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恋わずらい

ハルが「自分は宇宙人だ」なんて、突拍子もないことを言ってから数週間が経った。
今、私たちは一緒に出掛けてクレープを食べたりプリクラを撮ったりして…デートだなんて言わないけれど、前より距離が縮まった、ような気がする。
ただひとつ気がかりなことは、ハルが「宇宙人である証拠」を見せたときの表情だ。
それは、とても悲しそうで、痛々しくて、可哀想に見えた。

「これ、かわいいね」
ある日一緒に遊んでいると、ハルがゲームセンターのUFOキャッチャーを指差した。中身はライオンのようで、熊のようで…かわいいかどうか人によって意見が割れそうなマスコットだった。いわゆるブサカワ、というやつだろう。
「かわいい…かな?ちょっとやってみるね」
コインを入れて、機械を操作する。
上手くアームに紐が引っ掛かり、マスコットが音を立てて落ちた。
「これ、あげるよ」
何とも形容し難いマスコットを手渡すと、ハルは花のような微笑みを浮かべた。
「ありがとう、子冬。大切にするね」
その綺麗な顔を、ずっと傍で見ていたいと思った。


やがて春が過ぎて、テスト期間も終わり夏がやってきた。
制服はもう半袖に変わったのに、ハルは相変わらず白いロングTシャツを着ている。
不思議に思い、暑くないの?と聞くと、「ボクはこれでいいんだ」と笑っていた。
今日は朝からどしゃ降りの雨が降っていた。学校からの帰り道を歩きながら、思わずため息を吐く。
「暑いのに雨だなんて、ついてないな。」
今日はさすがにハルもいないだろう…と思いながら駅前を歩く。
すると、啜り泣くような声がどこかから聞こえて、キョロキョロと辺りを見渡した。
声のする方へ向かうと、ハルがレインコートも傘もささずに、ひっそりと路地裏でしゃがみこんでいるのが見えた。
「……ひっ、く…ぐす…ぅ……」
私は驚き、近くまで駆け寄る。
「どうしたの!ハル…大丈夫?何があったの?」
震える背中を擦りながら尋ねる。
「……ボクは…ボクは……」
その嗚咽声にどうしてもじっとしていられなくて。
「とりあえず、このままだと風邪を引いちゃうから…私の着替え、貸すよ」
泣きじゃくるハルを、私は自分の家まで連れていった。
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