もしも生い立ちが違ったら(田村正資)
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(田村正資Side)
「東大生10人で朝からそれ正解!」
後輩の伊沢が始めたYouTube。
企画の一つしてスタジオに呼ばれた。
収録の休憩中、
スマートフォンに連絡が。
画面には田村美緒。
「…もしもし。どうしたの姉さん。」
『あ、正資⁉私のUSB持ってない⁉ピンク色のやつ!』
「え?」
何で姉さんのUSBを俺が、と鞄を見ると、
見事に中に転がっていた。
「あった。」
『やっぱりー…それ今日必要なのよ。
取りに行ってもいい??』
「いいけど、これるの?」
『大丈夫!伊沢くんと収録中でしょ?
誰かに言っておいて!』
「わかった。」
プツリと切れた電話。
姉と都内で2人暮らしの俺たちは、
よく互いの荷物が混じってしまう。
今日は姉のUSB。
多分収録中に来るだろうからと、
福良さんにその旨を伝えUSBを手渡すようにお願いした。
しばらくして収録を再開すると、
そろりと扉が開き、福良さんがそれに気づく。
しかしそれを目ざとく見つけた伊沢が
「あー!」
と叫ぶ。
カメラ回ってるのに。
「美緒さん!」
福良さんは呆れたようにため息をつき、
少しだけ顔を出した姉さんは困ったように手を振る。
「ちょ、福良さんカメラ止めて!」
「えぇー…もう…」
しぶしぶといったんカメラを切った福良さんを不憫に思う。
これはしばらく収録できないぞ。
伊沢はホワイトボードを放り投げ扉の方に駆け寄る。
「どうしたんですか?」
「正資の鞄に私のUSB混じっちゃったみたいで。
それを取りに。」
「今日も可愛いっスね。」
「はいはい、いつもありがとね。」
他の面々が誰だ誰だとヒソヒソ。
それに気づいた姉さんが一言。
「どうも初めまして。田村の姉です。」
軽く会釈すると
「え⁉」
「似てない!」
など口々。
「俺の彼女だから!」
「違います。」
伊沢の冗談に真面目な顔で否定する。
うん。違う。
伊沢のじゃない。
「じゃあなる予定!」
「予定もありません。」
「めっちゃ振られるじゃん。」
こうちゃんに弄られてぎゃあぎゃあと言い合いを始める。
「ほら、収録中でしょ。伊沢くん。」
「いやいや、美緒さんのほうが大事。」
「こら、伊沢。姉さんも。」
「はいはい、収録頑張ってね。」
「あっ、待って!」
姉さんを追い返して俺も福良さんに「ごめんね。」と一言。
撮影を再開しても、姉さんのことが頭から離れない。
伊沢はもちろんだが、明らかに何人か姉さんを狙い始めた。
年上に人気がありそうな山本とか要注意だな。
あと須貝さん。彼はどストレートだから。
そんなことばかり考えているからか、
朝それの回答は珍回答ばかり。
伊沢にバカにされる始末だ。
「お疲れ様でーす。」
「お疲れー」
収録が終了し、打ち上げをしようかと伊沢。
「田村さんも行くっしょ?」
「あぁ、俺、姉さんがご飯作ってるから。」
「え!?美緒さんのごはん!
俺も行きたい俺も行きたい!
田村さんお願い!」
「…だめ。じゃあなー。」
縋りついてくる伊沢を引きはがして帰路に就く。
歩きながら、幼いころを思い出す。
自分が小学校低学年の頃に親が再婚し、新しい母親の連れ子が姉さんだった。
優しくて可愛い姉さん。
中学生にあがるころには、
同級生の女の子なんて1mmも興味がなくて、
俺の眼には姉さんしか映っていなかった。
しかし姉さんには彼氏ができて、
しかもそれはころころと入れ替わっていく。
大学生と付き合ってた時もあった。
俺の高校受験が終わったころ、
姉さんが泣きながら帰ってきたことがあった。
「どうしたの…⁉」
両親は旅行、姉さんは彼氏の家に泊まりに行くと言って
俺一人で留守番をするはずだった。
そとは土砂降りで
傘もささずに帰ってきたらしい。
「早くシャワー浴びて!」
手を引くと後ろに引かれる。
髪から雫を垂らす姉さんは、俺の手を強く握って言った。
「…好きになれないの。」
「は?」
「誰と付き合っても、好きになれないの。
キスも、手をつなぐこともできないの!
…正資が好きだから、
ごめんね、気持ち悪いよね、ごめんねっ…、」
目元をセーターでごしごしと拭う姉さんが愛しくて、
自分の一方的な片思いじゃなかったことがうれしくて、
姉さんを抱きしめて
「俺は、ずっと昔から姉さんしか見えてないよ。」
酷く冷えた玄関で、俺たちは抱き合って泣いた。
それから大学進学を機に姉さんは一人暮らしをはじめ、
東大に進むべくして進んだ俺は、
姉さんのアパートに転がり込んだ。
だからこうして今は姉さんと幸せな2人暮らしをしているわけだが。
マンションのインターホンを鳴らすと、
「おかえり」
と姉さんが迎えてくれる。
「ただいま。」
「ご飯できてるよ。手、洗ってきて。」
背を向ける姉さんを引き寄せて抱きしめる。
「…どうしたの。」
「俺もう我慢できない。」
「なにが?」
「姉さんが他の人の目に映るのが。」
姉さんの動きが一瞬止まった。
「だってそうだろ…っ、
俺の、俺の愛しい姉さんなのにっ…
伊沢みたいに、本気で姉さんを好きになるかもしれないっ…
我慢できないっ、」
腕に力を籠めると、姉さんの細い身体はいとも簡単に折れてしまいそう。
「…正資。」
姉さんは小さな手で俺の腕を摩った。
向かい合うようにしてもう一度抱きしめると、
今度は髪に指を通して優しく頭を撫でられる。
「正資は、私がどれだけ正資を愛してるかわかってないのね。」
「…そんなことない。」
「そんなことあるの。
…正資以外に向けられる愛情や恋心がどんなに気持ち悪い事か。
昔からそうだったわ。
正資を忘れなきゃと思ってたくさんの男の人と付き合っては見たけど…
キスも手をつなぐことさえ気持ち悪い。
身体を重ねるなんてもってのほか。
あんなにたくさんの人と付き合ってたのに、
初めて正資が私を抱いてくれた日、私、処女だったでしょ?」
「あ…、」
初めて姉さんを抱いた日、
秘部から流れる鮮血に驚いたことを覚えてる。
「私だってね、正資。」
細い指が俺の首筋をなぞって無意識のうちに震える。
「あなたがこんなにもかっこよくて
女の子に人気があるから…
いっそ殺してしまいたいくらいなの。」
「っ…げほっ…、」
酷く悲しい目で見つめてくる。
彼女の小さな手では、片手で俺の首の半分もつかめていないけど、
込められた力はそれ以上で、
一瞬だった。
「ね、私、
正資のこと愛してるよ。わかってくれた?」
これ以上彼女のそんな悲しそうな顔見たくなくて
「…ごめん。姉さん。」
一言謝るとかわいらしい笑みを浮かべて
「いいの。
私も、不安にさせてごめんね。
でも伊沢くんは何とも思ってないから。
…本当に心配なら、閉じ込めてくれてもいいのよ。
正資のためなら、私ずっとここで正資の帰りを待ってるわ。」
「いや。
俺は愛しい姉さんを信じてる。」
額にキスをすると恥ずかしそうに「もうっ…」と頬を赤くする。
一見異常に見えるだろうこの風景は、俺たちの中では日常である。
俺も姉さんも、お互いに共依存していて、お互いがお互いなしでは生きていけない。
「正資、あなただけよ。
愛してる。」
「俺も。愛してる。」
重ねた唇はひどく熱く、
絡まる舌は切り落としたいくらいに煽情的だ。
姉弟であるのも何かの運命かもしれない。
それでも俺は、
何があっても姉さんを愛すと決めたんだ。
もしも姉さんが姉さんじゃなく、 俺が俺じゃなかったら
こんなに運命に苦しむことはなかったのに。
**Fin**
「東大生10人で朝からそれ正解!」
後輩の伊沢が始めたYouTube。
企画の一つしてスタジオに呼ばれた。
収録の休憩中、
スマートフォンに連絡が。
画面には田村美緒。
「…もしもし。どうしたの姉さん。」
『あ、正資⁉私のUSB持ってない⁉ピンク色のやつ!』
「え?」
何で姉さんのUSBを俺が、と鞄を見ると、
見事に中に転がっていた。
「あった。」
『やっぱりー…それ今日必要なのよ。
取りに行ってもいい??』
「いいけど、これるの?」
『大丈夫!伊沢くんと収録中でしょ?
誰かに言っておいて!』
「わかった。」
プツリと切れた電話。
姉と都内で2人暮らしの俺たちは、
よく互いの荷物が混じってしまう。
今日は姉のUSB。
多分収録中に来るだろうからと、
福良さんにその旨を伝えUSBを手渡すようにお願いした。
しばらくして収録を再開すると、
そろりと扉が開き、福良さんがそれに気づく。
しかしそれを目ざとく見つけた伊沢が
「あー!」
と叫ぶ。
カメラ回ってるのに。
「美緒さん!」
福良さんは呆れたようにため息をつき、
少しだけ顔を出した姉さんは困ったように手を振る。
「ちょ、福良さんカメラ止めて!」
「えぇー…もう…」
しぶしぶといったんカメラを切った福良さんを不憫に思う。
これはしばらく収録できないぞ。
伊沢はホワイトボードを放り投げ扉の方に駆け寄る。
「どうしたんですか?」
「正資の鞄に私のUSB混じっちゃったみたいで。
それを取りに。」
「今日も可愛いっスね。」
「はいはい、いつもありがとね。」
他の面々が誰だ誰だとヒソヒソ。
それに気づいた姉さんが一言。
「どうも初めまして。田村の姉です。」
軽く会釈すると
「え⁉」
「似てない!」
など口々。
「俺の彼女だから!」
「違います。」
伊沢の冗談に真面目な顔で否定する。
うん。違う。
伊沢のじゃない。
「じゃあなる予定!」
「予定もありません。」
「めっちゃ振られるじゃん。」
こうちゃんに弄られてぎゃあぎゃあと言い合いを始める。
「ほら、収録中でしょ。伊沢くん。」
「いやいや、美緒さんのほうが大事。」
「こら、伊沢。姉さんも。」
「はいはい、収録頑張ってね。」
「あっ、待って!」
姉さんを追い返して俺も福良さんに「ごめんね。」と一言。
撮影を再開しても、姉さんのことが頭から離れない。
伊沢はもちろんだが、明らかに何人か姉さんを狙い始めた。
年上に人気がありそうな山本とか要注意だな。
あと須貝さん。彼はどストレートだから。
そんなことばかり考えているからか、
朝それの回答は珍回答ばかり。
伊沢にバカにされる始末だ。
「お疲れ様でーす。」
「お疲れー」
収録が終了し、打ち上げをしようかと伊沢。
「田村さんも行くっしょ?」
「あぁ、俺、姉さんがご飯作ってるから。」
「え!?美緒さんのごはん!
俺も行きたい俺も行きたい!
田村さんお願い!」
「…だめ。じゃあなー。」
縋りついてくる伊沢を引きはがして帰路に就く。
歩きながら、幼いころを思い出す。
自分が小学校低学年の頃に親が再婚し、新しい母親の連れ子が姉さんだった。
優しくて可愛い姉さん。
中学生にあがるころには、
同級生の女の子なんて1mmも興味がなくて、
俺の眼には姉さんしか映っていなかった。
しかし姉さんには彼氏ができて、
しかもそれはころころと入れ替わっていく。
大学生と付き合ってた時もあった。
俺の高校受験が終わったころ、
姉さんが泣きながら帰ってきたことがあった。
「どうしたの…⁉」
両親は旅行、姉さんは彼氏の家に泊まりに行くと言って
俺一人で留守番をするはずだった。
そとは土砂降りで
傘もささずに帰ってきたらしい。
「早くシャワー浴びて!」
手を引くと後ろに引かれる。
髪から雫を垂らす姉さんは、俺の手を強く握って言った。
「…好きになれないの。」
「は?」
「誰と付き合っても、好きになれないの。
キスも、手をつなぐこともできないの!
…正資が好きだから、
ごめんね、気持ち悪いよね、ごめんねっ…、」
目元をセーターでごしごしと拭う姉さんが愛しくて、
自分の一方的な片思いじゃなかったことがうれしくて、
姉さんを抱きしめて
「俺は、ずっと昔から姉さんしか見えてないよ。」
酷く冷えた玄関で、俺たちは抱き合って泣いた。
それから大学進学を機に姉さんは一人暮らしをはじめ、
東大に進むべくして進んだ俺は、
姉さんのアパートに転がり込んだ。
だからこうして今は姉さんと幸せな2人暮らしをしているわけだが。
マンションのインターホンを鳴らすと、
「おかえり」
と姉さんが迎えてくれる。
「ただいま。」
「ご飯できてるよ。手、洗ってきて。」
背を向ける姉さんを引き寄せて抱きしめる。
「…どうしたの。」
「俺もう我慢できない。」
「なにが?」
「姉さんが他の人の目に映るのが。」
姉さんの動きが一瞬止まった。
「だってそうだろ…っ、
俺の、俺の愛しい姉さんなのにっ…
伊沢みたいに、本気で姉さんを好きになるかもしれないっ…
我慢できないっ、」
腕に力を籠めると、姉さんの細い身体はいとも簡単に折れてしまいそう。
「…正資。」
姉さんは小さな手で俺の腕を摩った。
向かい合うようにしてもう一度抱きしめると、
今度は髪に指を通して優しく頭を撫でられる。
「正資は、私がどれだけ正資を愛してるかわかってないのね。」
「…そんなことない。」
「そんなことあるの。
…正資以外に向けられる愛情や恋心がどんなに気持ち悪い事か。
昔からそうだったわ。
正資を忘れなきゃと思ってたくさんの男の人と付き合っては見たけど…
キスも手をつなぐことさえ気持ち悪い。
身体を重ねるなんてもってのほか。
あんなにたくさんの人と付き合ってたのに、
初めて正資が私を抱いてくれた日、私、処女だったでしょ?」
「あ…、」
初めて姉さんを抱いた日、
秘部から流れる鮮血に驚いたことを覚えてる。
「私だってね、正資。」
細い指が俺の首筋をなぞって無意識のうちに震える。
「あなたがこんなにもかっこよくて
女の子に人気があるから…
いっそ殺してしまいたいくらいなの。」
「っ…げほっ…、」
酷く悲しい目で見つめてくる。
彼女の小さな手では、片手で俺の首の半分もつかめていないけど、
込められた力はそれ以上で、
一瞬だった。
「ね、私、
正資のこと愛してるよ。わかってくれた?」
これ以上彼女のそんな悲しそうな顔見たくなくて
「…ごめん。姉さん。」
一言謝るとかわいらしい笑みを浮かべて
「いいの。
私も、不安にさせてごめんね。
でも伊沢くんは何とも思ってないから。
…本当に心配なら、閉じ込めてくれてもいいのよ。
正資のためなら、私ずっとここで正資の帰りを待ってるわ。」
「いや。
俺は愛しい姉さんを信じてる。」
額にキスをすると恥ずかしそうに「もうっ…」と頬を赤くする。
一見異常に見えるだろうこの風景は、俺たちの中では日常である。
俺も姉さんも、お互いに共依存していて、お互いがお互いなしでは生きていけない。
「正資、あなただけよ。
愛してる。」
「俺も。愛してる。」
重ねた唇はひどく熱く、
絡まる舌は切り落としたいくらいに煽情的だ。
姉弟であるのも何かの運命かもしれない。
それでも俺は、
何があっても姉さんを愛すと決めたんだ。
もしも姉さんが姉さんじゃなく、 俺が俺じゃなかったら
こんなに運命に苦しむことはなかったのに。
**Fin**
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