噂の彼女
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翌朝。
今日は絶対に遅れるわけにいかないと目覚ましを何重にも掛けた。
そして学校へ向かいテニスコートへ行くと、彼女は1人でウォーミングアップを始めていた。
『山城さん、おはよう。ユニフォームありがとう。』
そう言って俺はユニホームの入った紙袋を山城さんに渡した。
「おっ。遅れずに来たわね。」
彼女は笑いながら紙袋を受け取った。
『ははは。信用してなかった?』
「そんなことないわよっ。信用してたから貸したんじゃない。」
ユニフォームを渡し終えて体育館へ向かおうとしたが、彼女の足元に違和感を感じた。
『あれ?シューズ新品?』
彼女の足元を見るといかにも下ろしたてのテニスシューズを履いていた。
「あっ、うん…。今日の朝シューズ穴開いちゃって…。でも予備の新しいの教室のロッカーに入れてあったからよかった。何とか試合が始まる前に慣らさないと。」
そう話す彼女の顔は曇っていた。
「あのさ。それ穴が開いたんじゃなくて誰かに破られたりしたんじゃ…?」
俺がそう言うとどうして知ってるの?と言わんばかりの驚いた顔をしていた。
『実はさ、昨日他のテニス部の子たちの会話たまたま聞いたんだ…。君のユニフォーム破ろうって話してたのを…。』
「そうだったんだ…。だからユニホーム貸してだなんて変なこと言ったんだね。仙道君は優しいね。ありがとう。」
山城さんはものすごく無理して笑っているような顔をしていた。
『いや、でもその代わりにシューズが破られるなんて…。俺がそいつらにちゃんと注意するなり君に伝えるなりしてればよかった…。ごめんな?』
「ううん。助けようとしてくれただけで嬉しいよ。なんかごめんね…。」
その後彼女はシューズを慣らさないといけないからといって軽く走りに行ってしまった。
本当はちゃんと助けてあげたいし、いろいろ話を聞いてあげたいのだが、彼女にももしかしたら何か話したくない理由があるのかもしれない…。
その1日は山城さんのことが気になってなかなか練習に集中できなかった。
その数日後、朝学校に登校するとクラス中がザワついていた。
「聞いた?テニス部の山城さん話。」
「聞いた!聞いた!やっぱあの噂ってほんとだったのかなー?」
「こんな大ごとになったらさ大学の推薦とかも取り消されたりするのかな?」
『ねえ、何の話?』
どうやら山城さん関連で何かあったらしい。
山城さんは学校の有名人でこういった噂話は珍しいことじゃなかったし今までの俺なら絶対気にしなかったけど、数日前のこともあるからさすがに気になる。
俺はすぐ近くにいた女の子に何があったのか尋ねた。
「あっ、仙道くん。なんか今日の朝3年のあちこちのクラスの黒板に落書きがされてたらしいよ。【山城 リリコは全日本に選出されるために枕営業したテニスのためなら手段を選ばない非道な女だ】って。ねえ、どう思う?本当かな?」
楽しそうに噂話を広げるクラスメイト達。
みんなに全く悪気は無いのだろうが俺は怒りがこみ上げてきた。
『お前らに山城さんの何がわかるんだよ?彼女の練習見たことあんのか?別に俺もちゃんとは見たことないけど、彼女はいつも1番最後まで残って練習して1番努力してんだよ。くだらねぇ噂に振り回されるのはやめろよ。』
静まり返る教室。
俺は珍しく声を荒らげてしまった。
彼女はもちろんテニスの天才かもしれないが、それ以前に誰にも負けない努力をしている。
同じスポーツマンとして彼女の努力がそんな変な噂のせいでないことにされていってしまうのが許せなかった。
その日は1日中なんだかムシャクシャしておとなしく授業受ける気にはならなかった。そして午後からの授業はサボってやろうと決めた。
サボりの定番、屋上の扉を開けると俺の特等席である塔屋の上には先客がいた。
『よっ。そこ俺の特等席なんだけど?』
「いいじゃん。たまには貸してよ。」
そこにいたのは今俺が1番気にかけていた人物、山城さんだった。
その後なんて声をかけたらいいのかと少し考えているとそんな俺の姿を察したようで、
「聞きたいことがあるなら聞けば?」
今朝あんな出来事があったにもかかわらず、意外にも彼女は笑いながらそう問いかけてきた。
『はははっ。別に聞きたいことなんてないよ。ただ山城さんってものすごく嫌われてるんだなーと思って。』
気にしてたのは俺だけかよ、となんだかおかしくなって俺も笑ながらそう言った。
「うわっ。そこまでストレートに言われるとちょっと傷つくんだけど。」
『ごめんごめん。でも俺は嫌いじゃないよ?山城さんみたいな子。』
「あはは。それはどーも。」
やっぱり山城さんは今日も無理して笑っているように見えた。
『山城さん、別に俺の前では強がんなくていいよ?』
「別に強がってないし。てかそもそも本当に強いし。」
『はははっ。やっぱ山城さん、面白いや。よし、サボるんなら徹底的にサボろうよ!どこ行く?何かしたいこととかないの?』
それがそう提案すると、
「うーん…。やりたい事ねぇ…。あっ!じゃあバスケがしてみたい!仙道くん、バスケ教えてよ!」
彼女はしばらく考え込んだ後、そんな意外なことを言い出した。
『えっ?バスケ?したことないの?』
「うん。突き指したら危ないからって子供の頃から体育の授業とかでもバスケはさせてもらえなかったの。」
サボりの時まで俺はバスケしないといけないのかよ、と言いかけたがそこは堪えて彼女を連れて近くのリングのある公園へ向かった。
女子ってみんなか弱いアピールというか、いかにも守って欲しいみたいな雰囲気を出してくるもんだと思っていたから、逆に彼女みたいな子を放っておいてはいけない気がした。
公園について俺は彼女にシュートの仕方やドリブルなどを教えた。
しかし、彼女は下手したらそこら辺の女子より運動神経が悪いんじゃないかと言うくらいバスケのセンスがなかった。
『あははっ。山城さん、それでもほんとに全日本ユース代表?意外に運動神経悪いんだね。』
「失礼ねぇ。まあ私子供の頃からテニスしかしてなかったから他のスポーツはからきしダメなのよ。でもすごく新鮮で楽しい!」
そう言いながら彼女は下手なりにもとても一生懸命で何より楽しんでいた。
そんな彼女の姿を見て今日の朝からの胸のもやもやがすーっと晴れていた。
そして2時間位経った頃には最初とは比べ物にならないくらい上達していた。
「あー、楽しかった!仙道くんありがとう!」
『おう。またいつでも言ってくれよ。』
「さて、私はそろそろ練習に行こうかな。仙道君ももうすぐ部活始まるでしょ?戻らないとまた田岡先生に怒られちゃうよ。」
『えっ?まさか部活戻るの?』
今朝あんなことがあったって言うのに部活に行けるなんてどんだけメンタル強いんだよ、と驚いてしまったが。
「いや、今日は部活はちょっと…。子供の頃から見てもらってたテニスクラブがあって今もたまに練習に行ったしてるの。だから今日はそこにね。」
『今日くらいはさぁ、テニス休んでもいいんじゃない?』
俺は気づいたら彼女にそんな言葉をかけてしまっていた。
「うーん。でもなんだか子供の頃からテニスはもう生活の一部になっちゃってて…。」
『じゃあ今日はもうテニス禁止!山城さんのサボりに付き合ったんだから次は俺のサボりに君が付き合ってよ。ほら行こう。』
田岡先生に怒られても知らないよ、なんて言いながらも彼女は俺についてきてくれた。