⑤救助訓練レース〜林間合宿
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「艦、ちょっと来い。」
「はい?」
期末試験も終わって一息ついたその日の終わりのHR後、消さんに呼び出しをされた。
ジェスチャー付きで、ちょいちょいと。
「何かしたっけかな」
「盗み食いしたん?澪ちゃん」
「いや、そんなまさか。というか私のことどう思ってるのかうっすら見えたねお茶子?」
「えあっしまった!そ、そういうのじゃないって?!」
慌てるお茶子を笑いながらまぁいいけどさと立ち上がって消さんの元へ寄ると、職員室に行くぞと言われ、大人しくついていくこととなった。
最近はバカやらかしてないので悪いことではないとは思うけれど、呼び出しって慣れてないからドキドキするわ…。
「あ、相澤先生。」
「来てたか。先に荷物置いてくるからちょっと待ってろ。」
「はい、わかりました。」
色々と考えているうちに聞こえた会話に ん?と顔を上げて見れば、消さんと話していたのは心操くんだった。
廊下で待っていろと言われ、職員室のドアが閉められてから私たちは初めてちゃんと顔を見合わせた。お互いあれ…?とでも言いたそうな顔だ。
「心操くんも呼ばれてたの?」
「まぁ、うん。艦も?」
「そ。ちょっと来いって言われたけど何の用事かまではわかってないんだよね。」
なんて会話もそこそこにして、やがて黙る私達。か、会話が続かない…。
ちらりと見れば心操くんは前を向いてこちらをちっとも見る気配はなかった。
…あれ?
「ねえ心操くん、顔怪我したの?」
「……なんでもいいだろ」
「いや、話したくないなら深くは聞かないけれどもさ、ちょっと絆創膏剥がれてるよって」
手を伸ばして心操くんの右頬に貼ってある剥がれかけの絆創膏を貼り直してあげると、心操くんは少し焦ったようにして左手を掴んできた。
「大丈夫だから。…あと、そういうのやめた方がいいと思う」
訳がわからず、何が?と思って聞こうとしたら私の気持ちを読み取ったのか先に心操くんが口を開いた。
表情は申し訳ないような、言いにくいような…そんな表情だ。
「男って艦が思っている以上にちょろいし、バカだから、こういうことされると勘違いする人も出るよ。」
目を逸らして言いにくそうに掴んでいない方の手で首をかく心操くん。
ポソリと「だからと言って、俺が勘違いしてるとかじゃあないけれど…」と言われ、私は彼から当たり前のことを気付かされた。
そっか、そうだよね。
前世の関係で二十四歳の感覚のままだったからすっかり忘れていたけど、相手側から見たら私も相手と同じ年頃の女の子なんだよな。
妹や弟みたいな感覚が強かったなぁ。反省。
「なるほど…ごめん。軽率だったね。気をつけます」
「うん。そうしてくれると助かる」
心操くんは人が言いにくいことを言えてとても偉いし、彼と少しずつ話せば話すほど彼の人柄が見えてきて、決して悪い人ではないんだよなと噛みしめる。
噛めば噛むほど味が出る男、心操くん。
「まるでスルメのような人だよねえ」
「は?スルメ?」
「いや、こっちの話。それはともかく…そろそろ私たちお互い手を離した方がいいと思うんだよね…」
「…そうだな」
そして手を離そうとした瞬間、職員室の扉がガラリと開いた。
ん?と思った時にはすでに遅く、消さんとガッツリ目が合っていた。
あ、やばい。
おかげさまで消さんのキョトン顔見逃さなかったけど次の瞬間超おっかない顔になった。なんでさ。
私と心操くんは、お互い顔を見合わせて今の状況に顔を青くして急いで手を離した。
「……何してんだ」
「何も?ねぇ心操くん!?」
「そ、そうです。何もないです。勘違いです」
こんなにも心操くんがフォローしてくれたのにも関わらず「どうだか。」といつもより冷たく言い放たれて信じてくれなかった。
何かちょっと対応厳しくない?!いつもなら「そうか」って言って流してくれるところじゃないの!?
「心操、何かされたら言うんだぞ」
「私ってそんな男の子にホイホイ手を出す人だった!?」
「今見たのはなんだったんだろうな」
「さっき心操くんの絆創膏貼り直したら思春期真っ盛りの異性に簡単にこういうことするのやめろって注意されて手を下げられただけだよ」
「俺は思春期真っ盛りなんて言ってない」
「結果的に手だしてるじゃねえか」
「ハッででででもちゃんと反省したし変な意味とかないですもん」
何だこのやり取り。
この対応も行動としてはいつもと同じような感じだけれどなんか…なんかこう!
「相澤先生、浮気された嫁みたいな責め方をやめてください。艦も浮気現場を見られた旦那みたいなムーブやめなよ」
沈黙が走る。
私と消さんは目を丸くして心操くんを見ると、彼はこのやり取りに興味ないかのように無表情で私たちを見ていた。
私は指摘されたことに「それだ」と赤べこのように頷き、拳を軽く振りながら心操くんに同意した。
「それだ。私も思ってた。生徒と教師なのに。変だよね」
「うん」
「もしかして相澤先生最近なんか悩みごとでも増えた?それでイラついてた?話聞こうか?」
ジッと黒い瞳を見つめて言えば、彼は僅かにピクリと二度動き、やがて深いため息を吐いて謝ってきた。
「…最近ちょっとな。八つ当たりして悪かったな」
よし、よくわかんないけど私があの態度の根本的な原因って訳ではなさそうだ。
「この合理的でないやり取りについては今度カレーおごってくれたら許します。勿論、巻き込んだ心操くんの分も込みです」
「わかったよ。」
これで仲直り、と告げると短い返事が返ってきた。
今更だけど、教え子が教師に…ましてや弟子が師匠にこんな口を聞いてよく怒られないなと思ったのは秘密だ。
「というか相澤先生、本当に悩んでたりします??本気で悩んでたら気休め程度だと思いますけど聞きますよ」
「………あるにはある。ただ、お前にする話じゃあないし、『子供』に相談するくらいなら同じ大人に相談するさ」
「そりゃそうか」
熟考された末に断られてしまったけれど、先ほどよりも柔らかい態度で返されたので特に相談されなくて寂しいとかは思わなかった。
…いや、ほんの五ミリくらいはあるかもしれないけど。
まぁ、適材適所って言葉があるしね。別に不満とかはないさ。
「…お前ってやつは」
「うわっ!」
ボンボンと私の頭を叩くように乱暴に撫でた消さんは、心操くんに「変な状況見せて悪かったな。コイツも一緒に相談室に行くぞ」と歩き始めて行った。
心操くんの方を見てみれば、興味ないのはわかっていたが、さすがにこのよくわからないやりとりをいきなり見せられて動揺しているのがわかった。
いや、私もだいぶ動揺させられたけどさ。でもまぁ…そうだよね。
この地味に担任と生徒の距離感には当てはまらないやりとりを見せられてどうしたらいいのかわかんないよね。
「ごめん。ホントごめんね心操くん」
「いや…いいけど、早く行かないと置いてかれる。行こう」
「うん、そだね」
消さんは一体何を話す気なんだろう。
そう考えながら相談室に行って扉を閉めると、消さんは私たちに一枚ずつプリントを渡した。
「二人とも、これを読んでおけ」
なになに。担当者日程と使える部屋が書いてあって、週二回私で他が消さん…?どういうことさ?
「相澤先生、この担当者ってもしかして艦は…」
「そうだ。心操、合宿期間中は無理だが可能な時にはコイツに訓練つけてもらえよ。戦闘スタイルは違えど、一応コイツはお前の姉弟子だ。」
「「えっ?」」
ぱちくり。
そんな音が聞こえてしまいそうなくらいの驚きを、私達はしていた。
「姉…」
「弟子…なの?心操くん?」
「まぁそうだけど…」
「い、いつからさ?」
「曖昧だけど、体育祭終わってから編入の相談したら相澤先生が面倒見てくれて…それから」
結構前だね!?全く知らなかったよ!
てか心操くん編入することにしたのか!
「そ、そっかぁ。」
「基本的には組手でいいが、個性も使用していい。ただ艦、お前の個性使用時に上がる筋力は並みじゃないから最初はパワー調整しながらしごいてやれ。
それと心操には捕縛技術も教えているが、それは俺の役目だ。艦は毎回勝つ気で組手の相手をしろ。以上」
は、はい…と返事をすれば消さんは私たちに「じゃあ明日から頼んだぞ」とさっさと出て行ってしまった。
え?なんだこれ。どういう展開か全くわからない。
「明日の訓練は放課後でいいのか」
「えっ、あ…はい。大丈夫です」
柔軟か!
「今のアンタよりは…でもここに来るまでも動揺はしてるから、慣れたって感じ」
「え、やだ…また声に出てた?」
「出てないけど顔に出てた」
「くそぉ!てかさっきマジごめん!変な空気になっちゃった」
「いいよ別に、驚いたけど気にはしてないし、やっと合点がいった」
合点?と聞き返せば今までのやりとりや、体育祭で熱出た時の話をしてくれた。
「うわ…私熱でうなされてたとはいえ消さんって呼んでたの?」
「まぁ」
私何やってんだ?という気持ちと少し恥ずかしい気持ちが入り混じり、頬が熱くなるのを感じた。
もういいや。心操くんの前では消さん呼び解禁してしまえ…。
「いつから弟子なんだ?」
「…十二歳から」
「長いな。じゃあ戦いの癖とかは先生と似てるのか」
「あー、それはあんまりかもしれない。私体全然小さいし、わりと身を守ることを重視で教えてもらってたから。
もちろん撃退方法とかも習ってるけどね。ただ私消さん以外にも体術少し習ってたからその辺は違うかも」
というか私と違って心操くんは体術もメインで使うだろうから、いろんな人と戦わせて変な癖がつかないようにするべく私を派遣したんだろうな。
私のお師匠様はよく考えてらっしゃるわ。
「よし。じゃあこれ私の連絡先。明日からよろしくね心操くん」
「わかった。じゃあ明日」
「はーい」
バイバイ、と別れて荷物を取りに教室へ行くと、「あ!澪ちゃん戻ってきた!」と真っ先に透が私の元にきてクラスの女子達に囲まれ、夏休みに雄英のプールの使用の許可を取ってみんなで遊ぼうと誘われた。
「へ?プール使えるんだ?」
「そうだよー!許可取ればね!」
「わ、なんかいいね。学校ぽい」
「でしょ?」
明日ちょっと消さんに潜り込みでもできそうなプールがあるか聞いてみようかな。
もしそういうのがあって、使用許可出るならちょっと使って普段学校の授業じゃできない個性の自主練をしたい。
「じゃあ日にちは夜にアプリのグループで話しかけるからそれまでに予定いつ空いてるか教えてね!」
***
「ただいまー」
「お帰り澪~!」
「あれ?お父さんお帰りなさい?今日は早いんだね」
帰宅するなりうきうき顔でお父さんがお出迎えをしてくれた。珍しくお仕事早く終わったんだ、と話しながらリビングへ行くと後ろからジャーン!と旅行のパンフレットを出してきた。
「北海道旅行…」
「どうかな!澪、北海道行ってみたいって言ってたよね?
ちょっと今日旅行会社から少し話聞いたりとかしてみたんだけどパパも行ってみたくなっちゃって。だからママと三人で避暑も兼ねて計画立てよう!」
「…あー…」
うきうきと話す父とは裏腹に、申し訳ない気持ちでいっぱいになった私は、今年の夏休みは学校の意向で長期外出は難しいことを説明した。
うわ。お父さん目ぱちくりしてる。音が聞こえる。
思考がフリーズしちゃってる顔をしてるよ。
「ええ!?澪長期外出ダメなの!?!?」
「うわっ声でか!敵も活発化してるからって学校が言ってたの。まぁ、仕方ないよね」
「そっか…パパせっかくお休み取れたのに…」
「あら?パパ、そういえばそのお休みの日は澪合宿中じゃ」
直後お父さんは声を上げずにムンクの叫びのような顔をしていた。
…ショックすぎて声も出ないのね…。
よしよし、と慰めつつ私はいけないけれど、たまにはお母さんとデートしてねって言ってみたがこの大きな子供こと父は大変にグズった。
そしてお母さんも説得し始めてもう大変だなと思ったけれどそこは流石お母さん。お父さんの扱いは慣れていた。
「パパ、残念だけど平和になったら皆で行きましょう?ね?ほら、泣き止んで」
「ママ…!うう、絶対に行くからね…澪…」
「うん、約束する。絶対ね」
流石だなぁ…と思い、父のグズりが終わったところで、心操くんと女子グループからの連絡が来た。
私は諸々の予定を返事しつつ部屋に戻り、制服から着替えることにした。
「皆でカレーとか食べたら美味しいだろうなぁ」
まぁ、北海道については前世の私が三歳の時まで生まれ育った土地でもあったから、行ってみたかったけれど。
私はお気に入りのシャチのぬいぐるみを抱きしめながら、母に夕飯だと呼ばれるまで訓練と合宿に胸を膨らませることにした。
もちろんプールもね!