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本編

 私は、林まゆに全てを話した。話し終わった頃には2人共手がかじかんでいた。しかし、不思議と手の痛みや寒さはあまり感じなかった。ただ昔の記憶が鮮明に思い出され、心が苦しくて涙が止まらなかった。
 「これが、百合ちゃんの事件について私が知ってる全て。真犯人は居ないし、事件は私のせいなんだよ。」
と言った。
 「真犯人が居ないのはわかった。でも、話聞いてる限り上島さんは悪くないと思う。」
 これまで真剣に聞いていた林まゆが口を開いた。
 「私のせいだよ。約束しといて、側にいられなかった。止められなかった。」
 私は眉をひそめ、林まゆの目を見た。
 「確かに止められなかった罪悪感はあるよね。大人に話していれば変わったのかもしれない。でももう月谷さんはどこにも居ないんだよ。」
と、林まゆは冷静に淡々と話した。
 「わかってるよ、わかってるけど…」
 私は現実が受け入れられずに、ずっと1人で閉じこもっていた。あの時すぐ交番にでも行けば良かったし、できたことはあった。なのに、悩みがわかるのはお互いだけだと、勝手に思い込んでいて、誰にも言えなかったのだ。
 「わかってないよ。今私に打ち明けてくれて、私もわからずにモヤモヤしてることが、ハッキリわかって嬉しいよ。月谷さんのことは悲しいけど…でも、皆聞きたいと思う。早苗だって、知っていればあんな噂信じなかったよ」
と真剣に言われた。私は百合ちゃんの一件のことで後悔していながら、また同じ間違いをしていたのかもしれないと思い、何も言えなくなった。
 「言おうよ。手紙のこと。親族と百合に言うのは手伝うから」
 今まで隠していたことから、恥ずかしいような怖いような気持ちがあったが、もう後悔しないために林まゆの提案を受け入れた。
 そして、林さんって百合ちゃんにちょっと似てるかも、と思った。結構グイグイ来る所も、明るくてすぐ友達になれる所も。
 違う所と言えば、あっけらかんとしている所とその明るさを無理せず出せる所だ。
 「わかった。林さんって百合ちゃんに似てるかも」
と私は言った。
 「そうなの?」
 林まゆは、似てるのかなーと不思議そうにしながらベンチから立った。
 「早苗の家行こ。多分家に居るよ。」
 私家知ってるから早い内に行こう。と私を促した。
 「うん」
私は不安になりながらも、林まゆの後ろを着いていった。

ーーーー

 上島を連れ、15分ほど歩いたが、その間何も話さず、緊張しているようだった。
 私は付き添いで来ているだけでも緊張しているのだから、彼女の立場だったら同じように緊張しているだろうと思った。
 しかし、今言わなければまた閉じこもってしまうかもしれないし、すれ違った状況を変えるなら今しかないと思った。
 私は、早苗と上島どちらとも仲良くなった。もし、これで仲良くなってくれたら、私も学校で気まずい思いをしなくて済む。
 
 しばらく歩くと、目の前に赤い屋根の一軒家が見えてきた。そこが早苗の家だ。
 「着いたよ」
 後ろを振り返って上島の顔を見た。寒さからかそれとも緊張からか、顔色が悪かった。
 「大丈夫?また今度にする、?」
 私は、その顔色の悪さをみて強引だったかなと少し反省し、上島に声をかけた。
 「うん、大丈夫。今じゃなきゃ言えない気がするし、怖いけど言うよ。」

 上島の言葉に頷くと、私は早苗の家のインターホンを押した。
 「はーい」
という声と家の中から駆け寄る音が聞こえ、ガチャっと扉が開いた。
 「まゆ?何、急に…」
 家から出てきた早苗が扉を開けてすぐそこにいた私を見て不思議そうにしていた。
 「急に来てごめんね。ちょっと話したいことがあって」
と言って、私は横に退いて後ろに居た上島を前に出るように促した。
 上島はその後、私に話してくれたことの大切な部分だけ話した。早苗は話し始めた所から、話し終わるまでずっと「は?」と言っていた。
 何故自分が疑われていたのか、そして月谷さんは殺されたのではなく本当に自殺だったことを話した。
 「なんの証拠もないでしょ」
 上島が話し終わると、早苗はそう冷たく言い放ち上島を睨んだ。
 「遺書がある、見て信じられるなら見せるよ」
と上島は冷静に言った。私に話してくれたときよりも、淡々と話せている印象だった。
 「…確かに、行方不明になったときしばらく学校来てなかったよ。でも、風邪って言ってたし、私はそんな話されてないもん」

 早苗の話を聞いてみると、月谷さんとは入学したときから仲が良かったらしい。私が早苗と仲良くなったのは、2年生に進級してクラス替えがあった後からだ。そのときは早苗の方から話しかけてくれた。
 「中学に入りたての頃、まだ周りとも馴染めなくて。そんなときに百合が話しかけてくれたの。いつもニコニコしてて優しくて人気者…私もそうなりたくて沢山の人に話しかけた。そうしてまゆとも仲良くなれた。」
と、早苗が話してくれた。月谷さんとの思い出が蘇ってきたようで、目からはポロポロと涙が出ていた。
 「だから、そんな憧れの百合が、そんな悩んでたなんて全然信じられない。でも、百合はもう居ないし、そこまで聞いたら信じるしかないじゃん。」
 そう言い、早苗は玄関で泣き崩れた。私はしゃがんで泣いている早苗の背中をさすった。
 「ごめんなさい。ずっと言えなくて。私も受け入れるのが、信じるのが怖かったの。」
 上島もそう言うと泣き始めてしまった。私も苦しそうな2人を見て自然とポロポロ涙が溢れた。

 話し込んでいる内に早苗のお母さんが帰ってきてしまい、3人とも泣きじゃくってるものだから、驚きつつも家に上げてくれ、お茶を出してくれた。
 早苗は母親から事情を聞かれていたが、何でもない、と答えていた。
 
 お茶をもらって一息ついた後、私と上島は早苗に別れを告げてそれぞれの家に帰った。
 「今日思い切って話せて良かった…持っている遺書は警察の人に頼んで百合ちゃんの親族に渡してもらおうと思う。」
 と上島が別れるときに言っていた。
 「うん!まさか上島が話してくれるようになるなんてね。話しかけたときとは別人みたい」
 私は笑いながらそう言った。
 「私、百合ちゃんに出会ってから変われたと思ってたけど、全然だったみたい。気が付かせてくれてありがとう」
 上島は、優しい笑顔でそう言った。
 「私なんもしてないよ。上島さんが頑張ったんじゃん?」
 私は、真っ直ぐに感謝されたことに照れながらもそう言って返した。
 「そう言えば、まだ名前呼びじゃなかったね…私のことは柚子葉で良いよ。」
 「じゃあ私のこともまゆって呼んで!お互い名前呼びね」
 そう言って2人で笑いながら話した。こうして、色々な壁を乗り越えて、私と柚子葉は友達になった。

ーーーー

 私はあの日、湯川早苗さんに事情を話した後に遺書を持って交番に行き、事情を話すとすぐに親族の方と繋げてくれた。
 電話の先は、おじいちゃんの声だった。
 電話で事情を話すと、今は遠くに住んでいるから手紙は警察の方を通してでいいよと言ってくれたが、私から渡しに行く旨を伝えた。

 翌週、百合ちゃんのおじいちゃんに手紙を渡しに行った。私は今まで渡せなくて申し訳ないと心から謝った。おじいちゃんは、その手紙を読んで泣きながらも許してくれた。
 百合ちゃんの遺体が眠っているお墓に案内されて、私もお線香を供えた。本当に居なくなってしまったのだと、そこをみて改めて実感して涙が溢れ出た。
 そのお墓には毎月、百合ちゃんの命日の日にお参りをするために行っている。

 あの日、まゆに全てを打ち明けた日から私の世界は激変した。今まで押し殺していた自分の感情を、表に出すようになったのだ。
 母に、家事は自分でするからたまには一緒にご飯を食べたいと伝えた。わかったと一言だけ言われて不安だったが、伝えた日から夕飯は一緒に食べてくれるようになった。
 父とは離婚して、再婚相手が居ることも伝えられた。私はその話を受け入れることにした。始めは受け入れるのが難しいかもしれないけれど、また家族で和気あいあいとできる日を信じている。

 今、まゆと私は前よりも仲良くなった。ゲームセンターに遊びに行ったり、ショッピングに行ったり。学校でも話せるようになった。始めは周りがどよめいていて、あの子と話していいの?という雰囲気だったが、湯川さんがあの噂デマだったみたい。と言ってくれたらしく徐々に噂は収まった。

 私と湯川さんは今でもあまり親しくはないが、まゆが、そんなに悪い子じゃないんだよと言っていた。だから、いつか仲良くなれるのかなと思っている。
 



ジリリリリリリリリリ


 目覚まし時計の音で目を覚ました。
 昨日は珍しい夢を見ていたような気がする。一階に降りてキッチンへ向かうと、温めて食べてと書かれたメモ書きと共に朝ごはんが置かれていた。
 レンジで温めて食べたあと、いつもどおりに身支度をして家を出た。
 「いってきます」
と家に告げて玄関の鍵を閉めた。
 目をつんざくような明るい太陽の光に眉をひそめながらも、青い空とチュンチュンと鳴く鳥に気分がよくなった。
 すると目の前には、以前ぶつかられてよろめいていた子が居た。隣にはあの時は居なかった同じくランドセルをしょった子が並んでいた。
 あの子も友達ができたんだな、と嬉しい気持ちになった。

 軽い足取りで学校の校門まで着いた。
 「柚子葉ーおはよー」
とまだ寝ぼけた声をしているまゆに話しかけられた。
 「おはよー。眠いね」
 私は笑いながらまゆに挨拶を返した。
 「もう眠いなんてもんじゃないよ。爆睡できるね」
と言ってふざけながら私達は教室に向かった。
 私たちのクラスは3年2組だ。クラスに入り、数人の仲の良い子にもおはようと挨拶をした。以前のような冷たい眼差しをする者はいない。
 まゆは湯川さんの所へ行ったので、私は別の子に話しかけに行った。

 まゆに助けられてから色々なことが変わった。いや、変えることができた。
 だから、私も前とは違って、色々な人と話して自分を出すようにしていこうと思っている。
 百合ちゃんやまゆのように。そして、二度と誰かをひとりぼっちにはさせないように。
 
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