公安に餌付けされたDJ
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「もう、限界、だ、、、」
ああ、またこれか。学習しない自分の身体に直接データを送り込んでやりたい。しかしここまで集中力が切れないとは自分でも予想できなかった。
ふらつく足取りで家を出たはいいものの、久しぶりに感じる人の気配、暑い日差し、嫌でも耳に入る環境音が限界状態の身体に響いていた。
なんとか歩道橋を登り切り、下りの階段へ足を進めようとすると、深く帽子を被った男性が目に入った。何やら電話で誰かと話をしているようで、内容は頭に入ってこないが重たい雰囲気な気がした。
ちらつく金髪、肌は自分と反対に褐色で、珍しい容姿の彼を視界に入れたまま何も考えないで歩いてしまった。そう、そのまま階段を踏み外し、勢いよく下へと落ちた。
「__っ!?!?」
可愛らしい声の一つも出せず、これは自己管理すらできなかった自分への罰なのだと考えることを諦めた。
いっそのこと、怪我をしたついでに点滴でも打ってもらうか。
もしかしたら、その方が健康への近道、、、
「__おい!危ないな...ああ、風見一度切るぞ。君!きちんと前を見て歩きなさい!」
「え、天井、青い」
「何馬鹿なこと言ってるんだ、僕が居なかったら今頃病院だったぞ」
病院に行くつもりでした、なんて冗談でも言えない空気で、「すみません」と小さく呟いた。目の前の彼は思ったより幼げな顔だちをしていたが、表情は怖いなんてものじゃないくらい恐ろしかった。
「まったく、気をつけなさい。だが、こんなに暑い日にマスクをして厚着だなんて具合でも悪いのか?まさか、どうせ病院に行くから怪我はついでだなんて思っていないだろうな?」
ギクッ!初めて会うはずの人にここまで考えを読まれるなんて、特殊な訓練でも受けているんじゃないか?もともと病院に行くつもりなど無かったのに、ピンポイントに落ちた時の思考を当てられたことに肩を震わせてしまうと、彼はやれやれと抱えていた私の身体を下ろした。
「君はまだ高校生かい?初対面の人に説教するつもりはないが、あまりにも軽すぎるぞ?しかも目元に隈が出来ているじゃないか。青黒い隈はブルーライトや寝不足によるものだ、こんな状態で外出は危ないに決まってるだろう?それから___」
(、、、長い。)
「はあ、怒られたくなかったらきちんと体調管理するんだな。これ、君にあげるから食べなさい」
「え、いや、でも」
「ご飯買いに行くだけだったのなら、これで家に帰れるだろ?」
無理やり渡されたお弁当をなぜかすぐに返せなかった。何年も口にしていない手料理というものをを味わいたいと思ってしまった。
「あ、ありがとう...」
「ふっ、気を付けて帰りなさい」
お母さんみたいに心配して説教していたのに、
帽子を被り直す彼の姿が目に焼き付いてしまった。
彼女にでも作ってもらったのだろうか、そんなもの知らない奴に渡していいのか。
何日ぶりかに口に入れたご飯は、ここ数年で一番美味しかった。
***
25時、音が鳴る。
「Are you ready?」
一定のリズムを刻む重低音が鼓動と一体化していく。
「DJ @iriキター!!!」「大本命!待ってました!」「かっこいい~!!」
自分でも手応えを感じていた。あの日からすこぶる調子が良い。少しずつ上げるBPMにお気に入りの曲をMIXしていく。ツマミに触れる自分の手が機材に吸い付くように動いていく。
目の前に居ないオーディエンスがどんな表情で、どんな気持ちで、何を待っているか。
画面の向こう側に届くように。
一瞬で明るい曲調に変わると同時に流れ出すコメントの嵐。
生配信の視聴者数は100万人を突破していた。
「I love you guys.」
『DJ @iri』
小さい頃、父のDJブースを遊び場と勘違いしていた私は、おもちゃ代わりに機材を触っていた。それぞれのスイッチ、ツマミの役割を幼いころに理解してしまい、ついには曲と曲を繋ぐことを考え出してしまった。
父は有名な世界的DJだったが、私が12歳の頃に他界した。母のことは覚えていない。
今は、人より持ち合わせている知識でなんとか配信型の「DJ @iri」として活動しているが、これがまた人気がうなぎ上りである。生きていける分の資金集めのはずが、思った以上に稼いでしまっている。
おもむろにスマートフォンの画面をスクロールする。
「昨日のライブかっこよかった~!!」
「そろそろフロアに出てきてほしい!」
「実は男だって噂もあるらしい」
好き勝手飛び交うツイートにいちいち振り回されてはいけない。まさかここまで有名になるなんて思ってもみなかったけど。普通に会社員やって、普通に恋して、、ってもうそんな思考も似合わない。
ベッドの上に端末を投げ捨て、自室のブースへと足を運ぶ。
お気に入りのヘッドフォンを耳に当て、音の波に集中していく。
(あ、弁当箱、返さないと、、、)
***
生配信ライブは不定期に行っている。普段は依頼された曲をRemixしたり配信用のセトリを考えて生活している。しかし、配信ばかりではやくフロアに立てと催促する視聴者が多く、いつ『DJ @@iri』の人気が落ちるかも分からない今日この頃。私は副業を考えていた。
流行は時の流れには逆らえない。いつ散ってしまうかは分からない。
そう思った私が考え抜いて選んだ職種は『ホワイトハッカー』である。(なぜ?)
無くならない職種、機械オタクの私に相応しいのでは?家から出なくても良いというのも中々都合が良い。
早速、ホワイトハッカーについて調べ、とりあえず一番条件が良いところに応募してみた。我ながら家の中にいる時の自分はフットワークが軽い。
ピコン。
「え、いや、早すぎ」
返信に目を通すと、さっそく機密事項の防御対策と不正アクセス者の追跡をしろと簡潔に仕事内容が書かれていた。いやいや、ホワイトだろうがブラックだろうがハッカーですよ?得体のしれない人間に易々と仕事任せちゃ駄目でしょ?
悪用しようという気はさらさら無いし、DJの仕事も落ち着いたため、すぐに副業の仕事に取り掛かった。思ったより初期設定の防御対策がきちんとされているが、何かあっては困るのでセキュリティをこれでもかと頑丈にした。
さらに、不正アクセスの履歴を辿るとそれこそアクセスした者による監視がされており、逆に見られるという事態に冷汗をかいた。機密事項の整備が整っていれば、それを手に入れようとするブラックハッカーも有能らしい。
なんとか、その手を搔い潜り不正アクセス者の身元まで調べ上げてやった。少し警察沙汰な気もするが、面倒ごとは関わりたくない。すぐに情報を企業に送り、セキュリティの不具合が無いか再度確認をしてパソコンを閉じた。
「最初の仕事の割に、随分作業のレベルが高いような、、」
ハッカーの仕事が思っていたより難しいもので少し不信感も残るが、これから依頼が来れば副業もこなさないといけない。念のため、自身のパソコンのセキュリティも強化しハッキングの仕方も勉強しようと意気込んだ。
「降谷さん、見てください」
「ん?どうした」
普段顔を出さない警視庁の公安部へと足を運んだ。今まさに部下の風見に任せていた仕事に進展があったようで、普段表情に出さない彼の声色が少し嬉しそうだった。
「新しい協力者の件ですが、スキルは勿論仕事をこなすスピードと正確さから文句なしです。直接やり取りすることは無いかと思いますが、降谷さんいかがですか?」
「…その案件は、ついさっき出したばかりの筈だが?」
「はい、それがもう終了済みなんですよ」
「は?」っと素で聞き返してしまった。
公安の新たな協力者として、ホワイトハッカーを迎えたいと話したのはつい最近だった。あらゆる情報を保管しているからこそ、有能な砦が無くては何かあった時に困る。
しかし、警察からの依頼だと募集してしまえば、これを機に警察に探りを入れようとする者が集まってしまうかもしれない。あまり怪しまれないように、なるべく良い条件でホワイトハッカーを募ることにした。
「…この短時間でシステムの対策と不正アクセスの追跡をしたというのか?」
「はい。しかも不正アクセス者の特定までこなしています」
「何!?」
そんな有能なホワイトハッカー今すぐにでも迎え入れよう。これでこちら側の防御力は増す。安心して動きやすくもなるはずだ。
「応募時にネームを入れるところがあるはずだが、名前は?」
「『ネームレス』と書かれてます。名前をつけられない理由でもあるのでしょうか...」
「それは考えすぎじゃないか?まあ、今はネームレスと呼ぼう」
公安が『ネームレス』に送った仕事内容は簡単にこなせる物ではない。念のためこちらの中でも腕の良い者を用意し何かあったときの為のサポートに回していたが、手助けする必要もなくあっさりクリアしたようだ。不審な動きがあればこちら側の観察から捉えられるし、不正アクセス者に成り代わって逆探知するミッションも掻い潜ったのだ。求めていたホワイトハッカーに気分が上がる。
「これから、よろしく。『ネームレス』」
__必ず、あの組織を追い詰めて見せる。
***
〜♫
今宵もはじまる、私だけのショータイム。
銀色のウィッグを被り、歩けないくらい底が厚い靴を履き、眼鏡をくいっとあげた。
今日のセットリストは我ながら良い出来で、気持ちの高ぶりが抑えられない。ブースにDJ用のパソコンをセットし、ターンテーブルに手を置く。馴染んだ感触に自然と笑顔がこぼれた。
25時、音が鳴る。
「Are you ready?」
興奮を抑えられなくて、いつもの台詞が少し震えた。いけない、集中しよう。今日の見せ場はお気に入りの2曲を上手くマッシュアップさせる中盤だ。思った以上にぴったりハマったあの瞬間を見てもらえるのは、本当に気分が良い。小刻みにスクラッチを挟ませ、次の繋ぎに意識させる。
「今のマッシュアップエグい」「計算されすぎて鳥肌」「@iriさん笑ってる〜!」
(んふふ、そうだろう、そうだろう。最近でいちばんの出来だからな。)
普段表情を出さないようにしていたが流石に自分でも笑ってしまう。
「〜♫」
そっとメロディーを口ずさみ、カメラの方は向いていないがニッコリと笑って見せた。
夢中になっていた私はマイクをoffにしなかったことに気付いていなかった。
物凄いスピードで流れるコメントにすら気付かず、自分の世界に夢中だった。
ゆっくりフェードアウトをし、落ち着いて「thank you」と自分の中でも低めの声で呟き、カメラを止めた。
「__やり切った、、、」
力尽きた私はそのままベッドへ向かい、死んだように眠りについた。
夢の中で、あの美味しい弁当をお腹いっぱい食べたのだ。
今日はとっても良い日だ。
***
「陣平ちゃ〜ん、おっはよ〜、、って何見てんの?」
「あ?話題の生配信だよ。SNSでずっとトレンド入りしててな、ホラ」
その映像は@iriの昨日の生配信の映像の切り抜きだった。上手く編集してSNSにファンが載せたようだ。
「これで、野郎かもしれない疑いは晴れたわけだ」
「結構ハスキーな声してんねえ。でも今時の人気出そうな声だ、って陣平ちゃんこういう動画見るんだ?」
「EDMは車でよくかけるからな、こいつの紹介する曲も自作の編集したEDMもなかなか良い」
「へえ〜、そこまで言うなら次は見てみようかな、彼女の笑顔とっても可愛いし?」
餌付けされたDJ
黒髪のボブで白いインナーを入れている。肌は白い。
大きいサイズのパーカーやスウェットが好き。
基本カロリーメイト、ウイダーインゼリー。手作りのご飯に涙腺崩壊した。
職業:DJ 副業:ホワイトハッカー
集中して何かに取り組むのが趣味みたいな人間なので、どちらもあっている様子。
配信中は、銀髪のロングヘアーのウィッグに、めっちゃ厚底の靴を履いて、伊達眼鏡をかける。
ああ、またこれか。学習しない自分の身体に直接データを送り込んでやりたい。しかしここまで集中力が切れないとは自分でも予想できなかった。
ふらつく足取りで家を出たはいいものの、久しぶりに感じる人の気配、暑い日差し、嫌でも耳に入る環境音が限界状態の身体に響いていた。
なんとか歩道橋を登り切り、下りの階段へ足を進めようとすると、深く帽子を被った男性が目に入った。何やら電話で誰かと話をしているようで、内容は頭に入ってこないが重たい雰囲気な気がした。
ちらつく金髪、肌は自分と反対に褐色で、珍しい容姿の彼を視界に入れたまま何も考えないで歩いてしまった。そう、そのまま階段を踏み外し、勢いよく下へと落ちた。
「__っ!?!?」
可愛らしい声の一つも出せず、これは自己管理すらできなかった自分への罰なのだと考えることを諦めた。
いっそのこと、怪我をしたついでに点滴でも打ってもらうか。
もしかしたら、その方が健康への近道、、、
「__おい!危ないな...ああ、風見一度切るぞ。君!きちんと前を見て歩きなさい!」
「え、天井、青い」
「何馬鹿なこと言ってるんだ、僕が居なかったら今頃病院だったぞ」
病院に行くつもりでした、なんて冗談でも言えない空気で、「すみません」と小さく呟いた。目の前の彼は思ったより幼げな顔だちをしていたが、表情は怖いなんてものじゃないくらい恐ろしかった。
「まったく、気をつけなさい。だが、こんなに暑い日にマスクをして厚着だなんて具合でも悪いのか?まさか、どうせ病院に行くから怪我はついでだなんて思っていないだろうな?」
ギクッ!初めて会うはずの人にここまで考えを読まれるなんて、特殊な訓練でも受けているんじゃないか?もともと病院に行くつもりなど無かったのに、ピンポイントに落ちた時の思考を当てられたことに肩を震わせてしまうと、彼はやれやれと抱えていた私の身体を下ろした。
「君はまだ高校生かい?初対面の人に説教するつもりはないが、あまりにも軽すぎるぞ?しかも目元に隈が出来ているじゃないか。青黒い隈はブルーライトや寝不足によるものだ、こんな状態で外出は危ないに決まってるだろう?それから___」
(、、、長い。)
「はあ、怒られたくなかったらきちんと体調管理するんだな。これ、君にあげるから食べなさい」
「え、いや、でも」
「ご飯買いに行くだけだったのなら、これで家に帰れるだろ?」
無理やり渡されたお弁当をなぜかすぐに返せなかった。何年も口にしていない手料理というものをを味わいたいと思ってしまった。
「あ、ありがとう...」
「ふっ、気を付けて帰りなさい」
お母さんみたいに心配して説教していたのに、
帽子を被り直す彼の姿が目に焼き付いてしまった。
彼女にでも作ってもらったのだろうか、そんなもの知らない奴に渡していいのか。
何日ぶりかに口に入れたご飯は、ここ数年で一番美味しかった。
***
25時、音が鳴る。
「Are you ready?」
一定のリズムを刻む重低音が鼓動と一体化していく。
「DJ @iriキター!!!」「大本命!待ってました!」「かっこいい~!!」
自分でも手応えを感じていた。あの日からすこぶる調子が良い。少しずつ上げるBPMにお気に入りの曲をMIXしていく。ツマミに触れる自分の手が機材に吸い付くように動いていく。
目の前に居ないオーディエンスがどんな表情で、どんな気持ちで、何を待っているか。
画面の向こう側に届くように。
一瞬で明るい曲調に変わると同時に流れ出すコメントの嵐。
生配信の視聴者数は100万人を突破していた。
「I love you guys.」
『DJ @iri』
小さい頃、父のDJブースを遊び場と勘違いしていた私は、おもちゃ代わりに機材を触っていた。それぞれのスイッチ、ツマミの役割を幼いころに理解してしまい、ついには曲と曲を繋ぐことを考え出してしまった。
父は有名な世界的DJだったが、私が12歳の頃に他界した。母のことは覚えていない。
今は、人より持ち合わせている知識でなんとか配信型の「DJ @iri」として活動しているが、これがまた人気がうなぎ上りである。生きていける分の資金集めのはずが、思った以上に稼いでしまっている。
おもむろにスマートフォンの画面をスクロールする。
「昨日のライブかっこよかった~!!」
「そろそろフロアに出てきてほしい!」
「実は男だって噂もあるらしい」
好き勝手飛び交うツイートにいちいち振り回されてはいけない。まさかここまで有名になるなんて思ってもみなかったけど。普通に会社員やって、普通に恋して、、ってもうそんな思考も似合わない。
ベッドの上に端末を投げ捨て、自室のブースへと足を運ぶ。
お気に入りのヘッドフォンを耳に当て、音の波に集中していく。
(あ、弁当箱、返さないと、、、)
***
生配信ライブは不定期に行っている。普段は依頼された曲をRemixしたり配信用のセトリを考えて生活している。しかし、配信ばかりではやくフロアに立てと催促する視聴者が多く、いつ『DJ @@iri』の人気が落ちるかも分からない今日この頃。私は副業を考えていた。
流行は時の流れには逆らえない。いつ散ってしまうかは分からない。
そう思った私が考え抜いて選んだ職種は『ホワイトハッカー』である。(なぜ?)
無くならない職種、機械オタクの私に相応しいのでは?家から出なくても良いというのも中々都合が良い。
早速、ホワイトハッカーについて調べ、とりあえず一番条件が良いところに応募してみた。我ながら家の中にいる時の自分はフットワークが軽い。
ピコン。
「え、いや、早すぎ」
返信に目を通すと、さっそく機密事項の防御対策と不正アクセス者の追跡をしろと簡潔に仕事内容が書かれていた。いやいや、ホワイトだろうがブラックだろうがハッカーですよ?得体のしれない人間に易々と仕事任せちゃ駄目でしょ?
悪用しようという気はさらさら無いし、DJの仕事も落ち着いたため、すぐに副業の仕事に取り掛かった。思ったより初期設定の防御対策がきちんとされているが、何かあっては困るのでセキュリティをこれでもかと頑丈にした。
さらに、不正アクセスの履歴を辿るとそれこそアクセスした者による監視がされており、逆に見られるという事態に冷汗をかいた。機密事項の整備が整っていれば、それを手に入れようとするブラックハッカーも有能らしい。
なんとか、その手を搔い潜り不正アクセス者の身元まで調べ上げてやった。少し警察沙汰な気もするが、面倒ごとは関わりたくない。すぐに情報を企業に送り、セキュリティの不具合が無いか再度確認をしてパソコンを閉じた。
「最初の仕事の割に、随分作業のレベルが高いような、、」
ハッカーの仕事が思っていたより難しいもので少し不信感も残るが、これから依頼が来れば副業もこなさないといけない。念のため、自身のパソコンのセキュリティも強化しハッキングの仕方も勉強しようと意気込んだ。
「降谷さん、見てください」
「ん?どうした」
普段顔を出さない警視庁の公安部へと足を運んだ。今まさに部下の風見に任せていた仕事に進展があったようで、普段表情に出さない彼の声色が少し嬉しそうだった。
「新しい協力者の件ですが、スキルは勿論仕事をこなすスピードと正確さから文句なしです。直接やり取りすることは無いかと思いますが、降谷さんいかがですか?」
「…その案件は、ついさっき出したばかりの筈だが?」
「はい、それがもう終了済みなんですよ」
「は?」っと素で聞き返してしまった。
公安の新たな協力者として、ホワイトハッカーを迎えたいと話したのはつい最近だった。あらゆる情報を保管しているからこそ、有能な砦が無くては何かあった時に困る。
しかし、警察からの依頼だと募集してしまえば、これを機に警察に探りを入れようとする者が集まってしまうかもしれない。あまり怪しまれないように、なるべく良い条件でホワイトハッカーを募ることにした。
「…この短時間でシステムの対策と不正アクセスの追跡をしたというのか?」
「はい。しかも不正アクセス者の特定までこなしています」
「何!?」
そんな有能なホワイトハッカー今すぐにでも迎え入れよう。これでこちら側の防御力は増す。安心して動きやすくもなるはずだ。
「応募時にネームを入れるところがあるはずだが、名前は?」
「『ネームレス』と書かれてます。名前をつけられない理由でもあるのでしょうか...」
「それは考えすぎじゃないか?まあ、今はネームレスと呼ぼう」
公安が『ネームレス』に送った仕事内容は簡単にこなせる物ではない。念のためこちらの中でも腕の良い者を用意し何かあったときの為のサポートに回していたが、手助けする必要もなくあっさりクリアしたようだ。不審な動きがあればこちら側の観察から捉えられるし、不正アクセス者に成り代わって逆探知するミッションも掻い潜ったのだ。求めていたホワイトハッカーに気分が上がる。
「これから、よろしく。『ネームレス』」
__必ず、あの組織を追い詰めて見せる。
***
〜♫
今宵もはじまる、私だけのショータイム。
銀色のウィッグを被り、歩けないくらい底が厚い靴を履き、眼鏡をくいっとあげた。
今日のセットリストは我ながら良い出来で、気持ちの高ぶりが抑えられない。ブースにDJ用のパソコンをセットし、ターンテーブルに手を置く。馴染んだ感触に自然と笑顔がこぼれた。
25時、音が鳴る。
「Are you ready?」
興奮を抑えられなくて、いつもの台詞が少し震えた。いけない、集中しよう。今日の見せ場はお気に入りの2曲を上手くマッシュアップさせる中盤だ。思った以上にぴったりハマったあの瞬間を見てもらえるのは、本当に気分が良い。小刻みにスクラッチを挟ませ、次の繋ぎに意識させる。
「今のマッシュアップエグい」「計算されすぎて鳥肌」「@iriさん笑ってる〜!」
(んふふ、そうだろう、そうだろう。最近でいちばんの出来だからな。)
普段表情を出さないようにしていたが流石に自分でも笑ってしまう。
「〜♫」
そっとメロディーを口ずさみ、カメラの方は向いていないがニッコリと笑って見せた。
夢中になっていた私はマイクをoffにしなかったことに気付いていなかった。
物凄いスピードで流れるコメントにすら気付かず、自分の世界に夢中だった。
ゆっくりフェードアウトをし、落ち着いて「thank you」と自分の中でも低めの声で呟き、カメラを止めた。
「__やり切った、、、」
力尽きた私はそのままベッドへ向かい、死んだように眠りについた。
夢の中で、あの美味しい弁当をお腹いっぱい食べたのだ。
今日はとっても良い日だ。
***
「陣平ちゃ〜ん、おっはよ〜、、って何見てんの?」
「あ?話題の生配信だよ。SNSでずっとトレンド入りしててな、ホラ」
その映像は@iriの昨日の生配信の映像の切り抜きだった。上手く編集してSNSにファンが載せたようだ。
「これで、野郎かもしれない疑いは晴れたわけだ」
「結構ハスキーな声してんねえ。でも今時の人気出そうな声だ、って陣平ちゃんこういう動画見るんだ?」
「EDMは車でよくかけるからな、こいつの紹介する曲も自作の編集したEDMもなかなか良い」
「へえ〜、そこまで言うなら次は見てみようかな、彼女の笑顔とっても可愛いし?」
餌付けされたDJ
黒髪のボブで白いインナーを入れている。肌は白い。
大きいサイズのパーカーやスウェットが好き。
基本カロリーメイト、ウイダーインゼリー。手作りのご飯に涙腺崩壊した。
職業:DJ 副業:ホワイトハッカー
集中して何かに取り組むのが趣味みたいな人間なので、どちらもあっている様子。
配信中は、銀髪のロングヘアーのウィッグに、めっちゃ厚底の靴を履いて、伊達眼鏡をかける。
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