家に帰ると1人お風呂に浸かりながら今日のことをしょんぼりと考えていた。




『あぁ…あんなお願いしなきゃ良かった。』



ぽつりと小声で呟いた私の独り言はお風呂の中でむなしく響いていた。




そもそも私は栄治に釣り合うような人間ではない。
勉強とかスポーツとか容姿とか特別他人より抜き出てる訳でもないどこにでもいる普通の女子高生。



ただ、たまたまあの大スターの沢北栄治と同じ中学でたまたま同じクラスでたまたま隣の席で、たまたま好きになってもらえただけの人間だ。
そしてたまたま栄治は工業高校に進んで他の女の子とたいして出会いもないから私と付き合い続けているだけなのだ。



この先プロに進むだろうし、もしかしたらアメリカなんかにも行ってしまうかもしれない。
そしたらきっとこの先ただの凡人の私は栄治とは一緒にいられないだろう。




だから藁をもすがる思いでイルミネーションのおまじないにあやかりたかったのだ…。

しかし今日の様子的に栄治は私の事なんてもうさほどもう好きでは無いようだ…。


あぁ…もうじき振られるんだろうなぁ…。
クリスマスを前に1人になってしまうのか…。







母「ちょっとリリコー！？あんたいつまでお風呂入ってんの！？ってあんた顔真っ赤じゃないの！！」






『ふぇ…？』





どうやら相当考え込んでしまっていたらしく私は自分でも気づかないうちにのぼせてしまったようだ。



その後急いでお風呂から上がり携帯を確認すると栄治から着信が数件入っていた。


別れ話だろうか…？
なんだかとても掛け直す気分になれなくてその日は携帯の電源を落とすとそのまま眠りについた。



次の日寝坊してしまった私は携帯を確認する暇もなくギリギリの時間に教室へ滑り込んだ。




『綾香おはよ。あれ？先生は？』





綾香「おはよ！なんか事故渋滞で遅れてるみたいよ。リリコがこんなギリギリ登校してくるなんて珍しいね！」







『なんかね…。気分が不安定で…。』







そして私は昨日の出来事を全て彩香に話した。








綾香「そうなんだ…。でも連絡はちゃんと返した方が良いよ！このままクリスマス迎えるのは良くないって！」






『だよねぇ…。』







私は昨日の夜から切っていた携帯電話の電源ボタンを押した。





あれから着信が更に2件。
そして今日の朝メールが入っていた。






【リリコ、昨日は本当にごめん！今日の夜練習終わったらまた電話するから話そう。】






はぁ…。
ついに別れ話を切り出されるんだろうか。






とりあえず栄治からのメールに【分かった】とだけ返信しいつも通り授業を受けるのだが今日は何をしてもなかなから集中できない1日となってしまった。





学校が終わり帰宅するとそわそわしながら栄治からの電話を待っていた。


そして時計が20時ちょうどを指すときに…、




〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪〜♪





『もしもし…？』






栄治「あ、もしもしリリコ…？俺だけど…。あのさ…昨日のことなんだけど…。やっぱイルミネーション見に行かね？」






私が若干気まずそうに電話に出ると、栄治もまた気まずそうに話し始める。
とりあえず別れ話ではなさそうでひそかにほっとする私。




『あ！全然気にしないで！！良く考えたら私イルミネーションとか全然好きじゃないし！周りの友達がみんな行くって言ってたから、なんだか私も行かなくちゃって思っちゃっただけだから！』





栄治「本当か…？もし本当にリリコが生きたいんなら行っても良いんだぜ？」








『だから本当にいいのっ！！』







栄治「そうか。とりあえずせっかくのクリスマスだし練習終わったら会おう。部活で遅くなっちゃうけど…。」






『部活で疲れてるんだから気を使わなくていいって！その代わり初詣は一緒に行こうね！！』







栄治「いや…でもクリスマスも…。」







『本当に大丈夫だってば！あ、明日の小テストの勉強しなくちゃだからそろそろ切るね！インフルエンザ流行ってるけどウィンターカップ近いんだし体調には気をつけるんだよ！それじゃあね！』





まだ何か言いたそうな栄治を無視して私は言いたいことだけ言うと一方的に電話を切った。



本当はイルミネーションにも行きたかったしクリスマスも一緒にいたかったけど面倒くさい女と思われるのが嫌で我慢した。

私なんかが栄治と付き合えているのが奇跡なんだから私は栄治にあまりワガママなんか言ってはいけない。そんな気がしてしまったのかもしれない。