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恋わずらい

ハルにシャワーを浴びさせて、以前買ったけれどサイズが大きくて合わなかったパーカーとズボンを脱衣場に置いておく。
男女兼用だったし、あれならハルも着られるだろうと考え、ハッと気がついた。肝心のタオルを置き忘れていたことに。
「ごめん、その…タオル、忘れてた」
「うん、ありがとう…子冬」
ハルの裸を出来るだけ見ないようにして渡す。
けれど、私は一瞬見てしまった。その体は胸の膨らみもあり、腰は細く完全に女性のものだった。
いや、それよりずっと問題なのは…。
「ハル……どうしたの、その痣…」
その真っ白な背中には、無数の青い痣があったのだ。
「…なんでも、ないよ。」
タオルで体を拭き、パーカーを着ようとする手を掴む。
「なんでもなく、ないでしょう!なんで、誰に…」
すると、ハルは私の手を振りほどいて強く叫んだ。
「子冬には、関係ないよ!」
少ししてから、暗い声でハルが呟いた。
「…ごめんね、シャワーと洋服ありがとう…。着替えるから、向こうにいってて」

パーカーを羽織りズボンを履いて、ハルが脱衣場から出てきた。
「…子冬、本当にありがとう……もう大丈夫だから」
泣きそうな表情で言われても、説得力がない。
「ハル、誰に…されているの?」
「…それは、言えないよ…ごめん」
話を聞こうとすると、するりと逃げられる。
「ボク…もう、お父さんのとこに、帰らないと…お父さん…」
虚ろに繰り返し、ハルは外へと出ていった。
雨は止んだけれど、曇り空で天気は不安定だ。
「待って、ハル…!」
そのまま放っておけるわけもなく、急いでハルの走った方向を追いかける。
公園を通りすぎ、駅前を抜けて、隣町の方へと走る。
30分ほど走っていただろうか。
気が付くと、ずいぶんと遠くまで来ていた。
「確か…こっちの方へ来ていたと思うけど…」
長距離を走り、途切れる息を落ち着かせる。
曲がり角で、ふわりと揺れる短い金髪が見えた。
「ハル…っ」
すぐさま追いかけると、住宅街に出た。
ハルが入っていった青い屋根の家の白い壁を見て、私は呆然とする。
どうして思い付かなかったのだろう。
ハルは確かに「ハルアキ」と名乗った。
けれどそれが″名前″であるとは一言も言っていない。
白い壁の表札には確かに「春秋」と刻まれていた。
そこから家までの帰り道を、どうやって帰ったかよく覚えていない。
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