本編
私と百合ちゃんが仲良くなったのは、去年の7月頃。
私は、入学当初から仲良くしていたグループの中にいづらくなり、ひとりで行動するようになっていた。
今のように、クラスメートから嫌われていたわけでも虐められていたわけでもない。ただ、私が勝手にいたたまれなくなって逃げた。
理由はしょうもないものかもしれない。友達が「この間家族と遊園地行ったんだー」とか、「昨日ゲームしすぎって怒られた。まじでうざい」みたいな家族の話を笑って話す度に、勝手に嫌な気分になってた。
私は、中学に入学する前から両親の仲が悪く、離婚の話やどっちが私を引き取るかの話で喧嘩ばかりしていた。
だから、友達が話す家族の話には嫌気がさしてしまった。最初は合わせて笑っていたけれど、次第に合わせて笑うのも辛くなっていった。
そしてなんとなく友達とも顔を合わせづらくて、学校を休みがちになっていた。
当時のグループの子たちは優しかった。
休んだ日は、大丈夫?とSMSをくれたし、家に来てくれたこともあった。それでも私は笑わず、学校にも来ないものだから数日後には連絡も訪問されることもなくなり、私は1人になった。
学校に行かなくなり、1ヶ月経ったある日、両親が離婚した。私は母方に引き取られることになったが、母の私に対する当たりは冷たかった。
新しく付き合っている男性がいたようで、出張閉じ込めてっては何日間も家を開けるようになっていた。
母は私に隠せているつもりかもしれないけど、深夜に家で知らない男性と電話で親しげに話していたのを聞いていた。ただの知り合いだったら言わないような甘言を吐いていて、身の毛がよだった。
その調子の母に、私が不登校だと学校から伝えられたところで、先生には「よく言って聞かせますので…」など良いツラをしていたが、家では私を叱ることも怒ることもしなかった。
そんなわけで、私は学校にも行けず、家にいてもひとりだった。
でも、私にはよく行く場所があった。
それが、私の家の向かいにあるこの公園。
人通りが少ない早朝や夜中に、街頭の下のベンチで本を読んだり、ブランコに揺られたりしていた。
ここは住宅が近くにはあるが、人が集まるところではないし、早朝や夜中に通る人はなかなかいなかったので、居心地が良かった。
公園に通うようになって数日経ったある日、私はいつものようにその公園で本を読んでいた。
時刻は夜の9時、街灯に寂しく照らされたベンチは、孤立している自分にはピッタリの場所だった。
本にしおりを挟み、今日はもう帰って寝ようと思い、本を持って立とうとしたその時
「わっ!」
声がしたかと思うと、ベンチの後ろから誰かに触られた。私は驚きすぎて息が止まった。
心臓が爆速で鼓動し、身の危険を感じていた。
恐る恐る後ろを振り返ると、同い年くらいの女の子が立っていた。
顔が丁度街灯に照らされていてよく見える。
ニヤニヤしているその子を見て、少し腹が立った。
「何…」
その人のニヤついた顔を睨みながら、私を驚かせた理由を尋ねた。
「いやー別に。暇だったから驚かせてみようと思って」
その子は悪びれる様子もなく、ニコッと笑って言った。
「あなた、2組の上島さんだよね?こんなとこにいつも居るの?」
そう言われて、入学してすぐ不登校になったからあまり覚えてないが、もしかしたら同じクラスの人かもしれないと思った。
「違うよ。たまたま」
と私は嘘をついた。
何故この時間にここに来たのかはわからないが、先生や親に報告するかもしれないし、そうなったら絶対注意されるからもう公園に来るのはやめようと思った。
「そっか。あ、私1組の月谷百合だよ。」
私は別に聞きたかったわけじゃないが、彼女の名前がわかった。どうやら同じクラスではないらしい。
「はじめまして、だよね?何で私の名前は知ってるの?」
と私から彼女に聞いた。驚かせてきた後、すぐ私の名前を言ったことを不思議に思っていたからだ。
「友達から携帯で写真見せてもらったことあったから。最近学校に来てくれないんだって言ってた。」
「悪口とかじゃないよ?ただ相談みたいな感じだった。」
仲良くしていた3人の誰かが月谷さんに相談していたと知って申し訳なくなった。
「そっか。その子に、ごめんって言っておいてくれない?」
と月谷さんに伝えると
「自分で言いなよ」
と言われた。当たり前の反応だ。でも私はまだ学校に行く気にはなれないし言えるわけがない、しかし正論を言われてぐぅの音も出ず、押し黙ってしまった。
「言えない理由があるの?」
と私の隣に座りながら聞かれた。
「うん。でも何でかは言えない」
私は俯いて言った。学校に行けなくなったのは、私の勝手な理由だから理解されないだろうと思って理由は話さなかった。
「ふーん言いたくないなら無理には聞かないけど。」
「そんな事より、何で月谷さんはここにいるの?」
私は家が近いし、理由もあるからここに来ているが、近所に月谷さんという人は居ないから、何かのついでとは思えなかった。そして、私と同じ理由かもしれないと少し期待をしていた。しかし、月谷さんは
「気分転換」
とだけ答えた。
「気分転換か…私と同じだね」
理由は言いたくないのかもしれないし、彼女も深く聞かなかったのだから、私も深く聞かないようにした。すると、
「一緒なの?私と、」
と、月谷さんは期待を込めた目で私を見つめていた。私が、なんだろうと少し戸惑っていると、
「実はね、今親が喧嘩してて、居づらくて出てきちゃったの。それで行ける場所もなくてぶらぶら散歩してたら上島さんがいて、暇だから話しかけた。」
と不安そうに話し始めた。
「ごめんね、急に変な話して。でも、もしかして私みたいな悩みあるのかなって思って。良かったら話してくれない?」
私は迷ったが、月谷さんも話してくれたし私も、心の底では安心できる相手が欲しかったから話すことにした。親が喧嘩したあと離婚し、私は家に1人であること、その悩みを学校でも引きずってしまい友達と上手く話せなくなってしまったことを全て話した。
「そうだったんだ…ありがとう、そこまで話してくれるって思わなかった。」
と、冷静に言った後、月谷さんの身の上話を聞かせてくれた。
「私の今のお母さん、血が繋がってないんだ。産みの親は私を産んだあとすぐに浮気して出てっちゃって、お父さんは今の人と再婚したの。もう再婚して10年も経ったのに、今更になって戻ってきてさ。何話したかは知らないけど、再婚したいって言ったらしくて、お父さんも。」
私は驚いた。
「お父さんも再婚したがってるの?」
と言ってしまった。失礼かもしれないが、私だったらそんな勝手な人より、10年もの日々を育んで来た人を選ぶと思ったからだ。
「そ。むしろお父さんがやり直そうって言ってる感じ。それ聞いてお母さん、めっちゃ起こっちゃって。あ、育ててくれた方のお母さんね。」
「それは怒るよね…」
と同情の意味を込めて言った。今日あったばかりなのにそこまで話してくれるなんて、私も話したんだけれど。そこまで複雑な家庭とは思わず、気まずく感じていた。
「複雑でしょ?でも上島さんが色々話してくれたから言った。あと実は今の話、上島さんに初めて話した。先生にも友達にも言えてないの。だから聞いてくれてありがとう」
と月谷さんは安心したような笑顔で話した。
私と似たような悩みと私と同じ気持ちだったことに嬉しくなった。もしかしたら今日以降会わないから言ってスッキリしたかっただけかもしれないが、自分だけじゃないというのが嬉しかった。
「ううん、こっちこそ。初対面でこんなに話せると思わなかった。ありがとう。」
と感謝をした、そして
「さっきここに居るのはたまたまだって言ったけど、本当は最近ほぼ毎日ここに来てるの。ごめん」
と嘘をついたことを誤った。
「全然気にしてないよ。そっかじゃあまた会おうね。っていうか私たち、初対面なのにここまで意気投合するって凄くない?しかも、私も上島さんも始めて話したんだよ。」
と笑いながら言った。
「確かに。これからも悩み聞くよ」
と返した。ニコニコしている彼女に、自然と私も笑みが溢れた。
「ありがとう!私も聞く。他の人に話せないことも何か言える気がする。絶対ずっと友達でいようね。約束だよ」
そう百合ちゃんはニコニコしながら私に言ってゆびきりげんまんをした。私は、信用できる友達ができてとても嬉しかった。
私は、入学当初から仲良くしていたグループの中にいづらくなり、ひとりで行動するようになっていた。
今のように、クラスメートから嫌われていたわけでも虐められていたわけでもない。ただ、私が勝手にいたたまれなくなって逃げた。
理由はしょうもないものかもしれない。友達が「この間家族と遊園地行ったんだー」とか、「昨日ゲームしすぎって怒られた。まじでうざい」みたいな家族の話を笑って話す度に、勝手に嫌な気分になってた。
私は、中学に入学する前から両親の仲が悪く、離婚の話やどっちが私を引き取るかの話で喧嘩ばかりしていた。
だから、友達が話す家族の話には嫌気がさしてしまった。最初は合わせて笑っていたけれど、次第に合わせて笑うのも辛くなっていった。
そしてなんとなく友達とも顔を合わせづらくて、学校を休みがちになっていた。
当時のグループの子たちは優しかった。
休んだ日は、大丈夫?とSMSをくれたし、家に来てくれたこともあった。それでも私は笑わず、学校にも来ないものだから数日後には連絡も訪問されることもなくなり、私は1人になった。
学校に行かなくなり、1ヶ月経ったある日、両親が離婚した。私は母方に引き取られることになったが、母の私に対する当たりは冷たかった。
新しく付き合っている男性がいたようで、出張閉じ込めてっては何日間も家を開けるようになっていた。
母は私に隠せているつもりかもしれないけど、深夜に家で知らない男性と電話で親しげに話していたのを聞いていた。ただの知り合いだったら言わないような甘言を吐いていて、身の毛がよだった。
その調子の母に、私が不登校だと学校から伝えられたところで、先生には「よく言って聞かせますので…」など良いツラをしていたが、家では私を叱ることも怒ることもしなかった。
そんなわけで、私は学校にも行けず、家にいてもひとりだった。
でも、私にはよく行く場所があった。
それが、私の家の向かいにあるこの公園。
人通りが少ない早朝や夜中に、街頭の下のベンチで本を読んだり、ブランコに揺られたりしていた。
ここは住宅が近くにはあるが、人が集まるところではないし、早朝や夜中に通る人はなかなかいなかったので、居心地が良かった。
公園に通うようになって数日経ったある日、私はいつものようにその公園で本を読んでいた。
時刻は夜の9時、街灯に寂しく照らされたベンチは、孤立している自分にはピッタリの場所だった。
本にしおりを挟み、今日はもう帰って寝ようと思い、本を持って立とうとしたその時
「わっ!」
声がしたかと思うと、ベンチの後ろから誰かに触られた。私は驚きすぎて息が止まった。
心臓が爆速で鼓動し、身の危険を感じていた。
恐る恐る後ろを振り返ると、同い年くらいの女の子が立っていた。
顔が丁度街灯に照らされていてよく見える。
ニヤニヤしているその子を見て、少し腹が立った。
「何…」
その人のニヤついた顔を睨みながら、私を驚かせた理由を尋ねた。
「いやー別に。暇だったから驚かせてみようと思って」
その子は悪びれる様子もなく、ニコッと笑って言った。
「あなた、2組の上島さんだよね?こんなとこにいつも居るの?」
そう言われて、入学してすぐ不登校になったからあまり覚えてないが、もしかしたら同じクラスの人かもしれないと思った。
「違うよ。たまたま」
と私は嘘をついた。
何故この時間にここに来たのかはわからないが、先生や親に報告するかもしれないし、そうなったら絶対注意されるからもう公園に来るのはやめようと思った。
「そっか。あ、私1組の月谷百合だよ。」
私は別に聞きたかったわけじゃないが、彼女の名前がわかった。どうやら同じクラスではないらしい。
「はじめまして、だよね?何で私の名前は知ってるの?」
と私から彼女に聞いた。驚かせてきた後、すぐ私の名前を言ったことを不思議に思っていたからだ。
「友達から携帯で写真見せてもらったことあったから。最近学校に来てくれないんだって言ってた。」
「悪口とかじゃないよ?ただ相談みたいな感じだった。」
仲良くしていた3人の誰かが月谷さんに相談していたと知って申し訳なくなった。
「そっか。その子に、ごめんって言っておいてくれない?」
と月谷さんに伝えると
「自分で言いなよ」
と言われた。当たり前の反応だ。でも私はまだ学校に行く気にはなれないし言えるわけがない、しかし正論を言われてぐぅの音も出ず、押し黙ってしまった。
「言えない理由があるの?」
と私の隣に座りながら聞かれた。
「うん。でも何でかは言えない」
私は俯いて言った。学校に行けなくなったのは、私の勝手な理由だから理解されないだろうと思って理由は話さなかった。
「ふーん言いたくないなら無理には聞かないけど。」
「そんな事より、何で月谷さんはここにいるの?」
私は家が近いし、理由もあるからここに来ているが、近所に月谷さんという人は居ないから、何かのついでとは思えなかった。そして、私と同じ理由かもしれないと少し期待をしていた。しかし、月谷さんは
「気分転換」
とだけ答えた。
「気分転換か…私と同じだね」
理由は言いたくないのかもしれないし、彼女も深く聞かなかったのだから、私も深く聞かないようにした。すると、
「一緒なの?私と、」
と、月谷さんは期待を込めた目で私を見つめていた。私が、なんだろうと少し戸惑っていると、
「実はね、今親が喧嘩してて、居づらくて出てきちゃったの。それで行ける場所もなくてぶらぶら散歩してたら上島さんがいて、暇だから話しかけた。」
と不安そうに話し始めた。
「ごめんね、急に変な話して。でも、もしかして私みたいな悩みあるのかなって思って。良かったら話してくれない?」
私は迷ったが、月谷さんも話してくれたし私も、心の底では安心できる相手が欲しかったから話すことにした。親が喧嘩したあと離婚し、私は家に1人であること、その悩みを学校でも引きずってしまい友達と上手く話せなくなってしまったことを全て話した。
「そうだったんだ…ありがとう、そこまで話してくれるって思わなかった。」
と、冷静に言った後、月谷さんの身の上話を聞かせてくれた。
「私の今のお母さん、血が繋がってないんだ。産みの親は私を産んだあとすぐに浮気して出てっちゃって、お父さんは今の人と再婚したの。もう再婚して10年も経ったのに、今更になって戻ってきてさ。何話したかは知らないけど、再婚したいって言ったらしくて、お父さんも。」
私は驚いた。
「お父さんも再婚したがってるの?」
と言ってしまった。失礼かもしれないが、私だったらそんな勝手な人より、10年もの日々を育んで来た人を選ぶと思ったからだ。
「そ。むしろお父さんがやり直そうって言ってる感じ。それ聞いてお母さん、めっちゃ起こっちゃって。あ、育ててくれた方のお母さんね。」
「それは怒るよね…」
と同情の意味を込めて言った。今日あったばかりなのにそこまで話してくれるなんて、私も話したんだけれど。そこまで複雑な家庭とは思わず、気まずく感じていた。
「複雑でしょ?でも上島さんが色々話してくれたから言った。あと実は今の話、上島さんに初めて話した。先生にも友達にも言えてないの。だから聞いてくれてありがとう」
と月谷さんは安心したような笑顔で話した。
私と似たような悩みと私と同じ気持ちだったことに嬉しくなった。もしかしたら今日以降会わないから言ってスッキリしたかっただけかもしれないが、自分だけじゃないというのが嬉しかった。
「ううん、こっちこそ。初対面でこんなに話せると思わなかった。ありがとう。」
と感謝をした、そして
「さっきここに居るのはたまたまだって言ったけど、本当は最近ほぼ毎日ここに来てるの。ごめん」
と嘘をついたことを誤った。
「全然気にしてないよ。そっかじゃあまた会おうね。っていうか私たち、初対面なのにここまで意気投合するって凄くない?しかも、私も上島さんも始めて話したんだよ。」
と笑いながら言った。
「確かに。これからも悩み聞くよ」
と返した。ニコニコしている彼女に、自然と私も笑みが溢れた。
「ありがとう!私も聞く。他の人に話せないことも何か言える気がする。絶対ずっと友達でいようね。約束だよ」
そう百合ちゃんはニコニコしながら私に言ってゆびきりげんまんをした。私は、信用できる友達ができてとても嬉しかった。