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本編

 あれから、私は上島柚子葉と連絡を取り合うようになり、2ヶ月ほど経った。
 しかし、あの日、急に話しかけたものだから、はじめは私がメールを送っても、2つ返事でしか戻ってこないし、なかなかメールが返ってこなかった。
 なので、そろそろ遊びに行って仲を深めようと思い、
『やっほーなかなか事件の真相について近づかないから、ふたりで直接話したい!土曜日にカフェとかどう?』
と上島にメールを送った。

 すると数時間後、
『わかった。15時に駅前のカフェで待ってる。それでもいい?』
と返ってきた。

 連絡先を交換した日から、『今何してる?』『証言集めとかしたほうがいいかな?』など私からメールを送っていたが、『特に何も』『周りに怪しまれるよ』など、一文しか返って来なかった。
 今回も嫌だとか断れるものと思っていたが、遊びに行くことができそうで安心した。
『おけ!15時に駅前ねー』
とメールを送り返し、その日のやり取りは終わった。

ーーーー

 約束した土曜日の15時。
駅前につくと、上島がカフェの入口で立って待っていた。
 「ごめん!待ってた?」
と上島のいるところまで小走りで近寄り、声をかけた。
 「ううん、大丈夫」
と、いつもの低いテンションで返す上島。
はじめはテンションが低いのは警戒されているのだと思い、少し悲しい気持ちがあった林まゆだが、何回かやり取りをするうちに元々おとなしい性格なのだろうと思い、気にすることはなくなった。

 カフェにふたりで入り、林まゆはカフェオレを頼み、上島柚子葉はアイスコーヒーを頼んだ。
店内の一番端のテーブル席に座ると、早々に林まゆが話を切り出した。
 「で、本題なんだけど…まず何であんな噂広まってるの?」
と、悪意はなく、ただ知りたいからそう聞いた。
 「え?知ってて私に協力頼んだんじゃないの?」
上島は意外そうな声を出した。
 「知らないよ。噂聞いたのもこの間だし。」
そう言ったあと、林まゆはカフェオレを飲み始めた。
 「…話したくない」
上島は頼んだアイスコーヒーには手を付けず、また前のように俯いてしまった。
 「そっか。じゃあ月谷百合さんのことってなんか知ってるの?」
話したくないなら無理に聞かなくて良いと思い、深くは聞かず、他の話題をすることにした。
 「別に。」
 上島は俯いたまま冷たく返した。
 悪気はなく聞いている林まゆは、冷たく返してくる上島柚子葉に少し苛立ちを感じた。
 「別にって…私学校だと他の人には聞きづらくてさ、上島さんとか月谷さんのこと。ほら、皆聞くとピリピリし始めるし、上島さんのことを犯人って言ってるし。」
 「逆に、何でそんなに私のこと信じてくれるの?月谷さんと私の関係も、何で私が疑われてるかもしらないのに」
 少し苛立って話す林まゆに乗っかるように、俯いた顔をあげ、林まゆを睨むように見ながら話す上島。
 「それは、なんとなく。逆に深く知らないから、かなぁ。上島さんってそんなことするタイプには見えないし」
 少しバツが悪く、今度は林まゆが少し俯いて話した。
 「私、林さんが思うほど良い人じゃないよ。その事件のことも、私が疑われてるのは自業自得だし、ホームズとワトソンみたいな推理したいのかもしれないけど、本の読みすぎだよ。悪いのは私なの。あの事件は、推理するような事件じゃない。私…」
と、急に少し早口になり息が荒くなる上島。
 「ごめん。なんか癪に触った?」
と焦って謝るが、上島は「ごめん」と小さく言ってお金をテーブルに置き、足早に店を出ていった。

 頼んだアイスコーヒーも全く飲んでいないし、私はただ少し仲良くなれればって思っただけなのに。
と、店にひとり残された林まゆはモヤモヤしながらカフェオレを飲み干した。

 テーブルに置かれたお金を持ち、支払いを終えると、置かれていたお金は1000円、上島が頼んだアイスコーヒーは350円だったので、650円のおつりが出た。
 このおつりをもらってしまうのは悪いと思い、返しに行こうかと思ったが、上島の家がどこかはわからず、とりあえずお財布の中に入れた。

 携帯電話を取り出し、
『おつり返したいんだけど、今どこ?』
と上島にメールを送った。
 学校で返せば良いと思うかもしれないが、林まゆは呼び出したきり、上島に話しかけることができない。
 もしまた話しかけでもすれば、やっぱりあのふたり仲良くなったんだとヒソヒソと言われ、仲間外れにされるのは目に見えているからだ。


 メールを送り、林まゆが家に着いた頃、上島から
『返さなくても良いよ』
とだけ返信が来た。
 怒らせてしまった上にお金もらってしまうのは申し訳ないと思い、
『いや、返すって。今家?』
と返信をした。
『わかった。学校の近くの公園に行くから、そこで返して。』
と上島からメールの返信が来た。
学校の近くにある公園はひとつしかない。
遊具はブランコとシーソーだけ、あと砂場とベンチがひとつある、小さな公園だ。
学校から近いと言っても、隣合わせになってるわけではなく、数軒歩いた先にある公園だ。
小学生の頃、早苗とよく遊びに行っていたので覚えていた。
『私今家にいるから、ちょっと時間かかるけど待ってて』
と返信し、そこから待ち合わせの公園へと向かった。


ーーーー


 私は、林まゆにメールを送ったあと、すぐに公園へ向かった。
私の家は公園の向かい側にあり、家を出たらすぐにつく。
 林まゆとメールのやりとりをするようになってから2ヶ月が経ち、今はもう冬。
 肌寒い中ベンチに座り、コートのジッパーを一番上にまで上げ、背中を丸めて林まゆを待っていた。
 15分ほど経つと、林まゆが到着しベンチに座る私に話しかけてきた。
 「ごめん、これ、おつり。」
 バツが悪そうな顔をして、ポケットから小銭とレシートを渡してきた。
 「…私の方こそごめん。急に怒って」
 私と林まゆが一緒にカフェにいたとき、私は林まゆの言葉で昔のことを思い出し、激情した挙げ句、お店を飛び出してしまった。
 「いや、私が何か嫌なこと言ったんだよね、ごめん」
と林まゆが申し訳無さそうに私に言った。
 「…カフェでも言ったけど、私のこと何でそんなに信じてくれるの?あと、何で事件のことを知りたいの」
と、どうしても気になることを聞いた。
 私は、あの事件のことはできれば思い出したくないし、誰かに語りたくもない。そういう記憶なのだ。
 すると、暫く考えている様子を見せたあと、林まゆが話し始めた。
 「前から大人しい子だなとは思ってたんだよ。嫌われるような子なのかなって。
 でも、周りに聞いたら絶対私もなんか言われると思って聞けなかったの。でも2ヶ月前、私が上島さんを呼び出した日にね、聞いてみたの。上島さんって何かしたの?って。そしたら、月谷さんが死んだ事件の犯人だから、って言われたんだよ。何で気になるかって言われたら…ごめん、本当に興味本位なんだ。
 暫くメールのやりとりしてて、はじめは冷たい人なのかなって思ったけど、今日怒った様子見て思った。なんか抱えてるんでしょ?余計に知りたくなるよ。」

 そこまで言うと、林まゆは話すのを止めて上島の目を見つめた。
 上島は、林まゆは前から自分のことを嫌いなわけでもなく、冷やかしているわけでもないのだと改めて気がつき、心が落ち着くのを感じた。
 あの事件以来、上島は自分の殻に閉じこもり、噂を立てられても否定さえせず、悲しい気持ちのまま生活していた。

 そんな中、急に呼び出され冷やかしかと思ったが、自分のことを信じてくれる林まゆは、信じても良い人物かもしれない。と上島は考えていた。
 「今まで、事件について話せなかったのは、自分を守るためなの。」
 林まゆに見つめられながら、上島が重々しく口を開いた。
 それまで上島の前に立っていた林まゆは、上島の隣に座って
 「そうなんだ、続き聞いてもいい?」
と穏やかに返した。
 上島はその言葉にうなずいた。
 「私、月谷さんと…いや、百合ちゃんとは仲が良かったんだ。」
 そう林まゆに伝えると、
 「そうなの?知らなかった…他の人は知ってたのかな、」
と驚いた。
 「いや、知らないと思う。いつも夕方とか夜の人通りの少ない時間にこの公園で話してただけだから。」
と林まゆに返した。
 「そっか…」
とだけ返事をすると、林まゆはまた上島の方を向き、話の続きを待っていた。

 私が数ヶ月間閉じ込めていた嫌な記憶を話すと思うと、胸がドキドキしたが、少し話し始めると止まらなくなっていた。
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