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本編

ジリリリリリリリリリ

 目覚まし時計の音に唯一の安息を奪われ、目を覚ます。ベッドチェストに置いてある目覚まし時計に手を伸ばし、雑に腕を振り下ろし音を止た。
 今日は9月13日、特に何もない日だ。
 いつもと同じ、何も変わることのないつまらない1日。
 いつも、目覚ましに起こされた後は顔を洗いに1階へと降りる。
 洗面所で顔を洗う次いでに髪の毛も梳かして整える。ベッドから起き上がった時から足が重いのはいつもの事だ。
 きっとあの嫌な場所へ行きたくないと体が訴えているのだと思う。重い足を引きずるように歩きながら、朝ごはんを食べるためにキッチンへと向かった。
 冷蔵庫に入れてあったコンビニ弁当を取り出して電子レンジで温めて食べる。
 お弁当は大体スーパーで残って割引シールが貼られている物だ、いつも母が入れておいてくれるので自分で種類は選べない。
 今日はカルビ弁当だった。
 毎日身の回りの事は自分で済ませる。洗い物もその一つだ。といっても、食べ終わったコンビニ弁当のゴミを洗って捨てる程度だけど。
 そして歯を磨き、制服に着替えて鞄を持ったら家を出る。
 何も言わずに出て鍵を閉める。
 当たり前の事だ、家に誰もいないから何か言う必要もない。

 学校へ向かうのが一番の苦痛だ、特に最近は。
通学路の途中、空を見るとトンビが2匹のカラスに追われていた。地面を見ると蝶々が何者かに踏み潰されたように死んでいた。前を見ると、小学3年生くらいの男の子が、別の同じ歳くらいの男の子に肩をぶつけられ、よろめいていた。ぶつけた方は笑いながら通りすぎていき、ぶつけられた方がバツの悪い顔をしていた。
 最近よくそういうのが目に入る。嫌で見ると眉間に皺がよるようなものが目に入るのだ。
 でも、私の周りで起きる事なんてこんなもんだろう、と思っている。

 学校に近づくにつれて、息が苦しくなる。いつもそれが嫌で、せめてもの抵抗に少し遠回りして学校へ行く。今日も例外なくそうした。
 しかし、学校に着く時間が始業時間ギリギリになるだけで、別のどこかに逃げられるわけではない、歩いていると目的地である学校に着いてしまうもので、今日もまた嫌々ながら学校へと入っていった。

 自分の教室は2年2組だ、周りからは明るいとか元気なクラスと言われているらしい。私以外は、だけど。
 目を伏せながらクラスに入ると、教室内で談笑していたクラスメイトが一斉に声を止めた。俯いている顔はそのまま、目だけ少し上に上げて話しているクラスの人達をちらっと見ると、皆が冷たい目で見ていた。こちらを見た後、一斉にまた話始めた、しかし先程よりも声量は小さい。
 小さな声で話しては居るが、私に聞こえないように配慮してる訳ではない。クラス外に漏れないようにしているだけで、私の耳には「今日も来た」「よく来れるよね」「何で居るの?」とヒソヒソ話している声が聞こえてくる。
 バツが悪くて目をまた下に戻して、自分の席についた。

 これもいつもの事だ。変わらない、何もない私の日常の導入部分。特別変わった訳でもないのだから、今更悲しいとかは思わない。自業自得でもある。

 胸の重りを吐き出すように、ため息をついた。自分の席は窓側の一番前の席だ。
席に座って、特にやることもないので本を読む。時計を見ると8:02だった。あと少しでホームルームが始まるが、このアウェイな時間は登校から下校まで続く。
 これは私には変える権利のない、制裁だ。

ーーーー

ピピっピピっ

 スマホの軽いアラーム音がぼんやりと聞こえて、夢の中から意識が少し戻ったが、スマホを取りアラーム音を止めると、また毛布の中に戻り、二度寝を試みた。
 しかし、アラームを止めた後すぐに、
 「まゆー、まだ起きなくて良いのー?」
と、一階からお母さんの大きな声が聞こえた。
 私はまだ寝ぼけている頭で
 「わかってるーー」と、返事をした。
 ゆっくりベッドから下りて、スマホの画面を開く。
 今日は9月13日、金曜日だ。特に変わった行事はないけど、明日は休みだから少し心がはずんだ。
 一階に降りて、ご飯のいい匂いのする方に行くと、お母さんが台所で洗い物をしていた。テーブルには、目玉焼きとウインナーが作って置いてあった。
 椅子に座ると、温かいご飯をよそって置いてくれるので、「いただきます」と言って、食べ始める。
 ご飯を食べながら、電源の付いていたテレビを見ると、ニュース番組で天気予報をしていた。
『今日は一日、清々しい青空が広がるでしょう。』と話していた。今日は一日中快晴のようだ。
 支度して家を出る。玄関を開け、
「いってきまーす」と言うと、「いってらっしゃい」とお母さんの声がダイニングから聞こえてくる。
 家の鍵はお母さんが閉めてくれるから、自分では閉めていない。
 玄関から外に出ると、チュンチュンとすずめが鳴いていて、空は予報通り快晴だ。
 雨も降らないし、嫌な日ではなさそうだ。

 学校の校門近くまで来ると、目の前に友人の早苗の背中が見えた。
 「早苗おはよー」
と言って、後ろから肩を叩くと、同じように、
 「おはよー」
と返してくれた。
 挨拶を言った後すぐに、
 「まゆ、今日13日の金曜日だよね!」
と早苗に言われた。
 確かにそうだけど、それが何なのだろう。特別な学校行事は無いはずだ。
 「そうだけど、なんかあったっけ?」
と、首を傾げながら聞くと
 「えー、なんか縁起悪い日って言わない?」
と、返ってきた。そんなの聞いたことが無いし、何で縁起が悪いの?と聞いたけど、早苗はそこまで深くは知らないようだった。
 「何だー早苗も知らないんじゃん」
と冷やかすと、うるさいなーーとふざけた調子で返してきた。そんなこんなで駄弁りながら、クラスに着いた。

 まだホームルームまで時間があったから、荷物を自分の机の上に置いて、早苗の席で話す事にした。
 早苗の席は教卓から一番後ろの窓側の席だ。
 席替えの時に、窓側の一番前の席になってしまって、嫌だから、とあの嫌われてる子と席を変えてもらったらしい。早苗は先生に、「上島さんは目が悪いらしいので、上島さんと席を交換させて下さい」と言っていた。
 その時は、上島も別に嫌がって居なかったし、双方の一致だと思った。

 早苗と今日も授業嫌だねーとか、内容もない話で盛り上がっていると、あの子が来た。
前に、早苗と席を交換していた上島柚子葉だ。
 教室が一気に静まり返る。私と話してた早苗も、話すのを止めて睨んでいた。
 私は、別にそこまで嫌いな訳じゃないし、何で嫌われてるのかよくわからない。でも反発したら私がどうなるかわからないし、暗くて何考えてるかよくわからないから、とりあえず周りに合わせて遠ざけている。

 上島が席につくと、早苗が「よく来れるよね」と私に言った。小さめの声だったが、恐らく聞こえないようにする気はないと思われた。
 今まで気にしないふりをしてきたが、今日は妙に聞きたくなり、「そういえば、あの子って何したんだっけ、?」と早苗の耳元で囁いた。勿論、上島には聞こえないように。
すると、
 「は!?」
と私の顔を見て早苗が大きな声を出した。
 「な、何…?」
私が訳も分からずきょとんとしていると、
 「あいつが何したか知らないの…?」
と小声で言ってきたので、今まで知ったかぶりをしていたとバレないように、
 「いや、知ってたけど、何だったかなって思って…」
と誤魔化した。早苗は呆れた様子で、
 「まゆ、良い?あいつはね、あの学校の人気物だった百合ちゃんを殺したんだよ」
と私の耳元で言った。今度は誰にも、上島にも聞こえないようにしていると思われる。
 私は驚いた。だから皆からこんなに避けられてるんだと納得した。でも、あんな大人しい子がそんな事するのかな、とも思った。あと、殺す、なんて重罪だ。本当にそうなら毎日変わらず学校に来られる訳がないし、私のお母さんもそんな話全然しなかった。
 「ほ、本当に?」
 つい、早苗を疑うような返し方をしてしまった。
 「わかんないけど、皆そう言ってるよ」
と、少し怒ったような口調で返された。なんだ、噂なのか…
 すると、ホームルームの始まる時間になったので、周りの子が一斉に席に戻り始めた。
ちょっと気まずい空気を残したまま、私も席に着いた。

 確かに、私たちの学年には、人気者の月谷百合さんって女子が居た。とても明るくて優しくて可愛い女子。私なんて全く叶わないと思ってほとんど関わりは持って来なかったが、友達の早苗は百合さんと仲が良かった。
 しかし、学年が変わる直前に、誰かに殺害されたらしい。学校側からは、月谷さんは亡くなった、とだけ伝えられた。その時は、まさか私と同い年の、しかも同じ地域に住んでいる同じ学校の子が死んでしまうなんて思ってもみなくて、とても悲しかった。
 早苗は、噂を本当と思い信じて疑わないようだ。

 今まで気にしなかった分、なんだか気になり始めてきた。
 私は推理物の漫画とかドラマが大好きなのである。
まさか、上島が犯人と噂されてるとは知らなかった。何で噂されてるのか、気になる…

 担任の話はそっちのけで、私は机に肘をつき顔を上島に向けた。普通聞いたら怖がるような噂を、なぜか私は少しワクワクしていた。

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