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旅立つその日まで


(「___や、やめろ!!だ、だれか、、助けてくれ、、!!!!」)
 
(「___うわああああああ!!!!!」)
 
 
 
(「__ゆら!やれるか!?」)
 
(「___ゆらサンなら、楽勝っスよね?」)
 
 
 
 
 
「___っ!? ゆ、めか、、、、あ、、れ、、」
 
 いつもの夢見の悪い朝なのだが、頭痛と耳鳴りが止まない。何かがおかしい。いつものように汗ばんだ額はひんやりしている筈なのに熱がこもっていた。夢を見た後だからだろうと自分に言い聞かせて、先ほどの夢の内容を思い出す。
 
 
(__いつもと少し違う、あれは、聞き覚えがある声、夜一と喜助だ、、そして、その前の声は__)
 
「ゆら~、学校遅れちゃうよ~~、早く起きなさい~って、また悪い夢見たのかい?」
 
 思考を遮るように、京楽がやってきた。やはり、夢を見た後だから顔色が悪いだけのようだ。
 
「__春兄、おはよう。」
 
「ご飯食べれるかい?浮竹の部屋にある常備薬こっそり貰ってきてあげるよ、学校も無理しなくてもいい」
「それ、十兄怒らない? 学校なら行けるよ、大丈夫」
 
 わたしの返答に春兄は目も丸くして、にっこりしている。
 
「__へぇ、最近良いことあったかい?」
 
 ぎくりとわたしは表情が固まる。なんて、勘の良い男だ。今までなら「行きたくないのはいつも」だの「誰のせいで学校行くことになったか」だの悪態をついてきたのに、今回は少し違うことを春兄は見落とさなかった。流石護廷十三隊の隊長なだけある、その中でもここまで思慮深い男は居ないだろう。
 
「い、いや、何もないけど」
 
「そうかい?そういえば「お友達」は元気かい??」
 
 わざとらしく「お友達」と言うあたり、本当にいい性格してると思う。嬉しそうにほほ笑む京楽にゆらは正反対のキツイ睨みを返した。
 
「うまくやってるようで良かった。でも、あんまり無茶しなさんな、辛かったら帰っておいで。」
 
「、、わかった。」
 
 朝ごはんは食べられそうになくて、春兄から渡された薬を水で流した。流石、四番隊隊長が用意している薬なだけある。だいぶ身体が楽になり、学校へ行く準備を始めた。
 
「じゃあ、春兄行ってきます」
「__うん、行ってらっしゃい」
 
 京楽は愛娘に手を振り、ドアが閉まったのを確認してその場にしゃがみこんだ。
 
 
 
(___やっぱりその「薬」、キミには効くんだね、、)
 
 
 
 
「ゆら!遅いぞ!あと少しで遅刻だったぞ!」
「お寝坊サン、おはようっス~」
 
「、、、おはよう。」
 
 やたら煩い夜一とやたら癇に障る喜助に小さく挨拶を返す。二人の間の席に着き、どちらもわたしの席に身体を向けて会話を始めた。これが最近のわたしの日常だ。
 
「__あれ? ゆらサン、今日いつもと違いません?」
「ん?そうか?儂には分からんのお」
 
 微かにわたしの霊圧が揺れた。それに気づいたのは、霊圧知覚が優れている喜助だけのようだ。
 二人と顔を合わせた瞬間、夢で見たことが駆け巡っていた。そして、この二人以外に居た人がここへ来てはっきりと分かり、顔が少し険しくなった。
 
「、、いや、何もないから。」
「あれぇ、気のせいっスかね?」
「なんじゃ、喜助の勘違いか。そんなことよりゆら!今日は流魂街への遠征らしいぞ!」
 
 夜一がすぐに新しい話を持ち掛けてくれて助かった。喜助は納得いかなかったようでわたしの顔色と霊圧の挙動を観察している。気持ちを切り替えて、話の内容に耳を傾ける。
 
「三人一組で虚の討伐を行うそうじゃ。もちろん、儂ら三人・・・・で行くぞ!」
 
 夜一と喜助は当たり前の顔をしているが、ゆらにとってはまだ慣れない感覚でむず痒い気持ちである。だが段々と心地よい時間に変わってきているのは確かだった。
 
「二人が居るならわたし何もしなくていいかも」
「何を言うか!ゆらの縛道で全部の虚の動きを止めるのじゃ!」
「、、そんな、無茶な」
「最近座学ばっかりで退屈してたんスよね~、ゆらサン新技の特訓中でしたっけ?見せてくださいね~」
(、、え、なんで知ってんの)
 
 
 
 ピシャリとドアが閉まり、先生が来たと同時に立っていた生徒は席に着いた。先ほど夜一が話していた、疑似虚退治について詳しく説明している。班は自由だそうなので、この三人で確定だろう。演習ではゆら自身実力を隠さなくなっていたため、周りも認めざるを得なかった。出発前に班で作戦を練るため話し合いの場を設けられた。
 
 
「、、夜一が瞬歩で相手を引き付けて、わたしが縛道で封じる、そして喜助が斬る、って感じかな」
「うむ。良いじゃろ」
「ボクもっス」
 
 三人で作戦を練るときは決まってわたしが切り出す。認めたくないけど頭脳派な喜助には聞き手に回ってもらい、夜一はわたしと喜助の考えた策に文句は言わない。今回は二人とも異論は無くすんなりと決まった。
 ほかの班もまとまった様で、時間通りゆら達一組は出発した。
 
 
 
 西流魂街1等区「潤林安」大通りを抜けた林の中で訓練は行われるため、その地区にはぞろぞろと生徒と引率の先生で溢れかえっていた。三人ずつ林の中に入っていく筈なのだが、ゆらの隣は一人しかいなかった。
 
「__え、夜一は?」
「あれ?さっきまで居たんスけど、、あの、ゆらサン、本当は具合悪いんスよね?」
「__いや、大丈夫。そ、それより、もう私たちで最後なんだけど、、ってええ!?」
 
 振り返ると、みたらし団子を両手に持つ夜一の姿が見えた。喜助は「いつものことっス」とへらへらしている。もぐもぐと口いっぱいに団子を頬張る夜一が可愛らしいのだが、今は憎たらしい。

 
「いや、今じゃなくてもいいじゃん!?他の班行っちゃったよ!?」
「今食べたかったのだから仕方なかろう!ほら、ゆらも食え!」
「むごっ!?!? っっ~~こんの馬鹿!なにすんだあ!!」
「おお!キレると本当に口悪くなるんじゃな!お主朝から何も食べていないのだろう?」

 
 そう、ゆらの顔色は朝より見違えるほど悪くなっていた。流石の夜一も心配だったようだ。しかし、みたらし団子はただ夜一が食べたかっただけだろう。
 
 
「大丈夫だから。薬持ってきてるし」
「なんじゃ、持病か?」
「いや、十兄の常備薬がわたしの身体にも合ってるみたいで、わたし朝弱いだけだから、心配しないで」
 
 薬を2粒手に取り、水で流し込んだ。先ほどよりは頭痛も収まり、気分が楽になった。夜一は団子を食べながら見ているだけだったが、喜助の視線にゆらは気が付かなかった。
 
「、、まあ、さっさとやっちゃいましょうか」
 
 
 いつもの喜助の口癖を二人は耳にし、林へと駆けた。
___林の中の状況を何も知らずに。
 
 
 
「疑似虚ってどんな感じなんだろ、流石に小型の特性が無いタイプかな」
「初めて虚と戦う人もいるみたいっスから、戦いやすく作られているとは思います」
「ノルマは5体。終わり次第、潤林安に帰還じゃ」
 
 走りながら目的の場所まで向かっているが、ゆらが遅れてついてきていることに二人が気づいた。
 
「ゆらサ~ン?遅いっス~。」
「、、う、るさい!」
 
 夜一と喜助はゆらに聞こえないように小声で話す。
「、、はやく終わらせた方がいいっスね。」 「そのようじゃの、、」
 ゆらのペースに合わせるように速度を少し落としていく。その時、ゆらと喜助は虚の居場所を感知した。
 
「、、もう少し先に6体居る」
「すごいっスね。数まで分かるんですか?」
「よし!作戦通りにゆくぞ!」
 
 その一言で浦原はぴたりと止まり、夜一は駆けていった。ゆらは大木の上から様子をうかがう。予想通り6体の虚が夜一の後ろを追いかけてきた。狙いの場所までたどり着いたところで、夜一は虚と距離をとる。
 
「縛道の三十七 「吊星」」
 
 ゆらの縛道が林の木と木の間に網目状に伸びていき、虚たちを絡め動きを止める。それを喜助が流れるような太刀筋で切り落としていく。喜助の剣術はいつ見ても綺麗だった。
 ノルマは無事達成されたであろう、来た道を辿り帰ろうとしていたその時。
 
 
 
 
「___うわああああああ!!!!!」
 
「___や、やめろ!!だ、だれか、、助けてくれ、、!!!!」
 
 
 
 
(__夢で聞こえた声、まさか!?)
 声のする方へゆらは全力で向かった。夜一と喜助は、焦った様子のゆらの表情に只事ではないと感じすぐさま追いかける。
 
「、、おかしいのう、疑似虚に負けるほどの生徒は居ないはずじゃが。」
 
 夜一の言う通り一組は特進学級。まだ一回生とはいえ、実力は備わっている者たちばかりのはず。それに疑似虚の大きさはゆらと変わらないくらいだった。
 
 林の奥の方まで進むと、他の2つの班が応戦していて、その視線の先には6本の巨大な脚を動かす蜘蛛のような虚が暴れていた。その真横には、蜘蛛の糸で巻かれ助けを求めていた二人が倒れていた。
 
 
「__チッ、分かっていた筈なのに、、」
 
 
 ゆらの舌打ちとつぶやいた声が聞こえたのは、喜助だけのようだった。
分かっていた・・・・・・?? ゆらサンは何を、、、)
 
「ゆら!どうにか動きを止められないものか!?他のやつらは下がれ!お主らでは無理じゃ!」
 
 夜一の声にまわりの生徒はすぐに虚から距離を置いた。
 
「ゆらサン!どうします?!」
「ちょっと待って!縛道の二十六 曲光!」
 
 ゆらの曲光が倒れている二人に目掛けて撃たれた。これで、二人は無事だろう。しかし意識は無く、出血も多そうだ。急がないとまずい。
 
「ゆら!やれるか!?」
 
「、、上手くいくか分からないけど、フォローよろしく」
 ゆらの一言に二人はニコリと笑った。
 
「ゆらサンなら、楽勝っスよね?」
 
(__夢で見た二人の声もこんな感じだったな、、)
 
 少しおかしい感覚に不覚にも頬が緩んだ。大丈夫、この三人なら大丈夫。
 
「雷鳴の馬車 糸車の間隙 光もて此これを六むつに別つ」
 縛道の六十一 六杖光牢!」
 
 六本の平らな霊子が胴体を拘束し、虚の動きをなんとか封じた。ゆらはゼエゼエと浅い呼吸を繰り返した。
 
「流石じゃのお、ゆら」
「夜一サンは胴体お願いします」
 
 喜助は足を切り落とし、夜一は胴体を白打で思いっきり蹴り落した。動きが止まっているおかげで、攻撃が思った通りに命中する。三人の連係プレーに周りは思わず見惚れてしまうほどだった。
 
 
 
 虚は消滅し、この後の動きを考えなければならなかった。このままだと二人は死んでしまう。引率の先生を呼ぶより、救護専門の死神を呼ばないと間に合わないほどだった。
 
「、、ゆらサン、回道使えたりは、、」
「無理。だけど、何とかなるかもしれない」
「へ?」
 
ピアス外す・・・・・から、喜助アンタが見たかったもの見せてあげる」
「ゆら!あまり無理をするな!」
「大丈夫、わたしの体調的にもこうした方が良いから」
 
 
___カチッ。 
 ドクンドクンと自分の鼓動が脈打つ。重い空気が流れ、ザラザラとした濃い霊圧が広がった。夜一と喜助でさえ顔を顰めており、周りの生徒は重い霊圧に耐え切れず、気を失っていた。
 
「、、これほど、とはな、、」
「、、一発で成功させるから、夜一と喜助は二人の止血をお願い、いくよ。」
 
「___黒白の羅 二十二の橋梁 六十六の冠帯 」
 
 目指すはあの二人・・・・
 
「__あの人、本当に死神にならないんスかね、、」

「見惚れるのは分かるが、儂らも手当てするぞ」
 
 
 
「足跡・遠雷・尖峰・回地・夜伏・雲海・蒼い隊列 太円に満ちて天を挺れ 
 縛道の七十七 【天挺空羅】 ____捕捉成功。」
 
 一回しかできない、そして捕捉も大人数は不可能。でも今はこれで十分だ。
 
 
 
「___春兄、十兄、聞こえる?西流魂街潤林安の森林で疑似虚と対戦中、本物の虚と遭遇して、なんとか倒したけど、二人重症、何人かも怪我をしてる、ついでにわたしも限界、、。無理してごめんなさい、たすけて__」
 
 
「!? ゆらサン!!」
「ゆら!?しっかりしろ!」
 
 
 
 ゆらの意識はそこで途絶えた。
 
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