⑤救助訓練レース〜林間合宿
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──動きが疎かになりつつある合宿三日目。
今日は昨日の訓練に加え、素早く指定された艦種に換装してすぐに撃つ…ということをしていた。
正直追加されると思っていなくて驚いたけど、言われたからにはこなせ、という担任兼師匠からの圧を微妙に感じる。
全力で上限を引き上げて行け、というところだろう。
「まぁ、やりますけどっと!」
これもなかなか大変だけれど昨日よりはまだ張り合いもあって楽しい。
ガンガンいこうぜ、とどこかのゲームのような気持ちで補給しながら換装して撃ちまくっていれば、補習組の皆がぐらぐらと眠そうにしていた。
あ、と思った瞬間にはやはり消さんからの捕縛布が伸びてきて、お叱りの言葉を食らっていたし、そのついでと言わんばかりに赤点をギリギリ回避したらしいお茶子と青山くんにもお叱りが飛んできた。
「気を抜くなよ。皆もダラダラやるな。
何をするにも原点を常に意識しとけ。向上ってのはそういうもんだ。
何の為に汗かいて、何の為にこうしてグチグチ言われるか常に頭に置いておけ。」
私の原点…。私の原点は──。
「ねこねこねこ…それより皆!今日の晩はねぇ…クラス対抗肝試しをするよ!
しっかり訓練した後はしっかり楽しいことがある!ザ!アメとムチ!」
「え」
原点でもあるあの日のことを思い出しながら訓練をして色々と浸っていれば、聞き流すことのできないお知らせが舞い込んできた。
思わずその言葉に私も言葉を漏らし、そして現在進行形で流している汗とはまた違った嫌な汗がたらりと流れていくのを感じた。
「う、嘘だよね今の?」
「ああ…忘れてた!」
「怖いのマジやだぁ…」
「闇の狂宴…」
う…嘘だといってくれ…。という気持ちしかない。
そう、何を隠そう私は幽霊が苦手だ。
元々幽霊や神など、実態のないものは信じておらず、宗教も冠婚葬祭の時のみ、皆の動作を倣うくらいだった。
神様に関してはこのくらいだ。これまで通り特別信じている訳ではない具合。
けど幽霊に関しては前世で過ごしていた鎮守府にて起きた怪奇現象により、幽霊はすっかり恐怖の対象となってしまっていた。
救いなのは神様系にはまだ嫌な思い出がないことだろうか?
にしても嫌すぎる。肝試し自体は別にだけど、出やすそうな場所に行くのは嫌いだ。
けどこんなに皆が合宿っぽいイベントにうきうきしている所を見ると、水を差すような発言もし難い。
…とまぁ、憂鬱で仕方がなかったものの、その後に今日の晩ご飯は肉じゃがを作るぞ、と言われた時、嬉しさで私の記憶からすっぽ抜けたのは言うまでもない。
*
「…さて!腹もふくれた皿も洗った!お次は…」
「肝を試す時間だー!!」
…来てしまった。とうとうこの時間が来てしまった。一時は夕食の肉じゃがで忘れてたのに。
あああ、と皆が喜んでいる横で項垂れていると、ピクシーボブの後ろにいた消さんが日中に比べて元気な姿の補修組を睨んでいたのが見えた。
多分こいつらこういう時ばっかり元気になりやがって的なことを考えてるんだろう。まぁ、どちらも仕方ない。
「その前に大変心苦しいが、補習連中は…これから俺と補習授業だ」
「ウソだろ!!」
「すまんな。日中の訓練が思ったより疎かになってたので
「うわああ堪忍してくれえ!試させてくれえ!!」
消さんは五人を捕縛布で捕らえ、補修部屋のある所へ強制的に引きずり連れて行こうとしていた。
「ハッ…これはもしかして」
今私も補修が必要と自己申請すれば私も肝出しを回避できるチャンスではないか!?
思い立ったが吉日。私は消さんの前に背筋を伸ばして立ち、キレのある敬礼のポーズを取って大声を上げた。
「相澤先生!!」
「なんだ。」
「私も日中の訓練が疎かになっていましたので肝試しには参加せず、是非相澤先生の補習を受けたいです!受けさせてください!」
連日遅くまで補修組の世話をしているからか、消さんの目の下にはいつもより濃いめのクマができていた。
そんな消さんの目をしっかりと見つめ、「頼むから肝試しに参加させないでくれ」という願いを込めて敬礼のポーズを取っていると、指先に自然と力がこもり、反り気味な敬礼となっていた。
けれども、そんな私の考えを瞬時に読み取ったのか、消さんはほんの少し目を細めて私に言い放った。
「ダメだ。お前はそっちで精神を鍛えろ。サボったら除籍だ」
「んな…っ!?」
そ、そんな…………理不尽な……!
今はちょうど捕縛布で見えない口元のお陰で明確な感情は人によっては読み取れない状態にあった。
けどこのパターンは見たことがある。これは笑ってる。絶対面白がってる目だ。
そしてサボったら除籍の話は割と本気だろう。なんでさ。おかしくない?ねぇ?
「……相澤先生の小汚いヒゲが全部190センチの虎っぽい人にぶち抜かれてしまえばいいのに」
「何か言ったかな、艦」
「いいぇえ!?何もぉ!!!」
「キャラ変わっとるよ、澪ちゃん」
「どちらかといえばあっちも素の内の一つよ、お茶子ちゃん」
「そうなん…?」
「多分、相澤先生と澪ちゃんは私たちの知らないところでちょっと仲良いのよ」
「梅雨ちゃん!?そんな言い方だと誤解を色々と招くからやめて!?」
「ケロケロ」
なんだこの流れ!ねぇお茶子!そのソッカーって感じで穏やかに見るのやめてもらえない!?
「あっ!?相澤先生たち消えてる!くそぉ!」
ああ!折角の逃げるチャンスが!
*
「はい。というわけで脅かす側先攻はB組。A組は二人一組で三分置きに出発。
ルートの真ん中に名前を書いたお札があるからそれ持って帰ること!」
「闇の狂宴…」
シ…ン…と静まりかえるここの空間がもう既に嫌だ。まだ賑やかな五人がいればまだマシだったものの、と心底思う。
今日ほど帰りたくて仕方がない日はない。お父さんにこの事をチクりたい気分だ。
消さんは私の父の名前を聞くだけで少し警戒するくらいだからさぞ困ることだろう。
「脅かす側は直接接触禁止で、“個性”を使った脅かしネタを披露してくるよ」
「創意工夫でより多くの人数を失禁させたクラスが勝者だ!」
わっとプッシーキャッツの皆が盛り上がる中やめてくださいという声が上がったり、これも個性の幅を生むための行事か!と納得している声が上がり、程なくくじ引きを引くこととなった。
「…八番」
「あ、澪さん。僕も八番だよ。」
「緑谷…くん」
うわー!よかった!!
このイベントに参加するのは超絶嫌だけどペアが普段話すことのない轟くんや爆豪くんとかじゃなくてよかった!ここは救われた!
「わ、大丈夫…?顔真っ青だけど」
「うん…肝試しは大丈夫なんだけど…その…幽霊自体が嫌いで…だからこういう本物の幽霊が出そうなイベントには参加したくないなって……はは…。
だから相澤先生が謎の察し能力を発揮して絶対参加しろって言ったんだと思う……酷いよね…ははは…。」
「そ、そっか…澪さんは霊感とかあるタイプなの…?」
「ないよ。ないけどわからないじゃん…?二十歳までに個性みたいに発現したらそのままって聞くし」
「え?そうなの?」
「え?ちがうの?」
「聞いたことないけど…」
「……じゃあ迷信なのかな…。でも私の価値観的には一生発現しなくていいものだから…どちらにせよ開花は勘弁願いたいね」
「そ、そうだね…。あ、ゾンビとかは?」
「最初はびっくりはするけどゾンビだと物理が効くから平気。個性使ったりボコ殴りにしてやっつける」
私の返事に緑谷くんは若干引いていた気がするものの、気にせずに最後も嫌だなぁと思いながらしゃがんで地面を這っている虫を見つめることにした。
「何かこのこげ臭いの────………」
「黒煙……」
「何か燃えているのか…?」
「まさか山火事!?」
ザワつく声に立ち上がって森の方を見れば青い光が揺らめき、空は黒い煙で覆っているのが見えた。
緊張で張り詰めた空気の中、それを破ったのはピクシーボブの焦った声だ。
「な、何!?」
「ピクシーボブ!」
突然彼女の体が浮き上がり、まるで磁石のように勢いよく森の中へ入る引き寄せられ、鈍い音を響かせた後に重い物が落ちた様な音がした。
普段聞いたことのない音に皆フリーズし、ピクシーボブが引き寄せられていった方を見れば、こちらへ複数の人間がこちらへ来るのが見えた。
「飼い猫ちゃんはジャマね」
ドサ、とまるで重くて持ちたくない荷物のように地面に投げ捨てられたピクシーボブは頭から血が出ており、ゴーグルが割れている。
「何で…!万全を期したハズじゃあ……!!何で……なんで敵がいるんだよォ!!!」
「ご機嫌よろしゅう雄英高校!!我ら敵連合開闢行動隊!!」
「敵連合…!?何でここに…!!」
「この子の頭潰しちゃおうかしら、どうかしら?ねぇどう思う?」
黒髪のサングラスをかけた唇が厚い男が何か布で覆っている筒をピクシーボブの頭にゴリ、と擦り付けて今にも頭を潰さんばかりの勢いだった。
「させぬわこのっ…」
「待て待て早まるなマグ姉!虎もだ、落ち着け!生殺与奪は全てステインの仰る主張に沿うか否か!!」
「ステイン…!あてられた連中か───……!」
「そしてアァそう!俺はそうおまえ。君だよメガネ君!保須市にてステインの終焉を招いた人物。
申し遅れた。俺はスピナー。彼の夢を紡ぐ者だ」
スピナーというトカゲ男は背中に背負っていた剣を取り出し、布を外せばありとあらゆるナイフを束ねたものを見せつけるようにしてみせた。
えげつない武器に思わず声が漏れる。
「何でもいいがなあ、貴様ら…!その倒れてる女…ピクシーボブは最近婚期を気にし始めててなぁ。
女の幸せ掴もうっていい歳して頑張ってたんだよ。
そんな女の顔キズモノにして男がヘラヘラ語ってんじゃあないよ!」
「ヒーローが人並みの幸せを夢見るか!!」
「虎!!『指示』は出した!他の生徒の安否はラグドールに任せよう!私らは二人でここを押さえる!!」
ヒーローと敵がそれぞれ臨戦態勢に入り、マンダレイは私達に決して戦闘はしない事、と言い放った後に委員長の飯田くんに引率を任せていた。
皆駆け出したその時、緑谷くんはマンダレイに『知っている』と叫び、どこかへ行こうとしたので私は彼に声をかけて引き止めた。
「っ緑谷くん!私も付いてく!」
「えっ!?澪さんは相澤先生のところに行って避難してて!」
「でもどう考えたってこの奇襲は生徒狙い!緑谷くん一人で行ったらマズ…」
マズイと言おうとした時、彼の必死な顔を見て私は悟った。今の私の行動は割と保守的だから彼の足を引っ張りかねない。
彼の前のめりな姿勢で救える命が一つでも増えるなら。
「…っ、やっぱなんでもない!今のナシ!無理はしないで!」
「うん…!」
私は緑谷くんに付いていくことはせず、先に避難した男子四人の後ろに少し遅れながらもついていき、もう間もなく消さんや補修組のいる建物へ着くところだった。
「どこへいくのかなぁ、オジョウサン」
耳元で囁く声に勢いよく振り返れば、いの一番に目に入ったのは白黒の仮面に山吹色のコートだった。
「なっ」
「ああ、騒がれるのは困るよ。そうだ、君も貰っていこう。お土産は多い方がいい。
…なんて、もう聞こえてないか。閉じ込めちゃったし。」