③体育祭
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あんた、記憶なくすの好きねって言われても仕方がない気がする。
私もええ、好きよ…って答えてしまいそうだもの。
ポンッと肩を叩かれる感覚に私は覚醒する。
「はっ…私は…」
「ご苦労さん」
「え?え?」
「澪!」
「お、尾白くん?」
何が何だか、と思っていると私は今肩ポンされた心操くんという子に操られていたんだと尾白くんに全部説明された。
かくいう尾白くんや、B組の子もそうだったみたいで、めっちゃ落ち込んでる。
いや、私も落ち込んでるんだけれど。
でもそんなことより
めっちゃ具合悪くなってませんか…?
さっきよりも、断然。
…たしか持って来てた薬、解熱も含まれてたよね?
それさえ飲めばなんとかなりそうな気がするけど…これどうなるのやら…。
うん…うん…、がんばろう。
もはやなんか私スカウトされるとかそういう目的から外れてさっさと体育祭終われって思い始めてる。それはいかがなものか…。
昼休憩に入り、通常運転しているランチラッシュに足を運んだ私はランチさんに懇願するようにおかゆを頼んだ。
「おじや…?おかゆ…?とりあえず消化に良さそうなのをください…味が程よく油っこくないので…」
「量は大盛りかい?」
「普通盛りで…」
「え!?大丈夫?」
「今日ちょっと食欲なくて…お米食べて元気出たらおかわりに行きます…」
ラッシュさんに普通の量で心配される私って女子としてどうなんだろうとふんわり思ったけど、もう脳みそが考えるのをやめてる。
「……うま」
新潟の米は相変わらず美味しい。
ゆっくり一人で食べて薬も飲み終わり、薬が効くまであとは時間まで適当な空いてる部屋で寝ようかな、と食堂から出ようとした時だった。
「っと…ごめんなさい、げほっ」
「ああ…ってお前さっきの」
「へ?」
ぶつかったのは私を個性で操ったらしい、心操くんだった。
「あ…さっきはどうもお世話になったようで」
「お世話って。俺がお前を操って利用しただけだ。ヒーロー科は嫌味も得意なんだな」
「いやみ…」
そんなんじゃなかったのに。
申し訳ない。
「でも良かったな、俺に操られたおかげでお前も次に」
あれ?
なんか、体フワついてる
わー、画面も横
だ
「っぶねぇ!!」
「…っう」
***
何だ?この女、突然倒れたぞ?って、見るからに顔が青い。
ギリギリのところでキャッチできから怪我もなさそうだ。よかった。
こいつ、気になってはいたけどマスクもしてるしもしかして。
「…くそ、熱あるな」
額に手を当てれば結構な高熱。…何てタイミングの悪い女なんだ。
よりによって操られてた俺の前で倒れてよ。
「…たしかリカバリーガール出張保健所があるから…そこに連れて行くか」
「う…」
「おい、動けるか」
ペシ、と頰を軽く叩けば軽く首を振ったように見えた。
「仕方ないな…」
幸いこの女は小柄だったので背中に背負い、無事にリカバリーガールのいる保健所に着くことができた。
しかし、リカバリーガールは昼食を食べに行ってるので不在なのか、ガランとしていた。
ベッドも完全に空いていたのでこの病人をベッドに下ろしてから靴を脱がせ、寝かせてやる。
横に置いてあった布団もかけてやると、やっと落ち着けたのか深く息を吐いていた。
「お前の所の担任は」
「…ごほっ」
「答えてくれ。メモに書いとくから」
「うー…」
面倒だな、と頭をガシガシかいてこいつが答えるのを待つ。
「消…さん…」
「ショウサン?」
「んん…あいざわ…せん……せ、ごほ、ごほ、」
「…わかった」
適当にデスクのメモ紙を拝借して経緯を書き、その紙をわかりやすくベッドの柵に貼ってから俺は保健室から出た。
それにしても、ショウサン、ね。
***
「別に今日診なくても」
「いつもの検診さね。こういうのはしっかりとこまめに見ておかなきゃならんさね」
「はぁ…」
昼休憩に飲料ゼリーを嗜んでいればばあさんことリカバリーガールが俺のところにやってきて、俺の怪我の経過を見るのに来いと言われた。
この婆さん大ゲサなんだよな。
「あれま?ちょっとドア開いてるね。誰か来てたみたいだ」
「みたいですね」
部屋に入ればベッドが一つ埋まっているようだった。
「おい、誰かいるぞ?」
「あら、ホントだ。どうしたんだい、具合でも…ってまぁ、この子、アンタのクラスの子じゃないか」
「は?」
言われてベッドを覗いてみれば、そこには澪がいた。
なんでここに澪がいるんだ?と思えばばあさんがすぐ息が荒いことに気付いて「風邪引いてるじゃないか」とすぐ澪に体温計を挟んでやっていた。
あまりその姿を見るのもいかがなものかと思い、目をそらせば頭の方の柵に小さなメモ用紙が貼り付けてあるのを見つけた。
『相澤先生、リカバリーガール先生へ。この人熱でいきなり倒れたのでここで寝かせておきます。薬は飲んでたっぽいです。』
字の感じから見ると倒れた澪を拾ってここまで送ってくれた男子生徒がいたようだ。
「何顔をしかめてんだい」
「いえ。こいつ薬は飲んでたみたいですよ」
「そうかい、それならとりあえず冷えピタでも貼ってやろうかね」
ばあさんはのんびりとした声で冷えピタを貼ってやると、そういえばこの子次のトーナメントで出るんじゃないのかい?と言ってきた。
「ええ。でもこの様子じゃ無理でしょうね」
「残念だねぇ。折角の体育祭なのに。」
「…、しょう、さ?」
「起きたか」
焦点の合わない目で俺を見た澪はとても辛そうで。
流石に可哀想だな、と思っていたらコンコンと咳をしながら怠そうに起き上がった。
「ここは…」
「リカバリーガールの治療室だ。倒れたのを男子生徒が運んでくれたみたいだな」
「え?げほ、あのしんそーくん…が?」
「しんそー?…ああ、あの3位の…」
「お礼…言わなきゃごほっごほっ」
「待て。薬効いてないだろ。ちゃんと飲んだのか?」
「飲んだよ…これ」
空になった薬の包装シートを見ると、偶然にも俺も知っている名前の薬だった。
…………これは。
「お前これ」
「うん?」
「…ビタミン剤じゃねえか」
「………うそぉ」
弟子のアホさに呆れる。
こいつは何をやってるんだ。
「ばあさん、点滴打ってやってくれ」
「えっやだ…げほ、注射怖い…」
「点滴だって言ってんだろ」
「いやだこわいこわい、今世はまだハンコ注射しかしたことないよ」
「ばあさん」
「あいよ」
「ずぁ″ッ…………」
手際よくばあさんがこのアホに点滴を打ってやり、こいつはそのショックで若干トんでったが倒れる時に頭の柵をぶつけて戻ってきた。
「頭打つほうが何倍もいてえだろ」
「はい…」
「あとこないだの入院で点滴打ってなかったか?」
「…そうでした」
コイツ、本当にアホなのでは?
「……まぁ、それはいいとして。一応毎年やってるから知ってるだろうとは思うが、最終種目はトーナメントでその前にはレクリエーションがある。
それまでは時間もあるから点滴は効くとは思うが、その様子だと無理だ。今年はやめておけ」
「ぐぬ…ホントに?」
「本当だ」
「……わかった。諦める」
「素直でよろしい」
少し残念そうにしているこいつを見ていると、犬を思い出す。耳や尻尾が生えていたらおそらく物凄く垂れていることだろう。
そのせいか、こいつには何かしてやりたくなり、ギプス越しで悪いが頭の上に乗せると、澪は少し意外そうな顔をしてから嬉しそうに顔を緩めたので、なんだかこちらも気が緩んだ気がした。
……澪が敵襲撃事件の時に怪我をしてから特に俺はこいつに対してらしくない行動をするようになったと思う。
オールマイトさんに緑谷に随分と肩入れしてるのはどうなのかと苦言を呈したことは記憶に新しく、もう自分には苦笑をするしかない。
「なんだい、あんた達随分仲がいいんだね」
「まぁ、弟子だからな」
「えっあっしょ、消さ…先生?何バラしてるの?ねえ?」
「婆さんは口が固いからな、別に問題ない」
「珍しいじゃないか、アンタがそういうなんて」
「可愛い俺の優秀な弟子だ。ポンコツだがな」
「しょ…っ消さん!!?」
コロコロと表情がすぐ変わるアホな弟子だ。
「飽きねぇな、お前」
まぁ、人生のうちそんな人間が一人くらいいても、いいのかもしれない。
***
消さんが何かおかしい。
今までそんなこと言うキャラじゃなかったのに。
ブレている。
テコ入れか?
まぁ、点滴を打たれているにせよ体はとてもだるいし咳も止まんない。
消さんは横でリカバリーする為に顔の包帯を取られていた。久しぶりに彼の姿を見た気がする。
「…小汚さが増量してる…」
「あ?」
何でもないでっす
「明日もう一度リカバリーしたら包帯なしで動いていいよ」
「よかったね消さん。ところで…げほっリカバリーガールは風邪は治せないの?」
「風邪菌も超活性化させちまってもいいなら」
「あっはい、今の聞かなかった事に」
「お前は大人しく寝てろ」
「いだっ」
消さんはまだ怪我が痛いだろうに久々に現れた手でコンコンと私の頭をノックした。私の頭はドアじゃないぞ。
からのガン見。なんだよ。
「…?何?」
「お前は動物みたいだな」
クシャ、と頭を撫でられた私は呆けた。
何さそれ。よくわかんない…。
しかもなんだあの顔。
見た事ない顔してた。
なんか、なんか…優しい顔だった。
やっぱあの人テコ入れされたんだと思う。