公安に餌付けされたDJ
夢主の名前変換
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「ありがとう、色々付き合ってくれてお萩のご飯は美味しかったよ」
「おい」
「あはは!どういたしまして。なんか俺もすっかり藍里ちゃんの世界観にハマっちまったなあ」
「それは俺のお陰だろ。お前、何かあったら連絡しろよ」
「....うん、わかった」
またねと手を振る二人に、下手くそな作り笑いを浮かべた。またって、、次はいつだよ。重たい扉がバタンといつもより響いて、一瞬で静けさに包まれた。一人扉の前でしゃがみ込んでしまい、早く仕事をはじめないと、雇い主のメールも確認しなければと、無理やり切り替えるスイッチを押そうとしたその時。
ギイィ....
「ああ、やっぱりな」
「陣平ちゃん、大正解だね」
帰ったはずの二人が開いた扉から顔を出していて、ぽかんと口をが開いてしまった。
「ど、どうしたの?忘れ物?」
「藍里ちゃん来週どこか空いてる?またご飯食べたり、どっか遊びに行ったりしよ」
「ちゃんと飯食ってっか、生存確認できるしな」
「な、なに、どういうこと」
しゃがみ込む私の視線と合わせるように腰を下ろし、やれやれと頭に大きい手のひらを乗せてきた。
「これから何度も言うことになると思うけど、お前は一人じゃねえ。何回でも連れ回してお前の事振り回してやるから覚悟しとけ、バーカ」
「連絡先、松田にも教えるから、困ったことがあれば言うんだよ?あと、無茶はダメね」
なんだ、お見通しか。この二人は調子狂うなあ。
私がこの後泣かないように、寂しくなるのをかき消すために仕事に集中するの気付いてたんだ。
「....お節介」
「それは藍里ちゃんが俺を助けたのも?」
「うっ」
「ってことだ。じゃあな、鍵閉めろよ。あと寝ろ」
言いたいことだけ言ってそそくさと帰るじんぺーは絶対B型だと勝手に予想した。
「じゃあ、またね藍里ちゃん」
「うん、わざわざありがとう」
2回目に扉が閉まった時は、心が重く沈んでいなくて、頭の中で音符達が駆け巡っていた。
***
~♬
この繋ぎイマイチ過ぎる。でも絶対この曲は使いたいのに、これにハマる曲も無ければ繋がる曲も無い。いっそのことRemixしてしまおうか、でも流石に面倒だし。ハマりそうな曲のイメージは出来てるのに、もっとこう、~♬.....そうそうこういうって、流石に作曲は専門外だ。
ブースの前で手が止まってから40分。頭の中で自問自答を繰り返し続けていた。一体二人が帰ってから何日経過しただろう。没頭してしまう良いのか悪いのか分からないこの自分の癖は、そうそう治る気配が無さそうだ。
あれ、何か大事なことを忘れている気がする。一旦ブースから視線を外し上を見上げた。
あ、サーバーのシステム対策今日までだ。
初めて締め切りに追われる感覚に、汗がジワリと滲んできて急いでこの部屋を後にした。
「やばいやばい、すっかり忘れてたっと、、、ん?メールだ」
じんぺーかお萩か、パソコンのメールボックスを開くと、それは雇い主からの物だった。
『先日、関係無いフォルダを送付してしまった事に関して大変申し訳なかった。単刀直入に言うと、我々は警察関係者である』
「は?あ、やばい、ついに逮捕?」
『『ネームレス』の働きもあり、今回の事件の解決へと導くことが出来た。改めて、事件に巻き込んでしまったことへの謝罪と、尚且つ我々に情報を提供してくれたことの情報交換を踏まえて、今一度直接やり取りを交わしたい』
「......あ、ああ、なるほどね」
『勝手ながら、場所は〇〇ビル3階の会議室、三日後の15時から、返信は不要』
「なんて、、勝手な、、」
声に出したくないのに、思ってもみていなかった状況に頭を抱えそうだった。
頭の中で流れていた理想のメロディーは一気に消え去った。
どうしよう....
「降谷さん、そう簡単に姿を現すとは思えません」
「いや、この前の事件の過程できっと違法作業をしているに違いないし、どっちにしろこちらも本気を出せばネームレスの居場所を特定できるはずだ。仮に悪意が無いのであればやってくると踏んでいる」
「もし、組織の人間や犯罪者だったらどうするんですか」
「組織の人間が警察の事件にお節介焼く訳ないだろ」
ファイルを送付してしまったのはこちら側のミスである。だが、正義感溢れるネームレスの行動によって何事も無く事件が片付いたと言っても過言ではない。
「しかも、現場のタワーマンションで爆発物処理班の近くに協力者らしき者がいたと報告されている」
「!?それは本当ですか」
「恐らく、な」
あのやり取りの中で恐らくハッキングもしている筈だ。何かと使える気がする。
「...降谷さんお一人で行かれるんですか?」
「?ああ、そうだが」
「念の為、私もついて行きますよ」
「なんだ、上司に不満か?」
「いえ、決してそういう意味ではなくてですね」
「まあ、武器を所持していたら面倒だな。誰か身を潜めてサポートをつけるのもありか」
(自分じゃ頼りないんですか、降谷さん......)
しかし、今手が空いているものとなると、、
降谷はざっと周りの様子をうかがい始めた時、絶妙なタイミングで声を掛けてきた人物が後ろに立っていた。
「ゼロ!頼まれてたデータ持ってきたよ!」
「ヒロ!丁度いい所に!少し頼みがあるんだが」
***
「『ちょっと仕事が立て込んでるから、来週末になりそう』っと」
ついに3日後の今日となった。逃げも隠れも出来ない状況に、今日何度目かのため息を吐いた。きっと違法作業していることはバレているだろう。まさか警察だったなんて思わないじゃないか。警察に通報しろって言ったのバカみたいじゃないか。
仮にここで行かなかったとする、その方が疚しいことがあるのではないかと疑われるのがオチ。もし捕まえるのであれば、こんな感謝のメールはしてこない筈だ。
いつものラフな格好に身を包み、大きめのマウンテンパーカーを羽織った。時間まで近くの楽器屋とCDショップに出掛けよう。ネット音源を聞き比べていつも購入しているが、実際の使い心地が気になる機材を見つけた為、少しだけワクワクしている。
歩きたくない、動きたくない、家から出たくない人間な為、移動はもちろんタクシー。待ち合わせまであと2時間。片っ端から機材を比べて、最新のヒットチャートを頭に叩き込まなくては。
19年生きてきて、私は未だに自分の悪い癖を理解できていないみたいだった。
15:20
(__来る気配が、無い......)
誰も使われていないこのビルは、時間になっても人が訪れる気配は無かった。僕の見込み違いだったようだ。あれだけの仕事をこなせる人物に単純に会ってみたいという気持ちが自分の中にあった。
右耳のインカムからは「どうする?」と待機する親友の声が聞こえた。
ここまでか....トンっと無造作にタップし口を開いた瞬間__
ダッダッダッダッ!
来た。一応姿を確認してから鉢合わせしよう。撤収と開きかけていた口で「構えろ」と呟き、部屋の物陰で動向を伺った。
階段を駆け上がる音が小さくなり、すぐに会議室と書かれたこの部屋の扉が開いた。
「?誰も居ないじゃん」
だいぶハスキーな声がしんと静まった空間に響いた。
(男?女か?)
顔は見せられないのか大きめのマスクをしていて、目が見えないくらい深くキャップを被り、その上にまたパーカーのフードを被せている。手首から覗かせる腕時計を見つめる人物は、ドンッと持っていた段ボール箱をそっと置いた。
(なんだ、あの段ボールは.....まさか、、爆弾か?!)
なんてことだ、武器どころの騒ぎではないじゃないか。
相手は凄腕のハッカーだ、遠隔操作や制御装置を操ることすらお手の物だろう。
だが、爆弾を持ってきてのこのこと階段で足音を立てて侵入を図るだろうか。
いや、考えている時間は無い。
「!?」
時計を見つめる奴の隙をつき、すぐに体勢を崩して馬乗りになって手首を拘束した。簡単に捕らえられたターゲットの手首は異常なくらい細くて折れてしまいそうだった。
「さあ、もう逃げられないぞ。早く爆弾の解除をしろ」
「ば、爆弾!?ど、どこどこ?!」
「何を言っている。お前の用意した段ボールの中に決まっているだろう!」
「はあ?そっちこそ何言ってんの、、って。」
キラキラした大きな瞳が途端に輝きだし、慌てて大きな声を上げた。
「お、お弁当のお兄さん!?」
「お弁当?__ああ、お前、確かどこかで、、」
「お弁当!ご馳走様でした!」
この状況で何を言ってるんだ。インカムからは耐え切れずクスクス笑う親友の声を拾い上げていて、少しだけイラっときた。
段ボールの中をよく見ると、何やら怪しい機械のようなものは多いが、爆発物とみられる類の物では無さそうだ。手首を開放し、先に立ち上がると彼女はそのまま座り込んだ。
「あの筑前煮めっちゃ美味しかった!惣菜食べても味気なかったくらい!」
「そ、そうか、お粗末様、、」
『ぶはっ!ククッ、、』
(__ヒロ、あとで覚えておけ)
そうだ、今日の目的は彼女を捕えるために来たわけではないのだ。
座り込んでお礼を言う彼女の前に、雰囲気をがらりと変え自分も片足を地面に預けて視線を合わせた。
「さっきは済まなかった。君の協力のお陰でこの間の事件は一人も負傷者を出さないで済んだ」
(_同期を失うところでもあったのだ)
「それは、良かったですね」
先ほどのお礼をしてくれたテンションは何だったんだ。急な他人行儀に狼狽えそうだった。全体の顔つきははっきりと分からない。か弱そうな彼女を危険に晒してしまうかもしれないが、しかし手段を選んでいる暇はない。これから最も危険な捜査を始める前に、手駒は多いに越したことはない。
「僕は、警察庁警備局警備企画課所属の降谷零だ。改めて、君を正式な協力者として迎え入れたい」
「ごめんなさい、嫌です」