⑤救助訓練レース〜林間合宿
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─期末テスト会議室にて。
「それでは次。切島と砂糖と艦という組み合わせにします。
この三人は極端に消耗戦に弱い。そこをセメントス先生が突きます。」
「「「異議なし!」」」
今日は期末の演習試験で誰がどの生徒たちの担当するかの会議をしていた。
着々と決まっていく中、弟子の澪も滞りなく決まった。
「そういえばイレイザー、女子リスナー…フリートはあれから例の姿にはなっていないのか?
というか職業体験の時も若干決めかねていたことだったんだろ?大丈夫だったのか?」
「ああ。先日艦本人から色々と聞いたが、あの事件後から職場体験の間まで少し大丈夫じゃなかったらしい。」
「マジかよ」
マイクの質問と俺の回答により、場の空気が少し硬くなるのを感じる。
俺は気絶していたから監視カメラの映像でしか見ていないが、実際に見た者はそれほど禍々しいものだったということがわかる。
「一つ目は艤装との連携のズレ。そして二つ目は使用時、何者かに意識を引っ張られそうになったことがあったらしい。
…恐らくあの事件の時に出てきた姿のモノだろうな。」
「hmm…」
「しかし職業体験の際にお邪魔していた艦の親戚たちのお陰で持ち直したと言っていた。」
え、と誰かが声を発する。まさか身内で解決するとは思わなかったのだろう。
皆の反応も最もだし、俺だってそうだ。
「なんでも気の持ちようだったらしい。今はまだ軽微なズレが残っているが、この間の救助訓練レースでは支障がないくらいには動けていたとのこと」
「では、一応大丈夫ということでいいのかしら」
「ああ。それにあの姿になったとして…先日の監視映像を見た限り、アレも消耗型だということには変わりない。
なので万が一試験中にあの姿になった場合、担当のセメントス先生の個性での捕獲を頼みます。その後にでももし落ち着かないようなら俺やミッドナイト先生が個性を使って鎮静化させますんで。」
「わかりました」
条件的にさて。おそらく澪や切島、砂糖には最悪の敵となるだろう。
しかしそれでも勝ち筋は残されている。
せいぜいプルスウルトラしてくれ。
「では次…」
***
筆記試験も終わり、演習試験当日。
各説明を受け、私は切島くんと砂糖くんとチームを組むこととなる。
「三人だと心強いけれど、慢心せずに頑張ろうね」
「おう!」
「よろしくな、澪」
軽く挨拶を交わした後、先生が配置に着くまでの間少し時間があったので、作戦会議をすることになった。
しかしまぁ…物の見事に長期戦が苦手なメンバーが集まったわけだ。
しかもパワー系で近距離メインが二人…いやでも遠距離の私がいるだけでもまだマシ…って感じか。
「これ、上手い事立ち回らないとクリアできないかもね…」
「そうか?俺たちバランスいいしなんとかなるだろ!あとは漢らしく気合だよな、砂糖!」
「そうだな!頑張ろうぜ!」
「えっそんな簡単にできない感じなんじゃ…?」
相手はセメントス先生だ。コンクリートを巧みに操り、一瞬で固めてしまう。
しかもここは市街地ゾーンで先生にとっては抜群に相性がいいステージで正直近づけるかも微妙だし…。
因みに先生には私の艦載機について、使用は認めるがそれでゴールをするのは認められないと言われた。
まぁそれはそうだよね。期末テストの意味がないし、おそらく簡単に終わってしまうだろうから。
それナシで己の壁を越えていけということらしい。いいじゃん、やってやろうじゃん!?
…とまぁ、そう思うものの、この二人との少しの会話だけで随分先行き不安になってしまったよね…?
≪皆位置についたね それじゃあ今から雄英高校一年、期末テストを始めるよ!レディイイ───…ゴォ!!!≫
開始の合図と共に、私たちは一斉に駆け出した。
「この試験さぁ、逃げるより捕まえたほうが当然点数高くなるよな?」
「と、思うぜ。」
「でも私たちは先に先生を見つけて遠距離から私が一度撃って撹乱した後に二人が…」
「「「!」」」
ドンッとコンクリートの壁が生えてくる。くそ!先に見つかった!
壁を避けて前を見据えれば、百メートルほど先にセメントス先生がいた。
「セメントス先生は動きが鈍い。正面突破で高得点狙おうぜ!」
「おうよぉ!」
「えっちょっとま…っ!」
「やっぱり、正面から来ますか」
砂糖くんはウェストポーチに閉まっていた砂糖を摂取して、切島くんは個性を使用して二人は掛け声と共にセメントス先生が作る大量のコンクリートの壁を殴ってじわじわと前へと進んでいった。
でも、二人の力任せに突破しようとする姿勢が見えてしまったのか、セメントス先生は焦る様子もなく、個性で次々と壁を作り阻み続ける。
「まだまだ…」
「二人とも一度退避して!このままだと私たちクリアできない!」
「下がるのは漢じゃねえぜ!澪っ後ろから攻撃頼む!」
「~~っ全く!」
軽空母
距離的に言えばこの攻撃が一番セメントス先生に近かったものの、やはりコンクリートの壁に阻まれてしまった。
とりあえず燃料を無駄遣いしないようにと換装を解くと、前の二人はもう限界のようで動きが鈍っているのが一目瞭然だった。
「ああ~!キリねぇよオイオイ!ブッ壊してもブッ壊しても…壁生えて来やがる!!」
「ウウ~…ねむい…だるい…」
「おおい頑張れ!!」
「!!」
二人がもう前しか見ておらず、息が切れかかっている中、周りがどんどんと私たちを囲んでコンクリートが迫っていることに気づいた。
このままだとマズイ。私たちは捕獲されて時間切れまで放置という最悪な状況になってしまう…!
「息が…切れた…ッ」
「…!ねえ下がって!お願いだから下がって二人共!」
そういったものの、すでに遅かった。
「「うぉあああ!」」
「いやああ!?」
「消耗戦に極端に弱い。いいかい、戦闘ってのはいかに自分の得意を押し付けるかだよ」
コンクリートの波状攻撃により、私たちはダメージを受けた上、コンクリートに閉じ込められてしまった。
「くそ…っやられた…!」
運よく私は軽傷だったものの、視界は真っ暗で何も見えない。
二人がまだ諦めていないのか、壁を先ほどよりも随分弱い力で叩いた後にドサ、と倒れる音が二つ聞こえた。
シンと静かになり、途端に私の鼻から生ぬるい何かがそのまま唇から顎へと伝い、ポタポタと落ちる音が聞こえる。きっとさっきの攻撃を受けて、出てしまったんだろう。
ギリ、と歯を食いしばり、鼻をすすってその生ぬるいものを拭う。
悔しい。こんなところで私は躓いてどうするんだ。
「換装。駆逐艦、綾波改二」
綾波に換装して、探照灯を点けて周りを見る。やっぱり二人は力が尽きているのと、モロに攻撃を食らっていたので気を失っていた。
「残り…約十五分」
このまま十五分が過ぎてタイムアップが来るのは嫌だった。
どうにかでいないものかと上を見れば、コンクリートの操作によって歪んでしまった水道管やらよくわからない鉄骨が混じっているのが見えた。
「水道管…」
そういえばこの市街地ゾーン、電柱とかはなかったものの、電灯やマンホールはあったな。
「ん…マンホール?」
もしかしてだけど、この下って下水道とかある?
「…雄英だしありえるかもしれない。」
もうこれはなりふり構ってられない。私はこの戦い、正直上手く二人と連携して切り抜けてゴールに行こうと思っていた。
けれど実際にプロと戦ってみて、切り抜けることはできないと確信した。
ならば、私たちは向かっていくしかない。そちらの方が勝利の可能性は高いのだから。
「先生を捕まえる用のカフスも、ちゃんとある。」
ポケットから出したカフスを握りしめる。
…がんばれ私。こんなところで負けちゃダメ。時間がある限り諦めちゃダメだ。
倒れている二人を壁際に寄せ、極力被害がないようにして逆側を向いて地面を見る。
本当は連れて行ってもいいのだけれど、おそらくここが一番安全だろう。
「み…お?」
「切島くん…。ごめんね、私がちゃんとコミュニケーションや連携を取れなかったばっかりに。」
「いや…俺こそ悪かった…」
「うん…あとは、任せて。何としても先生に勝って見せるから」
切島くんたちみたいに真正面から向かって行くことは出来ないけれどね、と告げてから歯を見せて笑うと、切島くんはきょとんとして、やがて彼も歯を見せて笑った。
「鼻血まみれで嫌味か?」
「ええ。まあね。かっこいいでしょう?」
「悪かったって。…うん、カッコイイわ」
「ふふ、でもね、今やろうとしていることは、二人の勢いも見たからなんだよ。」
「そっ…か、じゃ、よかったのかな?」
「二人にはちょっと反省もしてほしいけれどね。…じゃあ、これから私、個性使って地面に穴開けるから、もし余力があったら、砂糖くんの前で硬化して飛んでくるかもしれない石から防いでね。」
「おお、わかった」
深く息を吸い、頬をパチンと軽く叩いて気合を入れる。
…よし!
「航空戦艦
地面に向かって主砲を放つと、轟音と共に黒い煙で視界は真っ暗になる。
しかしパラパラと瓦礫が下に落ちて行く音が聞こえ、穴が開いているとわかる。
「ビンゴ!やっぱり地下があった!」
「気を付けてな、澪!」
「ありがとうっ行ってきます!」
すぐさま駆逐艦
そして装備していた電探を使うと、それは往復運動してレーダーに引っ掛かった人間の位置を把握できるようになり、その情報を頼りに地下を急ぎ足で進んでいく。
画面を見る限りだと今近い二つの反応は切島くんと砂糖くんだろう。
それじゃあセメントス先生は…。
「いた…!」
二人から五十メートルほど離れたところ。丁度私の真上に一つの反応が。普通のチンピラの敵だった場合はさっきの音に反応して様子を見に行くだろう。
けれど先生はプロで自分の得手不得手を熟知している。迂闊に動かず、相手がどうでるか見ているんだろう。
「換装。戦艦武蔵改二──。」
探照灯を装備したまま、また戦艦に換装して砲身を地上へと向ける。
この一発で決めなければ、私の負けは確実だ。
「…っ」
ぐんにゃりと胃の奥が引っ張られるような感覚に陥る。
まただ…、怖い。………でも大丈夫。私は少しずつでも受け入れつつあるんだから。
念のためにとハンドルを出し、くるくると、慎重に射角を調節する。
先生のいる位置を直接あてては駄目だ。もう少しレーダーが感知していた位置から十メートルほどずらし、息を潜める。
残り、二分。
「────主砲、一斉射」
***
「─まさか、制限時間二分前に下から撃たれて落とされるとは思いませんでした。」
「私もこんなに上手くいくとは思いませんでした。
でも先生があの時コンクリートのドームで私たちを閉じ込めなければ、地下下水道があることに気付けませんでしたし、先生を落としてコンクリートに触らせない、という方法も思いつかなかったと思います」
私はあの後、地上に向けて主砲を撃ってうまい具合にセメントス先生を私の上に落としてそのままキャッチをしてハンドカフスをかけた。
セメントス先生は流石に生徒に地下へ落とされる上、低身長の女子生徒にお姫様抱っこなんてことをされると思っていなかったからか、冷や汗が尋常じゃなかった。ごめんね先生!
しかし、先生を下ろして解放するといつもの穏やかな微笑みを浮かべていた。
ニー…って。…これって穏やかなんだろうか?
「位置把握はあのまま出していた艦載機によるものですか?」
「いえ、電探です。艦載機もレスポンスは早いですが残り時間が少なかったので…」
そう答えるとふむ、と目を細めて私を見据え、それでは最後にと質問をした。
「なぜ仲間をドームの中に置いて行ったんですか?位置把握をしていたにしても、巻き込む可能性があって危なかったのでは?」
「あ…え?…えー…っと。私もそれは考えました。でも、彼らはもう動けなかったのと、私が無理に彼らを運んで一緒に地下に落ちるよりもセメントス先生の作った分厚いコンクリートドームにいた方が安全だと思ったからです。」
「ほう」
「それに…あ…」
「いいですよ、続けて」
「ありがとうございます。それに、こういう地下は空気が淀んで酸素も薄いですから、怪我してる子たちをこんなところに避難させたら逆に危ないと判断しました。」
「結構、勇気のいる決断をしましたね」
「ええ。勢いのあった二人を見て、自信も見習わなければ、と思いまして」
セメントス先生は私の話を聞き、深く考え込んだような仕草をした後にそうですか、と一言発した。
それからうん、と深く頷いて「文句なしの合格ですね」と、穏やかに言い渡してくれた。
≪艦・切島・砂糖チーム条件達成!≫
「さて。ここから早くでましょうか。流石に私も少し酸素が薄くてキツいです」
「はい。あっちにマンホールあったから、あそこから上りましょう」
無事に条件を達成させてセメントス先生と地上へと上がる。
もう燃料もすっからかんでクタクタだ。そんな体を引きずりながら、私はぶっ倒れている二人を迎えに行くのだった。
「ヨッシャー!!二人共今すぐ起きて!!喜んで!私先生に勝ったぞー!!!!!」
「艦さん、二人共気絶してるのでソッとしてあげなさい。あと鼻血」
「あっ」
こっそりと胸のうちでは消さんにこんな場面見られてなくてよかったと思った。
まぁなんでこんなに見られてなくてよかったと思うのかは不思議だけれど。
師匠の呆れた顔は誰だって見たくはないものだ。そう思いたい。
でも私はこの止まらない鼻血を止めるべくリカバリーガールの所に行けば、ある程度の治療とリカバリーをされ、そして「あんたバカだね」と言われた。
「え?………あっ!?」
そ、そうか…リカバリーガールには見られてるのか…!って緑谷君もいるし!なんでさ!!?
「ごめんね…後半峰田くんチームと並行して全部見てたんだ…」
「ぐぬぬぅ…!」
くそぉ…不覚!アレらを見られてしまってはお嫁にいけない!
「今すぐ記憶から消して!頼むから!」
「そんなことないよ!音声とかはわかんなかったけれど、かっこよかったよ!」
「それでも辛い!」
そのあと、ぎゃあぎゃあと騒いでいたらリカバリーガールに「元気になったんならさっさとおゆき!」と追い出されてしまったのであった。