④職場体験
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職場体験当日
「コスチューム持ったな。本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ」
「はーい!!」
「伸ばすな、『はい』だ芦戸。くれぐれも失礼のないように!じゃあ行け」
パッとみんなは職場体験先にいく電車に乗りに散り散りとなった。
そこで梅雨ちゃんに寄ると、彼女はケロ、と一つ鳴いて手を振ってくれた。
「梅雨ちゃんもセルキーさんのところの事務所だよね?よろしくね」
「ええ、そうよ。澪ちゃんもそうみたいね。一緒に向かいましょう」
「うん。」
新幹線に乗った私達は、目的地に着くまで随分時間がかかるため、車内で駅弁を食べたり飲んだりしてのんびりとしていた。
「ねぇ澪ちゃん、セルキー事務所の近くにお父さんのご実家があるって聞いたけれど、本当なの?」
「うん、そうみたい。こないだ私が連絡したら宿舎とは5分くらいの距離に実家があるみたいで。
こないだの敵襲撃の事もあって、お父さんからの条件で日をまたぐようなお仕事以外はそこからなるべく通ってくれって言われちゃって。」
個別で職員室に行って希望用紙を提出する際相談し、消さんに可能かどうか聞けば、少し悩んだ顔をしていた。
そして「まぁ、仕方ねえか。そこの事務所に可能か聞いておく。無理だったら諦めて宿舎に泊まってくれ。通った際はこちらから連絡しておく」と希望用紙を受け取ったのは、記憶に新しい。
「ケロ…でも仕方ないわ。澪ちゃんのお父さん相当気を揉んだでしょうから相澤先生もすぐ却下はできないと思ったんでしょうね」
「ね。相澤先生ってその辺しっかりしてると思う。
それにお父さん的に本当は行かせたくなかったと思う。まぁ、これは本人が私と離れるのが嫌っていうのがほとんどなんだけど」
「ケロ。愛されてるのね、澪ちゃん」
「ね。ちょっとそれでややこしくなる時もあるけど、そう思う」
何はともあれ先方からは許可がもらえたし、お父さんも付いてこなかったのでいい形で収まってくれたと思う。
次の目的地のアナウンスが入り、私達はサッと降りて、無事に目的の事務所へと着くことができた。
「緊張するね…ここがプロヒーローが活躍してる事務所…!って、船?」
「ええ、船ね」
「誰かいるの?」
ひょこ、と甲板に出てきたのは女性で、セーラー服の水色の髪の毛で、耳には魚のヒレのような機械をつけていた。
めちゃくちゃ美人だ…と少なからず狼狽えて梅雨ちゃんを見れば、梅雨ちゃんもこちらを見た。多分梅雨ちゃんはこの人は?といいくらいの認識で見たんだろう。バカでごめんね梅雨ちゃん。
「雄英高校から来ました、ヒーロー科一年、艦澪ことフリートであります。本日から一週間、よろしくお願いいたします!」
「同じくヒーロー科一年、蛙吹梅雨ことフロッピーです。よろしくお願いします、ケロ。」
「ああ!貴方達が連絡きていた雄英高校の生徒さん!私はシリウス。このセルキー事務所で相棒やってるわ。
今船長を呼んでくるからちょっと待ってて!」
「「はい!」」
ドキドキするね、と二人で小声で話して待っていると、それは現れた。
大きな大きな……
「アザラシ……だ…!」
「ゴマフな!お前達が雄英の一年か。なんつうか、ちっさいな!」
腰を折って私たちの目線に合わせて話してくれるのは海難ヒーローセルキー。195cmとかなり大きい。消さんも大きいけどあの人より10センチ以上身長あるよ。
ホームページで写真を見ていたから本物なのだとわかるが、やっぱりデカいし威圧がすごい。
私たちはヒーロー名を言って自己紹介を簡単に済ませた。
「もう!船長が大きすぎるだけですよ!」
「んじゃまぁ〜お決まりのアレいっとくか!」
セルキーさんはそういうと、大きな手をグーにして顎の下に持っていくと、キャピッとしながら「これからよろしくネ!」とアピールしてくれた。
その時私の体に電撃が走る。
「あ、あの…」
「ん?なんだ?」
「セルキーさんの海でのご活躍は知っていましたが、今のポーズを見てめちゃくちゃファンになりました」
握手と後で時間外の時にサインもお願いします、とおねだりすればセルキーさんは「いいぞ!」と快く握手してくれたし後でサインをくれることも約束してくれた。
ええ!?ってシリウスさんが驚いているけれど、私はセルキーさんを推す。
別にギャングオルカさんが推しじゃなくなった訳ではない。ただ単純に推しが増えただけだ。
「ケロ。澪ちゃんは海洋生物型のヒーローが好きなの?」
「え?」
意識したことなかった…でも、もしかしたらそうなのかもしれない。
人間の姿してるヒーローもそりゃかっこいいとは思うけれど推しって程でもないし…。
「無意識の可能性あるけど、そうなのかも」
「よし。先に監督係になるシリウスと船長の俺との顔合わせも終えたところでお前達には今後のために実際ヒーロー事務所がどのよう活動し、お給金をもらって成り立っているのか、諸々を最初に話そう。他の相棒達との顔合わせはとりあえず後だ。」
その後に訓練だ!わかったな!と言われれば前世で染み付いてたのか、私は無意識のうちに足を揃えて海上式の肘を引いた敬礼をして「アイアイサー!」と返してしまった。
これにはその場にいる皆が少し驚いていた…気がする。
し、しまった…ついつい昔の馴染みでやってしまった!ちょっとこっち見ないで恥ずかしい!
「その敬礼と返事の仕方…あ!そうか、お前艦の爺さんの孫娘か!?」
「は、はい、そうです」
「そーかそーか。今朝こっちに来てな、よろしく頼むって言われてんだ。ビシビシいくから振い落されんなよ!フリート、フロッピー!」
「「はい!」」
「あ、そういや今日の夜なんだが」
「ケロ?」
「はい?」
なんか…なんかわからないけど、嫌な予感がする…!
「艦家で孫娘の歓迎会やるからうちの事務所の奴ら全員来いって言われてんだ。もちろんフロッピーもな。
だから今日の訓練とその他やること全部終わったらすぐ艦家にいくぞ」
「え!?な、何ですかそれ!?全く話聞いてないですが…」
「俺も今朝言われたからな!」
なんだそれ!?
ガハハとセルキー船長は豪快に笑うのを見ながら私はすみません、本当にすみません…と熱い顔をそのままにセルキー船長とシリウスさんにぺこぺこして謝った。
お爺ちゃんなにやってんの!
「いいのよ、フリートのお爺ちゃんよく宴会開いては私たち呼んでくれてるから」
「シリウスさん…!」
「だっはっは!そういやあの爺さんいつも酔っ払ったら顔真っ赤なのに仏頂面で『孫娘に会いてえ………』って言ってるな!」
「せ、船長〜!」
「あ、すまんつい口が滑った」
「ケロ。澪ちゃんのお爺さんも澪ちゃんのこと大好きなのね…」
「ああ…梅雨ちゃんほんとごめん…ごめん…」
「いいのよ、今晩楽しみにしてるわ」
梅雨ちゃん…!
***
一日目は基礎訓練をしてその日を終え、皆は私服に着替えて私の実家へと向かった。
「フリートはいつから行ってねえんだ?」
「父に聞けば私が2歳の時から帰ってないみたいで…」
「13年!?フリートのお爺ちゃんもそりゃああなるわ…」
ええ?ああなるってって何!?
もっと帰るの嫌になって来たけど!?
「おい着いたぞー」
ピンポーンとインターホンを押す音とともに大きな足音が近付いてきて、嫌な予感がした私はセルキー船長の後ろへと隠れた。
「澪!!!」
怒号か、と思うくらい大きく唸るような声でその声の主はセルキー船長をタックルして抱きしめた。
「大きくなったな…!」
「おい艦の爺さん、感極まって目頭熱くさせてるところ申し訳ねえが抱きしめてるのは孫娘じゃなくて俺だぜ」
「む…?なんだ、お前さんか」
お、おう…絵面…絵面がやばい…。
何がやばいって、セルキー船長は聞けば190cmはあるのに、それよりも少し身長の高いムキムキ老人がいて船長を抱きしめてるというこの状況。
そして声は激シブでございます。
というか私、今の食らってたら思い切り握りつぶしたトマトみたいに潰れてたんじゃないの?
「ん?」
「あ………」
「お前が、澪か」
「ひゃい…」
目があった。やばいかもと感じて思わず変な返事をしてしまう。
命の危機を感じていると先ほどのタックルは無くて、そっと私を抱きしめた。意外だ…でも緊張する…。
「なんだ、その」
「は、はい…」
「久しぶりだな、澪」
「うん…久しぶり、お爺ちゃん。会えて嬉しい」
「!私もだ…!」
「ぐえ…っ!」
やばいお爺ちゃん力入ってきてるって!
死ぬ!死ぬからごめんお爺ちゃん!
私はまさかの個性を使って力を強化して、お爺ちゃんをぶん投げてしまった。
「はぁ…はぁ…死ぬかと思った…!」
「ぐぬぅ…」
「あ!?お爺ちゃん!!?」
「がっはっは!孫娘があの爺さんを投げとばすなんて一生見られるもんじゃあないな!」
「大丈夫かしら…澪ちゃんとお爺さん」
「まぁ大丈夫だろ、おーい爺さん先に入らせてもらうからなー」
「え!?セルキー船長私とお爺ちゃん二人きりにさせるんですか!?」
セルキー船長は感動の再会だろ、ゆっくり来いよなんて言われて相棒達と梅雨ちゃんを連れて行ったけどめちゃめちゃ気まずいよ?ねえ?
「…お爺ちゃん生きてる?」
「………ぬぅ」
よかった。生きてるみたいだ。
手を引っ張って起こせばしっかり立ち上がってくれた。
「お爺ちゃん投げてごめんね?とりあえず皆も中で待ってるから行こ?」
「うむ。」
中に入れば梅雨ちゃんにこっちよ、と頬を赤く染めて手招きされた。
梅雨ちゃんが座っていたのは上座でいわゆるお誕生日席だった。
私も同じ上座に座ると、えー、とセルキー船長から歓迎の言葉をいただいて、乾杯することとなった。
「よかった、孫の歓迎メインじゃなくて…」
「最初はそっちメインだったけどね」
え?シリウスさんそれ本当なんですか?
祖父の顔をパッと見ればあちらもパッと視線を逸らした。あっこれ本当じゃないか!
「流石にそっちメインで俺ら呼ばれてもって感じだからな。今日は二人の歓迎会をするならってことで開いてもらったんだ」
「船長…!とても素晴らしい提案をしていただきありがとうございます…!梅雨ちゃんと一緒に歓迎されて嬉しいです…!」
「そりゃよかった!なぁシリウス!」
「そうですね船長!」
この二人本当に嬉しそうに笑ってお酒を飲むところを眺めてると、なんだか昔を思い出す。
ああ、こんな風に笑ってよく鎮守府で宴会して、酒飲みが好きな艦娘達と飲みすぎて秘書艦の初春に怒られてたなぁ、なんて。
なんだか今こんなことを思えるのってあの時消さんに会えたからなんだよなぁ、と振り返る。本当に幸運だったと今でも思う。
あのまま消さんに会えてなかったら、私はどうしていたんだろうか。
…いや、どうもしないんだろうな。
多分私はあの日みたいに時たま公園でタバコをふかして、ぼんやりと過ごす日々を過ごしていたと思う。
個性を嫌って、話してもわかってもらえないから何も話せない状況が続く人生。…考えただけでもしんどいわ。
消さんはあの時私をそのままにしておくと、“お前本人の意思とは関係なく知らず知らずのうちに敵に利用されてしまう”かもしれないと感じた。”と言われたけれど、本当にそういう道もあったかもしれないなと振り返って見てその考えが浮かんだ。
「澪ちゃん?どうしたの、考え込んだ顔をして」
「…あっ!いや…ううんちょっとお父さん大丈夫かなって」
「ケロ、今頃大変そうね」
いかんいかん。こんな楽しい席の時に考えすぎてしまった。
私は適当にごまかして話すと、お爺ちゃんが話に入ってきた。
「
「お父さんとお母さん?元気だよ、相変わらずお父さんは過保護だけど」
「アイツ…やっぱ澪のこと変わらずベタベタと…どうせ滑美さんにも迷惑かけているんだろう…」
全くアイツはというけれど、祖父もあまり変わらないような気がする、と思いながら先ほど抱きしめられてちょっとおかしくした肩をさすった。地味に痛い。
「フロッピーの個性が蛙だと学校側からの書類には書いてたが擬態とかもできるのか?」
「それはまだ鋭意訓練中よ、船長」
「んじゃ今後に期待だな!お前の個性は汎用性高いだろうしな。楽しみにしてるぞ。
フリートは確か個性が軍艦で色んな艦種になって状況に合わせて戦ったりするんだったな。どの艦種が一番慣れてるんだ?」
「駆逐艦ですね。身の丈にも合ってるし、一番動きやすいです。多分型指定されても駆逐艦が一番やりやすいかなと」
「駆逐艦か。なら夜は強そうだな」
あ、セルキーさん一応軍艦のこと知ってるんだ、って思ったけれど艦家とも仲良しみたいだから少しくらい知っててもおかしくないか。
実際の駆逐艦も含めて、サイズは小さく戦艦よりも弱いなどとたまに思われたりもするけれど、夜になればその小ささは武器になり、威力も十二分に発揮できる。
「夜戦ならお任せあれです。素早いので
「それは頼もしいな。複数の艦種の艤装は同時装備できるのか?」
それは考えたことなかった。けど、その発想は面白いし、私からは生まれなかった発想だと思う。試す価値は十分にあるだろう。
「やったことないのでなんとも…。でも、試してみるのはいいかもしれません。」
「そうか、ならここならお前の個性は学校よりも思い切り訓練できるだろうからいる訓練中にも試してみろ。」
「はい!」
二人とも期待してるからな、とグラスを近付けてきたので私と梅雨ちゃんは返事をしてグラスをぶつけた。
それから穏やかに、賑やかに時は進み皆今日だけここで泊まって過ごすこととなった。
明日は5時起床らしく、皆飲んでいるのもあって早々に寝てしまった。
梅雨ちゃんとシリウスさんは、私と同じ部屋に寝ている。
私はトイレに行ってから寝ようと用を済ませてから部屋に戻ろうとしたけれど、なんとなく縁側に足を運ぶとそこには祖父が座って酒を飲んでいた。
横には何か分厚い本のようなものが一冊置いてある。…アルバム?
「あれ?お爺ちゃんまだ飲んで…眠くないの?」
「澪か…、今日は良い満月だ。月見酒をするしかないだろうと思ってな」
「……ああ、なるほど。本当にいい月だね」
空を見上げると月はいつもよりも低い位置で、黄色味がかった光り方をしている。
「こんなに綺麗な望月を眺めていると、不安なことも、イヤなことも
「須臾なんて言葉、よく知っているな」
「…昔は本ばっかり読んでたからかもしれない」
「そうだったのか。昔一度来た時、お前さんは本よりも船の写真ばかり見てたから、あまりそっちのイメージが無かった」
「え?船を?」
それはおかしい。
私は祖父の家に行った時は2歳だ。記憶なんて戻ってない時期だし、戻っていたとしても私はそんなことするはずないのに。
…そういえば、お父さんから聞いたことがある。
私の最初に話した言葉がパパでもママでもなく、「はつはる」だったと。
二人は驚いたもののお父さんは神童だと騒いでお母さんが落ち着けと諌めたらしい。
私はそんなことも覚えていないし、現在の記憶が戻ったショックが大きすぎたのか、小さい頃の記憶がほとんどおぼろげになってしまっている。
それでも、記憶がまだ揃っていなかった時の私は無意識に船を、皆を愛していたんだ。
その事実に私は少なからず動揺をしていて、そうとは知らずにも、祖父は傍にあるアルバムを私に差し出した。
「澪が久々に見たいだろうと思って出してたんだが、見るか?」
持てば中々に重い。丁寧に床に置いてパラリとめくればフィルム同士がくっついていたようで、ペリペリと音を立てながら剥がれていった。
開ききるとそこにはモノクロの写真が何枚も貼ってあった。
「…これ、雪風?」
「そう。俺が十の頃に曾祖父さんがこの写真を見せてくれた。お前のひいひい…?まぁいいか。俺はこれに乗ってたんだぞってよく教えてくれてな。
戦争の話もしてくれた。軍艦のことも。」
驚いた。この世界でしかも今の祖父世代から軍艦の話を聞けるとは思っていなかった。
「艦家は今まで船関連の仕事をしてきて、特に私には継ぐ者として自分が生きているうちに伝えねばと曾祖父さんは思ったんだろう。
澪は継ぐ者ではないから無理に知る関係はないが、なんの因果か、お前は“軍艦”の個性を持つ者だ。知っておいて悪くなることはない」
真っ直ぐに見つめる祖父の目に私は目をそらすことができなかった。
「…うん、是非教えて欲しい。私…この“個性”は自分のものっていう認識じゃなくて、“本来の軍艦の魂を借りている”と思ってるの。
私はその個性の魂たちに指示をしている司令官で、彼女たちをより深く知るにはちゃんとお爺ちゃんから話を聞く必要があると思う」
月に照らされた祖父を見れば、祖父もまた月に照らされているであろう私の顔を見ていた。
その表情はとても驚いた表情をしていた。
「…その言葉、曾祖父さんが聞いたら喜んでいたかもしれんな」
祖父は盃に映る月を眺めてぐいと飲み干し、空を見上げた。
その表情はどこか嬉しそうでもあり、寂しそうで。そんな憂いを帯びている祖父を見て私はその表情を見て胸がきゅっと詰まるような感覚に落ちた。
「…今日はもう遅い。明日も早いならもう寝た方がいい。一週間あるからな。この期間に少しずつお前に話そう」
「……うん、ありがとうお爺ちゃん」
私はそして祖父と別れ、布団に潜って深く眠りについた。
…その日の夢は、海を漂う一隻の船だった…気がする。
それが何の船かはわからなかった。