艦のかえりみち短編まとめ
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私の朝はちょっと早い。
体内時計が決まっているからか、いつも自然と絶対に起きなきゃならない時間よりも三十分前に起きる。
上半身を起こして眠い目をこすり隣でぐうぐうと寝ているであろう私の旦那様を見つめて心の中で気持ちよさそうに寝てるなぁ、とまったり微笑ましく見守る。
おはよう、消さん。
そろりと起こさないようにクイーンサイズのベッドから降りてリビングに行けば、冷蔵庫の稼働音くらいしか聞こえない、静かな部屋だ。
住んでいるところ自体が住宅地なのでそんなに騒がしくはないけれど、たまに外からは朝早くに出勤する車のエンジン音が聞こえる。
朝だなぁと思いながら顔を洗い、冷蔵庫から昨日作っておいたおかずと常備菜、そして卵とソーセージを台所のど真ん中に置いてあるカウンターテーブルに出した。
各お弁当箱にご飯を入れて、蓋を斜めにおいて冷まし、その間におかずも詰める。
因みにお弁当箱は消さんのよりも二倍以上の量はある。今日は護衛任務があるからしっかりと量詰めておかないと。
あれやこれやと突っ込んでいれば、ぬぼう…と大きく真っ黒な壁がカウンター越しにだけど、私の前に現れる。
「……澪」
「おはよ、消さん」
「…おはよ」
消さんは起きると必ず私の傍に立って眠そうに欠伸をしながら私の頭をくるりと撫でる。
そして撫でた手はそのまま私の頬を撫でるように通過し、顎の下にやるとクイ、と持ち上げてきてキスをする。…毎日されるけど、慣れない。
「…何度もしてるんだから照れるなよ」
「や…だって…照れます」
私の回答に楽しそうに鼻で笑った消さんはまた私の頭をポンと軽く撫でてから洗面所へ消えた。
…昔を考えると、考えられない光景だろう。
中の年齢が大人だったとしても、肉体が十二歳の頃の私がこの光景を見たら全力でツッコむだろう。
『何であんな小汚いおっさんと結婚してるのさ私!!?』って具合に。
仕方ない。色々とあったのだ。色々と。
そして師弟という関係もありながら人生のパートナーにもなれるとも思ってなかった。これも色々と、あった。
まぁまぁ、こういう話は誰に向けて言っているのやらは置いておいて、朝ごはんとお弁当を作らなければ。
私は丸いフライパンに火をかけて、出した卵をボウルに割って砂糖と牛乳を少し入れる。
小気味好く菜箸でといていくと砂糖によっていつもより深みのある黄色につい幸せな気持ちになって嬉しくなり、笑みがこぼれた。
焼けたフライパンに薄くマーガリンを塗って卵を少しずつ垂らして巻く。これを数回繰り返せばいい感じに大きくなってきた。
丸いフライパンでやってるので真ん中が大きくて、端っこが小さいけれど。そこはご愛嬌。
最後のひと垂らしを入れて巻いた卵が崩れないように端に寄せれば出来上がり。
うんうん。いい出来だ。
我ながらにいい出来ではないか、と思い皿に移して切り分け、焼いたソーセージやら残りのおかずをお弁当に詰めていると、ドタバタと何やら騒がしい。
念のために手早くお弁当袋に入れて音の元へとリビングへ駆け寄ると慌てた様子の消さんがいた。
「どうしたの?」
「今日早かったの忘れてた。悪いが朝ご飯はいらない」
「ん、わかったよ」
お弁当を受け取った消さんはすぐさま靴を履きに玄関へ向かうのを見て私はあっ、と台所に行って菜箸で真ん中に近い卵焼きを掴んで玄関に駆け込む。
「消さんまってまって!出来立ての玉子焼き一口だけでも食べてって!」
あー!と大きな声で言えば消さんはすぐ振り返り、菜箸で掴んでいる卵焼きを一口で食べきってしまう。
「ん」
「よし。じゃあ今日も頑張ってね!行ってらっしゃい!」
「ん」
開けたドアを抑えて先に出た消さんに手を振って見送ると、彼はすぐに姿が見えなくなった。
流石プロヒーロー。いくつになっても衰えが見られない。まぁ、外見はほんの少し老けたかもだけど。
「…ヒゲのはしっこ、卵焼きのカスついちゃったの、メールしとこ」
気付くかな。気付かないかも。
マイク先生とかに突っ込まれちゃうのかな…なんて想像して笑いがこみ上げてくる。あの二人のやりとりってコント見てるみたいで面白いんだよなぁ。
「さ、私もご飯食べたら事務所に出勤しなきゃ」
今日もいい天気だ。今日の護衛任務はさぞ気持ちよくこなすことができるだろう。
そういえば近所に立派な桜の木があったな。そろそろ見頃だろうし、今日はしっかり眺めてから出勤しよう。
「いただきます。」
私は残った卵焼きの端っこを食べて、口の中に広がる甘さを堪能して、最後に私はコーヒーで締めて出勤するのであった。
航跡ヒーロー・フリート。
本日も元気に抜錨いたします!