公安に餌付けされたDJ
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父のお気に入りのヘッドフォン。メーカーの関係者が父のために作ってくれたやつ。
低音のブーストに加えて、細かい音も聞き逃さない作りをしているそうだ。あの頃の私はそんなの理解出来なかったけれど。
「ねえ、お父さん、なんでDJになったの?」
「お?藍里もお父さんのお仕事に興味が湧いたか??」
「いや、なろうとは思わないけど」
ガーンと効果音が聞こえるくらい落ち込んでいる父だが、すぐに真剣な顔をした。
「DJってな音だけを繋ぐんじゃない、人を繋ぐんだ。俺はこれを始めてから色んな人に出会えた。俺をきっかけにフロアで出会った人達、俺のリミックスで新しいアーティストと出会えた人達、俺はその架け橋なんだ。どうだ?DJ、格好良いだろ?」
知ってる、だから私もそんな父に憧れた。何か意味を持ってDJをしている父が格好良かった。
じゃあ、私は何のために.....?
「___ははっ!まだそこまで考えるのはまだ早いな!
でも、色んな人と繋がりを持った時、お前には何が見えて、何が聴こえるんだろうな.....」
***
〜♬
(___あれ、このREMIX、この前のセトリに入れたやつ、、、)
懐かしい夢を見た気がする。正直もう少し見ていたかった気もする、数少ない父が格好良かった場面だったのに。そんな私もEDMが流れたら目が覚めるなんて、DJとして板が付いてきたかもしれないな。
「本当陣平ちゃんこの曲好きだねえ」
「単体でも良いけど、やっぱりアイツの繋ぎからこの曲聞くのとじゃ比べものにならねえな」
「大ファンじゃん」
「うっせえ」
ズンズンと自分にとって心地良い低音の頭打ちが響き、車の後部座席で横たわっていたことに気付いた。あれ、どうしてこうなったんだっけ。最近、記憶を思い出す作業が多くないか?確か、爆弾があるタワーマンションに勢いで駆けつけて、、、
「お?この子お目覚めだよ?」
「起きたか。このまま警視庁に連行するからな」
「え、逮捕されんの?」
そうだ、、テレビ局のマスコミに怒鳴り散らした挙句、警察官の目の前でジャックすると宣言した気がする。そりゃあ現行犯逮捕だ。ああ、さようなら私のDJ道、、、
「お嬢ちゃん、俺の事助けてくれてありがとうね。少し事件のお話聞くだけだから付き合って」
「....へ?現行犯逮捕じゃ、、」
「バーカ、事情聴取だっつったろ」
「犯人の居場所を特定して、遠隔操作を断ち切ってくれたんだろ?そんなの恩人じゃん」
よく見ると前に座る二人は警察官の格好だ、違法操作したことは良いのか、、?
果たして、警察官として良いのか、、?
寝癖を少し整えて、口元まで下がっていたマスクを目元のギリギリまで上げ、後部座席へ座り直した。
「お兄さん達に、事情聴取して貰うから家の近くで降ろして」
「はあ?居場所から連絡先まで情報掴んで、今回の犯人止めたんだから表彰もんだぞ?」
「いいよ、そんなのいらない。たまたま手に入った情報だし」
「__何か行きたくない理由でもあるんじゃないの?」
今回手に入った情報は、ホワイトハッカーである私が本当にたまたま手に入ったものだ。しかも、それを事情聴取されては、後々密輸取引の情報を手に入れたこと、警視庁のサーバーを覗いたこと、流石にバレてはまずいだろう。DJとホワイトハッカーをしているからには易々と身元を明かす訳にもいかない。さて、どうしたものか、、
困り果てた私に、前を向いていた助手席のチャラそうな男が身を乗り出してニコニコと振り返った。
「じゃあさ、今度俺達にお礼させてくんない?」
「「はあ??」」
いや、何言い出しちゃってんのこの人。
「おい、ハギ。俺も巻き込むな、しかも帰ったら爆処の先輩にドヤされんぞ?」
「だって、この子困ってそうだし、俺が上手いように言いくるめるからさ!」
大音量のEDMに二人の口論が始まり、車内は大渋滞だ。でも、背に腹は変えられないという奴なのでは?
「わかった、お兄さんに乗った」
「お?いいねえ。お嬢ちゃん的にも都合がいいでしょ?」
「お前ら勝手に決めんなよ。ったく、しょうがねえなあ。おい家どこだ」
「家の前まで行かなくていいから、ここの近くのデパートで下ろして」
「りょーかい」
(有難いけど、本当にこの人達警察か?)
久々に人と話をしているなあと、呑気にそんなことを考え出してしまうくらい、この二人が作る雰囲気は居心地がいい気がした。きっとあの夢を見たせいかもしれない、『繋がり』か、、、
「ハギ、この曲飛ばして」
「あいよ」
「え、なんで?」
(あ、やば。つい声に出しちゃった)
「お?今時の女の子がEDM好きなんて珍しいねえ」
「これ悪くはないんだけど、ドロップまでの持って行き方が微妙なんだよな」
「___へえ、、」
EDMにおいてサビがいちばん盛り上がる場所とは限らない。一般的に歌が無くなり、インストのみで演奏される部分を『ドロップ』と言って、フロアが一番盛り上がる。ただ、その山場に持って行くのはセンスが問われる。
確かにこの曲のドロップ自体は良かったが、無理矢理感が目立っていた気がする。日本人はドロップよりサビを好む印象がある為、そこに意識して聞いているこいつなかなかいいセンスしてるじゃん。
「やっぱりアイツのREMIXとセトリの繋ぎが一番だな」
「『DJ @iri』??俺も最近車で流すようになったもんなあ」
「なっ?!」
(まさか、私のこと知ってる奴だったのか!?)
「あ?どうした?」
「い、いや別に」
「陣平ちゃん怖いって、女の子に優しくしないと!」
「うっせーハギ。お前みたいに女なら誰にでも優しくねえんだよ俺は」
(ん?『陣平』?『ハギ』?___いや、まさかね)
あまり耳にしないように、鞄の中に入れておいたスポーツドリンクを口に含んだ。
「ったく、お前 @iriのコメントにも可愛いとか書いてなかったか?」
「だって、あれはどう見ても可愛い子猫ちゃんだね!」
「ぶっ!?」
「はあ?!汚えなお前!誰の車だと思ってんだよ!」
「...すびばせん」
確信した、こいつら『じんぺー』と『お萩』だ。
これはとんでもない状況になってしまった。絶対要らないことを口にしないようにしたいところだが、じんペーには少し聞いてみたいことがある。
「...ねえ、その『DJ @iri』ってすごい?」
「なんだ?お前も興味あるのか?凄いなんてもんじゃねえよ、あれだけ考えられたセットリストに毎回全然違うライブやってさ、おまけに一つ一つのREMIXのクオリティも高え。いつか会ってみたいくらいだな」
(__目の前にいますよ)
さっきまでの厳つい雰囲気が無くなり、柴犬みたいに笑いながら話しているじんぺー。
実際に声で感想を聞くのって全然違うんだな。
マスクで隠れた口元は二人には見えない為、思いっきり口角が上がってしまった。
「そういえば、この前の待機中生配信見てたのバレて大変だったよねえ」
「あの時の先輩の説教まじで長かったな」
「ふふっ」
「あ、そういえば、名前は?あと連絡先教えて〜」
「お前が言うと本当チャラいな」
やっぱりチャラいんだなと思いながら、鞄からメモ帳を取り出し連絡先を書いて前に手を伸ばした。
「橘です。これに連絡して」
「橘何ちゃん?」
「次会った時のお楽しみかな」
「「?」」
(お萩はともかく、じんぺーとは仲良くなれそうだな)
『おっはよ〜橘ちゃん。今日の14時杯戸中央デパート集合ね。お洒落した橘ちゃん楽しみだな〜!』
うん、チャラい。チャラいの極みだ。あの後もこのデパートで降ろしてもらった。この近くに住んでいるとわかっている為、集合場所に指定してくれたようだ。こちらとしても好都合だ。
(「色んな人と繋がりを持った時、お前には何が見えて、何が聴こえるんだろうな」)
お父さん、今日がその第一歩かもしれない。
お洒落とはいえないダボダボのスウェットを着て、軽く化粧をした。この前とほぼ同じ格好に自分でもびっくりするくらいお洒落に興味ないんだなと思った。
出かける前に、DJブースの部屋に入りいつものようにターンテーブルに手を置いた。
「....よし、、行ってきます」
「やっほ〜、この前ぶりだね〜」
「.....」
「.....」
「え?何この温度差」
デパートに着くと、ラフな格好でお茶している二人を見つけた。いつもの調子のお萩となんで俺までと聞こえてきそうな顔をしているじんぺーだった。
二人には申し訳ないが、今日は私のペースで行かせてもらうぞ。
「早速だけど、今日は私へのお礼ってことでいいんだよね」
「ん?まあ、そうだけど」
「じゃあ、とりあえず家に来て」
「「は?/はい?」」
集合してすぐ様家に来いと言った私に動揺していたが、二人は私の後ろをちゃんとついてきてくれた。デパートから結構近い我が家に二人は目を見開いて驚いた。
「え?ここお前んち?」
「そう」
「大き過ぎない?」
「まあ、お父さんの仕事のせいかな」
仕事の部屋やら機材の部屋やら増えて増えて結局今に至るこの家は、ここら辺で一番大きい家だ。お礼をしにきたはずの二人だが、思いがけないこの状況にパニックになっているようだった。
「この前、結局車の中でも事情聴取してくれなかったよね、気使ってくれてありがとう」
「...気付いてたんだ」
「先にお礼させて、私の事知ってもらってから色々話したいから」
「おい、一応男だぞ?少しは警戒しろよ」
「だってお巡りさんでしょ?」
「「...........」」
家にあがってもらい、すぐに奥の部屋へと案内した。準備があるからと理由をつけ、いいよと言ったら部屋に入ってと声をかけた。
(___喜んでくれますように)
***
「なんなんだ?アイツ」
「さあ?でもお礼っていうくらいだから、きっといいことだよ」
「まあ、自分の話全然しないしな、にしてもアイツの声聞いたことある気がするんだよなあ」
「なーに?元カノに似てるとか?」
「馬鹿。お前みたいに女のことばっかり考えて生きてる人間じゃねえよ」
「流石に俺も傷つくよ、陣平ちゃん、、」
萩原がお礼したいってうるさくて、まあ、親友の恩人ではあるししょうがないなとついてきたはいいが、正直この状況はなんなんだろうと思う。こちらがお礼をしにきた筈なのに、急に家に連れて行かれ今は部屋の前で待っていろと言われたこの状況。家族でもいたらやばいだろ、お父さんがどうのこうのって言ってたよな?
もういいから、早くしてくれ、、、
「いいよ〜」
「お?いいって、入るよ〜!」
部屋の扉の前でハギが律儀に大きく声をかけ、ドアノブに手をかけた。
中は薄暗くて、機材の雑音が微かに聞こえた。お礼っていうから何か飯とかかと思ったら全然違うらしい。何が始まるんだ?
そう考え込んでいる俺の前にパッとライトが当たり、画面で見慣れた女が立っていた。
もう訳がわからないこの状況に、咄嗟に口元を隠したくて掌で覆った。
「じんぺー、お萩、これから私なりのお礼を始めるね」
「嘘、マジかよ」
「陣平ちゃん、顔にやけずぎ」
そんなこと言って、お前も満更じゃないだろ。
ブースに立つ彼女は、マイクを持って小さく呟いた。
「『DJ @iri』いや、橘 藍里。これからよろしくね」
ブース全体が見えるようにライトが当たった瞬間、ゾワっと体が震えた。
ヘッドフォンを耳に当て、パソコンをいじる姿が目の前に。
フェードインしていく音に、夢じゃないんだと胸がざわついた。
「Are you ready?」
25時、じゃないけど、今日も音が鳴る。
低音のブーストに加えて、細かい音も聞き逃さない作りをしているそうだ。あの頃の私はそんなの理解出来なかったけれど。
「ねえ、お父さん、なんでDJになったの?」
「お?藍里もお父さんのお仕事に興味が湧いたか??」
「いや、なろうとは思わないけど」
ガーンと効果音が聞こえるくらい落ち込んでいる父だが、すぐに真剣な顔をした。
「DJってな音だけを繋ぐんじゃない、人を繋ぐんだ。俺はこれを始めてから色んな人に出会えた。俺をきっかけにフロアで出会った人達、俺のリミックスで新しいアーティストと出会えた人達、俺はその架け橋なんだ。どうだ?DJ、格好良いだろ?」
知ってる、だから私もそんな父に憧れた。何か意味を持ってDJをしている父が格好良かった。
じゃあ、私は何のために.....?
「___ははっ!まだそこまで考えるのはまだ早いな!
でも、色んな人と繋がりを持った時、お前には何が見えて、何が聴こえるんだろうな.....」
***
〜♬
(___あれ、このREMIX、この前のセトリに入れたやつ、、、)
懐かしい夢を見た気がする。正直もう少し見ていたかった気もする、数少ない父が格好良かった場面だったのに。そんな私もEDMが流れたら目が覚めるなんて、DJとして板が付いてきたかもしれないな。
「本当陣平ちゃんこの曲好きだねえ」
「単体でも良いけど、やっぱりアイツの繋ぎからこの曲聞くのとじゃ比べものにならねえな」
「大ファンじゃん」
「うっせえ」
ズンズンと自分にとって心地良い低音の頭打ちが響き、車の後部座席で横たわっていたことに気付いた。あれ、どうしてこうなったんだっけ。最近、記憶を思い出す作業が多くないか?確か、爆弾があるタワーマンションに勢いで駆けつけて、、、
「お?この子お目覚めだよ?」
「起きたか。このまま警視庁に連行するからな」
「え、逮捕されんの?」
そうだ、、テレビ局のマスコミに怒鳴り散らした挙句、警察官の目の前でジャックすると宣言した気がする。そりゃあ現行犯逮捕だ。ああ、さようなら私のDJ道、、、
「お嬢ちゃん、俺の事助けてくれてありがとうね。少し事件のお話聞くだけだから付き合って」
「....へ?現行犯逮捕じゃ、、」
「バーカ、事情聴取だっつったろ」
「犯人の居場所を特定して、遠隔操作を断ち切ってくれたんだろ?そんなの恩人じゃん」
よく見ると前に座る二人は警察官の格好だ、違法操作したことは良いのか、、?
果たして、警察官として良いのか、、?
寝癖を少し整えて、口元まで下がっていたマスクを目元のギリギリまで上げ、後部座席へ座り直した。
「お兄さん達に、事情聴取して貰うから家の近くで降ろして」
「はあ?居場所から連絡先まで情報掴んで、今回の犯人止めたんだから表彰もんだぞ?」
「いいよ、そんなのいらない。たまたま手に入った情報だし」
「__何か行きたくない理由でもあるんじゃないの?」
今回手に入った情報は、ホワイトハッカーである私が本当にたまたま手に入ったものだ。しかも、それを事情聴取されては、後々密輸取引の情報を手に入れたこと、警視庁のサーバーを覗いたこと、流石にバレてはまずいだろう。DJとホワイトハッカーをしているからには易々と身元を明かす訳にもいかない。さて、どうしたものか、、
困り果てた私に、前を向いていた助手席のチャラそうな男が身を乗り出してニコニコと振り返った。
「じゃあさ、今度俺達にお礼させてくんない?」
「「はあ??」」
いや、何言い出しちゃってんのこの人。
「おい、ハギ。俺も巻き込むな、しかも帰ったら爆処の先輩にドヤされんぞ?」
「だって、この子困ってそうだし、俺が上手いように言いくるめるからさ!」
大音量のEDMに二人の口論が始まり、車内は大渋滞だ。でも、背に腹は変えられないという奴なのでは?
「わかった、お兄さんに乗った」
「お?いいねえ。お嬢ちゃん的にも都合がいいでしょ?」
「お前ら勝手に決めんなよ。ったく、しょうがねえなあ。おい家どこだ」
「家の前まで行かなくていいから、ここの近くのデパートで下ろして」
「りょーかい」
(有難いけど、本当にこの人達警察か?)
久々に人と話をしているなあと、呑気にそんなことを考え出してしまうくらい、この二人が作る雰囲気は居心地がいい気がした。きっとあの夢を見たせいかもしれない、『繋がり』か、、、
「ハギ、この曲飛ばして」
「あいよ」
「え、なんで?」
(あ、やば。つい声に出しちゃった)
「お?今時の女の子がEDM好きなんて珍しいねえ」
「これ悪くはないんだけど、ドロップまでの持って行き方が微妙なんだよな」
「___へえ、、」
EDMにおいてサビがいちばん盛り上がる場所とは限らない。一般的に歌が無くなり、インストのみで演奏される部分を『ドロップ』と言って、フロアが一番盛り上がる。ただ、その山場に持って行くのはセンスが問われる。
確かにこの曲のドロップ自体は良かったが、無理矢理感が目立っていた気がする。日本人はドロップよりサビを好む印象がある為、そこに意識して聞いているこいつなかなかいいセンスしてるじゃん。
「やっぱりアイツのREMIXとセトリの繋ぎが一番だな」
「『DJ @iri』??俺も最近車で流すようになったもんなあ」
「なっ?!」
(まさか、私のこと知ってる奴だったのか!?)
「あ?どうした?」
「い、いや別に」
「陣平ちゃん怖いって、女の子に優しくしないと!」
「うっせーハギ。お前みたいに女なら誰にでも優しくねえんだよ俺は」
(ん?『陣平』?『ハギ』?___いや、まさかね)
あまり耳にしないように、鞄の中に入れておいたスポーツドリンクを口に含んだ。
「ったく、お前 @iriのコメントにも可愛いとか書いてなかったか?」
「だって、あれはどう見ても可愛い子猫ちゃんだね!」
「ぶっ!?」
「はあ?!汚えなお前!誰の車だと思ってんだよ!」
「...すびばせん」
確信した、こいつら『じんぺー』と『お萩』だ。
これはとんでもない状況になってしまった。絶対要らないことを口にしないようにしたいところだが、じんペーには少し聞いてみたいことがある。
「...ねえ、その『DJ @iri』ってすごい?」
「なんだ?お前も興味あるのか?凄いなんてもんじゃねえよ、あれだけ考えられたセットリストに毎回全然違うライブやってさ、おまけに一つ一つのREMIXのクオリティも高え。いつか会ってみたいくらいだな」
(__目の前にいますよ)
さっきまでの厳つい雰囲気が無くなり、柴犬みたいに笑いながら話しているじんぺー。
実際に声で感想を聞くのって全然違うんだな。
マスクで隠れた口元は二人には見えない為、思いっきり口角が上がってしまった。
「そういえば、この前の待機中生配信見てたのバレて大変だったよねえ」
「あの時の先輩の説教まじで長かったな」
「ふふっ」
「あ、そういえば、名前は?あと連絡先教えて〜」
「お前が言うと本当チャラいな」
やっぱりチャラいんだなと思いながら、鞄からメモ帳を取り出し連絡先を書いて前に手を伸ばした。
「橘です。これに連絡して」
「橘何ちゃん?」
「次会った時のお楽しみかな」
「「?」」
(お萩はともかく、じんぺーとは仲良くなれそうだな)
『おっはよ〜橘ちゃん。今日の14時杯戸中央デパート集合ね。お洒落した橘ちゃん楽しみだな〜!』
うん、チャラい。チャラいの極みだ。あの後もこのデパートで降ろしてもらった。この近くに住んでいるとわかっている為、集合場所に指定してくれたようだ。こちらとしても好都合だ。
(「色んな人と繋がりを持った時、お前には何が見えて、何が聴こえるんだろうな」)
お父さん、今日がその第一歩かもしれない。
お洒落とはいえないダボダボのスウェットを着て、軽く化粧をした。この前とほぼ同じ格好に自分でもびっくりするくらいお洒落に興味ないんだなと思った。
出かける前に、DJブースの部屋に入りいつものようにターンテーブルに手を置いた。
「....よし、、行ってきます」
「やっほ〜、この前ぶりだね〜」
「.....」
「.....」
「え?何この温度差」
デパートに着くと、ラフな格好でお茶している二人を見つけた。いつもの調子のお萩となんで俺までと聞こえてきそうな顔をしているじんぺーだった。
二人には申し訳ないが、今日は私のペースで行かせてもらうぞ。
「早速だけど、今日は私へのお礼ってことでいいんだよね」
「ん?まあ、そうだけど」
「じゃあ、とりあえず家に来て」
「「は?/はい?」」
集合してすぐ様家に来いと言った私に動揺していたが、二人は私の後ろをちゃんとついてきてくれた。デパートから結構近い我が家に二人は目を見開いて驚いた。
「え?ここお前んち?」
「そう」
「大き過ぎない?」
「まあ、お父さんの仕事のせいかな」
仕事の部屋やら機材の部屋やら増えて増えて結局今に至るこの家は、ここら辺で一番大きい家だ。お礼をしにきたはずの二人だが、思いがけないこの状況にパニックになっているようだった。
「この前、結局車の中でも事情聴取してくれなかったよね、気使ってくれてありがとう」
「...気付いてたんだ」
「先にお礼させて、私の事知ってもらってから色々話したいから」
「おい、一応男だぞ?少しは警戒しろよ」
「だってお巡りさんでしょ?」
「「...........」」
家にあがってもらい、すぐに奥の部屋へと案内した。準備があるからと理由をつけ、いいよと言ったら部屋に入ってと声をかけた。
(___喜んでくれますように)
***
「なんなんだ?アイツ」
「さあ?でもお礼っていうくらいだから、きっといいことだよ」
「まあ、自分の話全然しないしな、にしてもアイツの声聞いたことある気がするんだよなあ」
「なーに?元カノに似てるとか?」
「馬鹿。お前みたいに女のことばっかり考えて生きてる人間じゃねえよ」
「流石に俺も傷つくよ、陣平ちゃん、、」
萩原がお礼したいってうるさくて、まあ、親友の恩人ではあるししょうがないなとついてきたはいいが、正直この状況はなんなんだろうと思う。こちらがお礼をしにきた筈なのに、急に家に連れて行かれ今は部屋の前で待っていろと言われたこの状況。家族でもいたらやばいだろ、お父さんがどうのこうのって言ってたよな?
もういいから、早くしてくれ、、、
「いいよ〜」
「お?いいって、入るよ〜!」
部屋の扉の前でハギが律儀に大きく声をかけ、ドアノブに手をかけた。
中は薄暗くて、機材の雑音が微かに聞こえた。お礼っていうから何か飯とかかと思ったら全然違うらしい。何が始まるんだ?
そう考え込んでいる俺の前にパッとライトが当たり、画面で見慣れた女が立っていた。
もう訳がわからないこの状況に、咄嗟に口元を隠したくて掌で覆った。
「じんぺー、お萩、これから私なりのお礼を始めるね」
「嘘、マジかよ」
「陣平ちゃん、顔にやけずぎ」
そんなこと言って、お前も満更じゃないだろ。
ブースに立つ彼女は、マイクを持って小さく呟いた。
「『DJ @iri』いや、橘 藍里。これからよろしくね」
ブース全体が見えるようにライトが当たった瞬間、ゾワっと体が震えた。
ヘッドフォンを耳に当て、パソコンをいじる姿が目の前に。
フェードインしていく音に、夢じゃないんだと胸がざわついた。
「Are you ready?」
25時、じゃないけど、今日も音が鳴る。