⑥神野事件〜家庭訪問
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また私は夢を見た。
今度は変な夢ではなく、私が提督になってすぐの頃の思い出を再現させたもの。
大破してしまった初春が片足を一部、膝から下を欠損をさせて帰ってきた時の光景だ。
他の艦娘に肩を借りて片足でひょこひょこと歩いている初春に駆け寄ると、痛そうにしていた彼女含めこの場にいる艦娘達は誰一人動揺していないことに気付いて違和感を感じたのを覚えている。
『何、少し無理をしただけじゃ。こんなもの、身体を縫合すれば直る。わらわ達は艦娘じゃからの。
失ったパーツを用意して縫合してやれば直るようになっておる。
まぁ、貴様は気にせずドンと構えておれ。これは普通の事じゃからの』
初春は痛そうな顔で、けれどいつもと同じ抑揚で『これが戦というものじゃ』と言ってきた。
何を、いってるんだ。
──気が付けば私は頭に血が上って初春の頬を思い切り叩いていた。
『…何をする』
彼女は倒れ、失っていない方の手で頬を抑えて、強くこちらを睨む。
何をするって、初春。何言ってるの。
『……以後、そのようなことは決して口にするな。欠損もしない努力をし、今後無理な戦闘をせず五体満足で帰還せよ。私からは以上だ。
『わ、わかりました』
腹の底が煮え立っている。だめだ。落ち着いて他の艦娘達に指令をしなければ。
『…皆お疲れ様。初春の事は私に任せて各自補給、入渠をよろしく頼むよ。
軽症の艦娘には悪いけど明石が戻ってきてからか、中傷、重症艦娘の入渠が終わってから
艦娘達の返事に耳を傾けながら初春の方を見ると、彼女はまだ私がビンタしたことを根に持っているのか、不機嫌そうに「何じゃ」と言いたげにしていた。
『……ったく』
人の気も知らないで。
そう思いながら背中を向けて膝を折ると、初春は何をしているんだという目でこちらを見てきた。
『片足でも背中に乗れるでしょ。ドックまで運ぶからさっさと乗って』
『き、貴様の背など借りなくてもわらわは…『初春』…ふん、そんなに運びたければ運ぶがよい』
ボソリとかわいくない女と言えば、貴様もじゃろ、と初春は倒れ込むように背中に飛び込んできた。
彼女の腕はしっかりと私の首に回してくれた。
『……汚れても知らぬからの』
『いいよ。洗えば落ちるし他にも同じの何着も支給されてる』
『ふん…、にしても貴様の体は紙巻で臭いのう…』
『よく言うよ。初春は香の匂いがちょっとキツいんじゃないの?』
よいしょと立ち上がって初春と軽口を叩きながら、ドックへと向かう。
なるべく揺らさないようにゆっくり静かに歩いてる時、それでも初春は足の痛みが走ったのか、ぎゅうと手を強く握り締めたのが見えた。
『……さっき、ビンタしてごめんね。痛かったでしょ、足も怪我してるのに』
『っ、…やけに素直じゃな』
『厳しい返事だなぁ。…でもさ、例え戦だとわかってても、あんな状態になってしまうことを当たり前で、普通の事だから大丈夫だって思ったらいけないと私は思ってるよ。
戦うのはもちろん艦娘達だし随分勝手なことは言ってるから口出すなって言われても仕方ないけれど…。でも修理ができるからって、胸を痛める人がいないなんてことがないって、覚えていてほしい。』
そう伝えると、背負われている初春は少し口を閉ざし、やがて開くと謝罪の言葉を述べた。
『その…貴様の気持ちを考えず、ああ言ってすまなかったと、思っておる』
『…うん』
『貴様にあのような顔をさせる気は、なかった』
『知ってるよ。』
『うむ…』
『……はぁ。仲直り、しよっか』
『そうじゃのう…それがよいとわらわも思うぞ』
ここまでは、昔と同じやり取りだった。
けれど私はここで違うことをいったらどうなるのだろう、という好奇心が湧いてしまった。
『……そういえばさぁ、』
『なんじゃ』
『置いていってごめんね』
…返事は特に帰ってこなかった。
***
お腹減った。
これは、まず私が目を瞑りながら思った言葉だった。
何時間かはわからないけど結構な時間寝ていたと思う。体が固まっててすごく痛い。
それにほら、こんなにお腹鳴っちゃってもう。多分三食分くらい食べてないよ。
「うーん…」
そして不思議なことが一つあった。
疲れてる。もんのすごく…疲れてる。それはもう起きた瞬間には疲れたって思うくらいには。
空腹の方が強くて疲労感が二の次になってしまったけれど。なんでこんなに寝たなって思ってるのにすごく疲れてるんだろう。
懐かしい夢を見たからだろうか。そもそも寝てるのに疲れてるって何??このベッドのせいかな。今日は寝心地が違う気するし。
シーツや枕の布がなんか硬くて、まるでホテルのシーツのようだ。
「………まっしろ」
空腹と疲労感、そして違和感のオンパレードに静かに目を開けると、視界は真っ白で頭の中がハテナでいっぱいになる。
どこだここ。夢?いや、違う。それに目の前に白いカーテンがある。でも私の家のじゃないし、ホントどこだここ!?
「……びょ、いん、みたいな…にお?い」
というか声カッスカス。
ここが病院なら今すぐ水をください看護師さん。
……。
「…病院っ!?」
腕はっ!??!!?
色々思い出して慌てて起き上がれば、布団の上で手の甲を上に向けて伸びている腕が二本あった。…一本じゃない、二本だ!
自然光に照らされた両手。その右手には残り少ない入渠時間が記されていて、体の痛みはもうほとんどなかった。
「あぁ…本当に…、本当にある……」
心底安心した気持ちからか、鼻がツンとした。
待って待って。幸いにもここは個室だけど、今泣いたら絶対泣き止めないから我慢して私。
「…はぁ」
一度深呼吸をして左腕に触れると、触られた感触と、体温を感じた。
どうやら神経とかの問題はないみたいだ。細かいところはお医者さんに見てもらわないとダメかもしれないけれど。
今はこの包帯の蒸れから感じる左腕の痒みが嬉しい。
「それにしても…艦娘がやってたことと同じことしたら本当に直るなんて。」
意識を失う直前憧れのヒーローに必死の思いでこれだけはと伝えて、縫合をしてもらった。
正直本当にそのまま伝えて治療をしてもらえた事にビックリしてるけど、戸惑わなかったのかな。
私が医者であの状態で搬送されてきたらちょっと悩むよ。病院にいる時も深海棲艦の姿になってただろうし。
「……これ、もしかして私艦娘になったのかなぁ…」
深海棲艦の姿や、この怪我の直りはまるで本当に艦娘そのものでしかないだろうし…。
それも、十二歳の夏に初春が私に『魂を分け与えた』と言ったことと関係があるんだろうか?
でもアレが都合の良い夢かもわからない。私はあの時の事を夢とは思いたくないけどさ…。
ただ、都合よく考えてあの出来事が夢じゃなかった場合、軍艦の魂を背負った艦娘たちの魂を分けられるというのは…どうなんだろう。
「単純に艦娘の能力が個性として使える~って軽い話ならいいんだけど…」
彼女たち艦娘が元々人間だったことは知っている。だから可能性としてはなくはない。
ただ、艦娘というものは適正検査で通過して相性の良い軍艦から分け
だから可能性としてはなくはないけれど、魂貰った人は魂が馴染めば馴染むほど顔つきがだんだん艦娘になってくらしいので、適性検査すらしていない私が様々な艦種の御魂を与えられていてなお、どの艦娘の顔つきになっていないのはおかしかった。
「各艦種の練度的には十二分に馴染んでるとは思うけど、そんな顔つきにはなっていないし…」
憶測だらけのわからないことだらけ。
それに夢の中で変な煙に言われた“対価”の話を考えると、複雑な心境になるのは否めなかった。
「皆…」
もう会えもしない艦娘達を今更心配しても…意味、ないのに。
対価の事については、多分本当だろう。消さんの手によって海に落とされた日に見た初春は改二の服装ではなかったし、顔つきも少し幼かったから。
「幸運もそうだけど…相棒失った艦娘に
きっと、そうに違いない。私を生き返らせるために艦娘達に対価の話を持ちかけた煙は悪魔だ。
けど、対価の一つになっている幸運がやけに気になる。
「まさか、そんな…。」
幸運を対価になんて…まるで艦娘達がよく言うフレーズの“幸運の女神”が助けてくれたみたいじゃないか。
「神が一人の人間に目をかけるなんて、普通ないよ。」
あの煙の正体も含め、私の疑問の答えを知ってる人間は、残念ながらこの世界にはいない。
今のところチャンスがあって聞けそうなのは夢の中にでてくる煙本人からの情報だ。なんとも頼りない情報源か。
もし煙が本当に女神なら、艦娘達は随分と大きな賭けにでたもんだ。
「……ホント馬鹿。どうやって海の平和守ってくのさ…アンタ達の使命でしょうに…」
溜息を吐きながら軽く頬を擦れば、消さんに夢で触られたことを思い出す。
そういえば私、消さんにも救けてもらったんだよな…。
もしあのまま“救けて”って言えなかったらどうなっていたことか。
「ハァ…年を重ねれば重ねるほどああやって頼ることが難しくなっていって、やんなるな…。
それに合宿の時緑谷くんの方に寄り道せずに普通に皆と行動していけばよかった…」
入渠時間の書かれている文字を左手でスルスルなぞりながら自分の未熟さに結果論ばかりうだうだと辟易していた。
「プライドみたいなものが高くなってたのかな。…でも、」
「でも?」
「夢の中で消さんに救けたいって言われた時ね、わた…え?」
ある筈の無い相槌に何の違和感も無く応えた私はやっと有り得ない状況に気付いて顔を上げると、そこにはお婆ちゃんがいた。
「お、おばあ、ちゃん。いつから…」
「『……ホント馬鹿。どうやって海の平和守ってくのさ…アンタ達の使命でしょうに…』からかしら?」
「えええぁああああ」
まって独り言ならそれは別に気にしないけど他の人が聞いてるならそれは恥ずかしいいいいい!!!
「ついでにうちの人もいたけどあの人澪が起きてるの見るや否や急いで泰豊と滑美さんを呼びに行ったわよ」
「お爺ちゃんもいたの!?」
「そうね。あと
「そ、そうですかぁ…」
残念という気持ちはあるけどあまりに恥ずかしかったから失礼ながらいなくて良かったと思ってる自分がいるよ…。
それにしてもここまで結構やり取りがあったと思うのに気付かなかった私はどうなのさホント。
「あ、そ、そこに椅子あるから、折角だから座ってドウゾ」
「ええ。お言葉に甘えて。それで?救けたいって言われた時、どうしたの?」
え!?その話続行!?
「えっと…?消さんに救けたいって言われた時、この人を信じて委ねようって、心から思った…よ?」
戸惑いながらでも自分の思ったことを素直に話すのはちょっと恥ずかしくて視線をぐるりと手元に戻して右手の時間を眺めて気持ちを誤魔化した。
そして返事のないお婆ちゃんの方をソッ見ると、少しだけ嬉しそうに口元に笑みを作っていた。
「そう…澪は心から頼れる人を見つけたのね」
「う、うん…。」
ちょっと見た目が怪しい人だけれどね、と余計な一言が出そうだったのを堪えて、職業体験の時のことを思い出して話を少しズラした。
「あのね、前にお婆ちゃんに相談したとき恐怖心は受け入れて、共存していくんだよって教えてくれたでしょ?
そのことで気付いたことがあって。あの時は自分ですら知らない大きな力を受け入れることだって思ってたんだけど、私にとって受け入れるべきものは力じゃなくてね、頼ることだったみたい」
これはこれで恥ずかしくて、指で頬を軽く掻きながら言うとお婆ちゃんは一瞬キョトンとしてから「そうね、受け入れるのは力だけじゃないわよね」と笑いながら言われたから多分話しズラすのが下手だなって思われただろうな私…!
「澪。貴女は笑っちゃうほど滑美さんにそっくりね。まぁ、若い時の私にも少し似ているけれど…。
それとも艦家にはどうも強がりで頼るのが苦手な女が集まりやすいのかしらね」
「そうなの?」
「ええ。私も昔は頼るのが苦手だったし、滑美さんもあの感じだと同じね。わかるわ。それに貴方は会った事ないだろうけれど夏芳のお嫁さんもね」
「へ…へぇ…」
寧ろ頼るのが苦手なお婆ちゃん達が惚れた艦家の男性人の魅力すごくない…?
いやぁ、よくよく考えればおじいちゃんや夏芳叔父さん。そしてお父さんのことを考えればそれぞれ包容力に溢れてはいると思うけれど。
「でも貴方の言葉を聞いて安心したわ。貴方はちゃんと自分の弱い部分をわかって、助けを求め…受け入れることが出来たみたいで。
これからは自分のキャパシティギリギリになるまで我慢するんじゃなくて、程よく頼れるようになるといいわね」
その言葉にゆっくりと頷くと、お婆ちゃんは今回助けてくれた消さんがどういう人で、どんな関係なのか知りたくて仕方が無かったのか、少しそわそわとした様子で聞いてきた。
どうも恥ずかしいことに、お婆ちゃんが来た時に私が消さんのことで顔を赤らめていたところを見ていたらしいけれど、自分でもイマイチよくわかっていないのでとにかく恩人であり、師匠なのだという説明をした。
そして雄英に入るまでの修行をつけてもらっていた頃の話しや雄英でのクラスメイトの話など、私は両親と祖父が来るまでお婆ちゃんに話し続けた。
*
「…うん、元気そうだね。顔は寝起きだからか笑っちゃうくらい真っ白だけど、まぁ時間経ったら赤みが増すと思うから大丈夫だよ。じゃあ抜糸もできたらするから腕出して」
「あっ、そんな?そんな軽い感じなんですか?私抜糸初めてで」
「大丈夫だよ。初めてだとなかなか怖いと思うかもしれないけれど怖くないよ。ほら包帯とって消毒するから、腕出して」
「あああぁ…はいぃどうぞぉお…」
「どうぞって言って腕を出している割には顔背けすぎだよ」
両親と祖父母が揃ってから来てもらったタイミングで皆が騒ぐ暇も無く私のいる病室に手術をしてくれた外科のお医者さんがやってきて、あれよあれよという間に体調や左腕を軽く診察をされて、大丈夫だと思ったお医者さんは私の左腕を消毒してから抜糸作業をしようとしていた。
指とかの抜糸とかならここでもやってよさそうだけど、腕とかもここでやって大丈夫なの…?よく分からないけれど…!
そう思いながらもなんとなく息を止めて抜糸作業を見守る。本当はあんまり見たくないけどこれは自分への戒めだ。
どれだけ私が帰るために…生きるために払った犠牲だとしても、周りに多大なる心配をさせてしまったのだから反省するべきだ。
寧ろ前回の怪我を踏まえてコレだから…自分を殴りたくなる。
家族はそんな私の思いを他所に、私がされている処置を緊張した面持ちで見守っていた。
最初、切れてしまったであろう腕の部分を巻いている包帯を取る瞬間は自分を含めた全員が緊張したけれど、個性のおかげですっかり直り、怪我なんてしていたのかというくらい綺麗になっていた。
この場にいる全員がホッとして胸を撫で下ろしたことについては誰一人として隠すことは無かった、
「ハイ終わり。これもきっと治りが早いだろうから、今日この後検査して特に問題がなければ、明日退院して大丈夫だよ」
「えっ、いいんですか?」
「いいよ。イレイザーヘッドからキミの怪我の治りについて少し聞いてから実際にこの目で見たら大丈夫だなって医者の目から見ても確信したからね。検査の準備できたら呼ぶからちょっと待っててね」
「は、はぁ…」
思わずあっさりしててそんなもん!?いや、そんなもんか…?なんて思いながら看護師さんとお医者さんの二人が部屋を出て行くのを見送る。
先ほどのお医者さんに後で呼ぶ、といわれた私は手櫛で髪の毛をいじって髪の毛のハネを直してみてからシン、と静まる部屋に意識がいって、明らかに祖父母は両親の方を見て緊張していることが分かった。
それもそうだ。今回の事件で私は雄英を襲撃された時以上の状態になって二人を精神的に追い込んでしまったのだから。
私はそんな二人の顔をちゃんと見るべく体を動かして、ベッドに腰を下ろすような形になって真横のパイプイスに座っている二人と向かい合う。
「お父さん、お母さん」
手を自分の両膝に片方ずつ手を置いて両親を見ると、二人は私とは間逆で下を向いた。
当然だ。こんな短期間で命が危ぶまれてしまった親不孝な娘に顔を合わせるなんてことはあまりしたくないだろう。
「……本当にごめんなさい」
深々と頭を下げた私は手のひらに爪を食い込む強さで握りしめて、しばらくその体勢のまま謝り続けていれば、私の左手が覆うように握られた。
それは一つじゃなくて、二つだった。
「!お父さん、お母……」
両親だと気付いた私は二人の顔を見ようとして顔を上げれば二人共顔を真っ赤にして、下唇を噛んでいた。
「さ………、ん」
二人はぼたぼたと大きな涙を溢し続けているけど、全く喋らない。
お父さんはいつも私やお母さんとのお喋りが大好きだし、心配する時はこちらが思わず引いてしまうほどまくし立ててくるのに。
お母さんもそうだ。いつもは少し大げさに捉えて私や周りにどうなのかと詰め寄っても可笑しくないのに。
二人共、何も言わずにこちらを見てただただ泣いている。
それが、今回の事の大きさをより物語っていた。
そして二人は誰よりも小さな声で、それでも私に聞こえる声で、言った。
おかえりなさい、と。
「………っ、ぁ、」
ああ、ああ…。
私は、何てことをしたんだ。
血の気が引くような感覚が手から全身へと駆け巡る。
私は二人のことは親のように思っていた。けど、結局それは“ように”なだけだった。
私は今まで本当の親という認識ではなく今まで上辺だけのものでしかなかったんだ。今になって生々しく感じてしまった。
だって、今、この二人の言葉を聞いて私は「親を悲しませた」と心から思ったんだから。
心のどこかで私はこの二人は関係ないと、思ってたんだ。
そんな訳ないのに。
どれだけこの二人が愛を向けてくれていたと思っているんだ。
ふらりと立ち上がって、そのまま膝から崩れ落ちるように私は二人の膝に頭を乗せて、泣きついた。
「ごめ、ごめんな、っさ…、た…だい、ま…っ、」
私は、馬鹿だ。大馬鹿者だ。
また私は大事な人たちを置いていくところだった。
溢れ出た涙は止まることを知らず、ただただ私は二人の手を両手で握り、検査の準備が出来たと看護師が教えに来てくれるまで、私はひたすら自分の愚かさを許して欲しいと訴え続けるのだった。
それが、私の神野の悪夢の結末だ。