④職場体験
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今日は雨だ。
傘を差して歩いていると、こないだの体育祭もあり、チラチラと視線を感じたが、話しかけられることはなかった。
まぁほぼ第一種目の時にしか個性使わなかったしね。雄英生っていうのはわかるけれど誰?って感じだろう。
「おはよーございまーす」
「あ、澪ちゃんおはよー。風邪は?」
「透。風邪薬飲んでしっかり直したよ」
「そっか!よかった〜」
軽く透とお話ししていると、今朝は視線がすごかったとか、話しかけられたなど興奮冷めやらぬ状態みたいでシャツが上下に動いていたので多分腕を振り回してるんだろうな、と微笑ましい状況を堪能した。
「おはよう」
ザワついていた教室は消さんの登場によりピタッと静まり返った。
うちのクラスって偉いし真面目な子が多いよな、と感じる瞬間である。
ああ、消さんの包帯取れてる。よかった。
梅雨ちゃんも同じような反応で声を掛けていた。ね、何はともあれ包帯が取れて嬉しい。
「婆さんの処置が大ゲサなんだよ。んなもんより今日の“ヒーロー情報学”、ちょっと特別だぞ」
なんだろう。
抜き打ちのテストとかならわざわざこんな言い方しないよな…。
「『コードネーム』。ヒーロー名の考案だ」
「「「胸膨らむヤツきたああああ!!」」」
私含めてクラス中がガタガタガタッと立ち上がり咆哮するも、ザワ…とと髪の毛が上がって静かにしろという無言の圧力をかけられた私たちはすぐに静かにした。
いつも思うんだけどあれって個性使ってるの?使ってたら使ってたでドライアイは?ってなるし使ってなかったら使ってなかったで凄い…さすがプロヒーロー。って思っちゃう。
しかも消さんだからまぁ…納得しちゃうよね。個性未使用であの芸…ありえる!
「というのも先日話した『プロからのドラフト指名』に関係してくる。指名が本格化するのは経験を積み、即戦力として判断される2、3年から…。
つまり今回きた“指名”は将来性に対する“興味”に近い。卒業までにその興味が削がれたら一方的にキャンセルなんてことはよくある」
「頂いた指名がそんまま自身へのハードルになるんですね!」
「そ。で、その指名の結果が集計結果がこうだ。例年はもっとバラけるんだが、二人に注目偏った」
黒板を見ると、やっぱり私には指名はなかった。だよねー、知ってたさ!
そして後ろにいるお茶子が20の指名が来ていてわあああといって私を揺さぶってきたけど「うん」しか言えなかったしちょっと舌噛んだ!ぐぁ!
「これを踏まえ…指名の有無関係なくいわゆる職場体験ってのに行ってもらう。
おまえらは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験してより実りのある訓練をしようってこった。」
「それでヒーロー名か!
「俄然楽しみになってきたァ!」
「まァ仮ではあるが適当なもんは…」
「付けたら地獄を見ちゃうよ!!
この時の名が!世に認知されそのままプロ名になってる人多いからね!!」
バァーンとでも音が付いてきそうな音で教室に入ってきたのはミッドナイト先生だった。相変わらずセクシーな格好だ…。
「ミッドナイト!!」
「まァ、そういうことだ。その辺のセンスをミッドナイトさんに査定してもらう。俺にはそういうのできん。
将来自分がどうなるのか。名を付けることでイメージが固まりそこに近付いてく。
それが『名は体を表す』ってことだ。“オールマイト”とかな。」
なるほど。
名前…決めてなかったけれど、どうしようかな…。
うーん、軍艦ヒーロー…うーん。
あ、これとかどうだろうか。
私はフリップに英語でFleet、と書いた。
…15分後、各々考えたヒーロー名の発表で大喜利のような空気になってどうしようかと思ったけれど、梅雨ちゃんこと、フロッピーのおかげでその空気は戻った。…よかった。
「じゃあ次は誰?」
「はい」
「艦さんね。じゃあいいわよ!」
「航跡ヒーロー、フリート。艦隊って意味です。」
「あら。一人なのに艦隊でいいの?」
「はい。私の個性は様々な艦種、型に換装できます。私は彼女たち軍艦の力を借りて共に戦っているので。そんな意味合いを含めて決めました」
「ううん!船は女っていうものね!素敵よ!名前も覚えやすい!」
ミッドナイト先生は自分の体を抱きしめてくねくねして青いわぁ!なんていってた。…青いのかは正直わからない。
ちらりと横で寝ている消さんを見てみれば消さんも瞳だけこちらを見ていて、ほんの少しだけ笑っていた…気がする。
彼女たちの軍艦の力を借りて、という言葉がそのままの意味だということを知っているのは多分この世界でも消さんだけだ。
その消さんに悪い意味でなくても反応されるのはちょっと恥ずかしさがこみ上げる。
羞恥から足早に席に戻った私はフリップで軽く顔を仰いで、次の人のヒーロー名に耳を傾けた。
「——…ヒーロー名が決まったところで本題である職場体験の話をする。職場体験は一週間。肝心の職場だが、指名のあった者は個別にリストを渡すからその中から自分で選択しろ。
指名のなかった者は予めこちらからオファーした全国の受け入れ可の事務所40件。この中から選んでもらう。
それぞれ活動地域や得意なジャンルが異なる。よく考えて選べよ」
プリントが配られて眺めれば海難系のヒーロー事務所が3、4つほどあった。
40件の中でこの数は割と多いんじゃないかな、と思う。
「今週末までに提出しろよ」
「あと二日しかねーの!?」
今週末…か。家帰って悩もうかな。
あ!?ていうかちょっと待った!
「せ、先生!」
「なんだ」
「ギャングオルカさんのヒーロー事務所ってないんですか!?」
「今回あそこはオファーの欄には入れていない」
「な、なんてこった…」
「ギャングオルカさんってあのギャングオルカさん?澪ちゃん好きなん?」
それはもう!、と声高々に言いたかったけれど、ちょっと恥ずかしくなっちゃって小声で実は…とお茶子に伝えた。
「まぁお前が風邪引かずにイイところまで行っていたらそこからドラフト指名されていたかもしれんがな。今回は諦めなさい」
「…はい」
ぴしゃりといわれてしまった。…やっぱり風邪引くんじゃなかった!
***
「ただいまー」
帰ってきて洗面所で手を洗ってると、お母さんは夜ご飯を作っていたのか何かおかずを箸で挟んで持ってきた。
「おかえり。はいあーん」
「あーん、…金平?美味しい。」
「そそ。味付けわかんなくなってきたからね。澪が美味しいっていうなら大丈夫ね。今日も学校楽しかった?」
「光栄だわ〜。うん、今日はヒーロー名決めたよ」
台所に一緒に戻りながら話していると、名前はどんなのにしたの?とお母さんから聞かれた。
「航跡ヒーロー、フリートだよ」
…うわっちょっと言い慣れてないから照れる!恥ずかしい!
「こうせき?フリート?」
「うん。船の航海の航に、足跡の跡って書いて航跡。
船が通った白い泡の道みたいなのを航跡って言うんだよ。フリートは艦隊って意味ね。」
「へぇ〜かっこいい名前ね。その名に恥じぬヒーローにならなきゃね」
「うん、頑張る。あ、あと今日ね、職場体験の話が来て海難系の事務所受けようと思うんだ。」
「ん?どれどれ。」
お母さんは火を止めてエプロンで一度手を拭き、私からプリントを受け取って見てくれた。
「…ふんふん。あら、40件中4件も海難系の事務所あるのね」
「だよね?思ったより多くて嬉しいんだよね。だから家で悩んで決めようと思ってさ」
「ふぅん…、あら?この事務所の名前…どっかで見た記憶が。あと住所…お父さんの実家近いわね」
「え?艦家に?」
「これ期限いつまで?夜お父さん帰って来たらこのプリント見せて一緒に決めたらいいわ」
「………お父さんと?今週中って言われてるんだけど、お父さんと決めてたら決まらなさそう…」
「そうね、大丈夫よ多分」
その多分が怖いんだよ…。
お父さんちょっと過保護なところあるから…。
「さ、澪も着替えてご飯作るの手伝って!お湯沸かしてもう具も煮てるから味噌といてほしいの」
「はーい。」
言われた通り私はササッと家着に着替えてお母さんの手伝いをした。ご飯ができてさぁ食べようという時間の頃。
聞きたかったような、聞きたくなかったようなただいまが玄関に響いた。
「ママ!澪!ただいま〜今日もお父さん全力でお仕事頑張ったよ〜!」
「お疲れ様、パパ。ご飯すぐ準備するから着替えて来て」
「ん!あ、今日もママのご飯美味しそう。お父さんの好きな金平だ〜」
「おかえりお父さん。今日もお疲れ様」
「澪!今日から学校だったけれど怪我はなかったかい?風邪はもう本当に大丈…「パパ?」…ま、ママ」
お母さんはすごい。「パパ」の一言で暴走しがちなお父さんを着替えに行かせたぞ。
やっぱりお母さんには誰も勝てないんだ…。
***
「「ごちそうさまでした。」」
「おそまつさまでした。」
ご飯も済ませ、それぞれ分担して食器を片付けたりテーブルを拭いたりをした。そして諸々が済んだ後にプリントを出しながらお父さんに呼べばすぐになんだい?って返事をくれた。
「お父さん。今日職場体験の話があってさ40件あるうちから体験先を選んでねって言われたの。
「えっ職場体験?それは凄いな、一年生にも職場体験ってあるなんてさすが雄英だな。」
「うん、すごいよね。私も驚いたんだけど、海難系の事務所が4件あってね?
その中にこの…セルキーさんっていうヒーローの事務所の住所がお父さんの方の実家に近いのって本当?」
「うーんとどれどれ…。ああ、ここね。そうそう。しばらく帰ってないけどその辺にあるし、ここの事務所の人たち艦家のこと少し知ってるかもしれないね」
「へー。そうなんだ…って、え?知ってるってどういうこと?知り合いなの?」
するとお父さんは首を傾げて不思議そうな顔をする。
「あれ?言ってなかったか?うちの実家は軍艦の開発に携わる仕事についてて今爺ちゃんが割と偉い位置にいるから海保やらとちょこっとパイプがあるんだよ。確かね」
…なにそれ?!そんなの初めて聞いたよ!?
「え、いやそれって…私行ったら変な扱いされるやつじゃ…?」
「どうだろう?多分大丈夫じゃないかなとは思うよ。うちは変な圧力かけないし。むしろ孫をヒーローとしてご指導ご鞭撻よろしくって伝えると思うよ!」
お父さんは自信ありげに私にウィンクをしてくれた。うーんそうか…そうか。それならここもいいのかな…?
「あっでもパパからはそっちの事務所に澪に怪我させないように言っとくね!」
「え!?」
「パパ?パパの気持ちもわかるけれど、そういうことをしてたらこの子は立派なヒーローになれないわ」
後ろからお母さんが私たちの座っているダイニングテーブルにやってきて、お茶を3つ分置いてくれた。
「だ、だって…こないだみたく大怪我されたら…困るだろ?」
あっそれ言われたらなにも言えないです…。
「…こらパパ。そういうことは言っちゃダメよ。澪がもうなにも言えないって顔してる」
「あ…そうだね、ごめんね澪」
「ううん。お父さんが言ってることはもっともだし、私も十分気を付けるからそういう電話はしないでほしいな」
お父さんは渋々って顔だったけれど、ちゃんと納得はしたみたいでうん、と一つ頷いた。
「…わかったよ。でもパパ、職場体験先の住所見たらどれも遠いから、第一候補は実家に近いところにしてほしいな。そこから体験先に通うようにしてほしい」
「うん。私もこの事務所調べたら普通に良さそうだったし、第一候補にしようと思うよ」
「そっか、それはよかった。じゃあパパ早速実家の方に電話かけておくから、一週間足りる分の荷物をちゃんとまとめておいて。送っとくから」
「わかった。ありがと、お父さん」
お礼を告げると、お父さんは私を見つめた後、書類に目をやり、くしゃりとプリントを握った。
眉間にはシワが寄っている。…何か問題でもあったのかな?
「澪と…一週間も離れるの………やっぱりパパやだな。ママ……パパ有給とるから、一週間実家に行こうよ…。」
「…パパ、貴方自分の立場わかってる?部下を持つ部長さんなのよ?ねえ?」
「…うっ…うう〜〜っ!」
お父さん、頼むからガチ泣きしないで。
…それにしても、実家なんて多分2歳の時にしか行ったことないし、ほとんど覚えてないからちょっと不安だな。大丈夫かな?
そんなことを思いながら、希望体験先の紙に第三希望まで紙に書いたのだった。