⑦入寮~
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とある日の昼休み。
入寮を終えてバタついた空気も落ち着いたため、神野の事件で負った傷の治療費などの関連書類を提出するべく職員室へ足を運び、消さんを呼んだ。
その際、クラスの皆に自分と消さんの師弟関係を話したと告げると、消さんは驚いた表情のままこちらを見つめた。
「何でそんな事になったんだ?」
「あは…なんかクラスの子達が寮前での私達のやり取り見てなんかただならぬ関係と思ったらしく…それで成り行きで…」
「…あれか」
「まぁ…男子だったらまだ同性のやり取りの範疇で誤魔化せたんだろうけど…生憎わたくし女子なので…」
「付き合い長いと変なところで距離感がバグるな」
「そうね…。でも話す時大丈夫かちゃんと判断したつもりだよ。今のクラスの状態なら変な空気にならないって」
この沈黙は…ちょっと怒られるか…な?
そんな雰囲気でもないような気がするけど…、この空気はどうにも落ち着かなくて、少しだけ視線が下がりながらも、チラチラと消さんの様子をうかがった。
「先生…?」
「まぁ、お前がいいと判断したならいい。死ぬわけでもないからな」
「お…意外と怒られなかった」
「怒られたかったのか」
「いえいえいえいえ…あ、それじゃあ私は…っとと、お、わ、マイク先生お疲れ様ですー」
これ以上のやり取りはきっと藪蛇に繋がりそうな気がする。
そう思って職員室から出ようと振り返ると、タイミングが合ってしまったのか後ろに誰かがいた。
消さんとは違った黒のレザージャケットが目の前に広がっていたので一歩下がると、そこには通りがかりのマイク先生がいた。
「おっと、お疲れーい。職員室に来るの珍しいな」
「神野の時の入院費の書類とかを提出しに来たんですよ」
「あぁ…もう平気か?」
「はい。この通り、ピンピンです」
拳を上げてマッスルポーズで元気アピールをすればマイク先生はそうかそうかよかったなァと笑い、私の頭を撫でる。
つられてアハハと笑ってくちゃくちゃになった髪の毛を直していればマイク先生から予期せぬ言葉が出てきた。
「で、いつから弟子入りしてたんだ?」
「ふぉ」
「聞いてたのかよ…。おいどうすんだ一番面倒くせぇのに聞かれたぞ…」
吃驚して変な声を上げていると消さんから今日一番鋭い目つきで睨まれた。
クラスの皆に話したと報告した時より鋭い目つきしてるよ。いや、そっちは割と吃驚した方向の目で見られたけど。いやだぁ…怖ぁい…。
「そりゃまぁ気になるからね、相澤君教えなさいよ」
「わ…ミッドナイト先生まで参戦してきちゃったかぁー…」
横からはマイク先生、後ろからはミッドナイト先生。二人は仲良く私たちを挟みこんでいざ尋問を…という姿勢を取り始めたので、消さんは私の首根っこをむんずと掴み、職員室から追い出した。
「ちょ、先生!?」
「次の授業移動だろ。さっさと行きなさい」
「あら~優しいのね相澤君」
「黙ってください」
消さんは一度私に目くばせをしてからピシャリと職員室のドアを閉める。
中からはガヤガヤと聞こえるが、まぁ消さんのことだから、私の話は深くしないでくれるだろう。
「ハァ…消さんを犠牲にしてしまったが助かった」
「あれ」
「あ、心操くん」
「あ。いくさぶ…いや、澪でよかったんだっけ、名前」
胸を撫で下ろしていると、たまたま通りかかった心操くんがそこにいた。
彼は私の苗字を言っている途中で視線を右上にやりながら下の名前を呼ぼうとしてくれた。
「…もしかして林間合宿前に話してた、名前呼びのこと覚えてて呼ぼうとしてくれた?」
「まぁ…モノは試しと思って…。
でも名字でしか呼んだことなかったから名前にいまいち自信がなかった」
「だよね。私も逆の立場だったら多分同じだわっていうか…ごめん私も心操くんの名前なんだったかちょっと怪しい」
「人使だよ」
「ひとし…ひとしひとし…覚えた」
「よかった」
「ていうか名前で呼んだ方が良い?」
「別に」
「だよね。なんか心操くんに名前で呼ばれるとちょっと落ち着かない」
「『艦』呼びで定着したからだよね」
この何気ないやりとりと、優しさの塊といっても良いかもしれない弟弟子に癒しを感じながら会話を楽しむ辺り、感受性が強いというか、自分が年を重ねているのを強く感じるが、まぁいい。その辺はきっと直前のやり取りに圧倒されたからだ。というかこれ以上深く考えるのも癒しを噛み締めるのもやめよう。
「そういや今日の放課後、いつも通り?」
「艦がオッケーならいつも通りで」
「オッケー。じゃあまた放課後ね」
「はい、また。今日こそ負かすからな」
「言ってな、そのナマイキな口をそっちの捕縛布で塞いでやるから」
その日の放課後の訓練は、心操くんの捕縛布で顔周りをぐるぐるに塞ぐことは叶わず、彼は一人で勝手にぐるぐる巻きになり、身動きが取れなくなっていた。
「まだ絡まるの?」
「…うっさい」
弟弟子は優しさの塊であり、伸びしろの塊のようだった。
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