①幼少期~雄英受験
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あれから私は12歳になるまで、ほとんど個性を発動していない。
とてもじゃないが私の個性は前の世界と関係がありすぎて耐えられなかった。
生前吸っていた煙草もすっかり忘れており、以前はストレスや何やら負の感情で吸い始めてそれからやめられなくなっていたクチだ。
個性の方は発動しなければそんなにストレスはたまらなかった。
けれど少しずつ、着実に溜まっていく案件が一つあった。
『この世界が偽物に見える』
これは私をとても悩ませるもので、遂に私は父のタバコケースから1本くすね、夕方につっかけを履いて適当な人気のない公園で吸った。
「あー、どうしようかね。
全部ニセモンに見えるのは困った困った」
肺には特に煙は入れず、ふかしているだけだった。
勿体無いとよく言わる吸い方だが、この体の肺をまだ真っ黒にするわけにはいかんのだよ。
蒸すだけでもストレス値はだいぶ違う。でも、タバコ吸ってると昔のことを思い出して涙が出そうだった。
「おい」
「んぁ?」
呼ばれた声の方をみると、黒い男が一人、ぼうっと立っていた。
驚きの声をあげたかったが本気でビビると人間声が出ないものだ。
「子供がタバコを吸うな」
「…私?」
コクリと静かに頷く男。
真っ黒な服と真っ黒な長い髪。
このまま放っておけばいずれこの闇と溶け込むんだろうと感じる。
と、同時に。
「(いきなり小汚いおっさんに絡まれた!)」
そう思って思い切り顔をそらしてしまった。
おそらく私の中身の年齢は今生の年月も足せば三十路越えである。
少し年下っぽい男性がこんな私におっさんと思われてしまうのは些(いささ)か可哀想だし、いやでもマジで小汚い。髪をせめてまとめろ。
「聞いてるのか」
「あ、ご、ごめんなさい。はは。若気の至りみたいなもので吸ってみたかったんです、はは。」
「よこせ。」
パッと奪われてその男が私の吸っていたタバコを軽く吸うと、顔をしかめてすぐに火を消した。
「ガキが吸うようなタバコじゃねえな」
「まぁ…父のをくすねて蒸していただけなんで。」
というかなんで今吸ったんだ。いきなりだし怖いよこの人。
「中学生か?」
「ん…まぁ」
嘘だけど。まだ中学生にもなっておりません。
しかもなんか隣に座りだした。え?長居するの?
「おじさ………お兄さんは警察の人かなんか?」
「警察じゃあないな」
「ふーん。じゃあヒーロー?なんてね」
「そうだ」
「…マジ?」
「マジだ」
…嘘でしょ?
なんでこんな小汚いおっさんがヒーローなんだ?
何か昔はもう少し小綺麗だったものの、とある事件から…みたいなバックボーンでもあるのか?
「想像に任せるよ」
「え?聞いてた?」
「割とガッツリとな」
「そっかぁ…ごめんね。想像力を働かせてしまった。」
それからお互い無言になると、居心地が少し悪く感じる。
いつ帰るんだこの人?あ、ていうか私が帰ればいいのかと思い直し立ち上がろうとした。
その時、男は口を開いた。
「ニセモンってなんだ」
立ち上がろうとした足はその一言により鉛のごとく重くなる。
誰もいないからこそ吐き出せる独り言を聞かれてしまったのか。
私はその場から立ち上がることが出来なくなった。
「…興味あんの?お兄さん私とは何も関係ないのにさ。他人の面倒なことに首突っ込むの嫌いそうじゃん」
「そうだな。話したくなければ話さなくていい。あと首突っ込むのは合理的じゃないからあまりやらないな」
「あまり…ねぇ」
今あまりやらないことをやられているのね。
………まぁ、どうせこの人はもう私の人生に関わってこない可能性が高いし話してもいいか。
家族だから言えない。他人だと吐き出せるというものもあるし。
「…いや、さ。変な話なんだけれど、ヒーローさんは生まれ変わり…転生みたいなものって信じる?」
ふむ、と考えるそぶりをしてからやがて男は口を開いてそういう個性なのか?と聞き返す。
「違うよ。個性とか関係ない。
元々私は個性が発現するまで記憶が新しい状態でなんら変わらないただの子供だったの。」
「だった…か」
「そう。私は発現したきっかけで前世の人格やら記憶を取り戻した。
それからよ。前の世界とのギャップが激しくてここがどこか偽物…まるで自分がテレビをつけてアニメとか映画見てるみたいな俯瞰したようなに見えてしまうようになったのは」
変だよね、と涙が出そうになってしまったので沈んで行く空を眺めながらいうもそれに対しての返答はなかった。
「まぁ、そんな感じでこれをずーっと家族には話せないし、周りの人はみんな普通に子供だから話せるわけなくて。
溜まってたストレスを抜きにタバコ吸ってたわけ。どう?吸ってた理由も込みで納得してくれた?」
「吸っていい理由にはならないがな」
「抜け目がない人だね、お兄さん」
くすくすと笑ってると男はこちらをチラリと見て目を伏せてしまった。
「…お前には夢とかあるのか」
「いや、別に。前世は後悔ばかりだったから夢とか先の楽しみとかは作らないことにした」
「後悔?」
「…前世でちょっとね。あんまり話したくない。
その後悔もあって、前世に深く関わってるこの個性を使いたくないの。
過去を思い出したきっかけでもあるし。」
「何の個性なんだ?」
「…軍艦」
「そうか。なら海だな。」
「うん…?」
そうだけど、だから何だというのだ。
「明日の朝海浜前に来い。」
「は?」
「わかったらさっさと立て。お前を送る。最近この辺物騒らしいからな」
急になんだ?と思ったら脇に手を入れられて持ち上げられた。そのまま立たされて腕を引っ張られる。え?何?どういうことなの!?
「ってかそっち家じゃないよお兄さん!!」
「なら案内しろ。送るから」
「え」
ホント何なんだ一体!変なおっさんだなァ!?