わかってる、(水上颯・鶴崎修功)
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『優勝、東大生チーム!』
テレビから見慣れた司会者の声がする。
毎週水曜日、
楽しみにしているテレビ。
私の大好きな、彼が出ている。
大将、水上颯。
仲間とハイタッチをする颯。
広い部屋に、しばらく彼は帰ってきていない。
1DKの部屋。
ダブルベッド。
彼の隣にいる美少女を見るたびに思う。
あぁ、私劣ってるなぁ。
眉目秀麗という言葉が一番似合う。
「…胃が痛い。」
棚から胃薬を取り出し、
ケトルで沸かしたお湯とともに嚥下する。
広くて寂しい部屋に一人。
今日も一人でベッドに入った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「え?今日?ごめん、
もう先約があるんだ。」
「あ、そっか…。
残念だな。
何時くらいに帰ってくるの?」
「え、っと、何時くらいだろう…」
あ、困ってる。
「わからないならいいの!
起きてようかなって思っただけだし、
じゃ、じゃぁ…気を付けて行ってきてね。」
「え、あ、うん、」
泣きそうだった。
気づかれてないと良いな。
講義のあと、声をかけると先約があると言われてしまった。
そっか、今日は、
颯、
今日は、私の誕生日だよ?
去年まで、
1番に祝ってくれてたよね。
今年は、忘れちゃった?
そっか、
颯が帰ってくると思って、
昨日から仕込み頑張ったんだけど…
全部、無駄になっちゃった。
一人で食べるご飯は、味がしないよ、颯。
日付が変わってからひっきりなしにスマートフォンのバイブが鳴る。
友達、先輩、後輩、家族、あとは少しだけ仲良くしていただいている鶴崎くんや伊沢さん。
SNSの通知はどんどんたまっていくのに、
颯、あなたからの連絡は一通もないのね。
お風呂から上がると、洗面所の鏡に貧相な身体が映った。
あれ、少しやせたかな?
体重計に乗ると、3か月前より8キロも減っていた。
医学部だもの、BMIの計算なんて容易。
「…16.1。」
低栄養、ごはん、食べてないからだ。
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(水上颯Side)
「今日、帰ってくる?」
講義終了後、片づけていると
美緒に声をかけられた。
久しぶりに話したかもしれない。
…しばらく部屋には帰っていないから…。
予定があることを伝えると、
今にも泣きそうな顔で「気を付けて行ってきてね」と言われた。
まただ。
「気を付けて帰ってきてね」
じゃなくて
「気を付けて行ってきてね」
僕があの部屋に帰らないことを前提とした言葉。
ノースリーブから伸びた彼女の白い腕は、
春よりも痩せて見えた。
心なしか、顔色が悪かった気がする。
目の下に、隠しきれないクマが。
もう少し。
大丈夫、俺たちなら。
もう少ししたら、戻るから、待っててよ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「美緒ちゃん、」
キャンパスで後ろから肩を叩かれる。
「あ…鶴崎くん、」
「どうしたの、そんなに窶れて、」
「えっと、知らないうちに8キロも減っちゃったみたいで…」
「8っ…⁉え、水上は?
知ってるの?」
颯の名前を聞いてどきりとした。
「そ、颯は…忙しくて最近会ってないの。」
鶴崎くんは、メガネの奥を哀しそうに歪ませた。
そんな顔しないで、
「でもね、大丈夫だよ!
体重減っても元気だし!
颯が忙しいのは活躍できてるからって知ってるから!
嬉しいの、」
これ以上鶴崎くんといると、すべてを見透かされそうで、
早足に「じゃあね」と背を向けた。
何かを言いたげな彼は口を開きかけたけど、
それを聞く前に私は歩き出した。
鶴崎くんから逃げるように図書館に行く。
でも、それを直ぐに後悔することになった。
「颯...、」
図書館の端の席、
女の子に勉強を教えているであろう颯を発見してしまった。
頭を撫でて、時折愛おしそうに見つめる。
今まで遭遇しなかったのが奇跡なくらい。
颯、その顔、私にしか見せてないと思ってたよ。
視界が歪んだ。
脚から力が抜けた。
記憶の端で覚えているのは、
誰だかわからない女の子の叫び声。
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(水上颯Side)
「きゃぁぁぁ!」
静かな図書室に響いた悲鳴。
今日は暑かったから、
誰か倒れたのか?
図書館職員が、担架に倒れた学生を載せて運ぶ。
人の隙間から見えたのは、
だらりと垂れた腕。
見慣れたピンクゴールドのブレスレット。
「…美緒?」
「水上さん?」
「あ、あぁ、いや。
誰だろうなって思って。」
大丈夫、彼女じゃない。
彼女じゃ、ない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
パチリと目を開ける。
窓からはオレンジ色の光が指していた。
「気が付いた?よかった…」
横から優しい声がする。
「つる、さきくん?」
安堵のため息をつくのは鶴崎くんだった。
あぁ、颯。
颯、
あなたは、酷い人。
こんなに興味がないなら、
早く私を捨ててくれればいいのに…。
「美緒ちゃん、あのさ。」
「言わないでっ…、」
鶴崎くんが何を言おうとしてるか嫌でもわかった。
シーツを被ると、
押えていたものがあふれ出してきた。
「…水上、他の人と付き合ってるよ。」
わかってるよ。
わかってたよ。
だって、颯、
あんなに愛しそうにあの子の事見つめるんだもん。
好きな人の視線の先は追ってしまうもの。
好きな人が好きな人はもっとわかる。
「…わかってたの。
でも、私、颯と離れるのが怖いの。
ねぇ、
一人の部屋は寂しくて、辛くて、
颯の食べないご飯なんて、作っても意味ないんだよ。」
そういうと、シーツを押える私の手を、
鶴崎くんがそっと取った。
「僕が、君の隣に。」
「…え…?」
「引っ越して、僕の部屋に。
僕のためにご飯を作って、
僕のために生きてくれればいい。
…僕は、美緒ちゃんをそんなになるまで追い詰めたりしない。
ずっと、好きだったんだ。
水上の彼女だから、言えなかったけど、
もう見てられないよ…大切な人のこんな姿。」
そろりと出した瞳がとらえたのは、
哀しくて優しくて、思わず手を握り返しそうになった。
「…ごめんね、颯じゃなきゃだめなの。」
颯じゃなきゃ
だめなの。
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(鶴崎修功Side)
栄養失調とストレスで倒れたのは
相棒の彼女だった。
聡明で賢く、
優しい彼女。
水上の彼女だと知ったときは
落胆したものだ。
医務室で眠る彼女は
以前のような美しさを放ってはいなかった。
栄養不足のせいか
パサついた髪、荒れた肌、
痩せた体。
色もびっくりするほど白い。
こんな時でも、水上はこなかった。
僕は知ってる。
問い詰めた時もあった。
「鶴崎には関係ないだろ」
と一蹴りにされた。
目覚めた彼女は、
それでもなお、水上を思って涙を流した。
僕が、僕が
水上の代わりに。
それでも彼女は言った。
「颯じゃなきゃだめなの。」
胸が締め付けられて、
僕も泣きたくなった。
**Fin**
テレビから見慣れた司会者の声がする。
毎週水曜日、
楽しみにしているテレビ。
私の大好きな、彼が出ている。
大将、水上颯。
仲間とハイタッチをする颯。
広い部屋に、しばらく彼は帰ってきていない。
1DKの部屋。
ダブルベッド。
彼の隣にいる美少女を見るたびに思う。
あぁ、私劣ってるなぁ。
眉目秀麗という言葉が一番似合う。
「…胃が痛い。」
棚から胃薬を取り出し、
ケトルで沸かしたお湯とともに嚥下する。
広くて寂しい部屋に一人。
今日も一人でベッドに入った。
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「え?今日?ごめん、
もう先約があるんだ。」
「あ、そっか…。
残念だな。
何時くらいに帰ってくるの?」
「え、っと、何時くらいだろう…」
あ、困ってる。
「わからないならいいの!
起きてようかなって思っただけだし、
じゃ、じゃぁ…気を付けて行ってきてね。」
「え、あ、うん、」
泣きそうだった。
気づかれてないと良いな。
講義のあと、声をかけると先約があると言われてしまった。
そっか、今日は、
颯、
今日は、私の誕生日だよ?
去年まで、
1番に祝ってくれてたよね。
今年は、忘れちゃった?
そっか、
颯が帰ってくると思って、
昨日から仕込み頑張ったんだけど…
全部、無駄になっちゃった。
一人で食べるご飯は、味がしないよ、颯。
日付が変わってからひっきりなしにスマートフォンのバイブが鳴る。
友達、先輩、後輩、家族、あとは少しだけ仲良くしていただいている鶴崎くんや伊沢さん。
SNSの通知はどんどんたまっていくのに、
颯、あなたからの連絡は一通もないのね。
お風呂から上がると、洗面所の鏡に貧相な身体が映った。
あれ、少しやせたかな?
体重計に乗ると、3か月前より8キロも減っていた。
医学部だもの、BMIの計算なんて容易。
「…16.1。」
低栄養、ごはん、食べてないからだ。
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(水上颯Side)
「今日、帰ってくる?」
講義終了後、片づけていると
美緒に声をかけられた。
久しぶりに話したかもしれない。
…しばらく部屋には帰っていないから…。
予定があることを伝えると、
今にも泣きそうな顔で「気を付けて行ってきてね」と言われた。
まただ。
「気を付けて帰ってきてね」
じゃなくて
「気を付けて行ってきてね」
僕があの部屋に帰らないことを前提とした言葉。
ノースリーブから伸びた彼女の白い腕は、
春よりも痩せて見えた。
心なしか、顔色が悪かった気がする。
目の下に、隠しきれないクマが。
もう少し。
大丈夫、俺たちなら。
もう少ししたら、戻るから、待っててよ。
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「美緒ちゃん、」
キャンパスで後ろから肩を叩かれる。
「あ…鶴崎くん、」
「どうしたの、そんなに窶れて、」
「えっと、知らないうちに8キロも減っちゃったみたいで…」
「8っ…⁉え、水上は?
知ってるの?」
颯の名前を聞いてどきりとした。
「そ、颯は…忙しくて最近会ってないの。」
鶴崎くんは、メガネの奥を哀しそうに歪ませた。
そんな顔しないで、
「でもね、大丈夫だよ!
体重減っても元気だし!
颯が忙しいのは活躍できてるからって知ってるから!
嬉しいの、」
これ以上鶴崎くんといると、すべてを見透かされそうで、
早足に「じゃあね」と背を向けた。
何かを言いたげな彼は口を開きかけたけど、
それを聞く前に私は歩き出した。
鶴崎くんから逃げるように図書館に行く。
でも、それを直ぐに後悔することになった。
「颯...、」
図書館の端の席、
女の子に勉強を教えているであろう颯を発見してしまった。
頭を撫でて、時折愛おしそうに見つめる。
今まで遭遇しなかったのが奇跡なくらい。
颯、その顔、私にしか見せてないと思ってたよ。
視界が歪んだ。
脚から力が抜けた。
記憶の端で覚えているのは、
誰だかわからない女の子の叫び声。
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(水上颯Side)
「きゃぁぁぁ!」
静かな図書室に響いた悲鳴。
今日は暑かったから、
誰か倒れたのか?
図書館職員が、担架に倒れた学生を載せて運ぶ。
人の隙間から見えたのは、
だらりと垂れた腕。
見慣れたピンクゴールドのブレスレット。
「…美緒?」
「水上さん?」
「あ、あぁ、いや。
誰だろうなって思って。」
大丈夫、彼女じゃない。
彼女じゃ、ない。
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パチリと目を開ける。
窓からはオレンジ色の光が指していた。
「気が付いた?よかった…」
横から優しい声がする。
「つる、さきくん?」
安堵のため息をつくのは鶴崎くんだった。
あぁ、颯。
颯、
あなたは、酷い人。
こんなに興味がないなら、
早く私を捨ててくれればいいのに…。
「美緒ちゃん、あのさ。」
「言わないでっ…、」
鶴崎くんが何を言おうとしてるか嫌でもわかった。
シーツを被ると、
押えていたものがあふれ出してきた。
「…水上、他の人と付き合ってるよ。」
わかってるよ。
わかってたよ。
だって、颯、
あんなに愛しそうにあの子の事見つめるんだもん。
好きな人の視線の先は追ってしまうもの。
好きな人が好きな人はもっとわかる。
「…わかってたの。
でも、私、颯と離れるのが怖いの。
ねぇ、
一人の部屋は寂しくて、辛くて、
颯の食べないご飯なんて、作っても意味ないんだよ。」
そういうと、シーツを押える私の手を、
鶴崎くんがそっと取った。
「僕が、君の隣に。」
「…え…?」
「引っ越して、僕の部屋に。
僕のためにご飯を作って、
僕のために生きてくれればいい。
…僕は、美緒ちゃんをそんなになるまで追い詰めたりしない。
ずっと、好きだったんだ。
水上の彼女だから、言えなかったけど、
もう見てられないよ…大切な人のこんな姿。」
そろりと出した瞳がとらえたのは、
哀しくて優しくて、思わず手を握り返しそうになった。
「…ごめんね、颯じゃなきゃだめなの。」
颯じゃなきゃ
だめなの。
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(鶴崎修功Side)
栄養失調とストレスで倒れたのは
相棒の彼女だった。
聡明で賢く、
優しい彼女。
水上の彼女だと知ったときは
落胆したものだ。
医務室で眠る彼女は
以前のような美しさを放ってはいなかった。
栄養不足のせいか
パサついた髪、荒れた肌、
痩せた体。
色もびっくりするほど白い。
こんな時でも、水上はこなかった。
僕は知ってる。
問い詰めた時もあった。
「鶴崎には関係ないだろ」
と一蹴りにされた。
目覚めた彼女は、
それでもなお、水上を思って涙を流した。
僕が、僕が
水上の代わりに。
それでも彼女は言った。
「颯じゃなきゃだめなの。」
胸が締め付けられて、
僕も泣きたくなった。
**Fin**
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