④職場体験
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一週間の職場体験も終わりセルキー船長達に挨拶をしたあと、夕方に地元へ帰ろうとしたが祖母の家に忘れ物をしたので梅雨ちゃんとは改札で待ち合わせすることになった。
「はー、危ない危ない」
まさかお財布を忘れるとは。急いで家に戻り、ガラリと玄関を開けて祖母を呼び出して、財布を忘れたことを告げるとすぐに探して持って来てくれた。
「もう忘れ物ないわね?」
「うん、大丈夫」
よし、とカバンに財布を入れ、ポンポンと大事そうに叩いて笑顔で向けると、祖母は呆れたように笑って家の前まで出て見送ってくれた。
「ホントにこの一週間ありがとう。この家に来られてよかったよ」
「また来なさい。…今度は
「うん、年末にお願いして行けるようにするよ」
「呼んだ?」
「うん、お婆ちゃんがお父さんに会って色々お話したいみたい……だか、…ら」
思考が停止するのって、よっぽど動揺した時じゃないとならないもんなんだけれど。
今、そのよっぽどのことが起きて脳みそが完全に停止していた。
どうしてお父さんの声が今ココで聞こえる?
ギギギ、と鳴らんばかりに固くクビを動かして向かいにいる祖母を見上げれば、祖母は私の方を見ておらず私より奥の対象を見ているようだった。
私も意を決して後ろを振り向くと、太陽のように快活に笑う父泰豊と、母の滑美がそこにいた。
「?どうし…「おお澪まだ居たか!見送りできないと思っていたがよかった。ああそうだ、お前まだ叔父の
「あ?…泰豊?お前泰豊か!?!」
「兄さん?それにキミはこの間の…ってもしかして兄さんの娘って…」
ま、まって、まって…この短時間で怒涛の展開が起きすぎでは!?
混乱する展開にとりあえず自分の頭をポンポンと叩いて状況を整理する。
うちの両親、
「…回収早くない?」
とりあえず、私は叔父の夏芳さんに簡単に挨拶をすることにし、失礼のないようにピッと姿勢を正した。
「こんな状況ですけど、姪の澪です夏芳叔父さん。この間はろくに挨拶もせずにごめんなさい」
「あぁ、うん…こちらこそごめんね。この間気付かなくて」
「ううん、私もお婆ちゃんに教えてもらわなかったらわかってなかったし、お互い様ってことで…。それからあの…お父さん達は何でココに…」
「え?…あ?パパやっぱり澪がいなくて耐えられなくてね。明日帰ってくるのは分かってたんだけど来ちゃった!」
くそう、一番この場を混乱させた人物がきょっと?んって顔をしちゃって。
それに来ちゃったじゃないよね?なんか星マークが語尾についてそうだよ!
「明日学校休みなんだろ?今日は家族で実家に泊まって明日一緒に帰ろう!」
「ごめんね澪…。お母さんこっちにいきなり行ったら絶対迷惑になるって思って止めたんだけど無理だったわ…」
「う、うん大丈夫…」
「じゃあ久し振りに艦家が集合したとこだしみんな家入ろっか!」
ああ…父よ…、なぜにここまで奔放でいられるのか!娘は不思議でなりません。
そして梅雨ちゃんごめん。一緒に帰られそうにないです…。
多分この状況はきっと艦家には良い事なんだと思うのだけれど、同時に父のこの様子に心配してしまう。憂鬱だ、憂鬱。
とりあえずポケットからスマホを取り出して、改札で待ってくれているであろう梅雨ちゃんに急いで電話をかけた。
「…あ、もしもし梅雨ちゃん?うん、お財布はあったんだけどその…まさかのお父さん達が来ちゃって…一緒に帰られなくなっちゃった」
電話の向こうの梅雨ちゃんは気にしてないわ、じゃあ休みあけにまた会いましょうと、言ってくれた。
…この間の体育祭の時もそうだったけれど、皆の優しさに泣けてくるね!?
***
家の中に入って茶の間へ向かうと、ひどく気まずい空気がどんよりと流れていた。父を除いて。
「いや~!この家も久し振りだな。澪も二歳振りだから、なんも覚えてないだろ」
「え、あ?…うん」
「昔はここにあった船の写真を絵本みたいに読んで喜んでたんだぞ?。そういや船のおもちゃも好きだったな!」
「泰豊」
一人盛り上がる中祖母が父の名前を呼ぶと父は青い顔でギクリと肩を跳ねさせて、ピタリと静かになった。
「その話題は確かに喋りたいのかもしれないけれど、今本当に喋りたいことは違うんでしょう?
昔っから言いたいことを言う前に関係ない話を永遠続けて盛り上がるのは変わらないのね」
「…はは、流石母さん…ごめんなさい」
「言いすぎだ母さん。泰豊もゆっくりでいいから話せ」
Oh…ギスぅ…。あそこまで凹んでる父は見たことないよ。うちのお母さんもタジタジだ。
キツい物言いの祖母にハラハラとした顔で見ると丁度目が合い、祖母はハッとした顔を浮かべて首を振った。…多分またやってしまった思ったんだろう。
「…それで、どうしたの」
父はその言葉を聞くと背筋を伸ばし、座ったまま後ろに下がると、拳を床につけるようにして頭を下げた。一同は突然の出来事に驚きゴクリと固唾を飲み込む。
「今度こそ…、和解しに来ました」
和解、と小さく叔父が呟けば全員の耳がその言葉を拾うことができて祖父母と父は叔父の方をパッと見た。
この間や先程会った時の印象は、割と普通の穏やかそうな人だったが、今叔父の方を見ればそんな印象はどこへ。
そう思わせるには十分すぎる程の冷めた顔だった。
「それ、本気で言っているのかな」
「夏芳。」
「父さんは黙ってね。母さんもだよ」
こんなにもゆったりと穏やかな声な筈なのに、有無を言わせない空気。肝が冷えていくのを感じる。
あ、だめだ胃がキリキリしてきた。一刻も早くここから去りたいけどどう考えても無理な空気だしちょっと視線だけで母の方を見れば同じように胃を抑えていた。
そうだよねお母さん。私たちこの中で言えば関係度低いものね。それでこの空気耐えろって言われてもちょっと難しいですよね。
「…本気だ。俺は今日ちゃんと皆に謝りに来たんだ。十四年前とは違う。」
「ふーん…そう。いやね、俺は別に兄さんをいじめたい訳じゃあないんだよ。ただ筋を通さなかった自分勝手な兄さんに怒ってるだけでね。それがとても許せないだけなんだ」
「言ってることはもっともだ。だから今回、ちゃんと謝りに来た。父さんと母さん。そして夏芳にも。」
「………自分が何をしたか、わかってる?」
ああ、と一言だけ言って父は黙り、やがてゆっくりと口を開いた。
「俺はこの家を棄ててしまった」
***
俺は艦家の長男として生まれた。
そう厳しい家庭ではなかったが、なんとなく「俺がこの家を継ぐ」という意識が自他ともにあった。
初めはそういうものだと当たり前に過ごしていた。
けれど、いつからだったかはわからない。大学を卒業する頃には「これが俺にやりたかったことだろうか。」
…そう考えるようになり、ある日の夜に弟との何気ないやりとりによって、俺はこの家の家業に全く興味がなかったことを痛感した。
「兄さんはいいなぁ。この家を継いでいくことができて。羨ましいよ」
「…そ、……!」
『そんなにいいものでもない』
今、何気ない夏芳の一言に告げようとした言葉だ。
そして何か心の中でずっと隠してあったものをハッと見つけてしまった気がした。
気付いてはいけないものだった。
見つけてはいけないものだった。
…それさえ見つけなければ俺はこの家を継いでいたのに。
夏芳は穏やかで、優しい。そして父の仕事が好きな自慢の弟で、俺よりも家が好きで、船が好きだ。
俺はといえばこの仕事にも船にも全く興味や愛着がなかったんだ。
そういうフリをしていただけ。結局はただレールの上を歩いていただけ。
それに気付いた途端、色付いていたように見えていた景色もなんだか褪せていってしまった。
そしてなぜ興味が無い俺が継いでこの家業を俺よりも尊敬し、俺よりも愛している弟が継げない?そんな疑問が生まれた。
…俺がいるからではないのか?
静かな部屋の外では秋の虫たちが鳴いている。その声を聴いていると無性に切ない気持ちになり、どこかへ投げやってしまいたくなった。
「…もう、なんもかんも棄ててどっか行きてぇや」
一人になった部屋で呟いた俺は後日、親に継がない、と一言言って俺はこの家を去った。
母とは大いに揉めたが、その時父はなんとなくわかっていたのか、わかったと了承してくれた。
……この時、弟の夏芳は俺を見ていたようだったが、怖くて見ることができなかった。
*
それから就職のために上京をした。そして入社できた会社が肌に合っていたのかとても楽しかった。これでよかった。
後々俺は営業先のヒーロー事務所の事務として働いていた滑美と出会い、晴れて結婚しやがて澪を授かった。
そしてこの子が二歳の年の盆に、ふと帰省してみようという気になった。
結婚した時、滑美に会うべきではないのかと強く言われたが、俺には資格がない、それに怖くて会えないといって断った。
けれど自分の子を持ってから、自分の勝手な理由でこの子に祖父母を会わせないのは悲しいことだと思い、会いに行った。
母は帰るなり「よく帰ってこられたわね」と俺の目を見ずに言い放ち、奥へと引っ込もうとした。
けれど澪と滑美の姿を見て驚いた表情をした。
「驚いたわ。奥さんも孫もいたのね」
「…うん。こっちは妻の滑美で、この子は澪。今二歳だ」
「ままぁ、だーれ?」
「ん?この人はねえ、澪のばぁばよ」
「ばぁば」
「ほら、ご挨拶しましょうね」
澪はちらりと母を見つめると、やがて視線を下げてスカートを握ったり離したりしてからピースサインをして「いくしゃぶねみお、にしゃいです」と遠慮気味に自己紹介した。
その姿
がなんともまぁ、愛らしくて。この場にいる俺たちは破顔してしまう。
「そう、澪っていうのね。ばぁばと仲良くしてくれるのかしら」
「だって。澪、仲良くできる?」
「…うん。みおね、ばぁばとなかよくできるよ。ばぁば、あそぼ!」
思わぬ展開に白黒させていると、俺は滑美と目を合わせて中へ上がることにした。
途中で父が帰ってきて大層驚かれたが、目の前に現れた可愛い孫にすっかり夢中になり、肩車をしてどこか奥の部屋へ連れて行ってしまった。
そして三人でポツリポツリと気まずい中で話をしたあと、夏芳のことも聞いて今は結婚して隣に家を建てて住んでいることを知った。
「泰豊。貴方は何をするべきか、わかってるのよね」
「……ああ」
「私はあの時のこと許していないわ。でも夏芳はもっと許せていない。私よりも先に和解すべきです」
厳しい視線と声色にわかってる、と蚊の鳴くような声でしか返せなかった。情けない。
けれどその後の俺はもっと情けなくて。
結局夏芳とは会う勇気が出ずにいたずらに時を過ごしてしまい、そのまま帰ってしまったのだ。
あの時、自分の不甲斐なさに自責の念にかられていたのをよく覚えていた。
それから十四年くらいだろうか。今日という日までこの家に踏み入ることを決心することができなかった。
***
シン、と静まった部屋。私は頭を下げている父を見てそんな過去があったのかと驚きが隠せなかった。
語られた父の過去に叔父は動じず、相変わらず覚めた視線を送っている。
「じゃあ、どうして兄さんは今日この家に来ることを決心したのかな。『なんもかんも、棄ててどっか行きてえなあ』って言ってたあの兄さんが」
「!聞いてたのか…」
「…たまたまだよ。あれを聞いたあとに兄さんが引っ越していって裏切られた気持ちになったけどね。
何が理由かは知らないけれど、“残される人”の気持ち…兄さんはわかってないでしょ。それなのに和解しようとするのは難しいと思うんだ。」
「そんなことはない!!」
父はその時顔を上げて強く畳を叩き言い返した。
…初めてだった。父がいつもの調子で怒ったり泣いたり、というのは度々見かけていたけれど、本気の怒りと悲痛さを含めた叫び声は初めて聞いたと思う。
けれど叔父はふぅん、と眉ひとつ動かすことなく信じていなさそうだった。
「何がそんなことないのかな」
「…十四年前の時はまだ俺は澪にはちゃんと俺の方の親族がいるのにも関わらず会わせないというのはかわいそうだったからという理由で家に来た。
けれどやっぱり俺は何も解決させることができずに尻尾を巻いて逃げた。とんだ臆病者過ぎて笑うよな。
でも、その後澪が四歳になって、個性が発現した時から状況が変わって、そうもいかないようになってきた。」
…私の個性が発現した時?
キョロキョロと周りを見れば全員が私の方を見た。そして祖父母はああ、という表情をしていた。
特に祖母は顕著に出ていて、それを見た私は祖母と二人で話した夜のことを思い出し、反応に合点がいった。
「この子の個性は軍艦。船だ。正直その個性を見るたびにこの家とお前を思い出して切迫感が増した。
…でも、澪が個性を使うのを嫌がってる所を見た時内心思い出さなくて済むって安心したんだ。」
叔父は父を冷たい表情で見つめていたが、私の話題になったタイミングからやや顔を曇らせるようになっていた。
「けど澪が十二歳の時だ。いつもと違うしっかりとした表情で『お父さん、私この子達を使って人を助けたい。ヒーローになる』って個性を見せて言ってきた。
最初は俺にとって都合のよくない個性を使ってヒーローになるなんてやめてほしかったし否定もしたかった。」
「…お父さん」
「けれど、この子が今までこんな生き生きとした目でこちらをしっかりと見て、自分から何かをしたいと主張したのは個性発現してから初めてだった。
この子はいい子だ。でもいつからかよそよそしくなった。何か勧めたとしても“やりたい”じゃなくて“じゃあやろうかな”しか言わなかったんだ。
澪が「やりたい」を言った時、無意識に薄々感じていたことに目を逸らしていたことに気付いて恥じた。
今までやりたいことがなくこの家から出て行った俺からしたら止める権利もない。だから雄英に行ってヒーローを目指すのも、お世話になったプロヒーローさんへの弟子入りも許した。」
だからか、と私は納得した。
おかしいと思っていた。お母さんはまだしも、どうしてこんなにも過保護なお父さんがすんなりヒーローに目指すことと弟子入りを許したのかずっと不思議だった。
「…だから、なんなんだ。話は長いし、結局兄さんは俺たちの気持ちなんてちっともわかっちゃあいない」
「ここからだ。澪が雄英に入ってから大怪我をしたんだ。このままの状態なら全治数か月と医者から言われた。
今は個性のおかげですっかり元気だけれど、病院に着いてこの子を見た時それはもう取り乱した。うちの可愛い娘になんてことをしてくれたんだ。許さないって気持ちとか、色々だ。
その時に、初めてちゃんと俺はお前の言う“残される人”の気持ちがわかった。」
「……」
父は酷く穏やかな柔らかい声だったが叔父さんと私は逆に体を固くさせた。それもそうだ。娘の死に際でその気持ちをようやっと痛感したというのだから。
私は申し訳なくなり、視線を下げてテーブルの上にあるお茶を見つめた。
それは氷を入れていたはずだけれど、すっかり溶けきってしまいテーブルの上のコップの周りには立派な湖が作られていた。
「理不尽だって、それは怒ったよ。澪にも、敵にも、学校にも。」
目が覚めた時はお母さんよりも随分落ち着いた素振りだったから気付かなかったけれど、そんなこと思ってたのか。
私は初めて聞く父の心の内にただただ驚くばかりだった。
「…こんなにも辛いもので、悲しくて、怒りが込みあげてくるんだな」
「………そうだよ…、兄さん」
「うん……うん。
だから今回、澪が職場体験でこの地区のヒーロー事務所を第一候補にするって言った時…行こうって思った。向き合わなきゃだめだと、そう思ったんだ」
―――本当に、今まですまなかった。
父は再度深々と頭を下げ、誠心誠意謝った。
「許してくれ、とは言えない。けど、またお前とは話したいと思ってる」
真っ直ぐと力強い瞳で見つめれば叔父は一度目をつむり、はぁとため息を吐いた。
「…今は無理だよ。」
今までの雰囲気とは変わり、弱々しく告げて叔父はこの場を去ろうとしたのを父は追いかけようとした。
しかしそれは祖父の手によって止められ、それは叶わなかった。
どうして、と見れば祖父はこちらを見て顎でお前が行け、というように私に命令をした。
こんなことに子供がでしゃばるものでもないだろう、と思ったのだけれど祖父が行けというんだから仕方がない。
素直に追いかければ叔父は縁側に座っていた。
…なんだろう。艦家の人たちは考え事をする時は縁側に座る癖でもあるんだろうか。
まぁでも一週間ここで暮らしていたから少しはわかる。この縁側は何か考えるのにとても適しているんだ。
叔父も例に漏れず、何か考えているような顔つきだった。
「澪ちゃん」
「叔父さん。隣良い?」
「…ん。おいで」
力なく笑う叔父の声は最初に会った時のような柔らかい声だった。この人は本当に父にそれだけ怒っていたということがよくわかる。
遠慮せず隣に座れば、申し訳なさそうに叔父は頭をかいた。
「ごめんね、澪ちゃん。叔父さんの心が狭くって」
「ううん、大丈夫。お婆ちゃんも前に言ってたもの。この問題に向き合うことが怖いって。」
「あの母さんが…?」
「うん。叔父さんと同じ。」
「………そっかぁ」
祖母も同じ気持ちだったことに安心したのか、何となく気の抜けた声。
その後にすぐ、グス、と鼻をすする音が聞こえた。
……え!?
「え、お、叔父さん?どうしたのねえ?」
「あ…いや、これはその兄さんが、また…お前と話したいと思ってるって言ってくれて…。
唯一の兄弟は兄さんしかいなかったのと、尊敬してたからあの日の言葉からずっと艦家は…俺は嫌われたと思っていたから辛かったんだ。
でも今日聞いた話だとそうでなくて……よかったなぁって…さ。そしたら今になって気が抜けて涙が…」
ああ、なんだそっか…それならよかった…。
「うん。お父さんは家族思いだから、嫌ったりしないよ。娘の私が言うんだもの。気まずいなっていうのはあったとしてもお父さんは嫌わない」
私はそういって叔父の膝をポンポンと叩けば、目をまんまるとさせて噴出した。
「な、なにさ…!?」
「いや、なんていうかもうさ…!澪ちゃんって泰豊兄さんが何か言うよりも説得力あるっていうか。不思議とそうなんだなって納得させられちゃうなって思って」
「それは…どうも…」
何か雰囲気が雰囲気だけに、褒められてるのかもしれないけれどなんだかバカにされている気がしないでもない。
ひとしきり笑った叔父はふっといい表情をさせて瞳を更に柔らかくさせた。
「兄さんと同じ温かさだ。…でもダメだよ。キミのお父さんみたく“置いて行く人”になっちゃ」
「………うん」
素直に返事をしたけれど、心の内では敵襲撃の時と、初春のことを思い出した。
敵襲撃の時はなんとか無事に済んだけれど、前世では初春(あの子)たちを置いて行ってしまったんだよな、と思った。
でも同時に、初春と再会をした時あの日のようなことは二度と繰り返さないこと。初春たちの艤装を借りて共に生きると誓ったことも思い出す。
「…もう、ならないよ。」
そう静かに返せば叔父はそうか、と吹いた風を気持ちよさそうに受けていた。
「ゆっくりだけど、元に戻っていくといいね」
「…そうだね」
***
叔父はそのまま縁側に残り、私だけ部屋に戻れば、何やら祖母と父が喋り終わった後だったのか、祖母が泣いていた。
「…何だろう、このデジャヴな感じ」
何はともあれこっちはこっちで解決の方向に向かっているようで安心した。
慰めていた父と目が合えば、私の名前を読んで駆け寄ろうとした。
それに私も駆け寄り珍しく私からお父さんに抱き着けば、驚きの声を上げながらも私を受け止めてくれた。
「お父さん」
「澪?」
「お父さん。大けがした時、心配かけてごめんね。でも私、死ぬつもりないから…大丈夫だよ。置いて行く人にはもう、ならない」
「……澪」
お父さんは私の名前を呟くと、ひしと掻き抱き、離さなかった。
そしてお母さんも私を後ろから抱きしめて、穏やかに私に告げた。
「私たちは澪の親なんだから。澪が怪我をして心配しない訳ないんだからね。」
「うん。」
穏やかな空気が流れる中、目元を赤くさせた祖母が仕切り、その日の夕飯を準備して大いに飲んで食べることにした。
―そして次の日。
「それじゃあまたな、父さん母さん」
「お世話になりました、お義母さん」
「いいのよ。楽しかったわ。…年末は来るの?」
「うん。そのつもり」
「今年の年末年始は艦家で年を越して、年明けてから私の方の実家に挨拶しに行こうかと思ってます」
「そうか。婆さんがたらふくご馳走用意してるから滑美さんも楽しみにするといい」
「何私一人で準備する流れになってるんですか。アナタも手伝うのよ、お爺さん」
「ぐぬぅ!」
「澪ちゃん。実はうち、澪ちゃんより二つ年下の息子がいるんだ。よかったら年末の時相手してね」
「え!本当?楽しみにしてるね」
「え、澪!?従弟は結婚できるからあんまり仲良くしたらだめだからね!?」
「兄さん、何を馬鹿なことをいっているんだい」
「パパ、あんまり恥ずかしいところ見せないで…」
私たちはそんな軽口を叩いて、そして家へと帰っていった。
昼の太陽が私たちの影を色濃く落とす。影は三つ。
一体いつ振りだろうか。珍しくその影の間は、繋がっていた。
さぁ、日常へ戻ろう。