その心は(伊沢拓司)
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彼は、本当は私の事が好きじゃないのかもしれない。
最近、そう思うことが多い。
2つ年上の彼は、知識人でクールである。
私から見れば。
CEOである彼は多忙だし、
メディアにも引っ張りだこ。
テレビで見かける日も多く、うれしい限りである。
でも、彼は私といると少しも楽しくなさそう。
テレビで見る彼も、
動画で見る彼も、
仲間といるときは何時だって楽しそうで、
沢山話して、笑って、冗談だって言うのに、
私といるときは黙って難しい本を読んでいるだけ。
「なんで私と付き合ってくれてるんだろ…、」
ため息をつく。
後ろに手をつくと、クッションの下に硬いもの。
「…?なんだろ?」
ソファを持ち上げると黒いUSBが転がっていた。
先日拓司さんが家に来た時に忘れていったのだろうか。
申し訳ないと思いつつ、
確認するためにパソコンにつなげると、
やはりクイズや記事のようなタイトルのファイルが入っていた。
今頃これがなくて困っているかもしれない。
「一応連絡して…、」
もしかしてオフィスにいないかもしれないと、
オフィスに伺う旨を連絡して家を出る。
いくつか電車を乗り継いで、
以前教えてもらったオフィスにつく。
「ここかぁ…。」
オートロック式のインターホンを押すと。
「…はい。」
と男の人の声。
「あの、私、綾瀬美緒と申します。
伊沢拓司さんの忘れ物を届けに来たのですが…、」
「少しお待ちください。」
きっと知らない女の子が来たから、すごく警戒しているんだと思う。
最近、YouTuberの人の自宅やスタジオに押しかけてしまうファンがいるらしいから。
でも名乗ったし、
拓司さんがここにいれば証明できるはず。
「どうぞ。」
さっきの男の人の声がして、自動ドアが開く。
もう一度インターホンを押すと扉が開いて。
「すんません、今伊沢さん手が離せなくて。
中で待っててもらえますか?」
「あ、わかりました。お邪魔します…。」
動画でいつも見る”川上さん”だった。
「今撮影中で、もう少ししたら終わると思うんですけど。」
執務室に通されて、ライターの皆さんが仕事をする中
ソファに「どうぞ」と促される。
「お久しぶりです。」
壁際の席を立って挨拶をしてくれたのは福良さんだった。
「あ…福良さん…。
お久しぶりです。
すみません、撮影中にお邪魔してしまって…。」
「ぜんぜん、むしろありがとう!
伊沢、USBがないって昨日から騒いでてさー。
まさか美緒ちゃんのところにあるとは…」
福良さんは以前、拓司さんのご自宅にお邪魔したときに会って、
少しだけ顔見知りだ。
他の人は動画で見て一方的に知っているだけで
初対面である。
「すんません、お茶しかなくて。」
「あ、お構いなく…、」
川上さんがグラスにお茶を注いで持ってきてくれた。
誰だというライターさんたちの目が痛い。
もちろんその中には東大王でもよく見かける
林くんや鶴崎さんなどもいる。
すると撮影が終わったのか、執務室に人がなだれ込んでくる。
「あり?福良さんその女の子誰?
まさか彼女?」
ナイスガイさんだ。
思っていたより大きい…。
「あー、須貝さんそんなこというと…」
挨拶をしようと立ち上がると、
須貝さんの後ろから拓司さんが現れる。
私を見ると目を見開いて驚いていた。
「あっ…拓司さん…、」
「なんでいるの。」
「え、と…、」
拓司さんの冷たい声に、うまく言葉でなくなってしまった。
「あー、ほら!これ!
伊沢、美緒ちゃんの家に忘れたでしょ!」
福良さんが私の手の中にあるものをとって説明してくれる。
「昨日から伊沢、ないって言ってたじゃん?
美緒ちゃんが見つけて持ってきてくれたんだよ。」
「ふぅん。」
明らかに険悪な雰囲気に、
他の方々も困ってる。
…、私来ない方がよかった?
メンバーの人には「彼女です」って言えないのかしら。
…残念ながら私は拓司さんのように頭がいいとは言えない。
だからと言って特別容姿が優れているわけでもない。
他の可愛いYouTuberさんや、タレントさんたちと交流のある拓司さんが、
なんでこんな凡人と付き合ってると言えるだろう。
唯一の取柄といえば、
料理やお菓子、パンが作れることくらい。
きっと、恥ずかしいんだ。
私が彼女でいることが。
だから今までこの方々に紹介してくれないんだ。
「ほら、美緒ちゃんも軽く自己紹介して?
…今後関わるかもしれないしさ。」
福良さんに優しく促されるも、やっと口を開いたのは
「綾瀬美緒、です。
えっと…、」
「伊沢とはどういう関係で?」
須貝さんが興味深々と言った顔で聞いてくる。
彼女ですなんて言えない。
妹にしては出来が違いすぎる。
「あ、と…
友達、です。」
振り絞って出した言葉に福良さんが「ちょっと…!」と言うが
それ以外に何が言えよう?
拓司さんの価値を下げたくない。
「ふーん。友達なんだ。
ねぇ、そんな下見てないでさ、
顔見せてよ。」
「きゃっ…、」
下から須貝さんに顔をのぞき込まれて
思わず福良さんに隠れる。
「須貝さん!美緒ちゃん人見知りだから!
勘弁してあげて!
伊沢も!いつまで拗ねてんの!
元を辿れば伊沢が悪いんだからね!」
「あ、すまん。
美緒ちゃん?
彼氏とかいないの?
俺とかどう?
めっちゃ顔好みなんだけど。」
「え、と…」
「ほら!美緒ちゃん須貝さんに盗られるよ⁉」
すると拓司さんに腕を引かれて、
その逞しい腕の中に閉じ込められる。
「須貝さん、俺の彼女だから。」
「あ、そうなの?
なんだー。」
「じゃあ最初からそう言えよなー」と不満を漏らして須貝さんはデスクに向かっていく。
「た、拓司さん…、」
「なんで友達とかいうの。」
「だ、って…
全然、皆さんに紹介してくれないし…
つ、冷たいし…
私が彼女なのはずかしいんじゃないかって…」
視界が霞んで涙がボロボロと零れ落ちる。
「あーあ、伊沢悪いんだー。
美緒ちゃん泣かせたー。」
福良さんがタオルを差し出してくれる。
受け取ろうとした手は拓司さんによって阻まれて、
彼の着ているパーカーでごしごしと擦られる。
「あっ、拓司さん、ちょっ、強い…!」
「あーダメですよ伊沢さん。
目、腫れちゃいますよ。」
そう言って手を伸ばした川上さんの手すらも叩き落とされてしまった。
「いつ間に川上と仲良くなったの。」
「な、仲良く…?
あの動画以外では今日初めてお会いしましたけど…。」
「ふうん。」
「あ、の拓司さん。」
「美緒。」
「はい?」
「…やっぱり何でもない。」
拓司さんはそう言うと、私を離してデスクに戻ってしまった。
なんだったんだ。
でも強く抱きしめてくれたその腕はとてもやさしかった。
「美緒ちゃん、」
「あ…福良さん。
その、何が何だか…?」
「あんまり言うと伊沢に怒られちゃうけどさ…
美緒ちゃんが好きすぎて
俺たちに会わせてくれないんだよ。」
「…え?」
目をぱちくりさせると、
ニコニコと福良さんが教えてくれる。
「ほら、俺たちの集団は女の人が少ないからさ。
こんな男所帯に美緒ちゃんを連れてこられないとか、
変な虫がつくとか。
とにかく美緒ちゃんが可愛んだよ、伊沢は。」
「そんな…、
だっていっつも難しい顔してたのに…、」
「彼女にデレデレしてるとことか見せたくないんじゃない?
ほら、クイズ王だから。」
「…なんですか、それ。」
思わず笑ってしまった。
悩んでいた自分がばからしい。
他の人に教えてもらってやっと気づくなんて。
「た、拓司さん!」
思い切って名前を呼ぶと、
ゆっくりとパソコンから顔を上げた彼はなんだとでも言うように首をかしげる。
「私っ、拓司さんが1番ですからね!
これからもずっとずっと1番ですからね!」
「は、」
驚いたのか目を見開いたあと、
顔が見る見るうちに赤くなり、
机に突っ伏してしまった。
「っ…、美緒オフィス禁止!」
「えっ、」
拓司さんから反逆を食らったが、
福良さんから良い情報をもらった今、
そんなことはなんのダメージでもない。
とどのつまり、拓司さんが照屋さんなだけなのだ。
そんな拓司さんが知れてうれしい。
意外と可愛い人なのだと知ったのであった。
**Fin**
最近、そう思うことが多い。
2つ年上の彼は、知識人でクールである。
私から見れば。
CEOである彼は多忙だし、
メディアにも引っ張りだこ。
テレビで見かける日も多く、うれしい限りである。
でも、彼は私といると少しも楽しくなさそう。
テレビで見る彼も、
動画で見る彼も、
仲間といるときは何時だって楽しそうで、
沢山話して、笑って、冗談だって言うのに、
私といるときは黙って難しい本を読んでいるだけ。
「なんで私と付き合ってくれてるんだろ…、」
ため息をつく。
後ろに手をつくと、クッションの下に硬いもの。
「…?なんだろ?」
ソファを持ち上げると黒いUSBが転がっていた。
先日拓司さんが家に来た時に忘れていったのだろうか。
申し訳ないと思いつつ、
確認するためにパソコンにつなげると、
やはりクイズや記事のようなタイトルのファイルが入っていた。
今頃これがなくて困っているかもしれない。
「一応連絡して…、」
もしかしてオフィスにいないかもしれないと、
オフィスに伺う旨を連絡して家を出る。
いくつか電車を乗り継いで、
以前教えてもらったオフィスにつく。
「ここかぁ…。」
オートロック式のインターホンを押すと。
「…はい。」
と男の人の声。
「あの、私、綾瀬美緒と申します。
伊沢拓司さんの忘れ物を届けに来たのですが…、」
「少しお待ちください。」
きっと知らない女の子が来たから、すごく警戒しているんだと思う。
最近、YouTuberの人の自宅やスタジオに押しかけてしまうファンがいるらしいから。
でも名乗ったし、
拓司さんがここにいれば証明できるはず。
「どうぞ。」
さっきの男の人の声がして、自動ドアが開く。
もう一度インターホンを押すと扉が開いて。
「すんません、今伊沢さん手が離せなくて。
中で待っててもらえますか?」
「あ、わかりました。お邪魔します…。」
動画でいつも見る”川上さん”だった。
「今撮影中で、もう少ししたら終わると思うんですけど。」
執務室に通されて、ライターの皆さんが仕事をする中
ソファに「どうぞ」と促される。
「お久しぶりです。」
壁際の席を立って挨拶をしてくれたのは福良さんだった。
「あ…福良さん…。
お久しぶりです。
すみません、撮影中にお邪魔してしまって…。」
「ぜんぜん、むしろありがとう!
伊沢、USBがないって昨日から騒いでてさー。
まさか美緒ちゃんのところにあるとは…」
福良さんは以前、拓司さんのご自宅にお邪魔したときに会って、
少しだけ顔見知りだ。
他の人は動画で見て一方的に知っているだけで
初対面である。
「すんません、お茶しかなくて。」
「あ、お構いなく…、」
川上さんがグラスにお茶を注いで持ってきてくれた。
誰だというライターさんたちの目が痛い。
もちろんその中には東大王でもよく見かける
林くんや鶴崎さんなどもいる。
すると撮影が終わったのか、執務室に人がなだれ込んでくる。
「あり?福良さんその女の子誰?
まさか彼女?」
ナイスガイさんだ。
思っていたより大きい…。
「あー、須貝さんそんなこというと…」
挨拶をしようと立ち上がると、
須貝さんの後ろから拓司さんが現れる。
私を見ると目を見開いて驚いていた。
「あっ…拓司さん…、」
「なんでいるの。」
「え、と…、」
拓司さんの冷たい声に、うまく言葉でなくなってしまった。
「あー、ほら!これ!
伊沢、美緒ちゃんの家に忘れたでしょ!」
福良さんが私の手の中にあるものをとって説明してくれる。
「昨日から伊沢、ないって言ってたじゃん?
美緒ちゃんが見つけて持ってきてくれたんだよ。」
「ふぅん。」
明らかに険悪な雰囲気に、
他の方々も困ってる。
…、私来ない方がよかった?
メンバーの人には「彼女です」って言えないのかしら。
…残念ながら私は拓司さんのように頭がいいとは言えない。
だからと言って特別容姿が優れているわけでもない。
他の可愛いYouTuberさんや、タレントさんたちと交流のある拓司さんが、
なんでこんな凡人と付き合ってると言えるだろう。
唯一の取柄といえば、
料理やお菓子、パンが作れることくらい。
きっと、恥ずかしいんだ。
私が彼女でいることが。
だから今までこの方々に紹介してくれないんだ。
「ほら、美緒ちゃんも軽く自己紹介して?
…今後関わるかもしれないしさ。」
福良さんに優しく促されるも、やっと口を開いたのは
「綾瀬美緒、です。
えっと…、」
「伊沢とはどういう関係で?」
須貝さんが興味深々と言った顔で聞いてくる。
彼女ですなんて言えない。
妹にしては出来が違いすぎる。
「あ、と…
友達、です。」
振り絞って出した言葉に福良さんが「ちょっと…!」と言うが
それ以外に何が言えよう?
拓司さんの価値を下げたくない。
「ふーん。友達なんだ。
ねぇ、そんな下見てないでさ、
顔見せてよ。」
「きゃっ…、」
下から須貝さんに顔をのぞき込まれて
思わず福良さんに隠れる。
「須貝さん!美緒ちゃん人見知りだから!
勘弁してあげて!
伊沢も!いつまで拗ねてんの!
元を辿れば伊沢が悪いんだからね!」
「あ、すまん。
美緒ちゃん?
彼氏とかいないの?
俺とかどう?
めっちゃ顔好みなんだけど。」
「え、と…」
「ほら!美緒ちゃん須貝さんに盗られるよ⁉」
すると拓司さんに腕を引かれて、
その逞しい腕の中に閉じ込められる。
「須貝さん、俺の彼女だから。」
「あ、そうなの?
なんだー。」
「じゃあ最初からそう言えよなー」と不満を漏らして須貝さんはデスクに向かっていく。
「た、拓司さん…、」
「なんで友達とかいうの。」
「だ、って…
全然、皆さんに紹介してくれないし…
つ、冷たいし…
私が彼女なのはずかしいんじゃないかって…」
視界が霞んで涙がボロボロと零れ落ちる。
「あーあ、伊沢悪いんだー。
美緒ちゃん泣かせたー。」
福良さんがタオルを差し出してくれる。
受け取ろうとした手は拓司さんによって阻まれて、
彼の着ているパーカーでごしごしと擦られる。
「あっ、拓司さん、ちょっ、強い…!」
「あーダメですよ伊沢さん。
目、腫れちゃいますよ。」
そう言って手を伸ばした川上さんの手すらも叩き落とされてしまった。
「いつ間に川上と仲良くなったの。」
「な、仲良く…?
あの動画以外では今日初めてお会いしましたけど…。」
「ふうん。」
「あ、の拓司さん。」
「美緒。」
「はい?」
「…やっぱり何でもない。」
拓司さんはそう言うと、私を離してデスクに戻ってしまった。
なんだったんだ。
でも強く抱きしめてくれたその腕はとてもやさしかった。
「美緒ちゃん、」
「あ…福良さん。
その、何が何だか…?」
「あんまり言うと伊沢に怒られちゃうけどさ…
美緒ちゃんが好きすぎて
俺たちに会わせてくれないんだよ。」
「…え?」
目をぱちくりさせると、
ニコニコと福良さんが教えてくれる。
「ほら、俺たちの集団は女の人が少ないからさ。
こんな男所帯に美緒ちゃんを連れてこられないとか、
変な虫がつくとか。
とにかく美緒ちゃんが可愛んだよ、伊沢は。」
「そんな…、
だっていっつも難しい顔してたのに…、」
「彼女にデレデレしてるとことか見せたくないんじゃない?
ほら、クイズ王だから。」
「…なんですか、それ。」
思わず笑ってしまった。
悩んでいた自分がばからしい。
他の人に教えてもらってやっと気づくなんて。
「た、拓司さん!」
思い切って名前を呼ぶと、
ゆっくりとパソコンから顔を上げた彼はなんだとでも言うように首をかしげる。
「私っ、拓司さんが1番ですからね!
これからもずっとずっと1番ですからね!」
「は、」
驚いたのか目を見開いたあと、
顔が見る見るうちに赤くなり、
机に突っ伏してしまった。
「っ…、美緒オフィス禁止!」
「えっ、」
拓司さんから反逆を食らったが、
福良さんから良い情報をもらった今、
そんなことはなんのダメージでもない。
とどのつまり、拓司さんが照屋さんなだけなのだ。
そんな拓司さんが知れてうれしい。
意外と可愛い人なのだと知ったのであった。
**Fin**
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