⑥神野事件〜家庭訪問
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連れ去られて早々私たちは眠らされてしまったようで、起きるとそこは、薄暗いバーだった。
「…くっさ」
酒と煙草が混じった臭いに思い切り眉を顰める。
前世では両方嗜んでいたけど、自分が吸っているわけではないので不快感しか感じなかった。
きっと一緒にいる爆豪くんはいつも以上に眉間に皺が寄ってるんだろ…あれ?
「?爆豪くん…は?」
そういえば、彼が見当たらない。
視線を動かして探すも、彼は私の傍にはいなかった。
どこにいるんだろう。
そう思って起き上がれば、私の真横には最初に攫った仮面男が壁に背中を預ける形でしゃがんでいた。
「うわ、仮面男」
「お?お目覚めかいお嬢さん。よく眠れたか」
「…かっったい床に眠りすぎて頭と体が痛むくらいには」
「そりゃいい」
痛みをほぐすようにしてから起き上がってみると、強制的に眠らされたからかだるさが凄い。
しんどいので一度壁に預けるように座れば、仮面男がこちらを見て語りかけてきた。
「あんまり変な動きはしないことだお嬢さん。そうすりゃあ今のとこ五体満足で生きられるだろうからな」
「……今のとこ…ね」
「今のとこ、さ」
そんなやり取りをしてから、ぼんやりとした頭をハッキリさせるために二回ほど軽く壁に頭を打てば、同い年くらいの女子高生が向かいのカウンター越しから頬杖をついて楽しそうにこちらを見ていた。
「あんまり強く打っちゃうとタンコブできちゃいますよ?」
お団子の髪型をした彼女は、ニコニコも笑っている。
あんまり関わる気もない私からすれば話しかけないで欲しい、と思いながらその子から視線を外して右側を見ると、扉を見つけた。
けど当然ながら扉の傍には敵がいて、唇の厚いロン毛男とトカゲ男が立っている。
でも幸い、探していた爆豪くんも扉側の壁にいた。
「(爆豪くん凄いイスに座ってるな…)」
まるで拷問椅子だ。あの調子だと電気でも流されてしまうのではないかと心配になる。
…まぁ、爆豪くんなら死ななさそうだけど。
彼は私と同じ様に眠らされていて、結束バンドで拘束されている私とは違い、厳重だ。
体育祭で爆豪くんが凄まじかったせいもあるんだろう。腕のあたりの拘束具がすごいことになってる。
「(敵は私より強そうだし、人数も多いから状況はよくない…から、ちょっと今は無茶できそうにない…かなぁ)」
仮面男が言うように、今は変な動きはしないでおくかと思った時だった。
扉が悲鳴を上げるように音を鳴らしながら開き、知っている人物が店に入ってきた。
「なんだ、お前も来てたのか」
「!」
現れた人物は死柄木だった。
相変わらず耳障りな声だと顔を顰める。
死柄木は以前あった時と特に変わりはなく、顔に誰かの手を付けたまま、その指の間からジトリと私を見た。
「よォこそ、バケモン。俺たちのアジトへ…」
「死柄木…」
その名を口に出せば、殺されかけていた師の姿が鮮明に思い出され、私の腹の底が煮え立っていく。
今にも殴りたい衝動に駆られるのを堪えるように拘束されている手で拳を作れば、伸びかけの爪が手のひらに食い込むのを感じた。
「無駄な抵抗はやめとけよ」
死柄木は愉快そうに私を通り過ぎてカウンターの席に座りこちらを見る。それはもう楽しそうに。
…落ち着け。冷静になって状況を見てどうにか爆豪くんと逃げ出す算段を考えろ。
「なぁ…艦澪さんよ。」
ぞわり。全身鳥肌が立つ。
名前を呼ばれることに抵抗感を覚えるなんて。
「俺の駒になる気はないか?」
「、は…?」
つい死柄木の方を見てしまった。
だって、どうして私なんか。
「お前は遠距離で、かつ自分自身も戦える。丁度後方支援の手数も増やしたい所だったからな。
ガキは嫌いだが、お前の様子を見てりゃあコイツ等よりはマシそうだ。高待遇で迎えてやるぞ」
「こいつらって私たちのことですか?酷いです」
「こんなイカレ野郎と一緒にすんな」
さっき話しかけてきた女子高生と、ツギハギだらけの男が反論するが死柄木は気にもしないでこちらを見たままだ。
こいつ、ヒーロー志望している人間に何を言ってるんだ。
「なる訳、ないじゃん」
「まぁまぁ…そう堅くなるなよ。
お前が今どれだけ大人しく真面目な優等生のように見えてもな、お前がバケモン使って楽しそうに脳無と戦ってたのを知ってるぞ。」
楽しそうに…?
「どうせヒーロー科志望なのも個性が使えるからだろ?それなら思う存分戦いたいのならこっちでもできる。いや、むしろこっちの方が堅苦しいルールに縛られず好き勝手できるだろうな。
こちらからルールをぶっ壊してやろうじゃないか。誰もお前を止めるやつはいない。なぁ、こっちにこいよ」
何を、言ってるんだ…この男は。
「…アン、タが今こっちに伸ばしている手で…、その手で、イレイザーをボロボロにしたんでしょ?」
そんな手、取れるはず無い。
「それなのに、勧誘するなんて…ふざけないでくれる?
言葉巧みに私が欲しそうな言葉を考えて話してくれたみたいだけど、生憎そんな考えハナから持ってないんだわ」
「はぁ…?」
私は“ついで”のリストだと言われていた。
多分、爆豪くんと比べれば私の優先度は低いから、ここは慎重に答えなきゃならないのはわかっていた。
冷静にならなきゃだめなのに沸々と怒りが込み上げてくる。
この世界に個性の制限や倫理がなければ私は衝動的に個性を使い、殴っていただろう。
「(抑えろ。この衝動は…駄目だ)」
いくらヒーローを目指してる私が多少抵抗できたとしても、この面子だ。
所詮私はただの一般人で、経験も浅いから殺される可能性が高い。
だから私はここで仲間になると答えればいいのに。
そして仲間になったフリして後で逃げればいいのに。
そうすれば私の生存率は高くなる…のに。
「(…殴らないにしても、私にだって曲げられないものはある。)」
私は明日を生かす為に個性として与えた艦娘達の想いと共に生き、救いを求める人々の生きる道を切り開く手伝いをする道を選んだ。
「……堅苦しいルールも、慣れてる。
どれほどこのルールが現時点でギリギリなのかなんて予想もつく。
でもルールがあったからこそ、今の今までやってこられたんじゃないの」
「…お嬢さん、何言ってるのかわかってんのか?
ここで仲間になるって適当にいっときゃとりあえず今はまだ生きられるんだぞ?」
「今だけ?今だけと言わず老衰するまで生きたいからこのまま五体満足で爆豪くんと一緒に帰してよ。」
間髪入れずにそういえば仮面男はシルクハットを深くかぶり直した。
「…なんて素直なお嬢さんだろうな。おじさん心がかき乱されるよ」
「それはドーモ。私は一度許せないことがあったらよっぽどのことがなきゃ許せない性格(タチ)なんでね。
例え一時しのぎでも仲間になるくらいなら大怪我してでも生きて帰るよ」
「…」
「それに私、約束してるの。幸せになるって。
でもアンタたちの道は私が生きて幸せになれる道じゃあないから。」
だから遠慮しとく。
死柄木にそう言い放てば、彼はこちらに伸ばした手を引っ込めて、カウンターテーブルを爪でコツコツと叩き始めた。
「あ、そ…。ヒーローが人並みの幸せを、ねぇ……くだらねえなぁ。」
叩く音が少しずつ大きくなり、彼は首を軽く掻き始め、イラついているようだった。
コン、と机を一番大きく叩いた時、死柄木は大きな溜息を吐いた。
「……もういい。俺はもう萎えたからお前はここで死ね。
おいお前ら。殺した後にでもいいから血はたっぷり採っとけ。こいつの存在自体は使えるからな。」
「その子になって雄英の人たちを襲えばいいですか?」
「そうだな。…そういやこないだの戦闘でイレイザーヘッドを異様に守ろうとしてたな、お前。」
こないだの戦闘で…って事は深海棲艦に変身した時に私は消さんのことを守ろうとしたのか…。
「それならイレイザーヘッドの前で盛大に裏切った演出でもしてお前を裏切りの雄英生としてのレッテルを貼ってやるよ。」
「っ、お前…ッ!!」
死柄木は私の歪んだ顔を見て愉快そうに笑い声を上げた。
「いい顔すんじゃねえか。
アイツにはそんなに興味はねえけど、こうしてお前のその顔を見ると、イレイザーの恨みったらしい顔を見るのはもっと面白そうだ。
その面を見てから前みたいに嬲り殺そう。そうしよう」
「このッ!」
私はついカッとなり、個性を発動して死柄木に機銃を向けようとしてしまった。
「無駄な抵抗はよせよ、嬢ちゃん」
構える寸前で覆面男が私の首元に金属製と思われるメジャーを引いてきて、仮面男が杖で私の上げかけていた腕を思い切り杖で叩き、抵抗するなと威圧してきた。
「っ、…この…!」
「嬢ちゃん、もう口を開くな。次開けば殺すぞ」
「待ちなさい」
仮面男のせいで、ゴトリと鉄の塊が足元に落としてしまった。
もはやこの現状ではどうすることもできない状況だ。
他にもトカゲ男や唇の厚いサングラスの男が武器を構えてこちらを攻撃しようとしていたが、黒霧の一言によって動きが止まる。
シンと嫌な沈黙が走り、この場にいる全員が私の方を見て個性を解除しろと言わんばかりの殺気を敵からあててきた。
足元に落ちてしまった機銃は個性を解除したことによって消え、黒霧は話を進めた。
「んだよ。まだ何かあんのか、黒霧」
「死柄木弔、お忘れですか。目標である爆豪勝己以外を捕らえ、対象者が仲間にならない場合は倉庫へ連れていくようにと言われたのを」
「あ?そうだっけ…あー……じゃあ仕方ねえな。適当にやっとけ」
「わかりました。」
「!」
その言葉が放たれた瞬間。
突然私の足元が、消えた。
バランスを取ろうとするものの足は空回り、言葉にならない叫びが出た。
その流れで拘束された腕を中途半端に上げてしまった私は、誤って己の顔面を思い切り殴った。
パァン!!…自分を殴るにしてもここまでいい音は出せるひとは早々いないと思う。
『落ちる』と『痛い』を同時に思った時はもう遅く、また私は黒霧のワープの中へと入ってしまった。
ああ、これが夢なら早く覚めて欲しい。