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右手

 僕は絵描きを生業なりわいとしてゐる者である。
 なので、殊更ことさら路地での、絵描き業からの落伍的な仕事で舞い込むのは、もつぱら似顔絵描きである。
 其時そのとき、僕が最も注視してゐるのは、描く可相手の顔よりもむしろ、相手方の右手――多くの者にとつての利き手であるのだ。
 ああ、右手が映す事柄は単に表層の質感のみならず、万変ばんぺんの海原が如き人世の道を、何とも雄弁に物語つてれる。
 さて、僕が此処ここに記してみるのは、是迄これまでに巡り会へた右手の記録である。
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