公安に餌付けされたDJ
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「な、なんだこれ、、、」
2日ぶりの睡眠の割にうまく働かない頭は、この事態を理解できそうにない。
「めっちゃ良い声~!」「次から歌も歌って欲しい~!」
ガンガン鳴り響く頭で必死にその時の様子を思い出していた。気分が高まり過ぎた勢いで軽はずみに口ずさみ、極力下を向いてDJプレイしていた今までの苦労を一瞬の微笑みで全て台無しにしてしまった。
「やっちまった、、、ん?『フード被ってるけど可愛い子猫ちゃんだね』、、、、、」
くっさいコメントを見つけて言葉すら失ってしまった。なんだこの『お萩』ってやつ、絶対チャラいだろ。いくら画面をスクロールしても、顔が良いだの悪いだの、声がどうのこうのと自分のDJプレイに関するコメントが見つからない。だからDJオンリーで今までやってきた。
正直、男か女か分からない感じがミステリアスでウケていたと思っていたのに、、今更ボイスチェンジャー使っても逆に無駄な抵抗だよなあ、、
お?これは、、
『マッシュアップ良かった。その後のスクラッチで2曲から1曲になるが物足りなく感じさせないところが流石だった。後半手元崩れてた気がするが、今日もなかなか楽しめた』
今までのコメント等すべて忘れて何度もそのコメントを読み返した。自分の自信作に望んでいた誉め言葉を見つけて誰かにこのライブが届いたのだと、無性に嬉しくなった。
やるじゃんこの『じんぺー』ってやつ!しかも最後疲れ果てて手元狂ったのもちゃんと指摘してる。経験者か?普段押さないコメント欄のハートマークが赤く色づき、思わず微笑んだ。
***
パッサパサのカロリーメイトチョコ味を最低でも腹に入れた方が良いだろうと口に突っ込み、それに絶対合わないであろうスポーツドリンクに口を付けた。昔は食に関心があったのだろう、今ではこれが食べたいあれが食べたいという感情が消えた。
お世辞にも美味しいと思えない組み合わせに、ふと童顔の彼から貰った弁当の味を思い出した。いつか貰った弁当箱を返して美味しかったと伝えたいな。
その気持ちとは裏腹に、ネットで買い込んだカロリーメイトやウイダーインゼリーの底を尽きる気配は今のところ無かったのだった。
重い頭と腰を上げ、DJ用では無いパソコンに目を通した。副業の依頼は週に1度あるかないかで、一応毎日機密データがあるとされているプログラムにバグが無いか確認をしている。もしかしたら、最初の依頼は私の技量を見極める為だったのでは?(その通り)
あれ以来高難易度な依頼は無く、こちらとしてもDJの人気が落ちたわけではない為、非常に丁度いい割合で仕事をこなせていた。
「今日も特に無し、、、ん??」
いつも通りかと思いきや、雇い主のプログラムにいつもと違うファイルを見つけた。ウイルスではない、バグ、でもなさそうだ。特に疑いもせずファイルを開いた時、咥えていたカロリーメイトがそのまま床に落ちた。
「都内にある高級マンション2つに爆弾をしかけた、、要求は10億円、、え、?なにこれ、、」
非現実的な内容に気怠かった体が強張っていくのを感じた。こんなの漫画やアニメの世界の話じゃないか。そうだ、いたずらだ、、爆破予告するいたずらメールはSNSでよく見かける、きっとそうだ。
悪い夢でも見ているんだと思い込みたいところだが、もし本当にこれから、いや今起こってしまってる出来事であればこれほど恐ろしいことはない。
無駄に覚えてしまった知識をフル活用し、慌てて最近の密輸状況や都内にある高級マンションの場所、警察の動きを把握しようとキーボードに手を掛けた。
「...本当に、爆弾の取引あるし、、噓でしょ、誰か嘘だと言ってくれえ、、、」
とんでもない事件に片足を突っ込んでしまったと涙目になりながら後悔し、警視庁のパソコンをそっとハッキングした。(おい)今のところメールもFAXも電話も来ていないようで一安心した。
さて、犯人の追跡でもしてみますかね、、
密輸の履歴の詳細へと潜り込み、購入者の特定と爆弾の種類とその規模について調べ始めた。
「くそっ、!犯人の特定を急げ!すぐに警視庁に連絡しないと間に合わないぞ!!」
「「「はい!」」」
時間が無い、公安部は今日も慌ただしいが、ここ最近の中でも一番だ。どこよりも早く手に入れた爆弾の情報は運が良いのか悪いのか、ここにいる部下は焦りながらもカタカタと手を滑らせていた。
「なっ!?嘘、だろ、、」
キーボードを打ち込む音だけが鳴り響いていた中、部下の一人が動揺して声を荒げた。何かまずいことをしたかのように見えてしまい、その男の元へと向かった。
「おい、どうした?」
「.....す、すみません!降谷さん!今回の爆破予告のデータを『ネームレス』にも送ってしまいました、、」
「何!?」
降谷だけでなく周りにいた者達も一斉に顔を上げた。彼にこのデータを公安の担当者に送るように指示したものの、ホワイトハッカーである『ネームレス』にも送り付けてしまったそうだ。一方的にこちらは協力者と思っているが、きっと奴は一般人だ。そんな恐ろしい予告を見つけてしまっては、こちらの事も怪しく思うだろう。
「チッ、とりあえず、今すぐ削除して送った跡を消すんだ」
「分かりました。すみませ、、ふ、降谷さん!これ、これを見てください!!」
「今度は何だ、、」
それは彼が転送してしまったファイルだろう。上から今回の爆破予告の詳細が述べられており、何を今更これを見せられているんだと呆れていると、一番下の文章に思わず息を飲んだ。
『犯人は〇〇〇〇、✕✕✕✕の二人組。爆弾の種類と大きさは__。遠隔操作できる可能性が高いため、ラジオやSNSで不用意に情報をあげないことをお勧めします。場所は、△△△マンション___』
「...ははっ、一人でやってしまったのか、恐ろしいな、、」
文章の最後に、『速やかに警察へ』と書かれていた。迅速な通報に感謝するよ、『ネームレス』__。
「警視庁に連絡を!マンションの場所、犯人は特定した!爆発物処理班の手配を頼む、大至急だ!」
(あとは頼む、松田、萩原__。)
「...はあ、これを見た雇い主が一刻も早く通報することを願うよ、、、」
これ以上の面倒ごとは本当に勘弁だ。今更ながら、このままホワイトハッカーを続けてしまっていいのだろうか。夢中になって調べてしまったが、事件性のある案件など求人には無かったぞ。
これ以上考えるのも疲れる、一瞬ベッドに横になり目と頭を休めようと思ったが無意識に投げ捨てたスマートフォンに手を伸ばしていた。習慣とは恐ろしいな。
SNSの情報に目を通すと、警察が動いているだの爆弾だの呟かれていた。自分の代わりに通報してくれて助かったが、ネットに呟かれてしまってるぞ。犯人が遠隔操作でもしたらいつ爆発するか分からない。
片方のタワーマンションの監視カメラを確認すると、住民は全員避難し、無事に爆弾解体できたようだ。随分仕事が早いな。もう片方は今まさに解体途中といったところで、正直勝算は五分五分だろう。
「.....ああもう、、行くか」
私が家から出る理由は、ストックした食料がネット注文をし忘れて底を尽きた時だけだ。約2週間ぶりの外出はとんでもない理由だなと苦笑してしまった。マスクをつけて、キャップを被り、すぐさま家を飛び出し流れるようにタクシーを止めた。
***
目的のタワーマンションには、警察機動隊が待機し野次馬で溢れかえっていた。お気に入りのヘッドフォンからはラジオのニュースが流れ、要らないことは言うなよと誰かも分からない声の主に願った。
「犯人さん!この放送をもし見ているのであれば、どうか、考え直してください!!」
ラジオにばかり気に掛けていたせいで、テレビ局のマスコミの存在を忘れていたことに気づき自分でも驚くほど声を荒げた。
「っ!?おい!今すぐ止めろ!犯人が見ているかもしれないだろ!!!」
声を荒げる私をスタッフが一斉に押さえつけた。こんなことしてる場合じゃない、急いで止めさせないと。解体は終わったのか?警察はきっと金を渡しているに違いない。クソっ!どうする!
「...おいお前、落ち着け、警察だ。何焦ってんのか分かんねえけど、2つ目の爆弾の解体は終わったぞ」
「....ほ、本当か!?画面に時間表記されてない?!」
「はあ?おい、ハギ。画面にまだ何か映ってっか?___ああ、6秒で止まってるってよ」
「...!?まずい、、」
(もしかしたら、遠隔操作で犯人がもう一度スイッチを押す可能性もある...。考えてる暇ない!)
「お、おい、どうしたお前...」
「うっさい!黙ってて!ちょっとジャックするだけ!」
「いや、俺警察....」
乱雑に床にノートパソコンを広げ、犯人の電子機器を乗っ取ろうと殴る勢いでキーボードを打つ。どこだ、どこだ、どこいいるんだ、!!血眼になって探すとはまさにこのことだろう。画面に映る情報に思わず口角が上がった。
「__ふっ、見つけた。」
パソコンの画面から視線を外し、スマートフォンでお目当ての番号を打ち込む。戸惑っているであろう、数コール鳴ったところで電話の主と繋がったようだ。
「犯人さん、もう遠隔操作は出来ませんよ。...やるならもう少しネット強くなった方いいよ」
あちら側も何か言っているが、もう安全は確保されたようなものだ。ブチッと通話を切り、そそくさと帰る支度を始めた。
「なんかよく分かんねえけど、アンタ事情聴取とか色々あるから大人しく、、」
(帰ろう、、眠い、、疲れたあ、、、)
「!?おい!どうした!?大丈夫か!?」