フリーパス(福良拳)
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「ごめん、俺美緒のことそういうふうに見たことないんだ」
「知ってる。…都合のいい時だけ呼んでくれればいいからさ、
私と付き合ってよ、拳。」
高校を卒業したら私たちは東京へ行く。
それぞれ別々の大学に進む。
拳を手放したくない。少しでつなぎとめておきたい。
「美緒、自分をそうやって粗雑に扱うの悪い癖だよ。」
「じゃあ私の事1番目にしてくれるの?」
「だから、」
「でしょ?私はご飯も作れるし、掃除もできるし。
拳の好きなものも嫌いなものも知ってるよ。
なんでもいいから。」
そうやって押し切って、根負けした彼は不満げにうなづいた。
そうして東京に来て数か月。
一度も拳は私を呼んではくれない。
「…もうっ…」
連絡しても忙しいからの一点張り。
拳のママに新しい住所は送ってもらったけど…
「押しかけたらストーカーじゃんね。」
拳のことは大好きだから、嫌われたくない。
「あー、もう!もどかしいっ…拳に会いたいよー!」
ベッドに寝転んで、卒業式に二人で撮った写真を眺めてじたばた。
すると急に拳専用着信音。
しかも電話。
「拳っ?」
「あ、美緒。久しぶり…、」
「電話、久しぶりだね。
元気にしてた?ご飯食べてる?友達出来た?」
「お母さんじゃないんだから…、」
「そう、だね…。で、どうしたの?」
「いや、えっと…
土曜日、暇?」
「土曜日…?っ暇!すっごい暇!」
「美緒、行きたいって言ってた遊園地、行かない?」
「行く!なんで⁉急にどうしたの⁉」
「えっ、と、チケット!チケットあたって!」
「えーすごいじゃん!昔から運よかったもんねぇ。
すっごい楽しみ!」
「じゃぁ、また!」
ブツリと勢いよく電話が切られる。
これは…
「デート…?デート!拳からデートのお誘い!」
服、新しいの買わないと!
美容室にも行って…、
あとネイルサロンも!
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「拳!」
「美緒、早いね…」
「そう?」
楽しみすぎて30分も早く着いた。
朝に弱い拳は可愛い寝癖を一つつけて時間ギリギリに登場。
「拳?」
「えっ、あぁ、なんでもない。行こうか、」
体力のない拳を振り回して、
絶叫系にも乗って、お揃いのカチューシャなんかもつけて。
もう今日が人生で一番幸せ。
「拳、ほぉら、おいしいよ?」
「いや、僕は…、」
「なによ、好きでしょ?こういう味。」
「じゃあ、」
私の持つスティック状のスイーツを口に入れてもぐもぐ。
「うん、おいしい。」
「ほらね。」
もう日が傾きかけている。
帰りたくない。
でも今日はなんで私を誘ってくれたんだろう。
もしかして、会えない時間が愛を育んだってこと⁉
「拳ー!」
「うっわ、ちょっと、何?」
「別にぃ、」
細いけど拳は肩幅がある。
肩に頬を摺り寄せれば困惑したようにメガネの奥が揺れる。
拳のスマホが震える。
画面を確認すると少し眉をひそめて、「そろそろ帰る?」なんて言ってきた。
「え、もう帰るの?」
「ほら、もう暗いし。そろそろ閉園だよ。」
「まだいたい。」
「美緒、」
「チッ…、はぁい。
また誘ってね。」
少し渋ってみるもののあっさり却下。
でも、また誘ってくれるかも。
拳も楽しそうに見えたし。
「おやすみなさーい!」
スタッフさんたちの元気な声に手を振ってゲートをくぐる。
「楽しかったー」
「それならよかった、美緒、あのさ、」
改まったように向かい合ってくる拳に少し緊張すると、
遠くの方から知らない声。
「ふーくーらーくん♪」
「こーんな可愛い女の子つかまえて!
どーも、福良の大学の友達です!」
拳のお友達という3人の男の子。
「拳、お友達?」
「まぁ…もういいでしょ、ほら!」
「照れるなってー、
罰ゲームとはいえすっごい楽しそうだったじゃん!」
「ちょっと…!」
拳の優しい瞳がギロリと3人を睨むと「やべ、」と口を押える男の子。
もうすでに遅しだ。
「拳。」
「はい。」
「罰ゲームなの?」
「いや…えっと、」
「はっきり言って!」
「ごめん…、」
ごめん?
ごめんってことは、罰ゲームだったってこと?
「拳、私が、拳のこと好きなの知ってるよね。」
目じりが熱い。
拳のことは大好きだよ。
大好きだけど、
「あんまりじゃない?…って言いたいけど…。
うん、許してあげる!」
「え、」
「言ったでしょ、都合のいい時に呼んでって。
チケット当たったなんて嘘なんでしょ、
はい、チケット代。」
お財布から諭吉さんを1枚取り出し拳の手に無理やり握らせる。
「今日は楽しかった!また誘ってね!
お友達も、今度は隠れてないで、一緒に行こうね。」
4人に手を振って改札をくぐり、ちょうど来た電車に乗り込む。
「こんなことだろうと思った。」
拳がやけに落ち着きがないと思ったら。
ちょっとは期待したのになぁ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
あれほど拳に会いたかったのに、
最近はあまり会いたくないと思う。
あの日から久しく私から拳に連絡はしていなかった。
あの後、拳から「ごめん」と連絡が来て、
私は「気にしてないよ、また誘ってね!」と返信してそれきり。
「ばかばか。都合のいい女でいいからって言ったの誰だっての。
それでもいいって、思ったんでしょ…。
こんなに傷つくなんて…思わなかった…。」
拳は、ほんとにこの先私に振り向いてくれないのだろうか。
他の、1番大切な女の子を見つけて、
優しく微笑んで抱きしめたりするんだろうか。
その子の手作りの料理なら、嫌いな野菜も我慢して食べるのだろうか。
「想像以上に過酷すぎ…。」
潮時なのかな。
わざわざ拳を追いかけて東京の大学を受験したけど。
今までより心の距離は遠くなった気がする…。
同じ場所にいたから一緒に居れたことを思い知らされる。
でも10何年も積み上げてきたこの恋心は簡単には消えてくれないんだろうな。
先日試しに参加した合コンはちっとも楽しくないし、
そのあと二人で飲みに行った男はヤることしか頭にないような奴だったし。それ以前にも何もかも拳と比べてしまって話にならない。
「はぁ…」
お風呂上りに鏡を見ると、いつもより数段も不細工な自分の顔が映る。
このところ寝不足でクマは消えないし肌荒れもひどい。
ピンポーン
「…え?」
時計の針は丁度12時を回ったところ。
こんな時間に誰?
スマホを確認するも友人からは連絡が来ていない。
モニターを確認すると、眠たげな黒縁メガネの顔。
「…、拳、どうしたの、こんな時間に。」
「やぁ…美緒…、」
「ん?」
「これ!」
押し付けられたものからはいい香り。
視界には色とりどりの花。
「…花束?」
「誕生日でしょ。」
「え?」
「今日、7月12日。」
「あ、忘れてた。」
「おめでと。」
「ありがと、拳。
わざわざ12時ピッタリに来てくれたの?
嬉しい。」
手を伸ばしていつも通り拳に抱き着こうとすると肩を押えらた。
「え、っと、」
「美緒はさ、勘違いしてると思う。」
「…何が?」
「俺といると楽だから、好きって思ってるだけだよ。
ずっと一緒に居るから。
それは異性としての好きじゃないでしょ。」
拳の瞳を見つめると、その目はうろうろとしてこちらを見つめ返さない。
「何、じゃあ、3月に必死になって伝えた私の想いを無視するんだ。」
「そういうわけじゃ…」
「拳の一言一句で悦んだり悲しんだりするのは嘘だって言いたいんだ。」
「美緒、違うくて、」
「都合のいい女はさ、そうやって扱ってよ。
誕生日に12時ぴったりに花束なんか持ってきて。
諭すようなこと言って。
そんなの全然都合のいい女じゃない!」
「美緒、」
「こんなに苦しいのに…嘘だなんて言わないでよ…。」
泣きたくないのに涙は止まってくれない。
「頭いい癖に。なんでわかんないかな。」
「わっ、」
拳の腕を引っ張って自宅に引き込む。
「拳、私に申し訳ないと思ってる?」
「…ごめん。美緒のこと考えられてなくて…。
傷つけて、ごめん。」
「…私が可哀そうだと思う?」
「…、」
首をかしげて尋ねると、バツが悪そうにうつむく。
「ねぇ、答えてよ。」
背の高い拳を下から覗き込んで顔を寄せる。
「っ…、」
拳の大きい手が私の唇を押える。
あぁ、ここまでしても女の人として見てもらえないなんて。
理性ぶっ飛ばして押し倒すくらい、しなさいよ。
「…、花束、ありがと。」
拳から一歩離れて、花束を靴箱に置いてサンダルを脱ぐ。
「帰っていいよ、じゃあね。」
「美緒、」
「…もう、何よ…」
拳の長い腕が私を引き寄せて、
小さな頭が肩に乗る。
「…私がさっき言ったこと理解してる?
そういうところだよ。」
「僕、自分勝手なんだ。」
「…知ってる。」
「恋愛対象としては思ってないのに、
誰かのところには行ってほしくない。」
「生殺しじゃん。」
「…行かないで。」
きゅんとした。
ほんとにバカ。
こうやって絆されて苦しい思いをする。
それでいいと思いながら
どこかでいつか私が1番にという思いをすてられない。
「僕、好きな人ができたんだ。」
その言葉を聞くまであと何日?
*FIN*
「知ってる。…都合のいい時だけ呼んでくれればいいからさ、
私と付き合ってよ、拳。」
高校を卒業したら私たちは東京へ行く。
それぞれ別々の大学に進む。
拳を手放したくない。少しでつなぎとめておきたい。
「美緒、自分をそうやって粗雑に扱うの悪い癖だよ。」
「じゃあ私の事1番目にしてくれるの?」
「だから、」
「でしょ?私はご飯も作れるし、掃除もできるし。
拳の好きなものも嫌いなものも知ってるよ。
なんでもいいから。」
そうやって押し切って、根負けした彼は不満げにうなづいた。
そうして東京に来て数か月。
一度も拳は私を呼んではくれない。
「…もうっ…」
連絡しても忙しいからの一点張り。
拳のママに新しい住所は送ってもらったけど…
「押しかけたらストーカーじゃんね。」
拳のことは大好きだから、嫌われたくない。
「あー、もう!もどかしいっ…拳に会いたいよー!」
ベッドに寝転んで、卒業式に二人で撮った写真を眺めてじたばた。
すると急に拳専用着信音。
しかも電話。
「拳っ?」
「あ、美緒。久しぶり…、」
「電話、久しぶりだね。
元気にしてた?ご飯食べてる?友達出来た?」
「お母さんじゃないんだから…、」
「そう、だね…。で、どうしたの?」
「いや、えっと…
土曜日、暇?」
「土曜日…?っ暇!すっごい暇!」
「美緒、行きたいって言ってた遊園地、行かない?」
「行く!なんで⁉急にどうしたの⁉」
「えっ、と、チケット!チケットあたって!」
「えーすごいじゃん!昔から運よかったもんねぇ。
すっごい楽しみ!」
「じゃぁ、また!」
ブツリと勢いよく電話が切られる。
これは…
「デート…?デート!拳からデートのお誘い!」
服、新しいの買わないと!
美容室にも行って…、
あとネイルサロンも!
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「拳!」
「美緒、早いね…」
「そう?」
楽しみすぎて30分も早く着いた。
朝に弱い拳は可愛い寝癖を一つつけて時間ギリギリに登場。
「拳?」
「えっ、あぁ、なんでもない。行こうか、」
体力のない拳を振り回して、
絶叫系にも乗って、お揃いのカチューシャなんかもつけて。
もう今日が人生で一番幸せ。
「拳、ほぉら、おいしいよ?」
「いや、僕は…、」
「なによ、好きでしょ?こういう味。」
「じゃあ、」
私の持つスティック状のスイーツを口に入れてもぐもぐ。
「うん、おいしい。」
「ほらね。」
もう日が傾きかけている。
帰りたくない。
でも今日はなんで私を誘ってくれたんだろう。
もしかして、会えない時間が愛を育んだってこと⁉
「拳ー!」
「うっわ、ちょっと、何?」
「別にぃ、」
細いけど拳は肩幅がある。
肩に頬を摺り寄せれば困惑したようにメガネの奥が揺れる。
拳のスマホが震える。
画面を確認すると少し眉をひそめて、「そろそろ帰る?」なんて言ってきた。
「え、もう帰るの?」
「ほら、もう暗いし。そろそろ閉園だよ。」
「まだいたい。」
「美緒、」
「チッ…、はぁい。
また誘ってね。」
少し渋ってみるもののあっさり却下。
でも、また誘ってくれるかも。
拳も楽しそうに見えたし。
「おやすみなさーい!」
スタッフさんたちの元気な声に手を振ってゲートをくぐる。
「楽しかったー」
「それならよかった、美緒、あのさ、」
改まったように向かい合ってくる拳に少し緊張すると、
遠くの方から知らない声。
「ふーくーらーくん♪」
「こーんな可愛い女の子つかまえて!
どーも、福良の大学の友達です!」
拳のお友達という3人の男の子。
「拳、お友達?」
「まぁ…もういいでしょ、ほら!」
「照れるなってー、
罰ゲームとはいえすっごい楽しそうだったじゃん!」
「ちょっと…!」
拳の優しい瞳がギロリと3人を睨むと「やべ、」と口を押える男の子。
もうすでに遅しだ。
「拳。」
「はい。」
「罰ゲームなの?」
「いや…えっと、」
「はっきり言って!」
「ごめん…、」
ごめん?
ごめんってことは、罰ゲームだったってこと?
「拳、私が、拳のこと好きなの知ってるよね。」
目じりが熱い。
拳のことは大好きだよ。
大好きだけど、
「あんまりじゃない?…って言いたいけど…。
うん、許してあげる!」
「え、」
「言ったでしょ、都合のいい時に呼んでって。
チケット当たったなんて嘘なんでしょ、
はい、チケット代。」
お財布から諭吉さんを1枚取り出し拳の手に無理やり握らせる。
「今日は楽しかった!また誘ってね!
お友達も、今度は隠れてないで、一緒に行こうね。」
4人に手を振って改札をくぐり、ちょうど来た電車に乗り込む。
「こんなことだろうと思った。」
拳がやけに落ち着きがないと思ったら。
ちょっとは期待したのになぁ。
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あれほど拳に会いたかったのに、
最近はあまり会いたくないと思う。
あの日から久しく私から拳に連絡はしていなかった。
あの後、拳から「ごめん」と連絡が来て、
私は「気にしてないよ、また誘ってね!」と返信してそれきり。
「ばかばか。都合のいい女でいいからって言ったの誰だっての。
それでもいいって、思ったんでしょ…。
こんなに傷つくなんて…思わなかった…。」
拳は、ほんとにこの先私に振り向いてくれないのだろうか。
他の、1番大切な女の子を見つけて、
優しく微笑んで抱きしめたりするんだろうか。
その子の手作りの料理なら、嫌いな野菜も我慢して食べるのだろうか。
「想像以上に過酷すぎ…。」
潮時なのかな。
わざわざ拳を追いかけて東京の大学を受験したけど。
今までより心の距離は遠くなった気がする…。
同じ場所にいたから一緒に居れたことを思い知らされる。
でも10何年も積み上げてきたこの恋心は簡単には消えてくれないんだろうな。
先日試しに参加した合コンはちっとも楽しくないし、
そのあと二人で飲みに行った男はヤることしか頭にないような奴だったし。それ以前にも何もかも拳と比べてしまって話にならない。
「はぁ…」
お風呂上りに鏡を見ると、いつもより数段も不細工な自分の顔が映る。
このところ寝不足でクマは消えないし肌荒れもひどい。
ピンポーン
「…え?」
時計の針は丁度12時を回ったところ。
こんな時間に誰?
スマホを確認するも友人からは連絡が来ていない。
モニターを確認すると、眠たげな黒縁メガネの顔。
「…、拳、どうしたの、こんな時間に。」
「やぁ…美緒…、」
「ん?」
「これ!」
押し付けられたものからはいい香り。
視界には色とりどりの花。
「…花束?」
「誕生日でしょ。」
「え?」
「今日、7月12日。」
「あ、忘れてた。」
「おめでと。」
「ありがと、拳。
わざわざ12時ピッタリに来てくれたの?
嬉しい。」
手を伸ばしていつも通り拳に抱き着こうとすると肩を押えらた。
「え、っと、」
「美緒はさ、勘違いしてると思う。」
「…何が?」
「俺といると楽だから、好きって思ってるだけだよ。
ずっと一緒に居るから。
それは異性としての好きじゃないでしょ。」
拳の瞳を見つめると、その目はうろうろとしてこちらを見つめ返さない。
「何、じゃあ、3月に必死になって伝えた私の想いを無視するんだ。」
「そういうわけじゃ…」
「拳の一言一句で悦んだり悲しんだりするのは嘘だって言いたいんだ。」
「美緒、違うくて、」
「都合のいい女はさ、そうやって扱ってよ。
誕生日に12時ぴったりに花束なんか持ってきて。
諭すようなこと言って。
そんなの全然都合のいい女じゃない!」
「美緒、」
「こんなに苦しいのに…嘘だなんて言わないでよ…。」
泣きたくないのに涙は止まってくれない。
「頭いい癖に。なんでわかんないかな。」
「わっ、」
拳の腕を引っ張って自宅に引き込む。
「拳、私に申し訳ないと思ってる?」
「…ごめん。美緒のこと考えられてなくて…。
傷つけて、ごめん。」
「…私が可哀そうだと思う?」
「…、」
首をかしげて尋ねると、バツが悪そうにうつむく。
「ねぇ、答えてよ。」
背の高い拳を下から覗き込んで顔を寄せる。
「っ…、」
拳の大きい手が私の唇を押える。
あぁ、ここまでしても女の人として見てもらえないなんて。
理性ぶっ飛ばして押し倒すくらい、しなさいよ。
「…、花束、ありがと。」
拳から一歩離れて、花束を靴箱に置いてサンダルを脱ぐ。
「帰っていいよ、じゃあね。」
「美緒、」
「…もう、何よ…」
拳の長い腕が私を引き寄せて、
小さな頭が肩に乗る。
「…私がさっき言ったこと理解してる?
そういうところだよ。」
「僕、自分勝手なんだ。」
「…知ってる。」
「恋愛対象としては思ってないのに、
誰かのところには行ってほしくない。」
「生殺しじゃん。」
「…行かないで。」
きゅんとした。
ほんとにバカ。
こうやって絆されて苦しい思いをする。
それでいいと思いながら
どこかでいつか私が1番にという思いをすてられない。
「僕、好きな人ができたんだ。」
その言葉を聞くまであと何日?
*FIN*
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