⑤救助訓練レース〜林間合宿
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緑谷と偶然居合わせた俺は洸汰くんを保護し、緑谷に戦闘許可の連絡を任せ、ブラド達のいる建物へと走った。
一刻も早く戦線へ出なければ。危機的状況ゆえか、子供を一人抱えているにも関わらず、俺の足は普段よりも早くなる。
こんな訳もわからんままやられるなよ、とガラにもなく祈り、やっと着いた建物に近付けば、爆発音とともに焦げ臭さが鼻についた。
建物の中に少し入ってから洸汰くんを下ろし、皆がいるであろう教室へ向かえば、そこから黒い煙が地を這うように流れ出ていた。
おそらくさっきの敵だろう。突入して飛び蹴りで敵の頭を攻撃し、逃げられないよう捕縛布で捕らえながら踏み潰してやった。コイツしつけぇな、また来たのか。
「無駄だブラド。こいつは煽るだけで情報出さねえよ」
「抹消ヒーロー相澤先生!」
「それに見ろ、ニセモノだ。さっきも来た」
トドメと言わんばかりに思い切り踏めば、敵はドロリとした液状となる。
不快感から足をブラブラとさせてブーツについた液体を払えば、ブラドが何をしていたのか聞いてきた。
「悪い。戦闘許可を出しに行ったつもりが洸汰くんを保護してた。預かっててくれ。俺は戦線に出る。ブラドは引き続きここの護衛を頼む。」
「待てイレイザー!またどれだけ攻めてくるかもわからん!」
「ブラド一人で大丈夫だ。このニセモノ見ろ。二回ともコレ一体だ。強気な攻めはプロ(俺ら)の意識をここに縛る為だと見た。“人員の足りない中で案じられた策”だこりゃ。」
それならと切島や飯田が名乗り出て協力するとは言う。
その表情はまさにヒーローの卵そのもので、見られるものならお前達の“未来”を見たいという欲が内から生まれてくる。
だからこそ、むやみやたらとここで戦闘に参加させるわけにはいかなかった。
「ダメだ!プロを足止めする以上狙いは生徒。爆豪がその一人ってだけで他にも狙ってるかもしれん。情報量じゃ依然圧倒的に負けてんだ。
俺たちはとりあえず全員無事でいることが勝利条件だ」
悔しそうにする二人の横で、峰田がそういや…と口に出しながら辺りを見渡すようにして一言、気になる事を言った。
「なぁ…そういや艦って来てないのか?」
「…どういうことだ峰田。おい、誰か艦の行方がわかる奴いるか?」
「そういえば…!艦くんは緑谷くんについて行ったはずですが…!」
緑谷について行った…ってことは恐らくオールマイトがいない今、狙いが生徒であると気付いて着いて行ったか。
じゃあ、なぜ緑谷は一人で行動をしていたんだ。
なぜ澪に洸汰くんと一緒に俺たちの元へ行かせようとせず、別行動をしたんだ。
…なぜ緑谷は澪について一切触れなかった?
「………さっき緑谷には会った。だが艦については何も言ってなかったし、そぶりからして、俺と合流する前から艦がいないという状態になってたんだろう」
「それって…え?どういうことなんだ?」
「上鳴のバカ!澪に何かあったってことだよ!」
「バ、バカって酷いぞ芦戸!」
「二人とも落ち着きたまえ!相澤先生、それなら尚更様子を見に行った方が…!せめてここの周辺だけでもっ」
「…とりあえずその辺も俺に任せろ。緑谷にも後で艦のことを聞いておくからお前達は今、他人よりも自分の身を守ることに徹しろ。いいな。
ブラド、悪いがもしも艦が呑気に戻ってきたらゲンコツの一発でも食らわせて保護しておいてくれ。」
「わかった。」
外へ出て森を駆ける。さて、どうするべきか。ああは言ったものの、ピンポイントで澪と合流して保護をすることは、余程運が良くなければ難しい。
そして何よりも生徒の安全を確保するべく、敵のいる場所へと向かわなければならなかった。
「…やられてる状況じゃなきゃいいがな。」
たった三年であの複雑な“個性”をあそこまで上手く使えるようになった優秀な弟子だ。
万が一敵と遭遇をしても上手く立ち回り、他生徒を援護しながら指揮を取ることはできるだろう。
しかし優秀であっても結局アイツ自身は個性を使ってたったの三年しか経っていないひよっこだ。他の連中とちがって個性に対する理解の年数が違う。
願わくば、呑気な顔でブラドたちのいる建物へ戻っていてくれるといいが。
それすらも、望みすぎだろうか。
***
今、多分人生で一番やばい状態だと思う。
後ろから声がしたと思ったらあっという間に何かに閉じ込められて、暗闇の中に放り込まれた。多分、捕まったんだと思う。
一応立つことはできるし、息もできる。けれどここは球体なのか、大きな揺れによって倒れると、背中が真っ直ぐ伸びない状態で壁によりかかる形になってしまった。
出来れば個性を使ってどうにか抜け出したいけれど、生憎戦闘許可をもらっていないので個性は使用できないことを思い出して大きなため息を吐いてしまう。
そもそも揺れる、とはなんだろう。これ多分持ち歩かれてるよね?
「どうしよ……わっ!?」
このまま大人しくしているしかなかった私の視界は一気に開け、そして目の前に緑谷くんや轟くん達がいることに気付いた。
助けてくれたんだ!と思った。
けど、駆け寄ろうと思った時、私の首に何か杖のようなものが引っかけられ、彼らの元へ駆け寄ることは許されなかった。
そして後ろに引き寄せられた私は、聞き覚えのある声を再び聞くこととなった。
「お前…さっきのっ!」
「ショウは台無しだが、まさかついでのリストに載っていたお嬢さんを回収できるとは思わなかったからな。ムカつくけれど結果オーライってことでチャラにしてやるよ」
「緑谷く…っ」
私は彼らの方に手を伸ばそうとして、やめた。
助けを求めたかった。けど、目の前の彼らはもう…それは酷い有様で。
しかも私の隣には爆豪君がいて、首を捕まれている状況でとても助けを求めることなんか出来やしなかった。
酷すぎる状況の焦りからか、心臓がバクバクとして頭の中がザラザラとホワイトノイズが聞こえる。
しっかりしろ、私。伸ばしかけたその手を握って、今にも恐怖で潰れてしまいそうな心を保とうと、目の前にいるA組の子たちを真っ直ぐ見て、少しでも安心してもらえるよう、私は…───。
「なん、で笑って……」
緑谷くんが小さく呟いたのを最後に、私は爆豪くんよりも先に闇の中へと吸い込まれた。
大丈夫。私は…同じことを繰り返さないから。遠くから私と爆豪くんの名前を叫ぶ緑谷くんの声。
「待ってて。絶対、帰るから」
きっとこの言葉は彼らには伝わっていないだろう。
それでもいいんだ。
だってこの言葉は、私自身に言い聞かせる為だけの言葉なんだから。
***
林間合宿から翌日。塚内警部から調書を取ってもらいその日は家に帰ることとなった。
被害は酷いものだった。プロヒーローたちや生徒の負傷、そして爆豪と澪、生徒二名の行方不明という有様だ。
今日はもう休んでくださいと、マスコミに付けられないようにパトカーではない車で家まで送られて帰れば、至極簡素な部屋が俺を迎える。
掃除の事を考えると物を置きすぎるのは合理的ではないので最低限の物しか置いていない。
履いていた靴下を通りがかりにある洗濯かごに投げ入れてからリビングにあるベッドの上に座れば、無音という状況がやけに気になった。
そもそも俺は音楽もかけることはないし、先ほど諸々の連絡も終わったので物音を立てるのは俺しかいないから、無音になるのは当たり前だ。
ボフリと体を倒して、このまま何も考えずに眠ってしまいたい気もする。けれど明日の夜には記者会見に出なければならない。
スーツだけでも出さねえと。ああ、でも今全部出さないとだ。久しぶりに出すから駄目になってるものがあったら買わないとならん。
部屋についているクローゼットの中から普段着ることのないスーツを出してカビや汚れがないかチェックしてから長押しに引っかけて、ネクタイや革靴、シャツを出して適切なものを選んでいく。
「……」
…生徒たちが言うには、二人が攫われる際、澪はクラスの連中に微笑んだらしい。
その事を聞いた時、頭が痛くなった。中身が大人である澪の事だ。自分がどういう状況かわかっていた筈だ。
なのに助けを求めなかった。理由はわかる。緑谷や他の連中の状態を見て助けを求めることが出来なかったんだろう。
そして、“大人として”あいつらを気遣って大丈夫だというように笑ったんだろう。
賢明な判断であるが故に馬鹿野郎、と怒鳴ってやりたい気持ちにもなった。お前はいつも、誰かに頼ろうとしない。…なんて文句の一つでも言いたい気持ちになったが、それも今じゃ叶わない。
はぁ、と一つため息が溢れる。考えれば考えるほど足の力を意識をしなければならなかった。そうでもしないとなんだか体の力が抜けて、一生立てそうになかったからだ。
「…参ってんな」
明日の着るものを出して、またベッドの上に座り、またグルグルと思考をしてしまう。
爆豪は敵連合の狙いだから恐らく身の安全は確保されるし、大丈夫だろう。
…けれど、澪は?
生徒たちに聞いたところ、澪はついでリストというものに載っていたらしく、優先度は爆豪よりも低く殺される可能性もあるということが分かった。
ただ、アイツは前世であった事件から、“生きなければ”という強い思いを持っている。だから何がなんでも澪は生きて帰ってこようとするだろう。
けれどそれが生きて帰ることのできる決め手になんてなりゃしないし、もはやそれは神様に祈るのと同じだ。
祈ってばっかだな、とプロでありながらも自分の無力さを痛感する。
「………もう、そんなものに縋ることしかできないのか俺は」
思った以上に覇気のない声が部屋に溶けていった。
でも、もしだ。こんな祈りでもしもあの二人が無事に戻ってくれるのなら…俺は祈るしか、ない。
「頼むから…はよ帰ってこい」
この時点で俺はもう十分悪夢だと思っていた。
けれど俺はこの時、わかっていなかった。
これからが、悪夢の本番だという事を。