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もし、未来が変えられるなら、
私は、過去を変えてしまいたい。
* * *
「ふああぁぁぁ....あぁ?」
的確に目元を狙った太陽の光で目を覚ました。体内時計は7時過ぎをさしている。少し寝坊をしたくらいだろう。むしろいつもより余裕のあるモーニングだ。気休めの敷布団のせいでいつまで経っても身体の疲れが取れない。そろそろ、なんて言うんだろう、他の世界の物を知った方が良いと思うんだ。古臭い物も考えも改めたらどうなんだい?尸魂界さんよ。
止まらない欠伸を受け入れながら、伝令神機のボタンを押した。
こんなことで落ち込まない。たとえ、午前の執務が終了しかけているからって落ち込まないのだ。
「おいそこのマッドサイエンティスト」
「おや、誰かと思えば~、小鳥遊サンじゃないっスか~?」
「クソ原、お前も遅刻かよ」
「いやいや、アナタの方が戦犯っスよ?」
「ばーか、私はそんなルールや掟に縛られる人間じゃあない」
「今日も清々しいくらい威張ってるっスねぇ」
昼時の瀞霊廷は午前の業務でやつれた死神たちが食堂へと向かっていた。その流れと逆らうように下駄を鳴らすインチキ科学者を見つけてしまった。
「あんまり遅いと流石の鉄裁サンも怒りますよん」
「ばーか、アイツは私に甘いのだ」
何も無いいつもの景色。
やることが無いっていうのは素晴らしい。(たくさんある)
今日も今日とて暇を持て余す私、小鳥遊茜はサボり癖と遅刻癖が直らないしたっぱ鬼道衆である。
* * *
「えー第三回、なんで小鳥ちゃんは出世しないんだ大会、はじめま~す」
うぇ~い、と気の抜けた歓声が上がる。当の本人は潔く熱燗に酒を注いでガン無視している。
「ハイ」
「おう、ひよ里」
「遅刻魔」
「諦めろ」
「ハイハ~イ!」
「白」
「小さすぎるから~!」
「白、そこになおれ」
気にも留めずに突っ込む茜はもはや達観としていた。
隊長格に並ぶ見た目小さい無名の彼女は違和感の塊でしかないが、店の店員にとっては見慣れた光景だった。潰れかけている隊長達の中、シラフで熱燗を注ぐ彼女の様子はこの店の名物になりかけている。
「なぁ、茜は悔しくないんか?」
「何が?」
砂肝を口に運びながら横目で見れば、いつもより柔らかい目つきをしたひよ里が不思議そうに問う。
「喜助のアホが最近隊長に就任、ハッチんとこの大鬼道長と隠密機動の長、茜の昔馴染みばっかやないか」
「...へえ、それで?」
「はぁ?」
「肩書も地位も興味ないんだよね~。めんどくさいしどうでもいいじゃん?」
「茜ちゃんらしいね」
「そもそもやりたいことも無いし、面倒事が増えるのは御免だね」
「...アホくさ」
「ひよ里~、バカ原が何かしたら私と夜一で叩き直してあげるよ」
「ホンマ喜助が泣くで??」
飲み仲間と馬鹿やって、毎日適当に過ごして、そんな日常が続けばいい。
「あ、潤林安の保護結界張り直さないとだわ」
「そろそろ真面目にやらないとハッチが過労死しちゃうよ...」
「しっかり仕事しろよ~、
「黙りやがれ、へっぽこ隊長ども」
口内だけ酒の味が残り、酔い足りない身体で飲み屋を後にした。
今思えば珍しく酔っていたのかもしれない。
僅かに違う違和感に気付かなかったあの日を、もう後悔したりはしないけれど。
『茜!いつもの場所に集合じゃ!遅れるでないぞ!』
何度再生したか分からない伝令神機の留守電は、もう聞き飽きてしまった。
そうだな、心残りがあるとすれば親友に一度でも鬼事で勝てなかったことかな。
『茜殿がもう少し真摯に職務を取り組めば、私も楽させてもらえるのですが...』
そう言って何度も働かせようと手を尽くす声を聞かずに済んでいるのはラッキーかもしれない。
諦めるということを知らんのだ、馬鹿三人は。特にあの髭は厄介だった。
『小鳥遊サンっスか?見た目を裏切らない名前っスね』
一々癇に障るあの声を。
『小鳥遊サン!次の実技で負けた方が今日の昼飯奢るってことでどうスか?』
どうスか?じゃない。毎回毎回私なら勝てると言わんばかりにご指名するな。
趣味に金を使いたい気持ちは分かるが、遠回しにたかるのはやめろ。
少しだけ悔しくなって特訓もどきに励んだ過去は墓場まで持っていく。
『縛道の練習付き合ってもらえませんか?』
『九十番台の鬼道の練習、付き合ってくれますよね?』
『卍解会得したんで、終わり次第地下まで』
あぁ、不服だ。
こんな男の留守電を百年以上聞き続けているなんて。
お前たちに出会わなければ、こんなに苦しまずに済んだのに。
空っぽなこの世界で今日も生きるしかなかった。
白い箱の屋根の上でまったり、猫のように。
「大鬼道長殿!お時間ですぞ!」
お預けを食らってしまった酒瓶を持ち上げ、今日も生きる。
平凡を奪ったアイツ等と根源を叩きのめすまでは。
過去は変えられない。未来は、これからだ。
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