相澤先生誕生日まとめ
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今日も今日とて訓練に明け暮れている。
はぁー、と息を深くついて汗を拭うと汗ひとつかくことなく私と訓練に付き合ってくれている相澤消太という男が私を見下ろす。
ヒーロー名は確かイレイザーヘッド。多分合ってる。多分。自信はない。
この人はある意味私がヒーローを目指すきっかけを無理やり作ってくれた人であり、師匠だ。
今年の夏からの付き合いで、まだ多分三、四ヶ月くらいしか経っていない。
それでもこの人の性格やらなんやらはなんとなくだけどわかっている。けれどもその中でも気になっていたけど聞いていなかったことがあったな、と思い出した。
「消さんってさぁ、めちゃくちゃおっさんに見えるけど今何歳なの?」
髭面にモジャモジャの髪の毛。
私が最初に会った時は不審者かと思ってドギマギしたものだ。
それで一体幾つなんだろうと思って聞いてみれば、彼はきょとんとした顔をしたのち、不機嫌そうに顔をしかめた。
「お前失礼だな。一応中身大人だろ。しかも俺より年上らしいじゃねえか」
「いやぁ…身分が子供なのでつい甘えてしまって…ごめんなさい…。って、え、そうなの?私より年下?」
「まぁいいけど。確か…26…あ、いや、もう27になるのか」
「え、ええ…?!」
意外だ。とても意外だ。
と、いうか私自身が前世から含めて子供っぽすぎるってのもあるんだろう。20代にはとても見えない落ち着きを消さんは持っていた。
「なるのかって…誕生日でも近いの?」
「まぁ…明日だからな、誕生日」
「へ」
それは…大変だ。
***
「うーん…と、言っても正直消さんとの付き合いはそんなに長くないから何あげたらいいかわかんないなぁ」
衝撃の事実を知り、家に帰ってから自室でうんうんと悩む夜。
明日学校の帰りから夕方公園再集合するまでの時間まで、少し空いてるからその間に買いに行こうかと思うけれど、いかんせん方向性が決まらず、どのジャンルのものを買うかすら決められていない。
「一応弟子だし…これからよろしく的な意味合いも込めて今年はプレゼントしたいよね。来年とかは気が向いたらとかでいい気がするけど。」
お小遣いは貰ってるし、そんなに使ってないから選択肢の幅はほどほどに広い。
ゆえに、悩ましい。
「………だめだ、寝よ。」
私はもう眠いので諦めて寝ることにした。
子供のうちは、しっかり寝なねばならぬ。
***
「なんで昨日寝てしまったんだ私は!」
今日も今日とて朝の訓練に行く準備をしながら自分に文句を漏らした。
「あ、おはようお父さん」
「おはよ、澪。今日も朝練かい?」
トイレに起きたのか、偶然父と遭遇して挨拶もほどほどに済ませて行こうかと思った時だった。
「あ、そうだ。お父さんに聞けばいいじゃん。」
「ん?」
「お父さん、お父さんが二十代後半の時って、プレゼント貰って地味に嬉しかったものとかある?」
お父さんは限定的な年齢に合わせての質問に首を傾げて何で?と逆に聞かれてしまった。
「消さん…相澤さん明日誕生日みたいで。せっかく弟子にさせてもらったし、これからよろしくーって意味合いも含めてプレゼントしたいなって思って。」
男の子にプレゼントを渡そうとしようものならお父さんはきっと許してくれないだろうけれど、師弟関係としてという言葉を強調して説明してやればお父さんは納得してくれたのか、普通にうーんと悩んでくれた。
「ん〜そうかぁ。でも相澤くんってヒーローだろ?パパが欲しいものが相澤くんも喜ぶかはわからないけど、書きやすいボールペンとか貰って嬉しかった気がする」
ボールペン…。きっとお父さんの言うボールペンはとてもいいやつなんだろう。
でもあえてそれを言わないで、書きやすいボールペンとだけいったのは、子供の私のお小遣い事情を知ってるからだろう。
「そっか、でもすごい参考になった!ありがとう、お父さん」
「いーえ、じゃあ頑張ってな」
私は方向性が決まったことにより、明るい気持ちで朝練に向かっていった。
***
「いらっしゃいませ」
一度家に帰って、お財布をカバンに入れて私は文房具屋さんへ足を運んだ。
高級そうなものからリーズナブルなものまで揃っていて、これは吟味しがいがありそうだと服の袖をまくり、良さそうなものを探した。
「………これ!」
ビビッと来てしまうものを私は発見してしまった。
ボールペンのノック部分が猫ちゃんの頭になっている。顔はめちゃくちゃ可愛いし消さんは猫好きだから気にいることだろう。
ただ、可愛すぎて消さんが使ってるところ想像すると面白すぎる。
いや、逆にいいのか?…………。
「いいか。」
しかも試し書きしたらめちゃんこ書きやすいし、予算内だ。
あ、消しゴムも無くなりそうだったんだ。買っとこ。
「消さん喜ぶといいな〜」
店員さんにプレゼントとして包んでもらい、私はご機嫌さんの状態で、待ち合わせの公園で待つことにした。
***
「今日はここまでにするぞ」
「はぁ、はぁ…はい。今日も、ありがとうございました!」
「最近は暗くなるのが早くなってきてるから家まで送る」
「あ、ホント?」
「問題あったか?」
「ううん、むしろって感じ」
そうか、と返事をされて先に歩き出してしまう消さん。
私は待って〜とのんびりした声でカバンを持って追いつき、横に並ぶようして歩いた。
「消さん消さん」
「なんだ?」
「はいこれ、27歳のお誕生日おめでとう!」
人の誕生日を祝うなんてこと、あんまりしてこなかったものだからなんだか楽しい気持ちだ。
きっと私の顔はニコニコとしている。そんな中消さんは私から誕生日プレゼントを貰えるどころか多分お祝いの言葉すら貰えると思っていなかったんだろう。
消さんは目をぱちくりと数回瞬かせ、どうもと返事をして受け取ってくれた。
「…開けていいか?」
「うん、ぜひぜひ」
ペリペリとシールを剥がして出すと、先程買った猫ちゃんのボールペンが出てきた。
「……これを、俺が使うのか」
「うん、可愛いよねこれ!消さん猫好きみたいだからこれだってすぐ決まったんだ〜」
「え、待て。俺がなんで猫好きだって知ってんだ」
「?こないだ猫のブロマイド写真落としたじゃん」
あ、そういや返してなかったな。どうぞとカバンから出して渡すと、受け取ったけど動揺を隠そうとしているのかあまりにも無表情で私は恐怖を覚えた。
「消さん顔怖い」
「怖くないだろ」
「怖いって。ほら、あのカーブミラーで自分の顔見てみなよ」
「…」
あ、黙っちゃった。
「なんか知っちゃいけないこと知ってゴメン。」
「いや、別にいい…。…あとひとつ疑問なんだが、なんでボールペン送られてるのに消しゴムも入ってるのか聞いてもいいか」
「あ、ごめんそれ私が自分用に買ったやつだ。それは私にください」
手を出せば「こいつ…」という顔で消しゴムを渡された。ごめんってば。
「とにかく、プレゼントありがとうな」
「ううん。ま、消さんはヒーローだから普段からボールペン使わないと思うけど、お家とかで使ってね」
「ん」
***
─それから時は流れ。
「失礼します。相澤先生、呼びました?」
「艦、お前今朝提出したノート違うノートだったぞ」
「!?あ、あーっごめんなさい。ちょっと今すぐ机確認して持ってきます!」
「ん。走らず、早めにな」
「はい。…って、そのペン」
「あ」
消さんはサッと隠して別のペンを持ったがもう遅い。昔あげた件のボールペンだ。
「ヘイリスナー!イレイザーに呼び出しされてなんか悪いことでもしたのか?」
「あ、ノート間違えて提出してたみたいで。」
「あー、じゃあすぐ持ってきた方がいい…ん?イレイザー。あの猫のボールペンとうとう壊れたのか?何年も使ってたもんな〜」
「え?何年も?」
「お前もう黙れ」
「ヘブシッ」
マイク先生の言葉に私は消さんがあのボールペンを割とすぐ使ってくれていたことを知り、胸が少し暖かくなる。
「…へ、へぇ〜そんなに大事になさってたペンだったんですね…」
……やばい。
何がやばいって。初めてあげたペンを割と気に入って大事に使ってくれたことを思うと、自分が思っていたよりも感動してとても嬉しい。
「…書きやすかったからな」
私はそれをちゃんと知っている。だからそのペンを選んだんだから、と笑みがこぼれる。
そしてマイク先生には聞こえない声で「…でしょ?」と消さんに伝え、それから普通の声量でいつも通りに私は返事をした。
「そのボールペンもきっと喜んでますね。じゃ、ノート取りに行ってきます!」
「………早くな」
私は職員室から出て行き、緩みきった口を抑えることができず、ニコニコとしてしてしまっていた。
そしてそのまま収まることを知らず、教室へ戻ると爆豪くんが私を見て気味悪いものを見たかのような顔をしてきた。てか「ニヤついてんな大食い女」なんて言われた。普通にムカつく。
そんなやりとりをされている時、職員室では消さんがコーヒーカップに口をつけ、誰にもバレないようにこっそりと笑みをこぼしていた。
それを誰かが知ることはなかったけれど、ただ「今日はなんだか相澤先生が少しだけ機嫌が良さそうだった」と噂はされていたらしい。
珍しいこともあるんだなぁ、と思いながらも、その原因が私ということは、私含めて誰も知らないのであった。
あ、明日そういえば消さんの誕生日だっけ?
何あげよっかな。
おしまい。