにメンタル弱そうに見えるのだろうか))
((あ、真ちゃんちょっと落ち込んでる)ね、せっかくだしこのままどっか食べにいかない?お疲れ様会しようよ!)
(まぁ、構わないのだよ。だが行くならお好み焼きが食べたい)
(りょうかーい!じゃあこっちだね!)
((本当HSK……))
もちろん初めから持っていたわけではない。
自我が芽生え始めた3才の頃、ふと頭の中に浮かんできたのだ。自分が誰で、どんな人生を歩んで、どんな風にそれが終わったのか。
俺がまだ違った苗字名で呼ばれていた頃(名前は変わっていなかった)、俺は暇さえあれば……いや、その話はあまり面白くないからやめておこう。
とにかく「前世」の俺は筋金入りのオタクだった、とだけ告げておく。
そして現世の俺、その名も「緑間真太郎」。
……まじかぁぁあああッ!
緑色の髪が鮮やかな美人さんで、ちまたではツンデレとして有名な緑間!キセキNo.1シューター緑間!おは朝信者と名高い緑間!中毒性の高い「なのだよ」の緑間!
まさか彼に成り代わるとはこれっぽっちも思っていなかった。
思わず叫び出してしまうくらい、びっくりした。
まぁ、素材がいいらしく知識は面白いように頭に入るし、大好きだったバスケはびっくりするくらい上手くなったし、何より顔もよくなった。
慣れてしまえば、緑間真太郎としての人生も楽しい。
……ああ、おは朝?もちろんチェックしてる。
というか、順位が低い日はラッキーアイテムを入手できないとまずいのだ。洒落にならないくらいの不幸が訪れる。
彼がおは朝に固執していた理由がよくわかったよ。
本気で危なかったんだな。
そんなわけでラッキーアイテム入手も毎日頑張っていたのだが、問題はまだあった。
そう、「お友達」の存在である。
どうやら俺の顔立ちは綺麗だけど近寄りがたさを感じるものらしく、中学校まで親い友達はゼロ。
子供らしからぬ落ち着きとか、(前世の知識+勉強好きが高じた)頭の良さとかもあって、俺のポジションは「大人びた憧れの存在」に固定されてしまった。誰も気軽に話し掛けず、遠巻きに眺められるだけ。
俺自身口下手なのもあって話しかけても、数回言葉を交わすだけで会話が尽きてしまう。
それでも中学時代はキセキメンバーとそれなりにいい関係を築けた(と思う)が、中学三年の頃バラバラになってしまった。
――しかし、高校入学を機に俺の友人関係は日の目を見ることになる。
そう、皆の嫁、HSKこと高尾マヤちゃんの登場だ。
原作通り、俺の相棒を名乗ってくれたマヤ。
彼女はものの数日で俺の口下手を理解し、クラスメイトと俺とを繋いでくれたのだ。おかげで高校の教室では一人浮くことはなくなった。
部活でも俺が先輩達とコミュニケーションをとる機会をつくってくれたり、ラッキーアイテム探しを手伝ってくれたり、遊びに誘ってくれたり……もう感謝してもしきれない。
さすがHSK。
でもそんな彼女を俺は一度だけ泣かせてしまったことがある。――あれは、本当に俺がバカだったのだ。マヤの気持ちを理解しようとしていなかった。
でもお互いに心のうちを吐露したことで、より絆が深まった……と思う。
何より、俺も吹っ切れた。
その辺の話はまた後々することにしよう。
「――ん、真ちゃん!」
「む、」
マヤが俺を呼ぶ声で意識が浮上する。どうやら、知らない間にボーッとしていたようだ。だから、あんなことを思い出したのか。
「どうしたの?大丈夫?」
不安そうにこちらを見つめるマヤ。
しばらく呼び続けていたようで、反応がない俺の体調を心配してくれたようだ。
「問題ないのだよ」
「いやいや、そうは言ってもさぁ」
明朗な彼女には珍しい歯切れの悪い言葉。
その視線は一点に定まることなく動き回っていて……ああ、そういうことか。
「馬鹿め」
「痛っ!」
彼女の言いたいことがわかった俺は、マヤのおでこに軽くデコピンをお見舞いする。
「これはIH予選だ、まだ俺達の負けが決まったわけではないのだよ。今日のことは本選で返す。――そうだろう?」
口角を上げた挑戦的な笑みでマヤの視線を捉える。
きっとマヤは、俺が落ち込んでいると思って心配していたのだろう。
バスケでは無敗を誇ってきたこの俺が、初めてバスケで負けたから。
全力を出し切った上での敗北は、確かに悔しい。あの頃の俺だったら、きっとこの事実を受け入れられず、周りに当たり散らしていたに違いない。
でも、今は違うのだ。
頼れる仲間がいて、隣に相棒がいて、見守ってくれる人がいて。
俺の世界にはバスケ以外のものも沢山あると知っている。だから、今回の負けも受け入れられる。
悔しさだけは消化できないが、それは今後の糧にしていくものだ。隠す必要もない。
そう言いたくて、でも言葉として出てきたのは負け惜しみにも似た言葉で。
心情と言葉が必ずしも連結するわけではない俺だが、自慢の相棒はちゃんと俺の意図を読み取ってくれたようだ。
マヤが勝ち気に笑う。
「あはは、真ちゃんそういうのを負け惜しみっていうんだって。まぁでも本選で倍返しーってのは賛成」
「倍返しとまでは言っていない。否定はしないがな」
一応の訂正は入れて、俺は立ち上がる。
慣れない俺のツッコミを笑って受け止めたマヤは、退出を察したのか荷物を持ち上げた。阿吽の呼吸とはこういうのをいうのだろう。
控え室に残っているのは俺達だけだ。どうやら気を利かせて二人っきりにしてくれたらしい。
「帰るぞ」
「了解ってねー」
悔しさは隠し切れないほどあるが、今日の敗北はいい経験だった。負けを知らない者は本当の勝利も知ることができない。今日底を経験したことで俺達は進歩出来るだろう。
――でも、とりあえず言わせてほしい。
覚えているのだよ、誠凛!
(あ、真ちゃん、木村さんがこのまま帰っていいってさ)
(そうか(やっぱり勘違いされてる……俺そんなにメンタル弱そうに見えるのだろうか))
((あ、真ちゃんちょっと落ち込んでる)ね、せっかくだしこのままどっか食べにいかない?お疲れ様会しようよ!)
(まぁ、構わないのだよ。だが行くならお好み焼きが食べたい)
(りょうかーい!じゃあこっちだね!)
((本当HSK……))
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