④職場体験
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五日目の朝。私は五時に起きて茶の間に行くと、祖父母はすでに起きていて、それぞれ新聞を読んだり朝食を出しているところだった。
「おはよ。二人とも早いね」
「おはよう。俺はこれから仕事があるからな。」
「そうなんだ…あれ?お爺ちゃんってもう定年過ぎてそうだけれど、まだ現役なの?」
何気なく投げた疑問に目をぱちくりとした祖父。やがてああそうかと思い出したように説明し始めてくれた。
「一応
「喝を…」
「ただのお節介よ。
「そんなこたぁない」
「あります」
まぁまぁ、と二人の口喧嘩を止めて顔を洗いに行きなさいと促され、大人しく私は洗面所へと向かい、適当に身支度を整えて祖母のご飯を食べる。
地味に一番おいしいのが味噌汁だ。ダシが効いてて美味しすぎる…。
お母さんの作るものも好きだけれど、この味は沁みる…。
「ご馳走様でした。」
「お粗末様でした。もう行くの?」
「うん。今日も遅くなりそうだったらメールで連絡するね。」
「わかったわ。」
身支度を整えて「行ってきます」というと「いってらっしゃい」と二人に言われた。
前世だと私がよく出撃や遠征に行く艦娘たちに“いってらっしゃい”と“おかえり”を言っていたけれど、ここへ生まれてきてからは言われる側になっていった。
「いってらっしゃいとおかえり…言われると嬉しいね」
誰かに聞かれたら恥ずかしいので履いた靴を調節する体でつま先をトントンと鳴らしながら私は呟いた。
さ、今日も元気に職業体験だ!ヨーソロー!…なんてね。
***
「フロッピー、フリート!そっちはどう?」
沖マリナーを掃除しているとシリウスさんが様子を見にきてくれた。相変わらず綺麗な人だ。
そういえば船長から少しシリウスさんと似ているって言われたけれど、こんな美人と似ているって言われるのはシリウスさんに申し訳ない。
いかんせんあの悪口の王者爆豪くんに“ちんちくりん”と言われてしまったのだから。
…最近だと大食い女だったけれど。
「甲板掃除終わったわ、シリウスさん」
「すっかり綺麗になりましたよー!」
それを聞くとシリウスさんは笑顔でジュースを3本見せて「ちょっと休憩しましょ!」と誘われ、私たちは座って一息つくことにした。
「毎日訓練や船の掃除ばかりで退屈でしょう?
「ええ、少し」
「水難系をメインに活動したいと思ってる私たちからしたらありがたい環境ですけど…」
ね、とフロッピーと顔を合わせて頷く仕草を見れば、シリウスさんはその光景に少し笑って昔の自分を思い出すように空を見上げる。
雲はゆったりと風に吹かれ、太陽をたまに隠しては、西へと流れていく。
「私が職場体験した時もおんなじ。子供の頃に思い描いていたヒーロー像と現実のギャップに戸惑ったわ。
もっと華やかなものを想像してたのに、実際は訓練とパトロールと掃除の日々。しかも船長のパンツの洗濯までやらされて、これのどこがヒーロなのよ!って」
「ケロ…嫌になった?」
「最初はね。でも船長のサイドキックしていてわかったの。ヒーローにとって本当に大切なものが何かを」
「ヒーローにとって…」
「大切なもの…?」
首を傾げながらそれは何…?と素直に聞いた梅雨ちゃんとハテナを浮かべている私ににっこりと笑ったシリウスさん。
「そこは自分で答えを見つけなきゃ!でしょ?」
「ケロ」
ヒーローにとって大切なもの。消さんからは訓練ばかりで特に教えられることもなかったな、と思い出す。
そして最初の頃はよく体を持ち上げられてぶん投げられたものだと余計なことまで思い出した。
「おいフロッピーとフリート!何遊んでやがる!カエルと軍艦だからって油売ってんじゃねぇぞ。シリウスも監督係に任命したんだ。ちゃんと面倒見やがれ!」
「掃除は終わってるわ、船長」
「しっかり掃除しました!」
「私だってちゃんと監督してます!」
監督されてます!と私も加勢するとシリウスさんは私と梅雨ちゃ…フロッピーの肩を抱いて「ねっ」といえ空気で船長を見た。
それを見た船長は怖い顔から一転。
「おぉ…そうかぁ」と頭を抑え、早とちりをしたとすぐに「ごめんね!」とかわいいポーズで謝ってくれた。
ああっ!?
手を前にしてあざといポーズを決めた船長かわいい!かわいいよ!
…なんて思ってたらフロッピーも同じことを考えていたみたいで、彼女とはこっそりと固い握手をした。
熱い握手を済ませるとガハハハハハ!と男気溢れる感じに笑う、我らが船長。
「可愛すぎて声出ねえか!」
「呆れてるんです!いつも言ってますけど、顔だけ可愛くしてもダメです!首から下がマッチョなんですから!……顔もいかついけど…!」
「なんだとぉ!こいつを子供にやるとバカ受けなんだぞぉ!?」
「それ!単純にバカにされてるんですよ!全然可愛くないですからっ」
船長はプリプリと怒ったけれど、シリウスさんの衝撃の言葉になん…だと、という感じの反応をし、後に首を曲げてまたぶりっこポーズをしながら「えー」って言う船長。
「かっわいい…」
「澪ちゃん、声に出てるわ」
「おっと失礼…」
ホント…ヒーローなのに可愛さがフルスロットルじゃあないか…!
まったりと茶番の空気な中、他のサイドキックが海上保安庁からの連絡が来たと報告し、船長がすぐに行くと大声で返事した。
「フロッピー、フリート。ロープを外すの手伝って。おそらく出航よ」
「ケロ」
「はい」
船長が海保と連絡をとっている間、私たちはロープを外して足場をゆっくりと気を付けながらあげる。
そしてロープ外したのを報告すると船長はよし、と一つ頷いて「野郎ども!緊急出航だ!」と号令をかけた。
「「「アイアイサー!」」」
「出力最大!」
「よぉし!沖マリナー出航!」
ゴゥン、と音を立てて出航した沖マリナー。
あ、そうだ。これ多分家の人にメール送っておかなきゃいけないな。
スマホは持っててオーケーなので祖母へ簡潔にメールを打って送っておいた。
『お婆ちゃんへ。今日は遅くなりそうですなので、ご飯は一緒に食べられないです』
「…よし。」
「フリート、お家に連絡したの?」
「はい。メールで簡単に」
「その方がいいわね。こう言う時の依頼って帰って来る時間も何時になるかわからないから」
「ですね。もう少しで夕方になりそうですし」
そして夕日がゆらゆら海の底へと沈む頃、皆は船長の元に集まると船長は一つ頷き密航者の情報を話し始めた。
「密航者、ですか」
「貿易船ナイサン号に密航者が乗り込んでるっつータレこみが海上保安庁にあった。保安庁はナイサン号を検閲したが密航者の姿はどこにもない。
だがよくよく調べたところ、船の貨物リストから一部の積荷が無くなっていたそうだ。これがどういうことか、わかるかフロッピー。」
「ケロ、海上保安庁が来る前に密航者達は積荷を別の船に移し替えて逃げたんだと思うわ。密航者はもしかしたら密輸ブローカーなのかも」
「ううん…正解!」
場を和まそうとしたのか、はたまた梅雨ちゃんが全て言い当ててしまって言うことがなかったのか。
それはわからないけれどとにかくきゃぴ!っとする船長。
サイドキックたちは可愛くないとでも言うようにうんざりした顔をしていた。…私たちは可愛いと思うんだけどなぁ?ね、梅雨ちゃん。
「今回俺たちが受けた依頼は!小型船で逃げたと推察される密航者たちを確保し、保安庁に引き渡すことだ!」
トントン、と机のモニターをいくつか叩き、地図を抽出させる。
…度々この世界の“当たり前”を見て感心することがある。主に映像技術が発達していて本当にすごい。
私のいた世界でもこんな感じだったらなあ、と思うことが度々あったりして少し羨ましくなるよね。
「ナイサン号の位置からしてこの辺りが小型船の上陸予定海域だ。保安庁や他の海難ヒーローの船も捜索にあたっている。俺たちが担当する海域はここだ。
間も無く日が暮れる。お前らはレーダーを使って小型船を捜索しろ。俺は海中から奴らを探す。フリート、お前は空に何機か飛ばしてくれ。以上だ。さぁ、作業にかかれ野郎ども!」
「「「アイアイサー!」」」
セルキー船長が海へ飛び込むのを確認し、見事な泳ぎにおお…とひとつ声を漏らす。
船長は海難ヒーローセルキー、個性はゴマフアザラシ。
ゴマフアザラシにできることなら大抵でき、海中で口からソナーのように音を出し、その反響で相手の位置を特定することだってできる!腕っ節も強い!
そ し て 可 愛 い!!
「…はっ、私は何のナレーションを…?!」
「フリート?」
「あ、ううん、何でもないよフロッピー。」
いかんいかんと顔を振って
──…それから太陽は沈み、すっかり夜となってしまった。
灯りは周囲を最低限照らすライトと、ビーム状に強い光を照らす探照灯のみで、あとは全てを飲み込まんとする暗闇がただただ広がるだけだった。
そして船がざざざと波をかき分ける音に少しの不気味さを感じる中、私たちは双眼鏡で目標を探していた。
「流石にこの暗さじゃ何も見えないわ。レーダーやフリートの偵察機もまだキャッチできないみたいだし。」
「でも飛ばした夜偵からは定期的に連絡来てるんだよね。ただ上手く見つからないみたいで…」
「大丈夫!私たちには船長がいるんだから!」
「海上保安庁から連絡!密航者のものと思われる漁船が追跡していたヒーロー事務所の
その情報を聞いて緊張が一気に高まるのを感じる。
「ケロ…」
「…早めに捕まえられるといいね。」
そんな会話をした直後、夜偵から連絡が入り、位置情報が入った。
それを伝えようとした時、海が大きく盛り上がり、何事かと思えばセルキー船長が帰ってきた。
「密航者が乗っていると思われる漁船の位置を確認した!フリート、お前の偵察機も見たから情報入ってるな?」
「はい。そのまま北北西に進んだ先です。」
「そうだ。野郎ども!明かりを消して相手に気付かれないように近付くぞ!」
「「「アイアイサー!」」」
程なく夜偵も戻ってきて、燃料を節約するため個性を解除した。お疲れ様。
「船長!
「よし、巡視艇で進路を塞ぎ、照明弾発射と同時に奴らの船に乗り込む!」
「アイアイサー!」
船長に「私たちは」と聞けば船長は「お前はこの船へ残り、シリウスもここにいてこいつらと一緒にいてやれ」と私たちに命令をした。
「はい!」
「えっ?そんな…!」
「それじゃ職場体験にならないわ…!」
「いいから黙って俺のいうことを聞け!いくぞ!」
強い口調に驚き、目を瞑って肩をすくめると、船長とサイドキックたちは足早に現場へと向かって行ってしまった。
「行っちゃった…」
「ケロ…」
「フロッピーとフリートの現場に行きたいって気持ち、よくわかるわ。でもね、相手が密航者といっても細心の注意を払わなきゃいけないでしょ?
だから船長の指示に従って。一緒にサポートしましょう!」
「ケロ」
「はい…」
納得はできる。けれどやはり何も出来ないというのは自分がまだ未熟者であり、役に立たないのだという現実を突きつけられたように思えてとても悔しかった。
「船長!漁船の進行方向に着きやした!」
『よし、あとはこっちに任せろぉ』
照明弾を打ち上げる音が聞こえる。ピーーーンと耳鳴りのような音が響き渡り、辺りを照らす。
そこには
「…何か、検閲するにしては戻るの遅くないですか?」
「そうね…いつもより遅いわ」
「船長!船長応答してください!駄目だ、無線が通じねぇ。向こうに行ってくる!」
待って!と飛び出して行こうとする仲間を止めてシリウスさんは自分の耳に集中させた。
――シリウスさんの個性はグッドイヤー。人間には聞こえない高周波を聞き取ることができるらしい。
皆は黙って船長がだしているであろう信号を聞くシリウスさんを待った。
「密航者…別の船…!こっちはいい。見つけ出せ。…ニック!船を出して!」
「おう!」
「あの漁船が囮だとすれば、密航者は岸へと向かってるはず!急いで!」
「わかってるって!」
「船長たちを助けなくていいの…!?」
「私だけでも船長を助けに行きます!」
「ううん、私たちは船長の指示に従うの。船長が決めたことが最善と信じているから二人とも信じて。船長を…私たちを…!
「ケロ…!」
「シリウスさん…」
真っ直ぐな瞳で私たちを見る。本当はシリウスさんも助けたいはずだ。それでも彼女は船長を信じて最善の行動をしている。
私はきゅっと口を結んで力強く頷くと、シリウスさんも柔らかい表情で頷いてくれた。
***
夜偵には空高く飛ぶように偵察をさせて岸へ向かうルートから密航者が二ツ岩の影に隠れているのを見つけて貰い、私たちが近くなったところで夜偵を回収した。
「…見えた!まだ二つ岩の陰に隠れてるな」
「くっそぉ…あんなところに…」
「エンジンを切ってクルーザーの死角へ!」
「おう!」
「フロッピーとフリートも手伝って!」
「ケロ!」
「はい!」
船を止めて二ツ岩に降りた私たちは、そちらから密航者の船に乗り移ろうとした。
しかし見張りがいることに気づいた私たちは渋い顔をした。
「フロッピー、あいつをこっちに連れて来られる?
「任せて」
フロッピーは長い舌を駆使してこちらに気付いていない見張りをいとも容易く捕まえ、あっという間に私たちの方へ引き寄せることに成功した。
「ななななにぃ?っ!?あんたっ…!」
「質問に答えてくれれば、手荒なマネはしない。」
私は見張りに主砲が見えるように持ち上げて、シリウスさんの後ろでちらつかせるように見せると、見張りは青ざめて情報を吐き出してくれた。
「…いくわ!」
「お願い。」
「じゃあ、私はここで何かあった時のために待機して支援体制を整えます」
「よろしく!」
フロッピーの舌でするりと皆でクルーザーへ降りていくのを見守ると、肉眼からはその船には誰もいないのではないかと勘違いするほどとても静かだった。
「いつもならこういう場面では艦載機を飛ばすけれど、この距離だとちょっとな…」
さすがにバレるし、今回の敵は一人だけで人数はこちらが多い。仲間を巻き込む訳にはいかないのでこのまま軽巡の装備で行こう。
大きな音と共に密航者はフロッピー達に襲い掛かり、シリウスさんは捕まってしまい、動けないようだった。
ここで支援するべきか、と思ったがシリウスさんが捕まっている状態では砲撃の支援はできなかった。
それなら…と二ツ岩の向かい側、離れた所に狙いを定め、一度主砲を打ち込もうとした。
しかしズクリと私の腑の辺りが掬われるような感覚が私を襲い、「おいで」と誘われているようで、また少しのズレを生みそうな気がした。
「…ッ」
艦載機を使った時は特に感じなかったのに、主砲を撃つ時が一番恐怖に感じる。…でも、今はそんなことを気にしている場合じゃない。
怖くてもいい。受け入れろその恐怖。いいんだ、怖くて。
「それよりも私は…無力なまま仲間を救えないことの何百倍も辛いって知ってる!!」
生きてさえいりゃいいんだ!
恐怖を受け入れた先で私がどうなるのかはわからない。それでも私は生きて人々を助けなければならなかった。
…それが初春たち艦娘との約束だったから。
大きな砲撃音に二ツ岩は反射を繰り返し、どこから音が鳴っているのかわからない。
その隙にフロッピーは私にも聞こえる大きな声でシリウスさんの通信機に二ツ岩に密航者がいることを知らせ、私は追い打ちをかけるように照明弾を撃ち上げてセルキー船長たちに居場所を知らせるべく辺りを光らせた。
「ああ、よく見える。これなら敵をよく狙えるよ」
ドンッと大きな音を出してもう一発。今度は船が沈まない位置を狙って撃てば照明弾の効果もあり、流石に居場所がバレたのかその敵は長い触手で襲い掛かり、私の胴体に触手を巻き付くと、海へと勢いよく投げ出し、フロッピーの方へと向かって追い詰めた。
「やば、さすがにこのまんま海に投げられたら艤装の重みで沈む…!」
でも前回の雄英が襲われた時みたいに、大人しく沈んでやらない。
「――潜水艦
軽巡の装備であった両腕の艤装と腰の魚雷が解除され、入れ替わるように背中にリュック式の艤装を背負う形になった。
そして手をまっすぐ伸ばして海に打ち付けられるのではなく、飛び込みのように海へと入っていった。
「(ごめんフロッピー…!もう少し粘って!)」
体制を整えて船を攻撃する覚悟を決めて魚雷の発射する準備をすれば、後ろからチ、チ、と凄まじいスピードと共に聞こえてきた。
「!(…三十秒後に船じゃなくて右の岩に向かって撃て…?)」
モールス信号で来た指示を聞き、通り過ぎていった船長と捕まっていたイカ敵たちを見送る。
そして船長の言うことを信じて三十秒後に撃てば、二人のイカ敵が丁度落ちてきて吹っ飛んでいき、丁度タコの敵を殴って吹っ飛んだ先にイカ敵たちが丁度巻き込まれる形で勢いよく吹っ飛ぶのを見送ることとなった。
「すごいわ船長…!」
「フロッピー!」
「ケロ、」
「大丈夫?怪我は?」
「大丈夫よ、シリウスさんは?」
「体だけは丈夫なの…」
へとへとだろうに、フロッピーを安心させるべくほほ笑んだであろうシリウスさんとフロッピーの会話を聞いてから陸に上がると、丁度敵に投げられる時に脱げたであろうコスチュームの帽子が落ちていたのを見つけた。
こんなとこに落ちてたのか。海に落ちてなくてよかった。流されてたら探しに行かなきゃだったよ。
髪に含まれた水分を軽く落としてから被り、コスチュームに含んだ水分も絞って落としていく。撥水性はいいけど結局中は普通の下着だし、今回みたいに潜水艦に換装した時、ちょっと後が面倒だし何よりも気持ちが悪い。ちょっとインナー的なもの、改善しなきゃかもしれない。
「フリート!敵に海へ投げ込まれたけど大丈夫だった!?」
「はい、ギリギリで潜水艦に換装して飛び込むように落ちることが出来たのでなんとか」
「よかったぁ…」
「ケロ…フリート、さっきはありがとう。貴方の支援のおかげでシリウスさんを助ける隙ができたわ」
「…ほんと?」
「ええ、本当よ」
二人から両肩をポンとたたかれて、そこでようやっと気が抜けた気がした。
「よ…かった…支援だったけど、力になれて」
「ああ。本当によくやってくれたお前たち。おかげで密航者を捕まえられた。
「ぬぅ…」
「「船長…!」」
雄英が襲撃された時よりも怖さはない筈なのに、目の前で仲間がピンチ、というのはいつだって恐ろしい。
「大丈夫?ちょっと泣きそうになってるわ」
「…うん、ありがとうフロッピー」
もう。フロッピーは察しが良すぎるんだから。両目をこすってから目をグッと開いて安心してでそうになった涙を我慢をした。
…どっちが大人なんだかわかりゃしない!
そして船長はまた場を和ませるためか、誠心誠意感謝の気持ちを込めてか、「ありがとね!」とまたあのかわいいポーズをしてくれた。
「今それやるかあ…!」
「ふふ、おかげさまでちょっとホッとして落ち着きましたよ」
「そうだろうそうだろう。」
「はい」
「ええー…」
ふふんと得意げなセルキー船長と不満げなシリウスさん。
「シリウスさん、私この職場体験に来られてよかった。
「え?」
「ヒーローにとって本当に大切なものが何か。少しだけわかった気がするわ!」
「私も。それと、今回しっかりと感じた怖さをちゃんと糧にしてヒーローを目指していきたい。」
その言葉に一瞬ぽかんとしたフロッピーだが、やがて私があの時の記憶がほとんどない事を思い出したのか、そうねと言ってケロリと鳴いた。
「そっかぁ…!」
心底ホッとした顔をしたシリウスさんを見たところで、やがて曙の色が静かに朝を告げるべく東の空を染めていく。
ああ、朝か。流石に眠くてふわぁと欠伸をすると、事務所の方に向かうまでの間寝ていていいといわれ、その言葉に甘えて少しの間だけ私とフロッピーは肩を寄せ合い眠りについた。
***
「密航者は全員逮捕。奴らが運び込もうとしていた積荷の違法ドラッグも、無事回収できたよところでセルキー。いつ新しいサイドキックを雇ったんだい?」
「へ?」
「ケロ?」
「雄英生だよ。職場体験でな」
「そうだったのか。怖い思いをさせてしまったね。すまない」
「おいおい。子供扱いするなよ。フロッピーとフリートは免許こそないが、もう立派なヒーローだ。この俺が保証する。」
「うんうん。」
「なら、一緒に仕事が出来る日がくることを、楽しみにしているよ。フロッピー、フリート」
「ケロケロ!」
「はい!」
私たちは敬礼をして海保の方と別れ、事務所へ戻り、一時解散をした。
現在は朝の七時。流石に寝ないとまずいので、皆一度寝てから船の点検整備と掃除、モロモロ今回の事件の最低限の雑務をしようとなり、夕方の四時くらいに再集合することになった。
***
「ただいまー…」
「おかえり澪。お疲れさま」
家に帰ると祖父はすでに仕事へ行っているのか、玄関で迎えてくれたのは祖母だけだった。
まぁ…祖母にしかこれから帰るよーっていうメールは送ってないのだけれど。
「お婆ちゃん、驚かないんだ」
「まさか。せめて夜の十時くらいかしらと勝手に思ってたから想像以上に遅くて驚いてるわ。朝帰りになるとは思ってなかった」
「私も…」
「と、いうか海に落ちたの?ずいぶん海臭いしズブ濡れだわ。ちょっと待ってて。タオルと洗濯カゴ持ってくるから。」
「はーい」
祖母が戻ってくるのを玄関でそのまま立って待っていると、ガラリと玄関ドアの引き戸が開いた。
「母さんいるー?父さんがいつもの鞄忘れたって…」
「…へ?」
「あ、お客さんですか?」
え、ええっと?
この人誰だ…?いや、でもこの顔どこかで…
「ああ、
「ん。ありがと」
男性こと、夏芳さんは鞄を持つとさっさと出て行ってしまった。
「あれが泰豊の弟、夏芳よ」
泰豊の…お父さんの…弟…?
「え?!あれが叔父さん!?」
「そうよ。今年で三十八歳」
えっ思ったよりお父さんと年近かった。でも…でも…。
「顔つきめっちゃ若くない!?」
「貴女、よく仲良しの人にバカって言われてるでしょう」
「え?」
何で知ってるんだお婆ちゃん。よく消さんには馬鹿弟子呼ばわりされてたよ。まぁ大体私がばかやった時だけど。
あ、呆れた目で見ないで。お願いだから。
「とりあえず今ここで脱げそうなものは脱いでさっさとお風呂行きなさい。体冷え切ってるからさっさと温まってご飯食べて寝なさい」
「はーい」
私は大人しくさっさと風呂に入って、暖かいご飯を食べて眠りについた。