旅立つその日まで
ナイショだよ?
「ど、どういうことじゃ、ゆら!詳しく話せ!」
「、、、、、」
慌てて話を催促する夜一と動揺する素振りもなく黙って話を待つ浦原に「真剣に話を聞いてくれているんだ」と実感する。
「二人は、流魂街に作らなかった地区 があるって知ってる?」
「、、、四十九じゃないスか?死を連想させる数字だといわれているから、と」
「儂も聞いたことがある」
「そう、八十まであるはずの地区が、一つは無いものだった。、、実はそうじゃない、存在していた。」
「ま、まさか!そもそも流魂街に空いている土地なんて、、、」
声を上げる喜助は、すぐに気づいたように冷静さを取り戻した。
「___地下っスか。」
「うん、正解。」
「__東流魂街 四十九地区『幻 妖 』七十六地区の真下に位置する。ある施設 が置かれていたんだ....」
***
「お姉ちゃん!今日はお花いっぱい摘んできたんだよ!」
「これは、クレオメかしら?何色のクレオメ?」
「ピンク!見なくてもお花分かるの〜?!」
「特徴のあるお花だから、触ったら分かっちゃった。いつもありがとう、ゆら。
クレオメの花言葉は「秘密のひととき」って意味があるのよ」
「へえ~!じゃあ今のわたしとお姉ちゃんにピッタリだね!」
「ふふっ、確かにそうね。本当はここに来てはいけないのよ?見つからないうちに帰りなさい?」
「今日もここにいる理由教えてくれないの?みんなも心配してるよ?」
「、、、ごめんね」
死んでからのわたしの日課。大好きなお姉ちゃんの為にお花を届けること。
七十六地区に住むわたしと姉、その姉は「病気の療養」を理由に行ってしまった。どうにかお見舞いにだけでもと大人に訴えた。わたしがしつこく頼み込んだおかげか、一度だけだと言われたが気配を隠して何度も忍び込んでいる。
とある民家の地下から繋がるその大きい空間には、白衣を着ている人が何人も居たが病院とは思えなかった。治療するような器具はなく、ベッドがたくさんあるわけでもない。
姉は、地下の奥の奥にある明かりも何もない場所でいつも黙って座っていた。
「目の病気良くなった?」
「難しい病気、みたいね、、」
「本当に治るの?お姉ちゃんいつもここに一人だよ、お医者さんも来ないよ、、」
「きっと、これから良くなるから、、」
(じゃあ、どうしてそんなに辛そうな顔をするの、、?)
これ以上は声に出せなかった。また来るね、と一言呟いて見つからないように足早に去った。
あの時、思い切って声に出していたら何か変わっていたかもしれない。
(せめて、何の病気か分ればなあ... 大人の人に聞いてみたら良いのかなあ... う〜〜ん、、)
お見舞いの帰り道、唸りながらいつもの場所へ向かっていた。目的地に着いたところで、分けておいたお花をそっと置いて手を合わせる。目を閉じてから少し時間が経ったところで声が聞こえた。
「やあ!君もよくここに来るのかい?」
「、、おじさん、誰?」
「俺は浮竹だ。俺もよくここに来るが、君と会ったことは無かったなあ、飴いるかい?」
「、、わたしはミミハギ様に会いに来てるだけだから」
「なるほど、助けたい人がいるのかい?」
見抜かれた問いに思わず振り返ると、優しい顔をしてわたしの答えを待っている白髪の男性に目を奪われた。彼にというより、彼の髪色 に。
「おじさん、綺麗な髪だね」
「そうか?俺はこの白い髪が好きではないが、、」
「ふふ、わたしの助けたい人もね、わたしと正反対で髪が真っ白で、優しいお姉ちゃんなんだ」
祠の前で手を合わせながら話す彼女に浮竹は、ああと相槌を打ち話に耳を傾ける。
「血の繋がりは無いけど本当の姉妹みたいに生きていたから。今お姉ちゃんは体が良くなるからって、大人の人と一緒に行っちゃった。なのに、全然治らないんだ、どうしてなんだろう、、」
姉の前で話すことが出来きなかった想いと溜めていた涙がぼろぼろと溢れた。
「苦しいのはお姉ちゃんなのに、わたしが泣いちゃいけないのに、なんでわたしじゃなくてお姉ちゃんが苦しまないといけないんだ、なんで、どうして、、」
「我慢しなくていい。好きなだけ泣きなさい」
泣きじゃくるわたしの背中を彼は優しくさすってくれた。姉がいなくなり、一人になった時間は倍以上に長く感じて、気が付けば姉のことばかり考えていた。縋る様な思いでお見舞いの後は祠に寄るようになっていた。
「__ミミハギ様、お姉ちゃん元気になるかなあ、、」
祠に向かって小さく呟く彼女に、浮竹は咄嗟に声に漏らす。
「__ああ、大丈夫。」
真剣に答えてくれた彼に、わたしは嬉しくなった。
「おじさん、白くて長い髪をしているから本当に神様みたいだね」
そう笑顔で答えると彼はとてもびっくりしていた。
姉に会いに行き、帰りに寄った時には夕刻を過ぎていたが、今は雲の隙間から月の光がさしていた。その光に充てられた彼は、とても神々しく見えていた。
泣き止んだわたしを確認して、彼は立ち上がった。
「また、来るよ。その時はお姉さんと一緒だといいな!そうだ、君名前は?」
「ゆらだよ。おじさん下の名前は?」
「十四郎だ、呼びやすい名前で呼んでくれて構わないよ」
「う~ん、じゃあ十兄!また来てね、十兄!」
「はは!おじさんよりはマシだな!気をつけて帰るんだよ!」
帰る直前に渡された飴を口に入れてコロコロと転がしながら、お姉ちゃんが元気になる方法をまた考えようと、一歩前に踏み出した。
ゆらの背中が見えなくなったところで、浮竹は独り言のようにぼそっと「神様みたい、か」と呟く。それに答えるように反対側から声が聞こえた。
「ふふ、可愛い子ちゃんだったねえ」
「京楽、今の話聞いていたか?」
「大人の人 、そしてここは七十六地区 。少し、探りを入れる必要がありそうだ」
「ああ、俺もそう思う」
(あの子がもう泣かなくて済むように.....)
京楽も来たところで、その場を離れようとしたとき浮竹はもう一度祠を振り返った。
「__俺は、彼女 に呼ばれたのかもしれないな...」
「狡いねえ、この色男」
あれから、姉がいる場所までの道のりに大人の数が増えてきていた。地下に続くはずの家の周りには、なぜか前より人が集まるようになってしまい近づくことが出来なくなっていた。
「お姉ちゃん、大丈夫かな、、」
今にも降り出しそうな重い雲のせいで、昼間なのに暗く感じる。地面に黒い点が浮かび、今日も駄目だったと諦め、降り始める前に帰ろうとしたその時___
__ドオオオオオオンンン!!
「な、な、なに!?」
音割れがする中、周りにいた人は見る見るうちに倒れていく。ゆらの身体も重力に逆らうように傾き、地面に片膝をつけて耐えるので精一杯だ。
「__ああ?生きている奴がまだいるだなんてなあ」
壊れかけている家から出てきたのは黒い着物の上に白衣を着た男だった。地下にたくさんいるうちの一人と少し違うように見えた。その男は、ゆらを嘗め回すようにニヤニヤと見ている。
「お前のことは、知っているぞ。よくここに遊びに来てた餓鬼だよなあ?」
直感的に感じた、悪い奴なのだと。もしかしたらもう、お姉ちゃんは、、、
震える声でゆらは思いっきり叫んだ。
「__お姉ちゃんを、、お姉ちゃんを返せ!!!!」
「あ?返せ?あいつは自分からここに来たんだぜ?」
「ち、ちがう!!お前が無理やり、、、」
「それは、あのバケモノを見てから言ってみな」
男の後ろからゆったりと現れたのは、ずっと、ずっと会いたかった姉だった。前に見た時より身体が瘦せ細ってしまっているが、生きているんだということに少し安心した自分がいた。
「お、お姉ちゃん!無事、だったんだね!良かっ、ぐっ!かはっ!?」
良かったと言いかける前に身体が床に叩きつけられ、背中を思いっきり打ってしまった。唖然とするわたしを跨ぐように上から眺める姉の顔は、わたしの知っている姉ではなかった。腰には2本の刀を差して、無心で片方の脇差に手を掛けていた。
「、、お、お姉ちゃん?どう、、して、、っっ!!」
グシャアアアァァァ____
一瞬だった。気付いた時にはわたしの真ん中に刀が貫いていた。刀が刺さる音、血が噴き出す音が混ざり、耳を塞ぎたくなる。姉の後ろで白衣の男は憎たらしくケタケタと笑っている。
「____か、はっ、、、」
口から感じる血の味が、嫌でもこの状況は現実なのだと感じさせられる。だんだんと意識が遠ざかって行く中、降りかけていた雨と共に、紛れるかのように水滴が頬に落ちた。
「、、お、おねえ、ちゃ、ん、、、」
目元を覆っていた包帯が緩くなってしまったのか、ゆらの身体の上にゆっくり落ちる。その時、初めて隠していた素顔がはっきり分かった。いつもの優しげな面影はなく、ゆらゆらと揺れる『赤い瞳』が恐ろしかった。
「、、死ぬ前に、良いこと教えてやるよ餓鬼。」
「ここはなあ、実験施設だ。俺達は死神に裏切られ、このバケモノとここらの魂魄を使って最強の兵器を作り出そうとしていた。『復讐』するためにな、、、お前は、大好きな姉ちゃんに殺されるんだな。この場所を知ってしまった奴を生かしておく訳にはいかないからなあ。おい、さっさと殺せ。」
流暢に話す男はわたしを跨ぐ姉に指令を出す。
もう本当に殺されるんだ、そう思った。しかし、なぜか最初より痛みを感じなかった。確かに刺された、痛みはあった、その感覚はあったはずだ。
「あ?何だ?おい、何してる、、」
余裕を見せていた男の態度は途端に変わり、今は動揺を見せていた。
わたしと、お姉ちゃんの視線がぶつかり、お姉ちゃんは思いっきり叫んだ。
「____残念ね、これは、私達 の意志。だから、、死んでもゆらを守る!!!」
その声とともに、わたしたちは真っ白な光に包まれた。目を開くと、今までいた場所ではなく、真っ白な空間にわたし達二人だけだった。
姉の腕の中で、優しい温もりを感じられる。何か力が流れ込んでくるような感覚、そう思っているわたしとは裏腹に今にも消えかかるような声が聞こえた。
「、、、ゆ、、ら、、、」
「お姉ちゃん?」と腕の中でわたしは返事をした。変わらない声色で、話を続ける。
「私は、もう、長く持たない、。お願い、生きて、生き続けて、、」
「な、!なんで!?やだよ!ミミハギ様にお願いしたもん、お姉ちゃんは絶対元気になるって、、」
「、、これが、ゆらとの、最後のひととき、かしら、、」
「なんで、そんなこと、言っちゃだめだよ、、!」
何を言っても否定しない言葉に、嘘偽りは無いのだと分かってしまった。
「大丈夫、また会える、から、、、大切な人を、見つけなさい。優しい人に、なりなさい。助けられるような、強い人に、なりなさい。必ず、必ず、、幸せに、なりなさい。」
初めて見るお姉ちゃんの泣き顔は、今のわたしには耐えられる物じゃなかった。少しずつ薄れて行くその姿に、絶対離すもんかと思いっきり抱きしめた。
「いやだよ、!行かないでよ!!!!行っちゃ、やだよ、、おねえ、ちゃん、、、」
「ありがとう、ゆら、、、大好きよ。」
(__なんで何も言ってくれないの、、、)
抱きしめていたはずの身体は途端に消えて無くなり、思わずバランスを崩して倒れた。身体を起こす気力もなく、いまだに信じられない状況に目を塞いだ。
***
「おい、どうなってんだ、、」
ああ、戻ってきてしまったのかと、重たい瞼を開く。先ほどまで明るかった空間は無くなり、重たい曇天の下に、わたしと男の二人 だけになってしまっていた。
「まさか、霊圧の譲渡 か!?あいつ、よくもやってくれたな、、」
聞いたこともない言葉、しかし、興味を持つどころか黙って俯くことしかできなかった。男は自分の腰に差している刀に手を掛けていた。逃げないと、殺される。しかし、姉も居なくなった世界に、生きる価値なんてない。
「ははっ、まあ良い、その見た目 なら力は全て渡しているに違いないからなあ、」
ぶつぶつと言葉を吐きながら、男はこちらに向かってくる。
話す内容にすら、ゆらの耳には届かなかった。
生きる価値も、希望も、何もなくなってしまった。
もういっそのこと「殺してくれ」
一歩も動かず、殺されるのを待っていたその時、、、
「_____ゆら、諦めるな!」
わたしと男の前には、白くて長い髪と同じ、あの時は着ていなかった白い羽織を着て立っていた。わたしの顔を心配そうに覗き込んだ後、掌に集めた白い光が目の前に広がり、ぐらっ身体が傾いた。
瞼が落ちる瞬間に目に入った、ピンク色のクレオメの花が綺麗に咲き誇っていた_______
「ど、どういうことじゃ、ゆら!詳しく話せ!」
「、、、、、」
慌てて話を催促する夜一と動揺する素振りもなく黙って話を待つ浦原に「真剣に話を聞いてくれているんだ」と実感する。
「二人は、
「、、、四十九じゃないスか?死を連想させる数字だといわれているから、と」
「儂も聞いたことがある」
「そう、八十まであるはずの地区が、一つは無いものだった。、、実はそうじゃない、存在していた。」
「ま、まさか!そもそも流魂街に空いている土地なんて、、、」
声を上げる喜助は、すぐに気づいたように冷静さを取り戻した。
「___地下っスか。」
「うん、正解。」
「__東流魂街 四十九地区『
***
「お姉ちゃん!今日はお花いっぱい摘んできたんだよ!」
「これは、クレオメかしら?何色のクレオメ?」
「ピンク!見なくてもお花分かるの〜?!」
「特徴のあるお花だから、触ったら分かっちゃった。いつもありがとう、ゆら。
クレオメの花言葉は「秘密のひととき」って意味があるのよ」
「へえ~!じゃあ今のわたしとお姉ちゃんにピッタリだね!」
「ふふっ、確かにそうね。本当はここに来てはいけないのよ?見つからないうちに帰りなさい?」
「今日もここにいる理由教えてくれないの?みんなも心配してるよ?」
「、、、ごめんね」
死んでからのわたしの日課。大好きなお姉ちゃんの為にお花を届けること。
七十六地区に住むわたしと姉、その姉は「病気の療養」を理由に行ってしまった。どうにかお見舞いにだけでもと大人に訴えた。わたしがしつこく頼み込んだおかげか、一度だけだと言われたが気配を隠して何度も忍び込んでいる。
とある民家の地下から繋がるその大きい空間には、白衣を着ている人が何人も居たが病院とは思えなかった。治療するような器具はなく、ベッドがたくさんあるわけでもない。
姉は、地下の奥の奥にある明かりも何もない場所でいつも黙って座っていた。
「目の病気良くなった?」
「難しい病気、みたいね、、」
「本当に治るの?お姉ちゃんいつもここに一人だよ、お医者さんも来ないよ、、」
「きっと、これから良くなるから、、」
(じゃあ、どうしてそんなに辛そうな顔をするの、、?)
これ以上は声に出せなかった。また来るね、と一言呟いて見つからないように足早に去った。
あの時、思い切って声に出していたら何か変わっていたかもしれない。
(せめて、何の病気か分ればなあ... 大人の人に聞いてみたら良いのかなあ... う〜〜ん、、)
お見舞いの帰り道、唸りながらいつもの場所へ向かっていた。目的地に着いたところで、分けておいたお花をそっと置いて手を合わせる。目を閉じてから少し時間が経ったところで声が聞こえた。
「やあ!君もよくここに来るのかい?」
「、、おじさん、誰?」
「俺は浮竹だ。俺もよくここに来るが、君と会ったことは無かったなあ、飴いるかい?」
「、、わたしはミミハギ様に会いに来てるだけだから」
「なるほど、助けたい人がいるのかい?」
見抜かれた問いに思わず振り返ると、優しい顔をしてわたしの答えを待っている白髪の男性に目を奪われた。彼にというより、彼の
「おじさん、綺麗な髪だね」
「そうか?俺はこの白い髪が好きではないが、、」
「ふふ、わたしの助けたい人もね、わたしと正反対で髪が真っ白で、優しいお姉ちゃんなんだ」
祠の前で手を合わせながら話す彼女に浮竹は、ああと相槌を打ち話に耳を傾ける。
「血の繋がりは無いけど本当の姉妹みたいに生きていたから。今お姉ちゃんは体が良くなるからって、大人の人と一緒に行っちゃった。なのに、全然治らないんだ、どうしてなんだろう、、」
姉の前で話すことが出来きなかった想いと溜めていた涙がぼろぼろと溢れた。
「苦しいのはお姉ちゃんなのに、わたしが泣いちゃいけないのに、なんでわたしじゃなくてお姉ちゃんが苦しまないといけないんだ、なんで、どうして、、」
「我慢しなくていい。好きなだけ泣きなさい」
泣きじゃくるわたしの背中を彼は優しくさすってくれた。姉がいなくなり、一人になった時間は倍以上に長く感じて、気が付けば姉のことばかり考えていた。縋る様な思いでお見舞いの後は祠に寄るようになっていた。
「__ミミハギ様、お姉ちゃん元気になるかなあ、、」
祠に向かって小さく呟く彼女に、浮竹は咄嗟に声に漏らす。
「__ああ、大丈夫。」
真剣に答えてくれた彼に、わたしは嬉しくなった。
「おじさん、白くて長い髪をしているから本当に神様みたいだね」
そう笑顔で答えると彼はとてもびっくりしていた。
姉に会いに行き、帰りに寄った時には夕刻を過ぎていたが、今は雲の隙間から月の光がさしていた。その光に充てられた彼は、とても神々しく見えていた。
泣き止んだわたしを確認して、彼は立ち上がった。
「また、来るよ。その時はお姉さんと一緒だといいな!そうだ、君名前は?」
「ゆらだよ。おじさん下の名前は?」
「十四郎だ、呼びやすい名前で呼んでくれて構わないよ」
「う~ん、じゃあ十兄!また来てね、十兄!」
「はは!おじさんよりはマシだな!気をつけて帰るんだよ!」
帰る直前に渡された飴を口に入れてコロコロと転がしながら、お姉ちゃんが元気になる方法をまた考えようと、一歩前に踏み出した。
ゆらの背中が見えなくなったところで、浮竹は独り言のようにぼそっと「神様みたい、か」と呟く。それに答えるように反対側から声が聞こえた。
「ふふ、可愛い子ちゃんだったねえ」
「京楽、今の話聞いていたか?」
「
「ああ、俺もそう思う」
(あの子がもう泣かなくて済むように.....)
京楽も来たところで、その場を離れようとしたとき浮竹はもう一度祠を振り返った。
「__俺は、
「狡いねえ、この色男」
あれから、姉がいる場所までの道のりに大人の数が増えてきていた。地下に続くはずの家の周りには、なぜか前より人が集まるようになってしまい近づくことが出来なくなっていた。
「お姉ちゃん、大丈夫かな、、」
今にも降り出しそうな重い雲のせいで、昼間なのに暗く感じる。地面に黒い点が浮かび、今日も駄目だったと諦め、降り始める前に帰ろうとしたその時___
__ドオオオオオオンンン!!
「な、な、なに!?」
音割れがする中、周りにいた人は見る見るうちに倒れていく。ゆらの身体も重力に逆らうように傾き、地面に片膝をつけて耐えるので精一杯だ。
「__ああ?生きている奴がまだいるだなんてなあ」
壊れかけている家から出てきたのは黒い着物の上に白衣を着た男だった。地下にたくさんいるうちの一人と少し違うように見えた。その男は、ゆらを嘗め回すようにニヤニヤと見ている。
「お前のことは、知っているぞ。よくここに遊びに来てた餓鬼だよなあ?」
直感的に感じた、悪い奴なのだと。もしかしたらもう、お姉ちゃんは、、、
震える声でゆらは思いっきり叫んだ。
「__お姉ちゃんを、、お姉ちゃんを返せ!!!!」
「あ?返せ?あいつは自分からここに来たんだぜ?」
「ち、ちがう!!お前が無理やり、、、」
「それは、あのバケモノを見てから言ってみな」
男の後ろからゆったりと現れたのは、ずっと、ずっと会いたかった姉だった。前に見た時より身体が瘦せ細ってしまっているが、生きているんだということに少し安心した自分がいた。
「お、お姉ちゃん!無事、だったんだね!良かっ、ぐっ!かはっ!?」
良かったと言いかける前に身体が床に叩きつけられ、背中を思いっきり打ってしまった。唖然とするわたしを跨ぐように上から眺める姉の顔は、わたしの知っている姉ではなかった。腰には2本の刀を差して、無心で片方の脇差に手を掛けていた。
「、、お、お姉ちゃん?どう、、して、、っっ!!」
グシャアアアァァァ____
一瞬だった。気付いた時にはわたしの真ん中に刀が貫いていた。刀が刺さる音、血が噴き出す音が混ざり、耳を塞ぎたくなる。姉の後ろで白衣の男は憎たらしくケタケタと笑っている。
「____か、はっ、、、」
口から感じる血の味が、嫌でもこの状況は現実なのだと感じさせられる。だんだんと意識が遠ざかって行く中、降りかけていた雨と共に、紛れるかのように水滴が頬に落ちた。
「、、お、おねえ、ちゃ、ん、、、」
目元を覆っていた包帯が緩くなってしまったのか、ゆらの身体の上にゆっくり落ちる。その時、初めて隠していた素顔がはっきり分かった。いつもの優しげな面影はなく、ゆらゆらと揺れる『赤い瞳』が恐ろしかった。
「、、死ぬ前に、良いこと教えてやるよ餓鬼。」
「ここはなあ、実験施設だ。俺達は死神に裏切られ、このバケモノとここらの魂魄を使って最強の兵器を作り出そうとしていた。『復讐』するためにな、、、お前は、大好きな姉ちゃんに殺されるんだな。この場所を知ってしまった奴を生かしておく訳にはいかないからなあ。おい、さっさと殺せ。」
流暢に話す男はわたしを跨ぐ姉に指令を出す。
もう本当に殺されるんだ、そう思った。しかし、なぜか最初より痛みを感じなかった。確かに刺された、痛みはあった、その感覚はあったはずだ。
「あ?何だ?おい、何してる、、」
余裕を見せていた男の態度は途端に変わり、今は動揺を見せていた。
わたしと、お姉ちゃんの視線がぶつかり、お姉ちゃんは思いっきり叫んだ。
「____残念ね、これは、
その声とともに、わたしたちは真っ白な光に包まれた。目を開くと、今までいた場所ではなく、真っ白な空間にわたし達二人だけだった。
姉の腕の中で、優しい温もりを感じられる。何か力が流れ込んでくるような感覚、そう思っているわたしとは裏腹に今にも消えかかるような声が聞こえた。
「、、、ゆ、、ら、、、」
「お姉ちゃん?」と腕の中でわたしは返事をした。変わらない声色で、話を続ける。
「私は、もう、長く持たない、。お願い、生きて、生き続けて、、」
「な、!なんで!?やだよ!ミミハギ様にお願いしたもん、お姉ちゃんは絶対元気になるって、、」
「、、これが、ゆらとの、最後のひととき、かしら、、」
「なんで、そんなこと、言っちゃだめだよ、、!」
何を言っても否定しない言葉に、嘘偽りは無いのだと分かってしまった。
「大丈夫、また会える、から、、、大切な人を、見つけなさい。優しい人に、なりなさい。助けられるような、強い人に、なりなさい。必ず、必ず、、幸せに、なりなさい。」
初めて見るお姉ちゃんの泣き顔は、今のわたしには耐えられる物じゃなかった。少しずつ薄れて行くその姿に、絶対離すもんかと思いっきり抱きしめた。
「いやだよ、!行かないでよ!!!!行っちゃ、やだよ、、おねえ、ちゃん、、、」
「ありがとう、ゆら、、、大好きよ。」
(__なんで何も言ってくれないの、、、)
抱きしめていたはずの身体は途端に消えて無くなり、思わずバランスを崩して倒れた。身体を起こす気力もなく、いまだに信じられない状況に目を塞いだ。
***
「おい、どうなってんだ、、」
ああ、戻ってきてしまったのかと、重たい瞼を開く。先ほどまで明るかった空間は無くなり、重たい曇天の下に、わたしと男の
「まさか、
聞いたこともない言葉、しかし、興味を持つどころか黙って俯くことしかできなかった。男は自分の腰に差している刀に手を掛けていた。逃げないと、殺される。しかし、姉も居なくなった世界に、生きる価値なんてない。
「ははっ、まあ良い、
ぶつぶつと言葉を吐きながら、男はこちらに向かってくる。
話す内容にすら、ゆらの耳には届かなかった。
生きる価値も、希望も、何もなくなってしまった。
もういっそのこと「殺してくれ」
一歩も動かず、殺されるのを待っていたその時、、、
「_____ゆら、諦めるな!」
わたしと男の前には、白くて長い髪と同じ、あの時は着ていなかった白い羽織を着て立っていた。わたしの顔を心配そうに覗き込んだ後、掌に集めた白い光が目の前に広がり、ぐらっ身体が傾いた。
瞼が落ちる瞬間に目に入った、ピンク色のクレオメの花が綺麗に咲き誇っていた_______