①幼少期~雄英受験
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次の日の朝。
私は約束した場所へと足を運んでいた。
ブツブツと歩いているとだんだん海が見えて来て懐かしい光景に目を細め、桟橋の板を一歩だけ踏みしめたその足が鉛のように重く感じた。
「私何してるんだろほんと…」
来ちゃったよ。絶対行かないって思ってたのに。
海を見るだけでも少しキツイ。ならどうして私はここへ来たのか。
「…あの小汚いおっさんが一人でこんな所でたたずんでたら絶対職質されるし」
仕方ないんだこれは。
そう納得させて鉛のように重く感じる足を一つまた踏み進めようとした時、頭上から私からは到底でない低い声が降って来た。
「誰が小汚いおっさんだ」
ぱこんっと小気味いい音と衝撃で自分がはたかれたのだと気付き、ぎゃっと女らしからぬ声が自分の声からこぼれた。これは酷い。
後ろを見れば昨日のおっさんだ、と思っていれば彼はそのまま勝手に喋り始めた。
「来ないと思っていたが来たみたいでよかったよかった」
「ぐぁあ頭ボンボンしないでくださいよおっさんぐぁああお兄さん!!!」
もう聞かれたしいいやと思っておっさんと言おうとしたらこれだよくそぉ!
「そういや俺の名前言ってなかったな。相澤消太だ、一応昨日も言ったがヒーローをしている」
ヒーロー。この小汚いおっさんがね。
まったく信用できないと言った態度で上から下を不躾な態度で見てやった。これは仕返しだ。
「はーん、そう。で、なんで昨日急に私にこんな所に来いって言ったの」
「そうだな、昨日のお前には危うさを感じた。」
「…まさか、私が
少し睨んでみたけれど、相澤という男はそんなのも気にせず淡々と話を続けた。
「それはわからない。だが少なくとも“お前本人の意思とは関係なく知らず知らずのうちに敵に利用されてしまう”かもしれないと感じた。」
「…ふーん」
「話を聞く限りだと、おそらくお前は自分の個性を受け入れなければならない」
個性を受け入れる?
…それができりゃあとっくにやってるよ、と心の中で彼を嘲笑して反論をした。
「今までも何年かに一度は受け入れようと思って挑戦はしたけど、怖くて無理だったよ」
「そうか。でもそれは一人だったんだろう?」
「え?まぁ、そうだけど…え?」
「まぁとりあえず個性発動してみろ。どういう個性なのか見せてくれ」
「うん?うん…うん。え?」
あんまりにも有無を言わせない状況だったため私は個性を発動させるしかなかった。なんだこの人…。
「軍艦って言ってたな。見たところ体に武器がついてるくらいだが…海を泳ぎながら大砲を撃つのか?」
「いや、ちょっと話を……まぁ、そんなところだけど…少し加えると軍艦の中でも艦種がいくもあって、その中でなりたいものになれるの。
なるとその艦種に合わせて腕や背中に主砲や副砲…
戸惑いながらも説明をして、後ろを見せると彼は興味深そうに艤装を観察をした。
「今の姿は?随分装備が小さいな。」
「今の姿は駆逐艦って戦艦よりも大分小さな軍艦だけど、小さい分機動力が早く、特に夜戦は強いよ。」
ぐるりとまた向き合えば、彼の眼は相変わらず気だるげだったが真剣に聞いているようで、私も話を続ける。
「移動の仕方は潜水艦以外は水面でスケートみたいに滑って移動して、潜水艦はさっきいったように泳ぎながら
「……個性が使えない割に随分自分の個性を知っているんだな」
ポツリと呟かれた言葉に私は少し、返せないでいた。
「…知っているのと、使うのは違うから。個性使うのは今でも嫌」
「そうか。なら大丈夫だな。じゃあいってこい」
「は?何大丈夫……って!?」
喋りながら移動していたからすっかり気を取られて気付かなかったけどここ桟橋の端っこ…!
この男は私の肩を軽く押し、押された私はいともたやすくバランスは崩れ、後ろから海の中へ落ちてしまった。
(大丈夫、落ち着け。すぐに浮く。昔
(…あれ?)
思いとは裏腹に、だんだんと海面から離れていってしまう。
私は太陽の光を水面越しからぼんやりと眺めて思考が鈍るのを感じた。
このままでは不味いと鈍い思考ながらも焦りを感じつつあったが、同時に艦娘たちの沈む時もこんな感じだったんだろうか、と思ってしまった。
………今死んだら、あの子達は許してくれるだろうか。
今はもう会えないであろう艦娘達を思い出し、そして
(…初春。)
【本当に、貴様はうつけものじゃのう】
目を瞑ろうとした時、聞き覚えのある声が聞こえた。
そんな。まさか。
【折角この世界でも生き残ることが出来るようにわらわ達の力を少しずつ分け与えたのに、無下にするとは何事じゃ】
(力を…分け与えた?)
【そうじゃ。貴様とは前世では悔いの残る最期じゃった。守れず本当に悪かった。】
(そんな…それは私が全部悪くて…!
みんな守れなかった…!守りきれなかいまま死んでしまった…!)
【それでも貴様が生まれ変わるとわかった時に、わらわ含む艦娘達は嬉しかった。
そして貴様に次こそは幸せになってほしいと願い、わらわ達の艦娘の魂を少しずつ分け与えた】
(じゃあ…最初に個性を発動した時に初春の艤装だったのも…たまたまじゃなかった…?)
【…そうじゃ。わらわは貴様の秘書艦じゃからな。守るのは、当然じゃ】
海の中なのに、目頭が熱くなるのを感じた。
ああ、誰か私の涙を止めて。
【よいか?わらわ達の心は、魂は。貴様の中におる。
いつまでもわらわ達のいる世界に帰りたいなど駄々をこねるでない。
貴様の帰る場所は、ここじゃ。精一杯ここで生きるのじゃ。
貴様とわらわ達の力を使って、共にこの世界で生きようぞ】
(うん…っうん…!)
【うむ…もう大丈夫そうじゃな。
わらわ達は貴様を見守っておるから、安心して生きろ。
そして、貴様はここで幸せになるのじゃ】
(わ、かった…!)
強い力で引っ張られる感覚を感じ、私はブレる視界の中、ザバン、と水をかき分けて私は足に力を入れて体制を整える。
ぐっしょりと濡れた服と艤装。
それらからポタポタと水が垂れる音が聞こえるなか、息もだんだんと落ち着いてきて水面に立つことも安定してきた。
「大丈夫か」
「……おかげさまで。どのくらい沈んでた?」
「1分ちょいだな。あと少しでお前の体に巻きつけていた捕縛布を引っ張っていた」
「…そ。すぐ引き上げなくて正解だったよ…」
「?」
「おかげさまで、トラウマは克服してこれからは個性を使おうってなったから」
「…夢でも見てたのか?」
「まぁ、それに近いのかも。でも、そのおかげでこの子達とうまくやってけそうだと思ったよ」
ね、と語りかけながら艤装を触るとほのかに暖かくなった気がした。
相澤さんは私の言ってる意味がわからず首を傾げていた。
「相澤さん、私もう大丈夫だよ」
「みたいだな」
「ずいぶん荒っぽいやり方だったけど、相澤さんに落とされなかったらこんな展開になってなかったかも。ありがとね。」
「どういたしまして」
「…その」
歯切れ悪く言葉を進めると、どうかしたのかと彼は尋ねてくれた。
「…さっき個性を使ってない割に個性のことをよく知ってるって言ってたでしょう?」
「ああ」
「…私ね、前世だと司令官をしていたの。
地方の鎮守府に所属して、艦娘っていう軍艦の魂を持った女の子達を相手に指示を出してた。
この個性は彼女たちの
「ああ、だからこの子達って言ったのか」
「うん。」
「…使わなかったのにもその
「……うん、前世で主力がいない時鎮守府に敵が襲撃された事があった。
艦娘はある程度迎え撃つ事は出来たけど、それでも
…ずっと後悔してた。生まれ変わってからも。
だから夢なんて持たなかったし、持つなんてできなかった。」
涙がぽろぽろと落ちてきた。止まらない。
「でも初春にさっき言われたんだよ。私達の魂、この個性の力を使って共にこの世界で生きようって」
「…そうか」
「…………相澤さんは、ヒーローなんだよね」
「そうだ。この時代、個性を使ってヒーローをしている人間は沢山いる」
「うん、そうだよね。……うん。私、決めたよ。
私は皆の力を使って、沢山の人を助けたい。役に立ちたい」
あの暁の水平線に誓って。
そういうと、相澤さんは桟橋に座って下にいる私の頭をガシガシと撫でた。
「私、
相澤さん、お願いしたことがあります」
「何だ」
「実は…」
もう心配はいらないよ。
ありがとう、みんな。