⑤救助訓練レース〜林間合宿
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─翌日。合宿二日目、AM5:30。
この時期になれば朝日はすっかり昇っていて、その日光を身体に浴びさせてグッと体を伸ばしてやればすっかり目も覚める。
スッキリとした頭で他の皆よりも先に向かえば他の皆も眠そうな顔をしながらトボトボと歩いてきた。
その中でもギリギリまで眠っていたのか、お茶子の髪の暴れ具合が凄い。
「眠そうだけど皆遅くまで起きてたの?」
「ん…まぁちょっとだけね…でも私たちも割と寝たとおもうんよ…ただ慣れない時間やから眠くて…あ、澪ちゃんは私たち起きててもぐっすりだったよ」
「はは…起きた記憶ないからね…。」
こっそりとお茶子と話していると、わざとらしい咳払いが聞こえてきた。
わ、やばいやばい。こっち見てる。
「お早う諸君。本日から本格的に強化合宿を始める。
今合宿の目的は全員の強化及びそれによる“仮免”の取得。
具体的になりつつある敵意に立ち向かう為の準備だ。心して臨むように。」
その言葉に眠気も覚めるような言葉に私含めて皆の気が引き締まった。
それを見た消さんは、というわけで、と爆豪くんに体力テストの時に使っていた計測器付きのボールを手渡した。
「前回の…入学直後の記録は705.2メートル…。どんだけ伸びてるかな」
「おお!成長具合か!」
「この三か月色々濃かったからな!一キロとかいくんじゃねえの!?」
「いったれバクゴー!」
「んじゃ よっこら…─くたばれ!!!」
爆風が私たちの髪を勢いよく揺らして、ボールは爆風に乗って勢いよく飛んでいく。
…これ、私の個性だともはや機械で飛ばしてるからあんまりいい結果にはならなさそうだよなぁ。やったとしても手回しで距離が一番伸びる角度と風を読んで撃たなきゃならないし…、なんてそんなことを思っている間にそのボールは地面へと落ち、消さんの手元の計測器の数値結果が出た。
「709.6メートル。」
「!!?」
「あれ…?思ったより…」
「約三か月間様々な経験を経て、確かに君らは成長している。
だがそれはあくまでも精神面や技術面。あとは多少の体力的な成長がメインで“個性”そのもよは今見た通りでそこまで成長していない。だから──今日から君らの“個性”を伸ばす。」
ニヤリ、とまた楽しそうに笑いながら言い放った彼の顔はいつもよりはイキイキとしていた。
でも私は知っている。消さんが楽しそうに笑う時大抵その笑みを向けられた側(つまり私たち)は地獄を見ることになるって。
「死ぬ程キツイがくれぐれも…死なないように──…」
………ほらね。
*
さて。本格的に始まった合宿。
私の場合、曖昧である燃料量を各艦種どれくらい使えるのかをそれぞれ燃料が無くなるまで使い、データ化させ、その後に一番効率よく個性を使いまくることで試みる内容だった。
因みに潜水艦のデータは取らなかった。山だし、あれは海の中での長距離向きで合宿には合っていないし、武器も酸素魚雷くらいしか使わないだろうから。まぁ…投げてもいいけど。
そして私は本格的に撃ちまくる作業に入ったのだけれど、まぁ、わかりきっていた。わかりきっていたさ。
「大和型が一番単純に燃料の消費が多くてこの作業で使うことになるのは知ってたよ!」
そう文句を言いながらピクシーボブが用意してくれた土魔獣を撃ちまくる。
いつもだったらこんなに換装して撃っていたらすっかり燃料も切れてくたくたなところだ。
けれどそれではいつもと同じになってしまうだろうし、私は青山君と違って限界を超えると弾が出なくなってしまう。どちらかといえば期末で一緒に組んだ砂糖くんや上鳴くんのタイプだ。
なので私はダンボール五箱分の携帯食を渡されて食べながら撃ちまくっていた。
「ぷはっ!ゼリー飲料かと思ったら全部お粥だったとか!なんだってお粥ばっかりなの!」
「お前の場合スコーンタイプとかより米の方が合理的だろ。水分も取れるし味も豊富で飽きないだろ?お前にはうってつけだ」
「用意したのアンタか!!!」
「口には気を付けろよ」
「こんな会話だれも聞いへないっへ!」
後ろを通りかかった消さんの返事に軽口を叩きながらまた私はゼリー飲料と同じ要領で詰められていたお粥を吸い込む。これは顎も鍛えられる…筋肉痛になりそうだ。
消さんが言うように確かにお粥は合理的だし、納得するとこもある。けれど正直食べながら撃つのめちゃくちゃ大変だし、気が散って飲み込む時軸がブレて上手く当たらないなんてことがあって苦労をしていた。
「当たりがいつもよりよくない…っむぐぐ!!」
今回は技術面は特に伸ばす目的には入らなかったけれど、当たらないのは思ったより悔しかった。
もはやこれは慣れだろうとは思いながら、とりあえず撃ちまくり、私の燃料の許容量を増やすことを第一に、日が落ちるまで撃ち込むことにした。
「──さァ昨日言ったね『世話を焼くのは今日だけ』って!!」
「己で食う飯くらい己でつくれ!!カレー!!」
「イエッサ…」
「アハハハハ全員全身ブッチブチ!!だからって雑なネコマンマは作っちゃダメね!」
私含めて皆ぐったりとしていて正直皆マジかって気持ちだろうけど私は一日中おかゆ食べてたからそれは絶対嫌だ。
「確かに…災害時など避難先で消耗した人々の腹と心を満たすのも救助の一環……。
さすが雄英無駄がない!世界一旨いカレーを作ろう皆!!」
「カレー!!」
「ム!艦くんはカレーだとヤケに気合が入るな!じゃあ一緒に皮むきをしよう!」
「イエッサー!」
カレーに反応して私は飯田くんと率先して一緒に皮むきをすることにして食料庫へと向かい、必要なものを個性を発動してから担いで運んだ。
飯田くんは自分よりも小さな女子が全て荷物を持っている状況を見て流石にそれは良くないと思ったのか「俺も持とうではないか!」と言ってきたので比較的なんとなく軽そうに見えた人参と肉を持ってもらった。
保須での事件で怪我した腕にあんまり負担かかって欲しくないんだけども。
そんなやり取りをしていると、後ろから「アイツら元気だな…」という呟きが聞こえたので振り返れば上鳴くんと目が合った。…お前か!
「上鳴くんそんなに疲れてるなら楽な作業させてあげるよ。ほら、玉ねぎ二十個。全部皮むいて全部切ってね。」
「えっ正直人参の方が「なんだって?」…ハイ…サーセンっした…」
「期待してるからよろしく」
ウェイ…という悲しげな声を聞いた後に他にも手が空いてる人ー!人参頼みたいですー!と声を上げればクタクタながらも尾白くんがこちらに来てくれて、自分を指をさしながら「俺にもできる?」と聞いてきてくれたのでもちろんだと頷いた。
「では尾白くん!人参は頼んだぞ!」
「手を切らないようにだけ気を付けてね。他にもできそうな人いたら一緒にやって早い方がいいし。」
「オッケー。おーい砂糖ー、手空いてるなら人参切るの手伝ってくれー」
「おう、いいぜ!」
よろしくと言って人参の箱を預ければ、残りは肉とジャガイモとなった。
後ろの飯田くんの肉とジャガイモを見合わせる。
「ジャガイモは飯田くんと私で剥く感じでいいかな?」
「任せてくれ!借りたピーラーも持ってきているからな。だが艦くんと俺だけでは少し作業効率が悪いのではないか?」
「そだね。それじゃあ肉切ってもらう人を探しつつその中からも二人くらいテキパキできそうな子に芋むくの手伝ってもらおうよ」
「うむ、それがいいな」
キョロキョロと二人で見回していればB組の女子たちがこちらに来てくれた。
そして一番先頭の拳藤さんがB組にもやれることはあるだろうから仕事分けてよ、と言ってきてくれた。
「拳藤さん。あ、じゃあ女の子で三人くらいに肉切ってもらっていいかな。上手に切ってくれそうだし」
「オッケー。じゃあ唯たちに頼むよ」
「ん」
拳藤さんがそう言うと小大さんが前に出てきて飯田くんから箱を受け取って持って行ってくれた。
今のところスムーズに役割分担ができている気がする。あとは他のところにも人を派遣できたらとは思うのだけどと頭の中でその考えがチラついた時に拳藤さんが「他のとこにも手伝いいるよね?」と聞いてくれた。
「うん。人参隊に二人、玉ねぎ隊に三人、ジャガイモ隊にあと二人…かな。
人参は尾白くんと砂糖くんのところにあって玉ねぎ隊は上鳴くんのところに。まぁ彼今頃泣きながらやってるから分かると思う。
最後にジャガイモなんだけど、それが私達しかいないからあと二人欲しくて。」
「じゃあ私がジャガイモ隊に入るよ。人並みにはできるから安心して」
「よかった!じゃああと一人は…」
「ムッ。今周りを見ると梅雨ちゃんくんの手が空きそうだな。よし、俺が声をかけに行こう!おーい梅雨ちゃんくん!!」
飯田くんは私たちの返事も聞かずに梅雨ちゃんの元へと走っていってしまった。
個性使わずに走る彼の足は私よりもずっと長くてうんと速い。普段から脚力を鍛えている人ってこんなにも違うのか、と色々と思い知りながら見送る。
「あ、艦…もう一人いい?見張ってなきゃいけない奴いて…要因として来させるからさ」
「え?全然いいしむしろ大歓迎だよ。誰?」
「えっと…」
「ハーーッハッハ!!拳藤!何を呑気にA組とお喋りしているんだい?
それよりもさっきうちのクラスの女子が全ての肉を切り分けていたけど拳藤の指示かな?さてはA組よりもこちらの肉を多くしようって魂胆だね?
任せてよ!コイツらにはもちろん最低限のタンパク質は分けるけれどこちらがより多く取れるように「物間だまって」ほぐっ!!!」
彼は私たちの元へくるなり対抗心燃やしまくりで煽りを入れながら物凄い勢いでペラペラと喋りながらこちらへと歩いてきたが拳藤さんのいつもの、という態度でお腹に拳を入れて物間くんを止めてくれた。
「ごめんね、コイツ心がアレだから…」
「ああ…うん、大丈夫だよ。じゃあ私先にやってるからそれぞれに派遣お願いしまーす」
「オッケー。物間は皮むきやってて」
「…やれやれ。仕方ないなぁ。」
物間くんは意外にも大人しく二つのザルに分けたジャガイモの一つを持って水場へと行き洗ってくれた。
私もそれに倣い、同じようにしてから二人で大人しく皮むきをしていれば物間くんが横にいる私を見ずに芋を剥きながら喋り始めた。
「君ってさぁ、友達が多そうに見えて実は仲間や友達って思えてる人間なんていないだろ」
しょり、とピーラーが一番下まで下がり切らずに手が止まり、ジャガイモの皮がくっついたままピラリと反り返ってプラプラと揺れていた。
特に動揺したから止まった訳ではなく、野菜を持っていた手の爪を削ってしまいそうだったからだ。
危なかった、と同時に私は彼に「ほぼ初対面の人間に何言ってんだこいつ」という顔で見れば物間くんは顎を少し上に上げてこちらを見下すように見て、目が合うなり彼は口端を得意げに引き上げてみせた。
「…私はそうは思ってないけどなぁ」
まぁ、こういう態度は前世の学生時代や提督時代でも割とあった事だから慣れている。
大抵は女だからと舐められ、侮辱するようなセリフを吐くなど、しょうもないことをされていたものだ。まぁ、物間くんの場合は女だからって事じゃないことはわかるけれど。
若干の不愉快さを感じながら彼の言葉を流し、皮むきを再開させる。
先ほどよりも持つ力がやや強くなっているのは気にしない。
「一見君はとてもとっつきやすい人間に見えるけど、上辺だけだろう?
君なんか特に目立つわけでもないから特に注目はしていないけれど、たまに見かけていたから知っているよ。
アイツらとは一歩引いているってことをさ。まるで自分には関係のない保護者かなって思ったよ」
「…ふうん。君にはそう見えるんだね」
早く皆来ないかな。
「そりゃあ見えたさ。たまたま一度見かけただけで気付くんだから。きっと君のその上部だけのお友達ってヤツらも気付いてるだろうなぁ。ああ、連中はどう思っているんだ「物間くん」……なんだい?」
何でもないような声色で、いつもの顔で、私は彼を見る。
そうすれば弟弟子と同じ色の瞳と目が合い、それはいつもと比べ光が入っていたことだろう。
そしてその演技がかったその口端も一瞬動いたのを見逃すわけがなかった。
引っかかった、って思っているんだろう。なんて嬉しそうな顔をしているのか。
そんな顔を見てから剥いたジャガイモをくるりと回し、ジャガイモの芽を探す。あ、見っけ。
ピーラーの両端についている輪っかをジャガイモの芽に差し込んで綺麗にくり抜き、ボウルに入れてから物間くんに手を差し出した。
「…これは?」
「仕返し。目的はこれでしょう?別に個性知られても気にしないからコピーしていいよ」
彼は私の言葉の意味がわかると、心底不愉快そうな表情をして私の手を叩いた。
きっと彼は、私の気持ちを逆撫でさせて掴みかかってくるのを待っていた。その時にコピーのチャンスを狙っていたんだと思う。
けど、それが失敗に終わった上、私から「コピーをしていいよ」と来たもんだから、心底ムカついただろう。
「君、ムカつくね」
「お互い様でしょ。私だってあんなこと言われてちょっと腹立ったんだから。」
「ふん、つまり僕が言ったことは図星だったってことかい」
「口の減らない男だこと…」
私はこの世界にとっては異物だし、異世界人だからといってファンタジーものの作品のようにこの世界に絶対的になくてはならないキーマンって訳でもない。
まぁ、このジャガイモの皮みたいなもんだ。食べるにはあってもなくてもいい存在。モブみたいなもの。精々ジャガイモの芽にならないように気を付けたい所だ。
でも肉体の年齢と環境がまだ死んだ時の年齢に追いついていないが故に、周りと少し距離を置きがちになってしまうようになってしまったのは彼の指摘通りだし、きっと周りにもそれはなんとなく伝わっていると思う。
「なぁ」
物間くんの方を見れば、「君の個性、なんだっけ?」と聞いてきた。
彼の顔はやや険しい表情をしている。
「軍艦だよ。艦種指定して個性発動したらその装備がでてくる」
「…スカなんだけど」
「スカ?」
スカって、空っぽってことだよね?
どういうことか聞けば、物間くんの個性はコピーができるにしても溜め込む系の個性だと発動ができない、とのことで彼はそれをスカと呼んでいるようだった。
「使った後はお腹めちゃくちゃ減るけど…私の個性は溜め込む系ではない筈だよ…ね?」
これについては私もよくはわかっていないし、私の個性は四歳の頃に発現したので病院で調べてもらったことがない。
だからこの私の個性が個性因子があって、それを使って発動しているかは私にもわからないのだ。
だからこういう場合、非常に自分でも言っても自信がない…。
「だよねぇ…あーあ、煽り損だよ全く」
「残念だったね」
「くそだくそ。もうジャガイモも剥き終わらないし。アイツら何してんだよ。お前と二人きりでジャガイモの皮剥くの嫌だ。拷問だ」
「黙って聞いてれば好き放題言って」
「あら、いつの間にか仲良くなってたのね、澪ちゃん」
「うむ、人間関係を良好に保つことはよいことだな!」
「梅雨ちゃん!飯田くん!どこをどう見ればそうなるの!?」
「物間サボらずやってたかー?」
「それはコッチの台詞だと思うんだけどなぁ!?拳藤!キミこそここにくるまで時間かかりすぎじゃないのか!?
サボってたんじゃないだろうね!?僕はコイツに拷問されて「物間うるさい」ほぐぅうっ!!…ちゃんとやってたのに…なんで…だ………」
梅雨ちゃんと飯田くん、そして拳藤さんが戻ってきて一気に賑やかさが増して皆で皮むきを始めた。
「「「いただきまーす!」」」
手を合わせて大きな声で挨拶をして食べたカレー。
ルウが少し緩いカレーが出来たけれど、皆で食べているこの状況がなによりも楽しくてそんなこと全く気にならなかった。
「やっぱりカレーは最高…」
「ほんと美味しそうに食べるね澪ちゃん!」
そう言ってくれた透にそうだねと返事をすれば、彼女も私に倣ってカレーをパクリと食べる。
慣れた景色ではあるものの、前世なら透明人間が食事をするなんてこと、滅多にお目にかかれることなんてなかっただろうなぁと、透が口に入れた瞬間消えていったカレーを眺めながら私ももう一口パクリと食べ進めて、訓練二日目は無事に終えた。
片付けた後、明日の肉じゃがにて豚肉と牛肉を選んで置いてくれと言われ、少し争いごとが起きた。
というかまた物間くんの煽りのせいで起きているのである。結局それによって男子たちが燃えて腕相撲をして決める、ということになったらしいので私はここを任せることにした。因みに私は豚肉派だ。どっちも美味しいとは思うけれど。
正直お腹が満たされてまったりとしてしまっているので割と早く寝たい気持ちの方が強く出ている。
「半分ずつに分けて、両方入れれば良いのに…」
なんて呟いてから私はお風呂へ向かった。
多分物間くんがこれを聞いたら舌打ちするんだろうな。
「そういうことじゃない」って。